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アヴァラ救国マ記ジカル♪りるたん  作者: 上野衣谷
第四章「みんなの軌跡」
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第20話

 今の自分に出来ることは何か。これしかない。きっとこの目の前に立ちはだかる憎き敵に従うしかない。フィグネリアの頭はそう判断した。感情的には、従いたくなどない。しかし、ここで出来る賭けはもうそれしか残っていない。であるとするならば、己を殺してでも従うのがフィグネリアの生き方であったからだ。

 しかし、しかし、である。ここまで来て、それでも、まだ、フィグネリアは一歩踏み出せなかった。何か、決定的な、何かが、あれば。


「おい」


 そんなフィグネリアに声をかけるはエルヴィン。


「なに」


 睨み返すフィグネリアをエルヴィンもまた睨み返し、そして、言った。


「お前は紛れもないダークエルフであって、俺は人間だ。エルフとダークエルフの間にどういったことがあったのかは知らないけど、ここにいる姫愛さんは人間でもなければエルフでもないし、ダークエルフでもない」

「それが?」

「それだけだよ」


 フィグネリアは苛立ち、何のつもりだと抗議の声を上げようとしたが、エルヴィンがそれよりも前に、


「それだけだ、が──仮に、この子がエルフだったとしたら、フィグネリア、お前はこの子を助けないのか? 俺は知ったんだよ、この世の中、この世界、この世界にいる人たちってのは、皆それぞれがそれぞれに思いを持っているってことだ」


 即座に、フィグネリアは、当たり前だ、と答えようとした。しかし、少し待つ。いや、そうだろうか。もし、エルフだったとしたら、打算を働かせて恩を売るということをしないだろうか。では、もし人間だったら? もしホビットだったら? ……。

 フィグネリアの頭には、利己的で醜い感情が渦巻いた。その感情は、フィグネリアが自分自身を見つめなおすのに十分であった。自分が、この自分自身こそが、憎むべきエルフと同じようなことを考えているという思考に至った。

 結局のところ、思考を持つ者の辿り着く地点は同じなのだろうか、と考えた。考えるものは皆、同じ場所に行きつき、そして、苦しむ。苦しんだところで何も変わらない。苦しみから救われたいという思いは誰もが持っている感情である。であるならば、どこでその連鎖を断ち切るのか。今、その連鎖を断ち切ることができるのは誰なのか。断ち切ればどうなるのか。断ち切ると人々は幸せになることが出来るのか。いや、それより、断ち切ることなどできるのか。

 実に多くの思考が、瞬間的にフィグネリアの頭を覆い尽くしたが、これ以上考えても意味がないことをフィグネリアは良く知っていた。


「……分かったわ。でも、最後に聞かせなさい。あなたたち、言っていることは本当でしょうね?」


 こんなことを聞いたところで何になる訳でもない。エルヴィンたちがどう答えようが、フィグネリアの出すであろう答えに何か大きく影響するということはないだろう。フィグネリア自身そんなことは良く分かっている。分かっているつもりであったが、しかし、それでも、聞かざるを得なかった。

 エルヴィンたちは、それぞれ顔を見合わせる。何を聞いているんだ、という顔でフィグネリアを見る。そして、特に息を合わせることもなく、三名ともがバラバラなタイミングでこくりと首を縦に振る。


「そう」


 フィグネリアの悟ったような呟きにエルヴィンらは息を飲む。後は、このフィグネリアの気持ち次第。どちらにも転ぶ。どちらに転んだとしても何もおかしなことはないし、そして、それは、それで認めなければならない事実であろう。大きな緊張が全員を包み込み、そして、フィグネリアは結論を導き出した。

 答えは肯定。

 無論、今のままのフィグネリアの体では治療を行うことさえできない。それに対してどうするのかと問えば、即座にリーナスが、私が治療する、と申し出る。

 リーナスの回復魔法で、フィグネリアの力はある程度回復する。しかし、りるの様子をしっかりと見た後、フィグネリアは、すぐに言った。


「この子、私の力だけでは治せないわね」

「どういうことだ!?」


 怒るエルヴィンに、フィグネリアは落ち着きなさい、と言い放ち、続ける。


「この子は魔の力だけで成り立っているんじゃない。この子は確かに魔の世界から出てきた結晶に見える。だけれどね、それ以上に、この子は世界から出てきた。……だからじゃないの、みんなの奇跡、とかなんとか、言っていたでしょう」

「じゃあ、どうしたらいいっていうんだ」

「私たち全員の魔力で、世界に呼びかけるのよ」


 馬鹿なことを、と誰もが思ったことだろう。一体それが何になるんだと思ったことだろう。けれども、フィグネリアの目は真剣そのものだった。嘘など言っているようには見えなかった。


「なんでそんなことが分かるの?」


 リーナスの問いに、フィグネリアは、封印の地の扉を遠く見て言う。


「それは、きっと、私とこの子が似ているからでしょうね。魔力の波長から言っても、後は──これ以上のことは、今、この場で知る必要なんてないわ」


 フィグネリアがどう言おうが、今の彼らにりるを救うアイデアは他にない。信じるしかなかった。

 エルヴィン、リーナス、ミカル、そして、フィグネリア。

 四名の魔力は縦横無尽に、封印の地を中心に世界中へと薄い、極々薄い濃度で発信された。粒のように小さく、ほんの僅かで、埃ほども動かせないであろう僅かな魔力であったが、それは、確実に、りるがこれまで歩んだ道のりをなぞるようにして世界に駆けた。

 その魔力を受け取った人々は、何をするでもなく、普段通りの日常を過ごしていた。

 ある者は、労働をしながら、ある者は、復興のための作業をしながら、ある者は、国をまとめるための話し合いをしながら、その魔力を受け取る。

 受け取り、別に何をするでもなく、ただ、ほんの少しだけ、りるのことを思い出した。ああ、今頃どこで何をしているだろうか、あの奇妙な少女は、などと、少しだけ思い返した。

 人の思考は時に力を持つ。人の思考は、時に、魔法となる。




 ウィシュトアリー聖国。

 議会には、エルフとダークエルフがそれぞれ適数存在する。半々とまではいかないながらも、ダークエルフの数はそれなりに存在していた。根本的な問題が解決したかといわれれば、まだ完全に解決には至っていない。

 しかし、議員の中にはダークエルフ最高の実力者としてフィグネリアやゴルダがその名を連ね、両種族の和解の象徴として、リーナスもまた、その名を連ねていた。まだ両種族間の憎しみが完全に失われた訳でもなく、そもそも、事の首謀者であるフィグネリアがこの場にいるのはいかなることなのだ、というところからの議論から開始されるようであったが、ウィシュトアリーの外に目を向ければ、フィグネリアのような力ある者が活躍の場を与えられるのはウィシュトアリーにとっては間違いなく国益となり得ることであり、形はどうあれ、彼女は新たな居場所を見つけたことになる。

 ウィシュトアリー聖国とブベル王国の関係改善には、ミカルが尽力し、時間はかかるだろうが、同じ旧アヴァラ連邦諸国として連携強化の方向へと向かっているらしい。ウィシュトアリーにどうしてもいたくないというダークエルフたちの一部はブベル王国へ移住したりするなどして、ブベルはさらなる発展を遂げるだろうと先行き明るい話題を聞く。


「ようやくここまで来たな」


 エルヴィンは、自分たちがやるべきことを見つけたリーナスとミカルと離れ、今、ウィシュトアリー聖国の東端のある集落にいた。

 彼だけは、他の二人と違って政治の舞台へ入ることはなかった。実のところ、ウィシュトアリーやブベルからのアヴァラ西部共和国への報告において、エルヴィンの活躍もまた報告されており、エルヴィンはその働きから、一兵卒から国家外交官という破格の昇進を言い渡されたのだが、エルヴィンにとってはどうもぱっとしない仕事であった。

 一度、外の世界に出るということを知ってしまったエルヴィンはもう一国の支配下にとどまっているということは出来なかったのである。

 エルヴィンの心は、けれども、しかし、まだまだ迷子であった。何を目的として生きるか、自分の使命は何か。人としてすべきことは、りるに教えてもらった、ような気がする。その一方で、いざ、自由の身となっては、何をどうすればよいのだろうか?

 その問いに悩み続ける中、エルヴィンは一つの結論を出して、今ここに来ていた。


「よーし! じゃあ、国を越えてみよー!」


 そう嬉しそうに叫ぶのは、エルヴィンの横に立っているりるである。


「りる、は元気だなぁ~」

「そうでしょう~! あの時、みんなの力がりるのはーとにきゅんきゅん届いたからねぇ~!」


 りるは、魔の力を使って魔法を使っていた。それ故に、この世界では封印の地からしか魔力が供給されなかった。そこから離れるということは、りるの魔力を制限することを意味していたし、魔力による構成比率の高い体ではそれが大きな負荷となることは明白だった。

 しかし、りるは、この世界でとてもたくさんの人との間にたくさんの縁を結んでいた。それは、りるの魔力によって人々の感情が動かされていたということであり、りると人々を結びつける架け橋でもあった。

 人々とりるの間に結ばれた回路は、リーナスやフィグネリアの少しの魔力で、繋げることが可能であった。三国に住む人々の思いは、本当に本当に僅かずつではあったが、りるの力となり、りるの魔力を無事回復させるに至ったのである。


「それで、えーっと、何やるんだっけ?」


 とぼけるエルヴィンに、りるは答える。


「いい、エル? 人はかつて言ったのよ、何をやるかより、何をやらないかが大切だ、ってね」

「え、それなんか関係ある?」

「こうも言ったの、すぐやる、今やる、必ずやる、ってね」

「お、おう、そうか」


 エルヴィンは、りるのことを少しは分かった気でいたが、どうやら、エルヴィンにりるを理解することは非常に困難であるらしかった。りるはりるであり、エルヴィンではないのだ。きっと、エルヴィンが完全にりるのことを理解できる日は永遠に来ないであろう。

 であるからこそ、りると自分はあまりにも違うからこそ面白いと感じていた。分からない彼女についていけば、学ぶことができるのではなかろうか、エルヴィンはそんなことを考えながら、こうして今日もりるとどこかへ歩いていく。

 人に出会えばりるは決まって、決めポーズを取りながらこう言った。


「りるの名前は姫愛りる! 私はねっ、魔法少女なんだよぉ~! 輝く魔法はみんなの奇跡! ぱらぱらるぃ~ん♪ まじかるッ、りるたんっ!」

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