春の襲撃編 39 「──剣術『剣扇舞─乱れ桜─』」
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──銃声が1つ鳴った。
反射的に愛歩は目を閉じていた。
しかし、自身には何も異常は起きていない。
ゆっくりと目を開ける。
銃口は確かにこちらに向いており、明らかに撃った後だ。
だが──
「うがぁぁぁぁぁぁぁ!」
後ろからの男の悲鳴。
──礼樹だ。
「礼樹君!」
「おっと動くなよ?次は他のお友達も歩けなくしてやるからな」
「くっ……!」
礼樹の右足太ももに1発撃ち込まれていた。その場に倒れ込み、必死に傷口をおさえている。
すぐさま隣にいた生徒が治癒魔法をかける。
治癒魔法とは言っても、痛みの感覚を減らすだけで実際治るわけではない。
「すまねぇありがとう」
こう見えても生徒会。お礼ぐらい言える。
「さて、これ以上抵抗するか?」
そう問われた愛歩は俯いて何も答えない。
「……おいおい怯えて何も言えなくなったか?」
「……さい」
「あ?」
微かに聞こえる声。
「……しなさい」
「聞こえねぇよ」
「……覚悟しなさい」
「は?」
瞬間、男はドアを突き破り廊下に弾き飛ばされる。
そしてまた次。次へと教室内にいた男達が廊下に弾き飛ばされる。
そして全員終わったかと思うと、次は逆に廊下から外の窓側に転がり飛ばされてくる。
それを行った人物は廊下から入ってくる。
そしてもう1人。教卓の横に立っていた。
どちらも同じ人物。
また、先程銃口を向けられていたのも同じ人物。
顔も背格好も全くの同一人物が3人。
普通ならその場にいる全員が驚く。だが、教室内にいる生徒達は誰も驚かない。それどころか何故か自慢げそうにしている。
そう。なぜならそれを行って当然の彼女──剣採愛歩。
そして廊下から入ってきた分身が立ち止まると、瞬時に男達の周りに複数人分身が出現する。
無言でそのまま瞬く間に全員拘束して無力化した。
「貴様……」
「さて、何が目的で誰が首謀者なのか教えなさい?」
「そんなの言うわけ──」
周りを取り囲む分身達が一斉に剣先を男達の喉元に突き立てる。
「死にたくないでしょう?」
「ふ、ふっ。ただの学生のお前達が人を殺すことなんてできるわけが──」
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なっ!」
生徒の悲鳴と男の悶絶。
男の右腕は転がり落ちていた。
分身の1人が男の1人の腕を斬った。
「この状況なら正当防衛として私達が罪に問われることはないわ……それに……」
「……」
男は息を飲む。
「私が人を殺すことに」
「躊躇うとでも」
「……思うのかしら?」
最後の本人による声は、分身による声よりも重く心にくる。
その表情は冷酷。
「さて、次は誰が犠牲になるのかしら。永遠に剣魔士として活動できないようにしてあげるわよ?」
「くっ……」
「さっさと白状しなさい。誰の命令で、何の目的でこんなことしてるのかしら?」
「ぐ……お、俺達は……かり──」
──銃声が1つ鳴った。
「何事」
「外からだ……」
礼樹は耳はまだ正常に動いているようだ。
彼女はすぐさま外側の窓を開け、外を確認する。
礼樹には外から聞こえてくるのは銃声のみ。外で何が起こっているのかわかるのは彼女のみ。
数秒、彼女が沈黙しこちらを向いて。
「生徒会として命じます──戦える者は戦いなさい」
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──銃声が1つ鳴った。
桃希は手に持っている銃の引き金を引いた。
外を巡回している男の1人を撃ち抜いた。
息をしていないであろう。
「新羅さん……せめて無力化に──」
「──いくどすえー!」
山田先生の声を無視し、彼女はフェンスから、屋上から銃を撃ちながら飛び降りた。
「おい!上からだ!あの女を捕らえ──」
下にいた1人の男がそう周りに叫ぶが、その途中で息絶えてしまう。
魔法『減速』。その名の通り対象のスピードを遅くする魔法。
その魔法を使い、地上直前で減速して華麗に着地する。
だが、もう既に目の前には10人程度の男達が銃を構えて取り囲んでいた。
「さて大人しくしてもらおうか」
「か弱い女の子によってたかって……可哀想やと思いまへんの?」
「……人を殺す女の子はか弱い女の子なのか」
「はて?うちに身に覚えが……」
銃声が1つ。
「大人を舐めるなよ。ガキが」
銃弾は桃希の横をすぎ、後ろの壁に銃痕が残っていた。
「……正当防衛……って言葉……存じておりますか?」
「──なっ!」
彼女はその言葉を言いながら。
『魔神貫』。
その姿を現す。
その圧倒的存在に男達は言葉を失う。後退りする者もいた。
「あらあら。男がいっぱい……少し興奮してきたさかい……」
沢山の男達を前に理性を抑えきれなくなった桃希。
ついに引き金を引く。
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2年A組。
2年生の中でトップのクラス。
トップのクラスということは──
「──は、離してくださいッ!」
彼女──蘭夢は男に捕まっていた。最初の人質として彼女が捕まったのである。左腕には銃弾がカスったような傷跡。そこから血が滴り落ちている。
首元にはナイフが突きつけられていた。
「大人しくしろ!……動くなっ!死にてぇのかてめぇ!」
人質という身で怪我もしてナイフも突きつけられているのに暴れる蘭夢。ナイフ構えている男が必死に大人しくさせようとするが中々言うことを聞かない。
すると痺れを切らしたのかこの中でリーダーと思われる男が、
「……おい、気絶させてもいいから黙ら──」
──そう言いかけた途端。
ナイフが肉を切る音がした。
それと同時に教室内が静まり返る。
男は血まみれになっていた。
だが死んでいるどころか怪我すらしていない。
そう、返り血。
「ち、違う……お、俺じゃない……そんな……俺は──」
「てめぇ!生徒は殺すなと言われ──」
「──うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
──蘭夢は喉元を切られその場に血まみれで倒れ込んでいた。
男は教室を飛び出してどこかに行ってしまった。
そこでようやく事の大きさに気付いた生徒達が悲鳴を上げる。それはそうだろう。クラスメイトが目の前で殺されたのだから。
だが1人。1人だけは違った。
「あ〜あ。お前らやっちゃったなぁ。これは殺人──死刑は免れないねぇ」
そう言うのは金髪で洋風な顔立ちだが、どこか日本風な顔のイケメン生徒であった。両手ポッケに手を入れて机にもたれかかっている。
銃声が1つ。
「てめぇら静かにしろ!……クラスメイトがこんな目にあったっていうのに随分と余裕そうだな。お前もこうなりたくなきゃその態度をやめるんだな」
彼が持たれていた机に銃痕。
男のその声は少し怯えていた。
「へぇ……」
男が銃を彼に構えたその直後。
「──剣術『剣扇舞─乱れ桜─』」
男の両腕は斬られそこから溢れ出す血。
彼は両手をポッケに入れたまま、男の後ろに立っていた。
「──貴様っ!」
すぐに反応した他の男達がすぐに銃を構えるが、構えた直後に全員両腕を斬られ倒れる。
彼は元いた机にもたれかかっていた。
男達は全員気を失った。
同じ教室内にいた生徒達は言葉を失い、気を失っている者もいる。だが大半は当然かのような顔をしている。
「──相変わらずの腕ね。剣城君」
その声は後ろに固まっていた生徒の方から聞こえてきた。
姿を現したのは──蘭夢。
「──やっぱり『幻実』だったのか。通りで……お前がこうも簡単に死ぬわけないもんな」
「当たり前でしょう」
彼女が指をパチンと鳴らすと、男達の腕は元に戻り血は消え、首を斬られた蘭夢はいなくなっていた。
蒼翔と緋里との対決の際は対して効果を見せれなかった、魔法『幻実』。これが戦闘において本来の使い方。男達が教室に入ってきていた時点で、彼女は教室内にいる全員に対して『幻実』を発動していた。
男達が人質にとっていた蘭夢も幻。だから実際はさっき逃げた男は蘭夢を殺してない。
そして男達が両腕を斬られたのも幻。だが、実際には何も無くても精神的にダメージを受ける。その為、脳が斬られたと勘違いし男達は気絶した。
「……まぁ俺も気持ちよかったから良しとしよう」
彼──剣城ライトが斬ったのも幻。だが肉を斬る感覚は本物だ。
『幻実』は起きていることは幻になるが、味わう感覚というのは本物になる。腕を斬られた感覚は本物だし、腕を斬った感覚もまた本物である。
《与えられし名》剣城家長男──剣城ライト。彼は生徒会2年男子副会長だ。そして、剣城家次期当主。
「……結構ガチめに技使ってたのだと思うのだけれど……」
「気のせいさ。少し、俺の技を見てもらいたかっただけ」
「あっそ……」
彼は少し動揺していたのでわりとガチだったのかもしれない。まぁ実際仲間が目の前で殺されたら怒るのは無理はない。だが彼はそれでも冷静かつ迅速に対応した。《剣魔士》としては現役で活躍してる者と同レベルだ。
「それよりもこいつらが目を覚まさないうちに拘束しましょう」
「あぁ、そうだね」
2人は拘束を始めた。
「さて、これからどうしようか剣城君」
少し元のか弱そうな蘭夢に戻ってきた。
男達はまだ気を失っているが、全員手足を拘束されて口もタオルで巻き付けられて喋れないようになっている。
「……A-Eは恐らく大丈夫だろう」
「……Fからは?」
「まぁ彼らはなんとかなるだろう?」
彼女の眉間にシワが寄る。
ここに来て優等生と劣等生の差が出てくる。
確かに剣城のいう通り、優等生は反抗した1部のクラス以外も反抗はしていないが大人しく上手くやっていた。問題なのは劣等生組だ。まだ2.3年生クラスはさほどではないが1年生クラスは怪我人がでている状況。だがその状況にあるということは他クラスは知る由もない。
剣城家自体、優等生と劣等生との差に敏感で自分達が優位に立ちたいという家系。
それに対し蘭夢はそういう差別的なことは嫌なタイプである。
「……とりあえず敵の大将さえ落とせばこの争いは止むだろう?」
「……そうね。じゃあ私はF組から下のクラスの援護してくるから、剣城君はその大将というやらを見つけて制圧しておいてね」
「いいのかい?俺に手柄持たせて」
「……私がやったところで、愛歩先輩か剣城君の手柄になるのだから、わざわざ危ないことしたくないわ」
「危ないことはしたくないのに、劣等生組の手助けはするんだな」
「生徒会ですもの。それに──」
彼女は睨みつけるように剣城をみた。
「──人として当然のことです」




