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祖父母との出会い

修正内容:加筆訂正を行いました。





「これより先は、外を見ないで下さい」


 橋を渡っている途中で、オーベンスさんが言ってきた。

 日が落ちれば外を見ても暗くて分からない。それでは外を眺める楽しみがないので、わざわざ注意されなくとも見る気はなかった。


 やがて完全に日が沈んだ中、等間隔に設置された街灯の明かりだけを頼りに、馬車はゆっくりと走る。

 そして闇に紛れるよう、静かに一軒の屋敷の敷地内へと入る。


 馬車はあるドアの目の前で停まった。数歩あるけば、すぐ屋敷の中に入れるような位置だ。

 降りると促されるまま、ドアをくぐる。我が家のドアより大きいが、王都の屋敷とはいえ、ドアの作りは村と変わらないのだなと思った。

 後に分かったが、それは使用人が出入りする裏口だった。そう、最初から私たち親子は歓迎されていなかった。

 そうとは知らずくぐった先は台所だった。村で一番大きな村長の家より広く、たくさんの食材が並んでいる。まるで食物庫のようで、これには驚いた。これだけの食糧の量だと、村の皆で分けても余るだろう。


 台所を抜けると、途端に別世界となった。

 床には深い赤色の絨毯が敷かれ、白い糸で植物の刺繍が施されている。壁は薄黄色で塗られ、絵画が何枚も掛けられている。長く真っ直ぐ続く廊下の途中には、幾つか台の上に花瓶が置かれ、それぞれ大量に花が生けられている。

 オーベンスさんが先頭を歩き、父、母、私の順で歩く。両親は前を向いて歩いているけれど、私はきょろきょろ辺りを見回し、華美な世界に魅了され興奮した。


 やがてオーベンスさんがある部屋の前で立ち止まり、ノックする。


「モディーン様とジャスティー様をお連れいたしました」

「入れ」


 どうして父の名を呼ばないのだろう。思えば村へ初めて訪れた時から、父に対して態度が冷たかった。彼は父を嫌っているのだろうか。そうだとすれば、なぜ? 不思議に思ったが、この時はそれ以上深く考えなかった。


 開かれたドアの向こうには、見たことがない豪華な部屋が広がっていた。

 床には廊下とは違うひし形模様の、深い緑色の絨毯が敷き詰められ、シックな調度品が並んでいる。大きく柔らかそうなソファーには老夫婦が並んで座っていた。


「久しぶりだな」

「お久しぶりにございます」


 両親がお辞儀するのを見て、慌てて私も頭を下げる。


「痩せたのではないか」


 男性が鋭い目つきを母に向けるが、母は動じない。私はその目を怖いと思い、逃れるように父の後ろへ隠れる。

 祖父と思われる男性が立ち上がると、鋭い目つきのまま真っ直ぐこちらへ向かって来るので、びくりと何度も体が震える。

 初めて会う男性……。祖父は身長も高く、細い体型で神経質そうな感じ。口髭も生やしているが、頭の毛と同じく白くなっている。そんな男性が睨むように見下ろすので、とても恐ろしく思えた。

 ところが次の瞬間、ニコリと笑い大きな手で私の頭をなでてきた。


「君がジャスティーか。お母さんの子どもの頃に似ている」

「本当ですね。髪も瞳の色も、デュシパート家の血筋だこと」


 近づいてきた老婦人もそう言うと、屈み、私と視線を合わせてくる。

 祖父は屈まず私を笑いながら見下ろしている。祖母は無表情だけど私と視線を合わせてくれる。上手く言えないが、奇妙に思えた。まるで二人とも、外面と内面が乖離しているような、そんな感じだ。それがなんだか、恐ろしく思えた。

 祖父が私の頭から手を離すと、「食事にしよう」と言った。

お読み下さりありがとうございます。


ヒロインの相手役登場は、まだ先です。

相手役がなかなか登場せず、すみません……。



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