春の襲撃編 40 「さて、俺は寝よう……」
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3年C組。優等生クラス。
ここはABに比べて比較的穏やかであった。誰も抵抗せず、全員大人しく自分の席に座っていた。怯えた表情を見せている者はいない。
男達も生徒側も一言も喋らない。
ある意味不気味な光景。
全員魂が抜けたかのように無表情である。
時計の針だけが着々と進む。
そんな中。
「……お前達の目的は何だ?」
1人の生徒が静かに喋る。
「……刈星蒼翔をここで犯罪者に仕立て上げる為」
すると男達のリーダー的な者が淡々と喋り出す。
「刈星……そうか。やっぱりあの刈星なんだね」
独り言。
「刈星蒼翔以外の生徒はどうしろと言われてる?」
「……怪我程度で収めろ、殺しはするなと」
「お前達はなにも──まぁいいかめんどくさいし……」
何者なのかを問おうとしたがその生徒は席に座ったまま、腕枕に頭を乗せた。
しばらく教室内が沈黙に包まれる。
寝ている生徒以外全員目を開き無表情。
その状態が続くこと数分。
教室のドアがいきなり勢いよく開かれた。
「大丈夫なの!勇気!」
その曇りひとつない真っ直ぐな声。
金髪ロングヘアーで黒目がパッチリな洋風な顔立ちな女子生徒。満面の笑みで登場。
だが、所々血が付いており恐怖でしかない。
「……」
勇気と呼ばれた生徒も含め、全員何も変わらず沈黙が流れる。
数秒立ち、彼が応える気はないと察した女子は1人だけ伏せている生徒の近くに行き、
「大丈夫!勇気!」
先程より少し声量を上げて彼に言う。
「……うるさいなぁ。静かにできないのかライヤ」
「なーに!心配して来てあげたのに酷いわ!」
「俺は静かに日常を過ごしたいんだよ……さっさとこいつら連れて出てってくれ」
そう言われた彼女は男達をマジマジと見つめる。
「……勇気!また禁止魔法使ったの!」
「……知らない」
とぼける勇気。
「まぁ仕方ないよね!緊急事態だもんね!」
うるさいライヤ。
彼女の名は剣城ライヤ。剣城ライトの1つ上の姉だ。生徒会3年女子副会長。
彼の名は刈谷勇気。生徒会3年男子書記。
「まぁそいつらを今のうちに拘束しておいてよ……俺は寝てるから……」
「わかった!じゃあ拘束するから、終わったら魔法解いてよね!長時間は悪影響及ぼすかもしれないからね!」
勇気が使った魔法は、
超高等魔法兼禁止指定魔法『精神操作』。対象の精神を操作し放心状態にさせることができる。そしてさらにその状態になると、対象は物事を考えることが出来なくなる為喋らせたいことを喋らせることができる。つまり嘘を付けなくなる。
超高等魔法となってるのは別に『想力分子』を使う量が多いからではない。単に発動の仕方が超高等なだけである。
この魔法を発動できる者は数少ない。
この魔法が禁止魔法になっている理由。
そもそも相手の精神に漬け込んで操ること自体タブーではある。それにこの魔法は、長時間使い続けると効果を発揮する相手に悪影響が出る。
例えば障害になったり、放心状態から治らなかったり等々。まだまだ確認されてないこともあると思われるぐらい、危険な魔法である。
勇気は突出して『想力分子』の保有量が多いわけではない。優等生の中でも少ない方だ。だが、彼の想像力。そして『想力分子』の扱いは人一倍長けている。だからこそ『精神操作』が発動できる。
ライヤが「かもしれない」という言葉を使ったのは、彼がこの魔法を使って悪影響を及ぼしたところを見たことがないからだ。
「よし、拘束完了!勇気!魔法解い──寝てる!?」
全員の拘束が終わって彼の方を見るとぐっすり眠っていた。
「もう……仕方ないわね!」
そう満面の笑みで勇気に近付く。その歩いている途中に左手には剣が出現する。
彼の正面に立ち、その笑みのまま剣を振り上げ。
躊躇なくその剣を振り下ろす。
だが、その剣は彼に当たることなく寸前でピタリと止まっていた。
──ライヤが意図的に止めたわけではない。
「危ないんだよなぁライヤは……俺の睡眠を邪魔しないでくれと何度言ったら……」
──ライヤはその笑みがなくなり無表情であった。
彼はうつ伏せながら、手の甲でゆっくりとその剣を自分の上からどける。
ゆっくりと上半身を起こし、アクビをしながら周りを見渡す。
「……あーあ……めんどくさい……刈星蒼翔……ここにはシャーク家の生き残りがいる。そして裏には中村悠軼……この状況、君はどうするのかな──」
彼が外の青空に目を向けた途端。
──銃声が1つ鳴った。
「……はぁ……あいつもめんどくさい。起きろライヤ」
その言葉が放たれたと思うとライヤの体が動き出し、剣がそのまま振り下ろされ机を真っ二つにした。
「ズレた!」
「……お前それ当たってたら俺死ぬんだけど」
「その時はその時!というより!今私に何を──」
「──外で新羅が1人で暴れてる。お前は援護しに行け……というより出てってくれ……」
「わかった!では桃希の援護をしに行ってくる!最後の言葉は余分だけどね!」
2人とも『助けに行く』という言葉ではなく『援護』としているのは、決して桃希が窮地に陥ることがないと思っているからだ。
ライヤは勢いよく教室を飛び出して行った。
「さて、俺は寝よう……」
そう言って、教室のこの空気感のまま彼は目を閉じた。
教室から飛び出し、桃希のいる校庭へ向かっている途中。
(──私に使った魔法は『精神操作』じゃない……あの感覚は初めて……一体どんな──)
──そんなことを考えながら走っていた。
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作戦開始から数十分が経った頃。
「──状況報告します。各教室、校庭にて反乱多数。こちら被害多数」
「……そう」
職員室の来賓用のソファーに足を組んで座っていた藍に、部下の1人が状況報告をする。藍側は被害多数となっているのに彼女の返事は呆気ないものであった。
部下の心を読み取ったのか、
「……目的が達成されればそれでいいの。あの子達の犠牲は犠牲じゃなくて未来への投資♡」
笑顔でそう言った。
職員室には貴重な資料が沢山ある。
否──正確には職員室から通じる機密情報保管庫だが。
教師達は素直に従い、その扉を開けていた。
機密情報保管庫と呼ばれるだけあり、入るのに容易ではない。まずそもそも扉自体目視ができない。これは異能力でも魔法でもなんでもなく、ただの科学技術。
ある特定のことをすると、そこに扉が現れる。そして暗証番号・顔認証・指紋認証・静動脈認証・パスワードという厳重なセキュリティの上、これらをクリアすると扉が開くシステムになっている。
酷い話、なりすましや手首だけ持ってくるとかそういうことができなくなっている。静動脈認証はその人の流れる血液や心拍数血流状態を把握するシステム。つまり、生きてなければダメなのだ。
その扉が開いている。
「あとどれ位で終わりそう?♡」
ソファーに座ったまま、作業する部下達に問いかける。
「あと10分程で終わります」
「早くしてね♡」
2人で膨大な量の資料をコピー保存しているのに、彼女にはそんなこと関係ないようだ。
教師達は全員自分達の席に座って呆然としている。
「あーあ。暇だなぁー。早く来ないかな、刈星蒼翔──」
その名を口にした瞬間。
──轟音と共に身体の芯までくるような大きな揺れが1つ鳴った。
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2年B組。
ここは刀三束帝国のクラスだ。
彼の身体能力は凄まじいこともあってか、呆気なく男達は無力化されていた。
「なんだこいつら。ある程度訓練されてるな。只者達ではないことは確かだけど──」
そんなことをブツブツ言っていると教室の扉が開く。
「刀三束君大丈夫……そうね」
無事を確認しようと思ったが、扉を開けた瞬間目に入ったのは男達が倒れている光景。
「こいつら入ってきた瞬間、『お前弱そうだな』とか言って俺を捕まえるんだもん。ムカついて速攻お返ししてやったよ」
「アハハ……」
「それよりこれどういう状況なのかわかる?」
「いいや特に。私達も今さっき無力化したところよ。とりあえず敵の大将は剣城君に任せたから、私達は他のクラスを助けに行きましょう?」
「んー俺もその大将を懲らしめに行きたいところだけど──」
「──キャッ!」
少し目を閉じて喋っていたが、その悲鳴を聞き目を開ける。
目を開けるのと同時に教室内からも悲鳴が聞こえてきた。
蘭夢の頭に銃が突きつけられており、後ろから首から掴まれていた。
すぐさま助けようと動こうとするが、
「おっと動くなよ?こいつの頭がぐちゃぐちゃになってもいいのか?」
動けなくなる。
彼女を廊下に背を向けて立たせておいたのが間違いだったと気付く。よく考えたら、こんな大規模なテロ行為。廊下に見張りを置いとくくらい考えればすぐわかることを。
だが──
「撃ってみろこのクソが──」
一瞬動くのを躊躇ったが、その言葉と共に刀三束の身体が消える。
男は攻撃されると思い引き金に手をかける。
──引き金を引くのと同時に、男の身体は後方に吹き飛ばされた。
運良く彼の攻撃が先に当たり、銃弾は扉の縁に当たっていた。
「危ない危ない……危うく同級生を殺すところだった……」
「……まぁ当たってても死なないけどね」
その声は刀三束の後ろ、教室内から聞こえてきた。
「……『幻実』って恐ろしい魔法だな……いつ発動したのかもわからず、これが幻なのか現実なのかわからない……」
「私のアイデンティティですもの」
「そうかい……」
「さて。早速他のクラスの援護に行きま──」
──銃声が1つ鳴った。
今の音は大きく、しかも外から。
だがしかし何故か聞き覚えのある銃声音。
蘭夢はすぐさま外を確認する。
「──恐らく腐女子先輩だろうな」
彼女が口を開く前に刀三束が先に口を開いた。
どうやら感が鋭いらしい。
「この銃声音で必ず生徒会、ないし敵も味方も全員動くわ」
「総力戦になったら必ずこちらも犠牲者が出てしまう」
「その前に生徒会以外の生徒は避難させておくべきね」
「あの先輩達は関係なしに暴れてしまうからな」
「私はこういう時は戦闘タイプじゃないから各教室の避難誘導に専念するけど、もしものことがあるかもだから刀三束君も私に着いてきなさい?」
「……俺も暴れたいけど」
「私に着いてきなさい?」
「……」
「私に着いてきな──」
「──わかったよ!生徒の命守るのも生徒会の仕事ですもんね!」
──2人は生徒全員の救出、避難誘導に動いた。
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学校でテロが起きてから数十分経った。
校舎内、校庭では乱戦になっていた。もちろん侵入者対生徒。
乱戦とはいえ、戦っているのは生徒会でも戦闘に長けている生徒達。被害は侵入者側にあった。
だが生徒会会長愛歩の言葉により生徒会以外の生徒も戦っているため、少なからず怪我人が出ている。
もちろん国内トップの剣魔士育成機関学校であるので侵入者達にひ気を取らない。
だが、誰もが皆戦闘に長けているからここにいるのではない。戦闘サポートや開発等、単体戦闘に向いてない者や、そもそも戦闘が得意でない生徒もいる。怪我をした生徒達のほとんどはそういう人達であった。
生徒会の蘭夢と刀三束により、3年A組以外の生徒は校内で1番大きい体育館に避難していた。
体育館はクラスルームや職員室があるメイン校舎から1番離れたところにある。ここなら被害が来ないと判断してのこと。校外に避難するという手はあったが、さすがにこの大人数を連れて外に逃げるのは現実味がないと判断した。
ものの十数分で全員が体育館に集まれていた。それはもちろん、蘭夢や刀三束が各クラスを回って侵入者を拘束し生徒達を誘導したのもあるが、それを全クラスやって回るのには時間がかかる。
実は各クラス最初は大人しくしていたが、段々と反抗していくようになりクラス一丸となって侵入者を捕らえていた。唯一1年生の劣等生組だけが、大人しくしていた。
2人は1年生劣等生組だけ戦闘すればよかったのでこんなにも早く避難が完了できた。
問題は校庭であった。
校庭にいるのはまだ大量の侵入者、愛歩、礼樹、ライヤ、桃希、3年A組の生徒1部のみ。人数差では圧倒的に不利だ。
桃希は正気を取り戻しており『魔神弾』ではなく、通常の銃2丁で戦っている。
人数差に圧倒的に不利とはいえこちらの被害が最小限で抑えているのは、こちらには異能力者である愛歩がいるからだ。
彼女の異能力は『複製』。自分を複製し、1つの部隊として戦闘していた。
とはいえ、相手の数が圧倒的に多すぎる。
ただの犯罪組織ではないことは確かだ。いくら彼女の異能力が長けていても経験の差が違う。被害はほとんど『複製』愛歩が受けているが、不利であり押されていることには変わりはない。
被害が最小限であるから勝っているというわけではない。
「くっそ!キリがねぇぞこれぇ!」
迫り来る敵を魔法の剣で相手を怪我させずに気絶させていく礼樹。
彼自体は無傷だが、あまりにも敵の数が多すぎ精神的にきている。
「こんな程度で疲れてるの!」
そんな彼を横目に煽りの言葉を放ってきたのは、血だらけで立っているライヤ。
「て、てめぇ!命は奪うなと──」
「──正当防衛!そもそもこいつらは犯罪者!奪われて当然!」
「だとしてもこいつらはまだ誰も殺してない──」
「──奪われてからでは遅い!」
「それは……」
「奪われたものは戻ってこないのだ!奪われる前に私が止める!」
その言葉と共に真剣を構えて敵を殺していく。
「……違う。だからといって相手の命を奪うことは絶対にダメだ。命を奪わずとも護る方法があるはずだ」
──考え方が違う。
「これじゃあラチがあきまへん!」
一方、桃希も礼樹と同じようなことを言っていた。
「あなたは下がってなさい。私の『分身』がやってくれる」
「でも──」
──その時。
校庭が魔法陣で覆われた。
四方八方に大きな魔法陣。
そして足元の魔法陣が光ると、地面が大きく揺れるのと同時に、そこからツルが伸びて襲撃犯達の足に絡まる。
「なんだこれっ!動けないっ!」
「き、切れないぞこれ!」
「銃弾も剣も他の魔法も通用しないだと!?」
慌てる男達。
それをただ見てる生徒。そんな中愛歩が──
「──この魔法は──」
そう言いかけた途端、空中にある魔法陣が光り、そこから複数のレーザーが幾重にも同時に男達を襲う。
──絶対に生徒達には当たらないように。
土煙が消えると男達はツルから解放されてはいたが、全員残らず気絶していた。
「何が起きたんだ……」
「この魔法を連発……」
「うちの銃弾より速い……」
その魔法を放った者の正体はもう分かっている。
何故なら、その者が校庭の真ん中で校舎と同じくらいの高さで浮いているからだ。
「──刈星……蒼翔……!」
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職員室がある階の廊下は悲惨なものであった。
飛び散っているドス黒い血。
転がる身体の1部。
「な、なんなんだこいつ……!」
それは侵入者側の人物の発言であった。
それはそうであろう。たかが高校生相手にこうも容易く目の前で仲間の命が無くなっていくのだから。
死んだ者達は全員、剣のようなもので斬られている。だが、その高校生──剣城ライトは剣を持っていない。むしろ両手はずっとズボンのポケットの中に入れている。
「こいつ……!異能力持ちか!?」
当然そう考えに行き着く。
こういう魔法等聞いたこともないし、発動するための魔法陣を見ていない。
「……俺をあの『異能力者』達と同じにしないでくれるかな?」
言葉を発した男に対し睨みつけるような目で見るライト。静かに怒っていた。
残り1人。ならば──
「──剣術『剣扇舞─舟笛─』」
笛の音が1つ。
そしてその場で剣を出現させ1振り。
それだけで男は叫声と共にその場に崩れ落ちる。肩から腹部にかけて深い傷を負っていた。
ライトはゆっくりと男に近付き、剣を顔に突き付ける。
「──貴様にはもう少し痛みというものに付き合って貰おう。その傷じゃどうせ死ぬが、楽には死ねないだろうな」
「──た、助けてくれ……っ!」
「自分だけそう易々と助かると思うなよ?」
「誰の命も奪ってないだろっ」
「んー。確かにそれはそうだ。まだ誰の命も奪ってないね」
「まだ」というところが少し強調されていた。
「だが──奪われる前に奪う。それが剣城家のやり方なのでね」
「──ッ!ウガァァァァァ!」
彼は手に持っていた剣を男の腕に突き刺す。
「──さぁ痛みを感じよう?」
その言葉を発した直後。
──轟音と共に身体の芯までくるような大きな揺れが1つ鳴った。




