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アヴァラ救国マ記ジカル♪りるたん  作者: 上野衣谷
第二章「必要なものは何かということ」
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第10話

 そんな眠りについたお姫様をさておいて、三名は今後の方針の話し合いを行おうとしたが、三名でウィシュトアリー聖国に乗り込んだところで何をできる訳でもない。

 そのため、決断は後回しにすることにし、ミカルらは、りるの体力が回復し次第、早急に行動を開始できるように取り計らうことにした。りるの行ったことが、実に能力の高い魔法使いのみが出来ることであるという証拠を盾に、自分たちは、りるがフィグネリアを倒す姿を見たという事を国王へと報告し、同時に、自分たちをブベル王国の使者としてウィシュトアリーへ行かせてくれということを進言する。


「……ふむ、なるほど、話は分かった」


 国王の部屋──といっても、ミカルの部屋とあまり大差のない、国王という名に相応しいとは思い難いくらいには質素な場所──で、国王はミカルらの報告を聞き、頷いた。国王は今年で五十を超える高齢である。その年に見合っただけの厳格な雰囲気を持ち、声も低い。威厳を感じさせる面持ちだ。


「して」


 故に、国王の発する言葉の一つ一つは重たい。ブベル王国は、国力が高い国とは言えないながらも、その国一つを担ぐ王が口を開くとあって、エルヴィンは勿論のこと、息子であるミカルも緊張する。リーナスは落ち着いているように見える。流石、ウィシュトアリー聖国の高官を長いことしてきただけのことはある、といったところか。

 しかし、そんな王の言葉を遮るようにして口を挟んできたのは、重要な話とあって同席していた第一皇子、ソラム・ラピスであった。


「話は聞かせてもらった。父上、しかし、この事、これ以上論じる必要はありますまい」


 ソラムは、一際不満そうな顔をしてソラムを見つめるミカルを睨み返してさらに続ける。容姿端麗と称するに値する凛々しい顔は、皇子としての自信に満ち溢れているように見える。ミカルに比べ一回り年の離れた出来の良い兄である。


「私は何も、ミカル、お前を虐めたいと思ってこんなことを言っているのではない。ラピス王家の伝統を守るために、そして、何より、ブベル王国の未来を思って、言っている。確かに、今、ブベルは窮地に立たされている。しかし、我々を完全に滅ぼそうと思えば可能であったはずのウィシュトアリーはそこまでのことはしなかった。ミカル、お前が先日、そこの二人とフィグネリアを倒しに行ったのまでは、お前の身分が相手方に発覚でもしない限り、ブベルに何か起きるということはなかった。だが、我らが国の正式の使者として、というなら話は別だ、分かるな」


 ミカルは頷く。それについては、勿論、その通りだった。使者として乗り込み、ミカルらは、ダークエルフたちをどうにかしようと考えているのだ。フィグネリアを倒そうとしているのだ。もしそれが失敗すれば……。結果は明らかであろう。


「お言葉ですが、皇子ソラム、しかし、このままウィシュトアリーを放置しておく訳には……」


 エルヴィンが思い切って声を上げるも、


「これは我らが国の問題だ。お前は、ブロンベルクと言ったか。アヴァラ西部共和国が動いてくれないからといって、我らが国に迷惑をかけていいというのはおかしかろう? 第一──」

「もうよい、ソラム」


 ソラムのエルヴィンに対する追撃を食い止めたのは国王であった。国王は視線をミカルへと向ける。しっかりとミカルの顔を見据えるが、それは、ミカルを責めようとしてのことでもなければ、なだめようとするものでもなかった。


「これはミカルだけでなく、お二方、ブロンベルク殿、ウルリカ殿にはなおさら説明しなければいけないことだからよく聞いておくれ」


 ソラムは、ちらりと国王を見ると、そっと視線を降ろした。国王によって説明されるならば、自らはこれ以上説明することがないということを悟ったからだ。


「ブベルは、危機に瀕している。無論、それはブベルだけではなかろう。わしもこの目で、このトゥリパがモンスターによって──それも、古来封印されたはずの凶悪な種によって、蹂躙されるのをしかと見た。アヴァラ大陸に戦乱が起きる可能性、これは否定できないであろう。このブベルに、その戦乱を勝ち抜ける力、軍事力があるとは、残念であるが、考えにくい……しかし、わしはブベルの国王。ラピス王家の威信を掛けて、国民を守らねばならぬ。そのために、わしらラピス王家が取るべき決断は……分かるな、言っている意味は」


 国王はあえて最後まで言わなかった。説明不要、と言いたいのではない。言いにくかったのである。国王やソラムが考えることというのは、決して、この大陸すべてにとって良い方法ではない。あくまで、ブベル王国が生き延びるために良いと思われる方法である。そのことは、二人とも強く認識していた。

 ミカルは、ぐっ、と悔しそうな顔をするが、横に座るエルヴィン、リーナスからの強い視線を受け、はっとする。こんなことで退いてはならない、ミカルの心は強く自分にそう言い聞かせる。


「父上、兄上、僕も、二人の気持ち……いえ、僕自身も、そのような考え、ない訳ではありません。しかし、本当に、二人はそれでよいと思っているのですか?」


 敢えて問う。ソラムがムッとして少し強めの口調で言い返す。


「それが最善だと言っているのではない! 私たちは民を守らなければならぬ、それだけのことを考えて──」


 そのソラムの発言が終わるよりも前に、ミカルはここぞとばかりに食ってかかった。


「それだけのことを考えていてよいのですか! 確かに、ブベル王国の民を守るのが僕たちラピス王家の使命……しかし、だからといって、他国を犠牲にしてもよいと!? いえ、ごめんなさい、二人がそう考えていない、苦渋の決断ということは重々分かっているんです。しかし、ウィシュトアリーに従ったからと言って、確実に安全という訳ではない。さらにいえば」


 ミカルは、ソラムではなく、国王へと視線を移した。


「父上、少なくとも、父上は、この決断、良いものだとは考えていない。その証拠に、先ほど、最後まで、ブベル王国が取るべき決断を口にしなかった。そうですよね」


 若さゆえにか、ミカルの口調は強めのものとなるが、国王は、それに反発するでもなく、ゆっくりと頷き、返答する。


「その通りだ、ミカル」


 それ以上のことは言わない。しばらくの沈黙。この沈黙に耐えかねたのは、リーナスだった。


「失礼します、一言だけ、良いでしょうか?」


 今まで口を開かなかった彼女。発言の許可を得たのは、エルヴィンがソラムに、ブベル王国の問題へ立ち入るな、と言われたからであろうことを悟ったソラムが、


「どうぞ」


 とだけ短く言う。リーナスは、それでは、と前置きすると、


「私は、ご存じかとは思いますが、元、ウィシュトアリー聖国の高官でした。ですので、私が、このブベルの国政に何か口出しをする権利など全くありません……。ですが、お願いです、私の国を助けるために、どうか、お力添えいただきたいのです」


 リーナスはそう言うと、深々と頭を下げた。これは、彼女の一方的な懇願だ。そこに強制力など何もない。


「ふぅむ……」


 国王は考えた。果たして、どうするべきか……。心は強く揺らいでいた。ブベル王国の使者、という看板を使えば、彼らは間違いなくウィシュトアリーの神殿へと入ることが出来るだろう。しかし、一度、彼らはフィグネリアとの戦いに負けそうになっている。

 かといって、この三人の申し出を断り、ブベル王国として、ウィシュトアリーに全面的に従うという立場を取ったからといって、確実に国民が救われるとは限らないということもまた事実である。リスクはどちらを取ってもある、しかし、やはり、リスクだけを見れば、従う方がマシと言える、と考えられた。

 何か、何か決定打があれば……国王がそう考えて、判断を迷っているところに、その決定打が突如として表れた。


「やっほー!」


 バターン、と国王の部屋の扉を開け放つ存在。そこにいたのは、他でもない、りるだ。やっほー、の一言はこの場にいた全員の度肝を抜く。

 重苦しい雰囲気が立ち込める中、やっほー、と入室して来たことによって、一瞬その空気が晴れるかとも思われたが、やはりそうはいかず、再び空気が重くなりそうなタイミングで、


「やぁあ~~っほぉ~~!」


 と、追撃の一撃を放つ様は、まさに異端児と言う他言いようがないだろう。いや、もう一つ言い方あった。空気が読めない奴、である。


「あ、お、お待ちください! 今、非常に重要な話し合いがですね!」


 その後ろから、国王の部屋の外で待機していたらしい臣下二人が慌ててりるを止めようとする。


「な、なにごとだ」

「おい、見張り、何をしていた!」


 ソラムの叱責の声に、ただただ謝るしかない臣下たち。突入してきた魔法少女は、そのままにこにこ笑顔でエルヴィンらがいる場所へと駆け寄ってきて、


「どうも~、マジカルッ、りるたんっ、でーっす」


 ぴぃーす、と何故か腕を前へ押し出す。どうやら、彼女の辞書に、場の空気、という文字は存在しないらしい。


「お、おい、何しに来た。体は大丈夫なのか?」


 エルヴィンは堪らず立ち上がり、りるに問う。


「だいじょーぶだよ~! 元気満タン、りるたん! 略してげんたん! まるでダムのよう~」

「ダム……?」


 微妙なところにはてなを浮かべるミカルをよそに、臣下を叱りつけこの場から追い出し終えたソラムがりるへと詰め寄る。


「貴様っ! 国王の御前だぞっ!」

「あぁ、ソラム、よいよい。この話し合い、彼女が参加してはいけないなどというのはちと理不尽だ。何せ、今回の決断に大きく関わる者なのだからな」


 一見正義かと思われたソラムの行動であったが、国王が優しく言うので、ソリムは少し不満げながらも、元いた場所へと戻り、腰を下ろす。ふぅと大きく息をつくと、気を取り直して、


「しかし、丁度良い。君、名前は何という」


 ソラムは、りるの噂や能力について聞いていたし、名前も知っていたが、敢えてこの場で自己紹介をさせようと試みた。りるは、その問いに、きらっ、と目の色を変えると、待っていましたとばかりに、体をせわしなく動かしながら、自己紹介を始める。


「りるの名前は姫愛ひめありる! 私はねっ、魔法少女なんだよぉ~! 輝く魔法はみんなの奇跡! ぱらぱらるぃ~ん♪ まじかるッ、りるたんっ!」


 決めポーズ。いつの間にか手にしていたステッキをきちんと活用した決めポーズ。ちなみに、ステッキは、ソラムの方へと向いている。あたかも攻撃を仕掛けているかのようだ。精神的に攻撃をしかけているとは言えるので、あながち間違いではない。


「ほう、あなたがりるさんですか」


 国王が目を丸くして言う。微妙に適応力が高い。流石は国王といったところか。りるは、そうだよー、と元気に返答した。

 その容姿は国王から見れば実に幼い。彼女にこの国の命運を託してもいいものだろうか、と国王は悩んだ。無論、外見だけで判断する訳ではない。国王は、エルヴィンらの話だけでなく、りるがこのトゥリパにてどれくらいすごい魔法を使ったのかということについて報告を受けていたし、トゥリパの人々の一部は、りるの行為に対してとても大きな感動を受けていたということを知っていた。


「あなたが、この街でしてくれたことには、国を代表して感謝しておる」


 その礼を告げると共に、国王は、ただ一つだけ、彼女に聞きたいことがあった。


「一つだけ聞きたい。りるさん、あなたにとって、魔法というのは、何ですか?」


 それはあまりにも漠然とした質問だった。同時に、国王以外の誰もが、何故、国王はそのようなことを聞いたのかということについて理解することができなかった。りるは、けれども、国王のそんな漠然とした質問に対して、すぐに口を開いて返答した。


「そんなの簡単だよー! だって、もう、さっき言ったんだもん!」

「……?」


 国王が首を傾げると、りるは、すかさず答える。


「えっとね、輝く魔法は、みんなの奇跡!」

「……奇跡」


 確かに、りるが自己紹介の時に言っていた文言である。国王は、小さく口に出して言った、奇跡、という言葉にどこか不思議な響きを感じた。


「そうか、奇跡……。確かに、今、この国に必要なのは、奇跡なのかもしれないのう……」

「父上、何を」

「ソラムよ、わしは、この子にかけてみようと思う。どうだろうか」


 その声に、エルヴィンらは驚きを見せた。何よりも、りるの不可思議な行動がとられた後の発言であったことに驚きを見せた。流石は国王、自分たちに理解の出来ない決断を平然とやってのける。

 そして、国王のその声は、ソラムの同意を強く求めていた。ソラムは、少し考えてから、


「それが、父上の決断なら、私は何も言うことはありません。……いえ、それが、国の為になるのならば、私に言えることは何もない」

「それじゃあ……!」


 ミカルが声をあげる。


「ただし! いいか、ミカル! 必ず、必ずだ。必ず、この国を、任せたぞ。本来なら、第一皇子であるこの私も力を貸すべきかもしれない……けれど、この身が赴いたとなれば、今度こそごまかしはきかなくなる。頼む、ミカル──いや、頼む、君たち。このブベルを救ってくれ」


 ソラムが頭を下げると同時に、国王もまた、エルヴィンらに頭を下げる。


「あ、ああ、あの、とんでもない、頭を上げてください! 自分たちだけじゃ何もできないんですから」


 エルヴィンが慌てて言う中、りるはただ一人、ふふふ~ん、と何やら得意げな様子になっているのであった。

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