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世界最強の劣等生剣魔士  作者: 高橋創将
春の襲撃編
46/49

春の襲撃編 43 「1番の目的はもう既に達成されている」

 ■■■


 一方学校では。


 擂々と蒼翔の戦闘後は静かになっていた。

 戦闘している者もおらず、遠くからサイレンが聞こえてくるのみ。


 だが通報してから30分近く経ってようやく遠くからサイレンが聞こえてくる程、今回は来るのがとてつもなく遅い。

 もう今どき連絡した直後には傍にいるのが普通だ。


 そのサイレン音が聞こえたの同時に、校舎の瓦礫から1人の女性が出てくる。


「いったいわね……」


 山田一二三だ。

 桃希が屋上から飛び降りた後、どうしようも無くとりあえず校舎をウロウロしていたら、急に天空から校舎ごと落とされたのである。軽傷で済んでいるのは、とっさに『想力分子』でクッションを作って身を守ったからである。しかし多少の衝撃はあるもので。


(……しかし私が連絡したのにこんなに遅いとはね……やはり上に妨害者がいるか……)


「あーあ……とりあえずあいつが壁か……」



 ■■■


「撤退するわよー」


 藍がそういうのと同時に武装した者達が撤退の準備をし始める。


「──剣術『剣扇舞─舟笛─』」


 だが。


「なっ……」


「ねぇ邪魔しないでくれる?」


 藍は無事であった。傷1つ付いていない。

 剣城家の剣術が通用しなかった。


「くっ……そんなことはないっ!」


 何度も何度も『剣扇舞』を放つ。だが──


「もうしつこい男は嫌いだよ♡」



「──そこまでにしようか藍」


 二人の間に現れたのはお面を被った男。擂々だ。


「むぅ。良いとこだったのにぃ……」


 ほっぺを膨らませる藍。一方ライトは、最後に放った剣術が擂々に当たる直前で消えたことに驚きを隠せなかった。

 当たったが何もなかったことも驚きだが、消えることもまた驚愕。『舟笛』は当たるまで無くならないからだ。


「剣城家次期当主の剣城ライト君」


(俺の名っ……)


「迷惑をかけたね。またよろしく頼むよ」


「貴様待て──」


 だが敵達は待つことなく、その場から全員消えた。

 恐らく今のが《消える暗殺者》なのだと理解した。こんな一瞬で消える芸当をこなすのは奴しかいないからだ。


「今日はどうなってんだ……」


 ■■■


 校庭は悲惨な状況であった。瓦礫で覆い尽くされた中に2つ、ドーム状になっている所があった。


 その瓦礫が辺りに散らばると、ドームの中が露わになる。

 1つは生徒会、礼樹が作り出したドーム状の障壁であった。

 もう1つは『バダリスダン』の一員が作り出したドーム。

 相変わらず剣魔士がああだこうだ言っておきながら魔法を使うものだ。


「大丈夫か、皆」


 声をかけたのはドームを張った礼樹。


「えぇあなたのおかげで全員無事よ」


 愛歩の返答しかないが、他の者も全員無事である。多少怪我等はしているが、この程度で瀕死になるほど生徒会は弱くはない。

 戦闘能力だけで生徒会が決まるわけでは勿論ない。だが今年の生徒会は別で、生徒会としての能力と戦闘能力が備わっている者が揃っている。歴代の中でも特別突出している生徒会だ。


「さて。校舎が上から落ちきたが全員無事だろうか」


「そんなことよりあの人達ぶっ殺そう!」


 校舎内にいた生徒達のことを心配する礼樹とは別に、ライヤは目の前の敵のことしか頭にない。


「生徒達は帝国君達が体育館の方へ移動させたみたいよ。ただ……」


 愛歩は念の為、戦闘中に自分の分身を校舎内に向かわせていた。

 しかし1つ疑念が。


「ただ?どうした」


「……いえ、なんでもないわ」


 ──ただ、何者かに自分の分身を体育館に様子を見に行く途中で殺された。それが誰なのか。

 借りにも愛歩の分身だ。この程度の者達に殺られるわけがない。しかも敵の姿が見えずその一瞬で。

 しかし、押し潰されたような死に方なので、もしかしたら瓦礫が落ちてきて、という可能性も無くはない。それに分身を殺した奴もこの校舎と一緒に下敷きになっているに違いない。

 今は目の前の敵に集中しなければ。だが、愛歩は念の為、自分の分身を密かに体育館に向かわせることにした。


 先にドーム状の障壁を解除したのは『バタリスダン』の方であった。

 敵は1人。他の者は先程愛歩が戦闘不能にした。


『バタリスダン』は教師を無くすことを念願にしている。差別、『劣等生』という肩書きがあるせいで、いじめというものを無くしたい、そう願っているはず。てっきり『想力分子』が思うように扱えない人達の集まりだと思っていた。しかし目の前の敵は『想力分子』を操り、礼樹と同じ規模の障壁を創り出した。だが、所詮『バタリスダン』であるから、只者だと思いたい。


「少し話でもしようではないか」


 男の方が喋りかけてきた。


「どうする」


 愛歩に問う。

 障壁を解除した途端、奇襲を仕掛けてくるかもしれない。ここは現状トップである愛歩の指示を聞くのが妥当だと礼樹が判断したまで。


「いいわ。お話してあげましょう。所詮《劣等生》なのですから」


 礼樹が頷くと障壁が解除される。

 途端──


「──剣術──剣扇舞『乱れ桜』──」


「バカっ人の話をっ──」


 ──ライヤが奇襲を仕掛けた。


 ──だが。


 ──次の瞬間、ライヤが地面に叩きつけられていた。


「グハッ!」


『乱れ桜』はその場に留まっているかのように見えるほど、恐ろしく速い技。だがライヤは男に首元を捕まれ、地面に叩きつけられていた。

 細身の男とは思えない程力強く叩きつけられ、地面が凹んでいた。


「──話をしようと言ったでは無いか」


「──ッ!」


 瞬間、殺気が生徒会を襲う。身構える生徒会。


「待て!……いきなり襲ったのは謝る。すまない」


「まぁ恐らくこいつの独断だろう」


「そう言ってくれて感謝する」


 明らかに下手に出始めた礼樹。それは当然だ。ここにいる生徒会ですら『乱れ桜』を受け止めることはできない。だが、この男は無傷でライヤを無力化した。しかも一瞬で。


 この男は明らかに自分達以上の実力を持っている。そう判断した。

 だがしかし、先程までの男とは雰囲気がまるで別人になっていることに少し気がかりを覚えていた。


「さて。まずは自己紹介からしよう」


 男はライヤから手を離し礼樹を見る。


「俺は『アルサ』幹部が1人、ヒューライ」


「『アルサ』だと……!」


「でもさっきは『バタリスダン』ってあなた……」


「あぁ。それは嘘ではない。この瓦礫の下敷きになってる俺以外は1部『バタリスダン』の一員さ」


 1部、という言い方に疑問を覚えたがそれよりも『アルサ』がこの襲撃テロに関わっているという衝撃がある。『アルサ』は国内的、国際的にも有名な組織の1つ。その幹部の1人が目の前にいる。


 これは絶好のチャンス、とは言いきれない。


「今回のこのテロには『バタリスダン』と『アルサ』が関わっているということね……」


「まぁそうだな」


「……それで。あなた方の目的は何かしら。先程《消える暗殺者》と我が校生徒である刈星蒼翔が戦闘してそのまま消えたのだけれど。それも関係あるのかしら?」


「ふっ……」


 鼻で笑った。


「まぁそれは目的の1部だ」


「1部……ねぇ?」


「それに1番の目的はもう既に達成されている」


「それが何か聞いても答えてくれないのでしょう」


「そりゃそうだな」


 愛歩がさっきから喋っているが、その場にいる全員、特に愛歩と礼樹は違和感を覚えている。それは──


「──ところであなた。何故私の方を見て喋ってくれないのかしら」


「ギクッ」という音が聞こえた気がした。

 そう。先程から彼は礼樹の方をずっと見たままなのである。まぁ愛歩は隣にいるから明後日の方向を向いているわけではないが、目が全く合わないのは何かと違和感である。


「人と喋る時は相手の目を見て、と習わなかったかしら?」


「おい……」


 恐らく目を合わせない理由に愛歩は勘づいたのだろう。

 恐ろしい魔女だ。


「……そんなことより話の続きをしよう」


「続きか。目的はまだ全部達成されていないと……?」


 このまま愛歩に喋らせると危ない気がしたので礼樹が口を開く。まぁヒューライも礼樹を見てるしちょうどいいのかもしれない。


「……ここからが君達生徒会の本番だ……今までのは単に刈星蒼翔の為に過ぎない……さぁ生徒全員守れるかな?せーとかい?」


「何っまさかっ!」


 瞬間、体育館の方で爆発が起きた。


「さぁて。助けに行きたければ俺を倒さないとなぁ?」


 まんまと罠に嵌められた。恐らく先程までの会話は単なる時間稼ぎというところだろう。皮肉だが、殺られる前に殺れ精神のライヤの行動が1番正しかったのである。


 相手を倒し終わるまでに何人犠牲者が出るだろうか。

 何人で体育館に攻め込んだのだろうか。

 今の爆発は体育館の方向ではあるが、恐らく体育館前の渡り廊下であろう。

 しかし体育館の方にいるのは、帝国と蘭夢。帝国1人で守りきれるだろうか。いや、ここは剣魔士学校だ。生徒だって戦えるはず……。

 もし犠牲者が出たら……入刀家の名において、人を守れなかったなんてことが──


「──大丈夫よ礼樹君。私の疑念が当たってたわ──」


 我に返る礼樹。そうだ、今はこんなところでグダグダ考えている暇はない。この愛歩の言い方だと、愛歩の分身が既に向かっているのだろう。すぐに目の前の敵を倒して助けに向かわなければ。


「さて。誰から来る?それとも全員?」


 相手の技が分からないのに無容易に攻めるわけにはいかない──


「──うちだけで十分や!」


「──待て!」


 ──礼樹の制止の声は遅かった。


 桃希が銃を構えた瞬間。

 腹に拳がめり込んでいた。


(速いっ──)


 桃希はそのままとてつもないスピードで瓦礫の中を飛んでいき、校舎にぶつかっていった。


「はい、1人〜」


 ライヤと桃希が一瞬にしてやられた。

 瞬間脳裏を過ぎったのは──


「皆っ逃げろ──」


 その場にいた生徒会以外の生徒への逃走命令だった。

 A組の生徒とはいえ、こいつはヤバすぎる。そう判断した。

 すぐさま逃走しようとする生徒達。


「逃がすわけないでしょ──なっ」


 ヒューライが逃げている生徒の1番遅い生徒を殴ろうとした。正確には殴ったが、礼樹の作り出した障壁によって守られた。


「お前の相手は俺だ──!」



 ■■■


 一方逃げた体育館。

 外部からの音を完全に遮断していた。


 実は体育館への誘導は帝国と蘭夢だけで十分だった。しかし、剣魔士とはいえ仮にも高校生である。こんな非常時に大人しくしている奴の方が少ない。興味本位に体育館から出ようとする者。むやみに魔法や剣を使おうとしている者。ザワつく体育館──


 ──のはずだった。


 しかし、帝国、蘭夢、そしてある男1人を除いて、全員静まり返りその場に突っ立っていた。


「……なんか嫌な気分ね」


「……仕方が無いよ。これしか方法が無い」


 体育館から校舎へと繋ぐ通路がある扉の方を見つめながら話す2人。そしてもう1人は──


「──よくこんな状況で寝てられるわね」


「まぁ勇気先輩がいなきゃ今頃パニック状態だ」


 ──勇気は寝ていた。寝転がる訳でもなく、どこからか持ってきた椅子と机を使って寝ている。


(とはいえ勇気先輩は謎が多すぎる……生徒会にいる程だから何か能力的には高いはずなのだが……そもそも生徒会のはずなのに生徒会に全然顔出さないからな……)


「そうだけど、どういう力使ったら全校生徒を操れるのかしら」


「……これは操っていると言えるのだろうか」


 確かに。全員無表情無言で突っ立っているだけであり、操られている訳ではないように思う。しかし仮にも魔法耐性がある生徒もいるし、魔法がかかる前に皆気付くはずだ。


 だが、実際は2人も気付かずうちにこの状況になっていた。体育館に集まったはものの、言う事を聞かない生徒もいた。しかし、椅子と机を持った勇気が現れるのと同時に一瞬でこの状況だ。魔法を使った兆候が見られない。


(もはや『異能力』としか考えられない……しかしこう易々と『異能力者』が現れてもな……)


 外部からの音を遮断したのは、この状況になる前。1回発動してしまえば本人が解くまで効果が切れない。他の生徒達がパニックにならないように、と思い発動したのだが、勇気のお陰で無駄となっている。だが解除しないのは本人達も聞きたくないというのもある。


(しかし外がどういう状況になっているのか知りたい気持ちもあるわね……)


「ちょっとだけ魔法解くわね」


「え、うんいいけど」


 彼女が魔法を解いたその瞬間。


 ──体育館と校舎を繋ぐ渡り廊下が爆発を起こした。


「何事っ!?」


「俺ちょっと見てくるからそこで待ってて!」


 帝国は1人体育館を後にした。



 体育館を出て、爆発が起こったであろう場所に辿り着く。

 渡り廊下の原型はなく、そこだけ更地になっている。


 爆心地らしき場所には人の影が。


「──誰だ!」


 しかし返事はない。むしろ人影が見えるが、立っていないように見える。

 彼は恐る恐る近付くと──


「──刈星緋里!?」


 緋里が意識を失って横たわっていた。

 さすって起こそうとしても目を開ける感じはしない。それにしても、見事な程綺麗な無傷だ。恐らく爆心地であろう場所にいるのにも関わらず。


(……誰かが意図的に爆発させた……?)


 つまりは、誰かが意図的に爆発を起こし、帝国がたどり着く前に緋里を置いて立ち去ったということになる。

 まぁあくまでも彼の憶測だが。


 例え緋里が爆発させた本人だとしても、無傷で気を失っているのは何故だろうか。

 魔法にしては状況がおかしい。魔法の場合少なからず痕跡が残るし、爆発させて自分は無傷で気を失う魔法など帝国は知らない。


 だとしたら爆発を起こした犯人は何故こんなことをしたのだろうか。

 そして彼女は何故気を失っているのだろうか。


 とにかく今はあれこれ考えるよりも緋里を運ぶことを優先した。



 ■■■


 遥か上空。大気圏の成層圏辺りに男は浮いていた。しかも生身。通常の人間では絶対に無理だ。とっくに死んでいる。


 男は遥か地上を見ていた。しかも離れた位置にいる男女2人を。


「……手を出すのは御法度だとは思ったんだけど……」


 ボソッとボヤいた。


「まぁ私の可愛い緋里ちゃんを傷付けられても困るからね……」


「蒼翔……私より完全体(・・・)に近い人間はお前だけだ」


 声質、声音は40代半ば。


「私たちの過去……そして君達の未来……この世界を救えるのはお前だけだ蒼翔」


 ──男はお福さんのお面を被っていた。




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