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アヴァラ救国マ記ジカル♪りるたん  作者: 上野衣谷
プロローグ「終章」
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第2話

「うぉお! 負けない! これで、おしまいだ!!」


 その攻撃を受け止めるのは、フィグネリアの両手から放たれている魔力。彼女は避けることなく、真っ向から、エルヴィンの攻撃を受け止めた。ガガガ、ジジジという激しい衝突音が、数秒続く。

 エルヴィンの顔は、強くこわばっていた。フィグネリアは、魔力を放ち続ける──ピシ、ピシ、と。

 僅かに──本当に僅かにではあるが、フィグネリアの防壁がきしみをあげる。フィグネリアの表情が、若干こわばる。エルヴィンは思う。このまま突き抜ける、と。そして、頭に描く。この戦いが終わった後の、この世界の景色を──。

 叫ぶ。咆哮。エルヴィンの、そして、ミカルの、リーナスの。

 バリン。

 フィグネリアの防壁が割れる音──それは、エルヴィンが最も聞きたかった音だった。

 だったが──。


「……残念だったな」


 しかし、その音は、フィグネリアの防壁が破られる音ではなく──エルヴィンの剣が折れた音。そして、エルヴィンの、リーナスの、ミカルの心が折れた音であった。

 敗北。

 その二文字が圧倒的事実として、三名に突き付けられる。捨て身の攻撃が失敗したということは、それ即ち負けに直結する。フィグネリアは勝利を確信する。もう敵に起死回生の一撃はない。起死回生の一撃を食い止めたのだから。


「終わりだ」


 非情な呟きと共に、エルヴィン、リーナス、ミカルへ死が迫る。

 攻撃。避けようのない必殺の一撃。とどめ──。

 エルヴィンは、リーナスは、ミカルは、それぞれ、己の正義を確信していた。自分こそは間違っていないんだと確信していた。正義は勝つものだと思っていた。負けないと思っていた。だけど、

 誰も、助けに来ない。

 何者にもすがることなく、正義が負ける──。

 その時。


「輝く魔法はみんなの奇跡! ぱらぱらるぃ~ん♪ まじかる~♪ まじかるッ、りるたんっ! とうじょぉ~う」


 陽気な音楽でも流れてこようかというくらいの明るい声が、この修羅場に響き渡る。一つの物語が終わり、大陸が闇に包まれようとしていたその時、その場にはおよそ不釣り合いな、チャラチャラした、華奢な体型の少女──魔法少女とでも呼ぶべきか。そんな存在が登場する。

 うっすらピンク色の混ざったホワイトを基調とした、ところどころにフリル、リボンが目立つ可愛らしい衣装を身にまとい、短めのスカートによる足の露出を抑えるためか、ピンク色のニーハイを装備。白色の髪の毛をたなびかせながら、頭にはベレー帽をメルヘンチックにしたような、頭のサイズに対して大きめと見える帽子を被っている。

 彼女は、どこからか空間を引き裂くようにして湧いてきたかと思うと、くるりーんと空中で一回転し、地面へ降り立つ。ぽわん、という効果音がしそうなほどにふんわりと着地、てにしている杖──いや、魔法のステッキをくるくる~と華麗に回すと、右手構える魔法のステッキをフィグネリアへバシッと向け、開いた左手を腰に据えつつ体を可愛らしくくねらせ、決めポーズ!


「人が嫌がることをしたらだめっ、だぞっ!」


 愛らしい声でフィグネリアへと宣言する。

 絶句である。誰が、ということはない。全てが。人だけではない、魔物も。彼らも異様な魔力の気配を感じて、動けずにいた。フィグネリアからの指示もないため、とどめを刺す行為にも出られない。

 返答をしないフィグネリアに、りるたんなる魔法少女はさらに続ける。


「まじかるッ、りるたんっ! とうじょぉ~う!」


 それはもう聞いた、この場にいる誰もがそう思った。キランと目を輝かせ、再度登場ポーズをする。


「人が嫌がることをしたらだめっ、だぞっ!」


 フィグネリアはセリフを無視して考えた。この相手は一体何なんだ、と。いきなりこの封印の地の空間を切り裂くようにして出現し、訳の分からない衣装を身にまとい、あろうことか、自分の正義の活動を妨害してくる。

 考えた。考えた末、無視してもいいという結論に達する。相手がなんであろうが知ったことか、と。もしかしたら、敵国の送り込んできた最終兵器か何かかもしれない。そうであろうが、なかろうが、とにかく、今のフィグネリアにとっては、このりるたんなる謎の少女は間違いなく邪魔ものなのである。

 と、いう訳で、フィグネリアは、この謎の少女を無視して攻撃を再開することを決めた。


「…………やれ」


 フィグネリアの合図と同時に、魔物たちが動きだす。


「ここまで、か」


 りるたんの登場に、何か希望のようなものを感じそうになっていたエルヴィンらであったが、こんな幼女と少女の間くらいの子に何ができる訳でもないんだ、と再び窮地に立たされる。魔物たちの攻撃がそれぞれの息の根を止めようとしたその時。


「もうっ! りる、怒ったからねっ、ぷんぷんッ。それじゃあ、いっくよぉ~!」


 そお~れ、と言いながらステッキをぶん、ぶんと振り回す。


「……なに、この魔力ッ」


 その魔力の強さに最初に気づいたのは生命の危険にあったリーナス。ステッキから放たれた魔力は光ほどに早いスピードで魔物たちにぶつかる。


「なっ、なにを」


 焦るフィグネリア。魔物たちの動きが止まり──。変化した。魔物達は、ぽんぽん、という愉快な音──変化音とでも言おうか──と共に姿を変える。何に? それは──不可解な、この場にいる者で瞬時に出来事が理解できたのはただ一人、魔法少女のみであり──。

 ぬいぐるみ。

 魔物達は、全て、ぬいぐるみと化してしまった。驚くべきことにというより、芸が細かいというか、ご丁寧にも、それらは魔物達の元々の姿をそのままではなく、きちんとデフォルメされて可愛らしい姿となってぬいぐるみに変化しいてる。一言で言うなれば、あー、そう、ファンシー。


「可愛い~! みーんな可愛くなっちゃったねってへっ」


 文字通り、てへっ、というポーズを取る魔法少女。助かったエルヴィンらからしてみれば、まさに救世主であったが、妨害されたフィグネリアからしてみればたまったものではない。


「このっ……!」


 フィグネリアは再び暗黒の魔力を呼び起こし、魔物たちを出現させる。しかし、出現したと同時に、


「え~いっ」


 魔法少女の陽気な掛け声が響き渡り、次々とぬいぐるみへと変化する。


「こうなったら……」


 フィグネリアは、ついに、攻撃目標をこの場には全く相応しくない異様な存在へと変更する。己の魔力によって、この少女を倒そうというのだ。両手に暗黒の魔力を発生させ、ぐぅと押し出す。魔法少女へと、どす黒いそれが襲い掛かる──。


「やるねっ! でもね、楽しい魔法でくるる~んと世界の闇を葬り去っちゃうぞッ」


 少女は楽しそうに言うと、ふん、ふんと鼻歌まじりに、ステッキを一振り、二振り、純白の魔力で迎え撃つ。二色の魔力がバババと交わり、大きな衝撃、暴風が吹き荒れる。


「一体、何が起こっているっていうんだ……」


 エルヴィンはその光景を茫然として見ていた。このりるたんなる魔法少女は果たして味方なのか? その正体がわかる訳もなく、ただ、ただ、その圧倒的な力を目の前で、指をくわえて見ている他に出来ることはなかった。

 目の前で繰り広げられる、謎の魔法少女とフィグネリアの魔力のぶつかり合い。いきなり湧いて出てきた少女に、自分たちがこれまでひたすら立ち向かってきた強敵を倒されそうになっている、というのは、少し微妙な心境でもあったが、倒してくれるならもうそれでいい。頼むぞ、とエルヴィンは祈っていた。

 結果──りるたんの魔力は、フィグネリアの魔力を上回り、魔力波はフィグネリアの防壁を砕き、その身体を吹き飛ばした。


「……! く、く、うう……許せない」


 土煙に巻かれる中、フィグネリアはにくそうに呟く。しかし、即座に、このまま戦っても勝ち目はないと判断した。自分の魔力はもうほとんど残っていない。体のあちらこちらを負傷し、歩くことさえ困難。相手の被害状況はうかがえないにしても、このまま戦って勝てるとは思い難い──。

 フィグネリアが下した決断は、この場を去る、ということであった。

 それから少しして、爆発によって舞った粉塵の多くが地面へと落ち、あるいは霧散し、景色が晴れてくる。漆黒の魔力に包まれた大地は、フィグネリアの逃亡によって、本来あるべき色を少しずつ取り戻しており、その場には──りるたん、エルヴィン、リーナス、ミカルのみが残った。

 りるたんの力によってか、封印の地から禍々しい魔力は失われ、封印を解除し、凶悪な魔物たちをこの地へ蘇らせることは再び困難な状況となる。


「ふ~! 一件落着ねッ! あっ、お兄さんたちっ! お兄さんたちも、もしかして、人の嫌がることをしようとしてるのっ!?」


 急に表情が代わり、可愛らしい目でエルヴィンを睨みつけるりるたん。

 エルヴィンは、全力で首をぶんぶんと横に振る。


「いや、いやいやいや! そんなことある訳ないじゃないかっ! 俺たちは、あのダークエルフのたくらみを阻止しようとしていたんだっ! ほんとだっ!」


 エルヴィンは心の中に、君もフィグネリアの嫌がることしなかったか、なんていう微かな疑問を浮かべつつもそれを決して表に出すことなく答える。口にしたらなんかやばい気がしたからだ。

 りるたんは、にこっと笑うと、


「そうなんだぁ~! りるの名前は姫愛(ひめあ)りる! 輝く魔法はみんなの奇跡! 私はねっ、魔法少女なんだよぉ~! ぱらぱらるぃ~ん♪ まじかるッ、りるたんっ!」


 決めポーズ。かっわいぃ~、決まってるぅ~、などと称賛するものは残念ながらこの場にはいない。

 どう反応してよいか迷うエルヴィン、リーナス、ミカル。数秒経つと案の定、再び繰り返される。


「りるの名前は姫愛(ひめあ)りる! 私はねっ、魔法少女なんだよぉ~! 輝く魔法はみんなの奇跡! ぱらぱらるぃ~ん♪ まじかるッ、りるたんっ!」


 決めポーズ。繰り返すが、かっわいぃ~、決まってるぅ~、などと称賛するものは残念ながらこの場にはいない。

 エルヴィンは思った。やばい、なんか、こいつ、フィグネリア以上に話通じなさそうだ、と。

 リーナスは思った、この子、一体なんなの、と。世界観間違ってない? と。

 ミカルは思った。可愛いなぁ~、いやいやいや! 違う、そうじゃないだろ、何者なんだ、一体、そう、僕はそう思ったんだ、と。

 こうして始まる。何だか奇妙な物語。りるとは一体何者なのか、いや、というか、もうフィグネリア倒しちゃって、封印の地も再び封印されたし終わりそう? ノンノン、話はこれから、これからなのである。

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