春の襲撃編 41 「『空間把握』」
■■■
「──刈星……蒼翔……!」
宙に浮く蒼翔を見て固まる生徒達。
宙に浮いていることに驚く生徒もいれば、あの膨大な魔法を放ったことにも驚く生徒もいる。後者に至っては生徒会の者達がほとんどだが。
「──何をしている生徒会」
冷酷で低い声。
少なからず生徒会模擬戦をした時の雰囲気ではない。
「──お前らはその程度だったか?」
「──お前らはこんなクズ共に苦戦する程度なのか」
──怒っている。
「──何が日本1位の剣魔士高校だ。反吐が出るくらい雑魚め……緋里……ッ」
──
「蒼翔ハン!助かったわ!」
真っ先に声をかけたのは桃希だ。
「黙れ雑魚」
「──ッ」
「お前らを助けたわけじゃない。むしろ逆だ──」
静かに右腕を生徒達に向け──
「──ここで消えろ──」
地面に大きな魔法陣が展開される。
誰しもが息を飲み、死を覚悟したその時。
蒼翔に向かって銃弾の嵐が飛んでいく。
「な、何事っ!」
「くそったれ!」
「危ない!」
「きゃっ」
悲鳴と怒涛の声が入り交じる。
彼に放たれている銃弾の嵐の、反射したもの、当て損ねたものが、校舎に当たりその破片等が飛んでくる。
それぞれ剣、魔法、銃で対応してはいるが、銃弾の嵐はしばらく止むことはなく、先程までの戦闘直後ということもありかなり苦戦している。
生徒達は破片から逃れようと校舎から離れていた。
だが、銃弾が自分達が逃げている方向から放たれているとは誰も気付いていない。
その結果。
蒼翔に向かっての銃弾の嵐が止むと同時に、生徒達は全員銃を向けられ身動きが取れなくなった。
あろうことか動揺してしまい、その一瞬を敵につかれた。すぐさま冷静になり、愛歩が気付く。
「……今までの敵と違う……?」
その小さな声は隣にいた桃希にしか聞こえなかった。
「ホンマや……先程までのやつらも魔法はほとんど使ってはいないんやが、『想力分子』の保有量はある方に感じた。だがこの人達は──」
「何コソコソしている」
少々桃希の声が大きくなっていたようだ。
「──やぁやぁ生徒会の皆さん及び3年A組の方々。やはり君達は優秀な剣魔士だねぇ。このまま蒼翔の良い刺激になるといいんだけど」
突如頭上15m程から声が聞こえてきた。
お福さんのお面を被り、この学校の劣等生の制服を着ている。
恐らくこの襲撃のボス。
「お前は誰だって顔してるね。教えてあげよう。僕の名は──」
──剣がその者目掛けて飛んでくる。
だが、身体を少し捻りその剣を避ける。
「──《消える暗殺者》──!!!!」
鬼の形相で剣を振って交戦するのは蒼翔。
先程の銃弾の嵐の傷は一切ついていない。
《消える暗殺者》は避ける一方で反撃も何もしない。
「蒼翔。落ち着きなよ。いきなり攻撃したのは謝るから落ち着いてくれ」
「貴様ァァァァァ!」
「……ん。また人格変わっちゃってるねぇ。すぐ変わるのは良くないよ蒼翔」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す!」
「せめて僕の自己紹介を皆に聞かせてから攻撃してくれない──かな」
最後の「かな」は蒼翔の後方10mから聞こえてくる。無論そこに奴はいた。
彼はすぐさま方向転換し、魔法により猛スピードで奴に剣で攻撃を仕掛ける。
だが──
「うがッ!」
──異能力により超至近距離に詰められた彼の鳩尾に、拳がめり込んでいた。
だが痛みに耐え、諦めず離しかけた剣を強く握り締め、再度至近距離で剣を振ろうとするが──
振った時には既に後ろに居り、
「うん。やっぱりその蒼翔じゃ、戦闘に特化した僕には勝てないよ」
蒼翔は奴に触れられることなくそのまま地面に落ちていった。
(初めて試みてみたけど、これ……強いねぇ。僕の劣化『空間』でもここまで戦える。まぁ全力の蒼翔ではないからなんともいえないけど)
「さて……」
思い出したかのように、捕らえた生徒会達の方に向く。
「──改めて自己紹介をしよう、生徒会諸君──」
彼の頬に傷ができる。
「なっ……!」
その攻撃は真下。先程蒼翔が落ちた方向だ。
「まさかっ!」
だが気付いた時には蒼翔の姿は見えなかった。
「俺は緋里を助ける……ただそれだけだ」
その声はどこから聞こえるのかわからない。
だが──
「『空間』を操る僕に勝てると思うなよ!人間が!」
(『空間把握』ッ!!!)
周囲の空間を認識し、どこに何があるのかを把握する。
蒼翔の存在が暗殺者の空間把握に引っかかる。
だが──
「グァッ!」
──気付いた時には左腕が斬り落とされていた。
瞬時に瞬間移動し、少し距離を取る。
この場から逃げるという選択肢もあったが、焦りで近くに移動するのでいっぱいだった。それに、今のはただ油断しただけだと──
何かを察知し身体を捻る。
少し遅かったか、肩をカスる。
またすぐに瞬間移動。
しかしすぐに攻撃が来る。
これの繰り返しだった。
(なんだ……ッ!急に様子がッ!)
(この僕が逃げるので手一杯だと……ッ!)
(何故僕が移動する先がわかる……ッ!)
(まさか……ッ!)
そろそろ不毛な戦いになり始めた頃。
「俺には時間がもうない」
「蒼翔……このタイミングで近付くとは……」
蒼翔の攻撃は止まったが、相変わらず姿が見えない。見えないようにされている。
「僕も少々本気を出さないといけないなぁ……!」
(『空間把握』常時展開)
それを常に展開している事により、どこから何の攻撃が来るのか。誰が何処にいるのかの把握ができる。
(そこか……)
蒼翔の位置を捉えた。
やはり姿が見えないから遠くにいるわけではなく、常に近くにいたのだ。
恐らく『想力分子』を使い、自分の姿を周りの背景景色と同化させているのだろう。まぁ言うなれば『透明化』だろう。
少々厄介であろう。
普通の敵であれば。
だが『空間』の異能力を持つ《消える暗殺者》だ。空間を操る暗殺者にとってはそこにいるのと変わりはない。
(君は僕には勝てないのだよ──刈星蒼翔?)
蒼翔が剣を構えこちらに向かってくる。
そのスピードは明らかに魔法を使っている。
だがこんなスピード大差ない。
瞬間移動でかわすだけだ。
その自信の如く華麗に蒼翔の攻撃をかわしていく。
(これじゃあまた不毛な戦いだねぇ?)
「《消える暗殺者》」
「なんだい蒼翔」
「本気を出せ──」
「──なっ!!!」
暗殺者のその声は驚嘆の声。別に本気を出せと言われて驚いた声ではない。
蒼翔は、彼はそこにいる。この距離では攻撃は当たらない。ましてや剣の攻撃等当たるはずがないのだ。
──体から血飛沫が出る。
胴を斜めに切り裂かれていた。
「──わざと浅く斬ってやったんだ。次はない。だから──」
「──本気を出せ」
「刈星蒼翔オオオオオオオオオ!」
瞬間、蒼翔の両足が消えてなくなる。
そのままの通りの意味。
彼の両足だけが地面に落ちていく。
「できればこんなことしたくはなかったんだけど。君は僕に喧嘩を売ったからね」
「──僕はいつでも君自体を消せることが可能なんだけどなぁ???」
自分では蒼翔のペースに乗ってはいけない。そうは思ってはいるがついつい感情的になってしまった。あまりやりすぎると他の自分達に怒られる。
しかし、彼は両足が消えたのにも関わらず痛みを感じていない様子。これは神経を予め切っておいたのだろうか。いや、足を消す事などわかるはずもない。つまり、足が消えるのと同時に瞬時に魔法で痛みを無くしたのであろう。
(……ふふっ……他の僕ならまだしも、本気を出した僕には勝てないよ?しっっっかり痛めつけてあげるよ)
「行くぞ──《消える暗殺者》!」
「さぁかかって来い──刈星蒼翔!」
暗殺者の周りに瞬時に現れる魔法陣の数々。
認知と同時に複数の魔法攻撃が放たれる。
レーザ、氷、葉、火、電撃……。
「『空間遮断』!」
自分自身の周りの空間を分離、遮断し、何も通さない。正確には、自分と数センチの間だけの空間を別の空間に繋げている。別の空間と自分自身にも少し隙間を作れば、自分自身が別の空間に飛ぶことはなく、攻撃だけが別の空間に飛んでいくという仕掛け。
繋げた先の空間はどこかの山の崖。
自分の代わりに崖が攻撃を受けているということだ。
その攻撃は2.3秒。
土煙が起き、攻撃が止むと『空間遮断』をやめる。
(僕にそんな攻撃当たるわけ──)
土煙の中から剣が暗殺者を襲う。
だが──蒼翔のその不意の一撃は、当たることはなく。
剣は暗殺者によって握り止められていた。
「『空間把握』を常に使っているんだよ?そんな目くらましの攻撃当たるわけないじゃないか……おっとこの剣は君の剣、『灼屑』だね。この左腕斬ったのもその剣の……本当に相性がいい剣みたいだね──へし折ってやる」
『灼屑』の攻撃は素手で受け止めれるようなものでは無い。『想力分子』により、斬れ味はどの剣よりもいいはずだ。そして硬度も最高級。これは蒼翔の異能力あってこその剣。
消える暗殺者はその剣をまた、『空間』を使って握り止めた。
暗殺者が強く握って剣を折ろうとしたその時。
「舐めるなよガキが──」
剣を握り締めていたのは下腹部正面当たり。
──その剣が暗殺者の下腹部を貫いた。
「グハッ!……な、何ッ!」
そう、剣が伸びたのだ。
すぐさま瞬間移動し距離を取る。
「剣を剣だと思いすぎたな……さすがあの発明家……」
「どうした《消える暗殺者》。まだまだ俺は──本気を出せていないぞ」
「なっ……!」
目に映る蒼翔は全身無傷。そう、全身無傷なのだ。あの消したはずの両足までも──。
そして眼が蒼く輝いていた。
「こ、これが真の力……覚醒の比じゃない強さ……いや、これは──」
「──何をゴタゴタ──言っている──」
──完全防御に徹するしかなくなった。
攻撃が来たら瞬間移動で避け、避けれなさそうなのは『空間遮断』で受け止めるしかない。
一行に攻撃を当てれる隙がない。
(──そう、蒼翔は思ってるだろうなぁ!)
だが──戦う前から《消える暗殺者》の勝ちは決まっていた。
否──もうすぐ蒼翔が勝手にリタイアする。
その2人の戦闘光景を生徒会達はただ見てることしか出来なかった。
戦いが異次元すぎる。
「これが……刈星蒼翔……」
「蒼翔ハン……強すぎる……」
「やはり刈星蒼翔は偽りの劣等生──」
「──おい誰が喋っていいと言った」
どうやらこの敵達はこんな異次元の戦闘が目の前で起きていても冷静らしい。これが大人と子供の違いか──。
だがいつまでもこうはしていられない。そう生徒会達は考えていた。だが、全員重なる戦闘と乱戦で体力が限界に近い。
ならば少しでも情報を手に入れなければ──
「──あなた達は何者?」
口を開いたのはもちろん愛歩。
「あ?答えるわけ──」
「──いいだろう。教えてやる」
「いいのかっ?」
「いい。どうせ殺すんだからな。冥土の土産にでもさせればいい」
答えてくれたのは、恐らく今いる敵をまとめている者であろう。正直教えてくれないであろうと思っていたのだが。
「──我らは『バダリスダン』」
「『バダリスダン』ですって……!」
「これは厄介……」
「じゃあこの襲撃は『バダリスダン』の仕業……!」
「ふっ。1部はな」
「1部……?」
「それ以上はお前らは知る必要がないことだ。まぁ後々知ることになるさ」
「まぁいいわ──時間稼ぎありがとう」
ドサッ。
まとめ役の男以外地面に倒れる。
「き、貴様っ!何をっ!」
瞬きをした次に映ったもの。
それは同じ顔の女が先程までいた部下のところに立っている光景。
勿論これは愛歩の『異能力』。
「あなた達は喧嘩を売る相手を間違えたよ──」
ドゴン!!!
愛歩の言葉を遮るように音が後方から聞こえてきた。
何事、と全員そちらに目が行く。
土煙から見えたのは悶え苦しむ刈星蒼翔の姿。
「あーあ。もう時間切れかぁ。またその君に会えるのを待っているよ──じゃあね」
突如頭上に現れた巨大な黒い影。
一瞬、隕石かと思ったが愛歩から目の前の光景──つまり、校舎を見て気づく。
先程まであった校舎がほとんどなくなっていた。
つまり──
「──校舎が降ってくる……ッ」
校庭に校舎が落ちてきた。




