春の襲撃編 38 「おりこうさん♡」
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同時刻学校。
もう既に、生徒vs襲撃者の乱闘が始まっていた。
人数差では圧倒的に生徒側が少ない人数。
今日は平日だ。授業も普通にある。時刻は正午。お昼時だ。
では何故、生徒だけ戦い先生が参戦していないのだろうか。伊達にもトップレベルの《剣魔士高校》ではない。先生も一流ばかりだ。
それには理由がある。
少し時を戻してみよう。
蒼翔が覚醒暴走し始めた頃。
同時刻学校は授業が丁度開始されていた。
普段通り教師が前に立ち、出席を取る。出席を取ったあと、実技科目以外のクラスの教師は教室を離れ授業の準備をする。
今や実技科目以外は各机に配置されてあるタブレットから行うことになっている。ようはオンライン授業みたいなものだ。
この日は運悪く全クラス1限目がオンライン授業。
教師の全員が会議と称して職員室に集まる。
そして学校が静まり返り、全員が授業・会議に集中したその時。
──作戦が遂行される。
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「──0900学生、教師各自予定通り。異常なし」
「りょーかぁーい」
無線──否、そんなものはないが声が聞こえてくる。それに答える幼い声。
これは魔法というより『想力分子』を、空気の振動により人の声に変え、離れた距離の人と会話する技法。
しかしこれには相当な『想力分子』の扱い方が必要になる。まずそもそも自分の声というのを想像できなければ成り立たない。
まぁあえて人の声にすることも可能だが、こういう自衛隊等で使われる際には、誰がどのように言ったのかが重要であるため、自分の声でなければならない。
そしてもう1つ。声を届けたい人の位置を空間把握しなければならない。あの人とどのくらいの距離離れていて、どの座標にいるのか。それがわからなければ無理だ。
それをやってのけるのが高畑藍。
「じゃあ皆〜行くよ〜……出発♡」
その掛け声と同時。
学校を取り囲んでいた者達が一斉に学校に入っていく。
部隊は大まかに3つ。
学校の外で待ち、周囲の侵入を許さない防衛部隊。
各教室を制圧し、生徒を無力化する特攻部隊。
職員を無力化する部隊。
3つめの部隊に至っては、部隊と呼べる人数なのか危うい。
高畑藍とその部下2人の計3人のみで職員室に乗り込む。
突如開かれた職員室の扉。そこに立っていてた3人の人物。1人は小柄なまだ中学生や小学生なんじゃないかと思わせる女の子。その女の子を挟むように立つ、屈強な男2人。
「誰だ君達は。勝手に入ってこられると困る」
この声の主以外の教師は誰も攻めてきているだなんて思っていない。藍の見た目もあるが、それよりも3人とも武装をしておず、ほぼ手ぶらだからだ。
教師達にとったら、我が校の生徒の妹が学校に訪問しに来た。そう思うのが普通だ。
しかし、さすが剣魔士を育てる日本一の機関と言えようか。新人教師以外はすぐさま静かに戦闘態勢、無力化をはかるための準備をする。
そもそもここまで容易に来れる程セキュリティは甘くない。外部の者が敷地内に入るのに許可がいる。その許可は今日誰にも適用されていない。突然の訪問の場合、守衛から連絡があるはず。それもない。
だがしかし、その許可等は全ての教師に伝わるわけではない。では何故ほとんどの教師が不法侵入だと気付いたのか。
理由は簡単。許可等の連絡が入る教師が知らなかったからだ。
藍達が入ってきてすぐ声を出したのがその許可等を取り仕切る教師だ。その言葉を聞き、ほとんどの教師が魔法発動準備に密かに入っていた。
「んふふ♡私まだ何もしてないし何も喋ってないのに攻撃仕掛けようとするなんて……イケナイ子……♡」
瞬間、その場にいた教師全員の動きがピタリと止まる。
(なん……だ……)
攻撃された兆候が見えなかった。
魔法も発動できない、目も手も足も動かせない。意識以外何もかもが動かない。
「君達はここで座って動かず待機してなさい」
そんな声が教師の脳内で永遠と再生し始める。
そして──段々と教師達が魔法発動を取り消し、静かに自分の席に座り始める。
「おりこうさん♡」
──職員室制圧完了。
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同時刻。各教室の制圧は既に完了していた。
完全武装の者達がいきなり教室に侵入し、手に持っている銃を本物だと見せつけるために各教室1人ずつかすり傷程度に発砲した。尚且つその生徒を人質にとって「抵抗するな」と言われれば大人しくなる。
しかし制圧された教室、学年によってその雰囲気が違う。
1年生のほとんどの人は怯えて何も考えれず何も出来ない。
2年生は半々。
3年生はほとんどが冷静になっていた。
経験の差というやつであろう。
この学校ではこういう訓練は適度に行われている。だからこそ2.3年生の怯えた者達は、最初訓練だと思ったら発砲して目の前で血が出るものだから取り乱してしまった。
そんな中、たった1クラスだけ抵抗を見せたクラスがあった。
3-A組。この学校での剣魔士最高峰レベルのクラス。
もちろん抵抗したのは──
「──その子を離しなさい」
「聞こえなかったのか?抵抗せず大人しくしろ、と」
「剣採。落ち着け。分が悪すぎる。今は大人しく従うべきだ」
「あら杁刀君。目の前で怪我している子がいるのに放っておけないでしょう?」
たった1人侵入者の前に堂々と立ち、その男を見ながら話すのは、生徒会長剣採愛歩。
「いい加減ごちゃごちゃ言ってねぇで大人しくしろ。撃つぞ」
流石に耐えきれなくなった男が剣採に銃口を向ける。
これが本物なのか『想力分子』で作ったものなのかはわからない。だが、今どき本物の銃はほとんど処分されていてこんなに大量に用意できるはずがない。十中八九『想力分子』で作った銃だろう。それならばまだ対応ができる。そう思った彼女。
「撃てるものなら撃ってみなさいよ」
「あ?」
「この《与えられし名》である剣採家次期当主である剣採愛歩を撃ち殺せるものならやってみなさい。そんな度胸が──」
──銃声が1つ鳴った。
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この時間帯、普通の生徒なら教室にいる。
この時間帯、普通の教師なら職員室にいる。
4階女子トイレにその2人はこもっていた。
腹痛である。
「山田先生……うち、もうダメかもしれへん……」
「新羅さん!諦めちゃダメ!私も頑張るから!一緒に頑張ろ!」
「せ、先生……!うち頑張る!」
そんなことをトイレの壁越しに喋っていた。
2人とも運が悪いのか良いのか、同時に腹痛になってトイレのしかも隣同士の個室にいた。
生徒の教室は基本的に1〜3階で、4階は実験室または各自が自由に使える教室等になっている。トイレはもちろん全階層設置してある。それなのに何故2人とも4階のトイレを使っているのか。単純に2人とも恥ずかしかったから、それだけである。3年生優等生組は3階、職員室は2階にある。桃希はわからなくもないが、先生に至ってはそれほど恥ずかしかったのだろう。職員室横には職員専用トイレもあるというのに。
そして2人とも頑張ってるその最中。
下から銃声がいくつも聞こえてきた。
勢いよく開けられた2つの扉。
出てきた2人は顔を見合わす。
「先生聞こえました?」
「あぁしっかり銃声が鳴った」
「今の数……教室の数とほとんど同じや」
「本物の銃かしら?」
「いいや。今の音は『想力分子』で作った銃……」
「それだったらもしかしたら訓練とか」
「それはないと思うで先生。音だけ聞いても1つ1つの銃が、並の剣魔士じゃ1発撃ったら消えるような銃やさかい」
「うちは日本でも屈指の剣魔士育成機関なのだけど」
「……時間が勿体ないで先生。確認いきましょか」
「そうね。訓練だったらまた戻ってこればいいし」
2人はトイレから出る。
すぐ1階下の3階に見に行く。
トイレから近い階段降りてすぐにあるのは3年E組。
足音をたてずに階段を降り、E組の中を見ようとするが全てドアが閉まっており見えなかった。
今時の学校は廊下側の窓は何も見えないようになっている。
そのせいでどういう状況か見えなかった。
静かに2人は顔を見合わせ、廊下の先を進んでA組の方を目指そうと合図する。
だが、階段を全て降りかけたところでA組がある右側から足音がゆっくりと聞こえてくる。
「先生少し掴まっててください」
その足音が危険だと察知した桃希はそう小声で言うと、魔法『跳躍』で階段の折り返し地点にまで戻った。
コツコツとゆっくりと足音が近付き、その姿が見えた。完全武装の男だ。
(やばいこのままだとバレてしまう──)
さすがにこの位置は向こうから見えてしまう。だが動こうにも動いたら足音で気付かれてしまう。また、先程同様の魔法『跳躍』を使えるほどのスペースはない。完全にバレないと運にかけるしかなくなった。
男はゆっくりと歩き、階段の前で立ち止まる。
そしてゆっくりとこっちを凝視した。
(バレた──)
──だが。
(──え?)
男はまた前を向きゆっくりと左側F組の方へ歩いていった。
「新羅さん……あなたの言う通りだったね」
「なんでや……なんでバレへん──」
そこでそういえばもう1人ここにいたことに気付く。山田先生だ。ここの教師はここの優等生同等かそれ以上の実力がある教師しかいないことを忘れていた。
だが今の、仮に向こうから自分達のことが見えてなかった場合それは超高等魔法『透明化』である。しかし、そんな超高等魔法を使えるようには見えない。一体この人は──
「新羅さん?」
「は、はい」
と、思考を止められる。
「とりあえず状況整理のためにトイレか屋上にいきましょう。どっちにしますか?」
「屋上にしましょう」
そして屋上。
「包囲されているのね……」
「こりゃあきまへんな……」
屋上にきて周りを見渡せば、もうすでに先程見た完全武装の者達が敷地内を巡回していた。守衛さん達もやられてしまったのだろう。
「助けを呼ぼうと思ったけど圏外扱いにされてるわね」
どうやら何者かによって妨害されているらしい。
なんとも用意周到な攻めなのだろう。この日本最高峰の育成機関をこうも容易く制圧してしまうとは。
そして何よりもこの人数。
「ざっと見たところ外歩き回ってるのは50くらいやね」
「多い……まぁ敷地広いから仕方ないけど……何してるの?新羅さん?」
見ると屋上のフェンスの上に立ち、両手に銃を出現させていた。
こう見るとどう考えても、この攻撃を仕掛けてきたボスかリーダーなように見える。
「ここからならうちの銃でイチコロや♡」
「いや、でもさすがに戦力差が──」
「──大丈夫やで先生。必ずあの子らが動いてくれる」
──銃声が1つ鳴った。




