表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界最強の劣等生剣魔士  作者: 高橋創将
春の襲撃編
38/49

春の襲撃編 35 「世界最強の劣等生剣魔士」

 ■■■


 世界が光に包まれた後。

 蒼翔が目を開けると、そこは半崩壊した学校の上だった。空中に浮いていた。しかし蒼翔は魔法も異能力も使っていない。


 空気はとても軽く、空は青紫色に染まっていた。


 人の気配はしない。それどころかこの世界に生命を感じない。


 まるで世界が止まっているかのように。


 水の流れはなく。

 木々も揺れていない。


 それどころか所々水没し、木々はなぎ倒されている。


 そこは蒼翔の知っている世界ではあるが、知らない世界でもあった。


「やぁやぁ。まさかここに来るとは思っていなかったよ蒼翔。そっちの僕は何をしているんだろう」


「だ、誰だ!」


 世界に響く声。

 声だけが聞こえ、肝心の声の主は見当たらない。


「誰って……まぁいいか。ここに来れたご褒美として君にだけ姿を見せることとしよう」


 そう言うと、蒼翔の前方に魔法陣が現れる。

 その魔法陣から頭、胴、足と次々に実体化して現れる。


 黒いロングコートを羽織り、鬼のお面を被っている者だった。


「やぁやぁこの僕とは久しぶりかな?まぁ覚えてないだろうけど」


「誰なんだ貴様は……」


「えぇー酷いなぁ蒼翔?君達は《消える暗殺者》とか呼んでいるじゃないか」


「なん……だと……?」


 気付かなかった。

 声、雰囲気やオーラがまるで違う。


「まぁ自己紹介とかどうでもいいだよ今更。それより何故真の覚醒寸前だった君が、この世界の境界線にいるんだ?説明してもらおうかな?」


「誰が貴様なんかに!今すぐ殺して──なっ!?」


 蒼翔は腰から『灼屑』を抜き、『想力分子』をありったけ込めて剣を振った。しかし、『想力分子』は反応せずただ剣を振っただけになった。


「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!その顔面白い!その驚いた顔!そりゃそうだよ蒼翔!ここには『想力分子』なんてないからねー!」


「『想力分子』が……ない……?」


「そうそう!だからここは『想力分子』を使わない異能力しか役に立たないんだよねぇ。つまり『想力分子』を操る蒼翔はここではゴミクズなんだよね!劣等生だ!世界最強の劣等生剣魔士って異名にしてあげよう!!!アハハハハハハ!」


 蒼翔はその異能力故、現世界では世界最強と謳われている。しかし『想力分子』がなければ何も出来ない。彼の出す攻撃や防御、魔法や剣は異能力によるもので、その異能力がなければ使えない。


 だが普段はそんな心配する必要はないのだ。現世界から『想力分子』が無くなることはほぼない。現世界から『酸素』『二酸化炭素』『窒素』が無くならない確率と同じようなものだ。


 昔は酸素、二酸化炭素、窒素3つで空気だと言われていたのだが、今では想力分子も加わり4つで空気と言われている。一つだけ呼称が違うと言われそうだが、そこは暗黙の了解ということでスルーしてほしい。


「──を異能力だけに頼ってる人間だと思うなよ──」


 その言葉と共に、灼屑を手に《消える暗殺者》に斬りかかった。だが、軽くその攻撃をかわされる。


 かわされることぐらい彼にもわかっていた。すぐさま剣先を方向転換し横切りする。だが刃が触れる瞬間姿を消した。


「ダメだよ冷静にならなきゃ。僕は異能力を使えるんだよ?『瞬間移動』できるに決まってるじゃん」


 声は蒼翔の後ろから聞こえた。

 振り返ろうとした瞬間、彼の体は下方向に飛ばされ、半崩壊の学校に突っ込んだ。


 轟音と共に半崩壊だった学校がさらに壊れる。


 全身から血を流しながら瓦礫の中立ち上がる蒼翔の目の前に、無傷の《消える暗殺者》が足をつかずに立っていた。


「大丈夫?蒼翔」


「貴様ぁぁぁ!」


 すぐさま斬り掛かる蒼翔。だがすぐにはじき飛ばされ、半崩壊だった学校が全崩壊してしまった。瓦礫の下敷きになる蒼翔。


「あちゃちゃ……死んではないと思うけど殺りすぎたかな?こっちに呼ぶか」


 そう言うと彼の前に蒼翔が、体のあちこちが潰れ全身血塗れの状態で現れた。

 これは《消える暗殺者》の異能力。瓦礫の下からここに移動させたのだろう。


「こりゃ死んじゃうわ……しょうがないなぁ。この蒼翔お気に入りだから治してあげるよ。はい」


 と。

 先程まで潰れていた体が元に戻り、全身から流れていた血もなくなっていた。それどころか蒼翔は無傷で綺麗な状態だった。


 しばらくして息を吹き返した蒼翔はゆっくりと立ち上がる。


「じ、自分・・は何を──」


「さて蒼翔。君がここに来れた理由を聞かせてもらおうか」


 その声はとても優しかった。

 それに蒼翔は光に包まれた後、目を開けると今この状況だったのだ。イマイチこの状況が理解出来ていない。


 しかし──蒼翔は自我を失いかけた時に女の声が聞こえてきて気が付いたらここにいた、という趣旨を話した。


「へぇ……またあの女ね……いけないなぁいけないなぁ。これはいけないなぁ。死んだはずなのに。死んだはずなのに。死んだはずなのに!あーあーあーあーあーあーあー。そこまでして。そこまでして僕の邪魔をしたいのか。死んでも尚邪魔しに来るのか蒼里あおり!」


「何を言ってるんだ貴様は!てか誰だ!」


「あーあーあーあーあーあーあーあー。もう色々とめんどくさいよ。めんどくさいめんどくさい。本当なら。ほんとーーーーなら今すぐにでも蒼翔を殺したいところだけどさぁ。殺したら意味無いんだよ。全ての努力が水の泡になる。それは困るんだよなぁ。まぁまぁまぁまぁまぁまぁ?これを僕への暇潰しの娯楽のプレゼントとして受け取るよ蒼里ちゃーん」


「蒼里……?かあ……さん?」


 瞬間、蒼翔の脳内に1つの映像が流れて来た。それは一瞬の映像だった。


 炎の中、全身下から串刺しにされ、挙句の果て大きな剣で上から貫かれている。

 人、という存在であることはわかる。だが、性別もわからなければ顔もわからない。


 ──とても残酷な絵だった。


「おっと。もう思い出さなくていいんだよ?君に母親、家族なんて居ないだろう?そう設定された蒼翔とさっき融合したから」


 さっき、とは瓦礫の下敷きから移動させた後のことであろう。


 すぐにその残酷な絵は消えてなくなる。


「さてさてさーて。せっかくここに来て、僕に会えたのだから何か聞きたいこととかやりたいこととかないの?蒼翔」


「……まず貴様は誰だ」


 蒼翔はとりあえずこの混乱状態の中で、1つ1つ解消していくことにした。


「はぁ……そこからかよ蒼翔。まぁいいや僕のせいだし」


 先程説明したが、と言いたいところだが、説明した蒼翔は死んでしまったので覚えているわけがない。それに殺したのは彼だったのでなんとも言えない。


「僕は君達の世界だと《消える暗殺者》って呼ばれてる者だよ。どうせ忘れるから言うけど僕の本当の名前は──」


「──《消える暗殺者》だと……!貴様!」


「ちょいちょい待った待った。どの世界の蒼翔も僕の名前を聞いたり見たりするとすぐ怒るんだから。落ち着いてよせっかく本名言ってあげようと思ってたのに」


「貴様の話なんて聞いてられるか!すぐに殺して──」


「あーはいはい。『想力分子』使えないんだよここ。君は劣等生なの。君とさっき同じ話して殺しにかかってきて、君殺されたところなの。はい。しゅーりょー」


 1つ1つ解消していこうと思っていたがつい感情的になってしまう。


 多分この男が言っていることは本当なのだろう、とその場で自己理解する。伊達に《特別剣魔士自衛隊》の一員ではない。一旦冷静になり再度状況把握優先にする。


「はいそれで次。何か聞きたいことやりたいことは?」


「……ここはどこだ。なんだ。なんで自分・・はここにいる?」


 正体がわかった今、1番は知りたい、把握したいのはこれだろう。


「そうだねぇ。じゃあ簡単に分かりやすく説明しよう。《消える暗殺者》の異能力、知ってるよね?」


「あぁ。『空間』だったはずだが」


「そう。それは1部(・・)合っている。君が今まで出会ってきた《消える暗殺者》はもちろん『空間』って異能力。それは空間を自由自在に操ることができるってやつだよね」


「じゃあここは別空間、貴様が作り出した空間ってことか?」


「んーちょっと違うなぁ。そもそも今君の目の前にいる僕は『空間』の異能力じゃないんだよ。僕の異能力は──『時空』──」


「時空……?」


「時間と空間を両方操れるんだよ。そう、つまりは《消える暗殺者》ってのは僕が分裂した片方ってことなんだよね」


「それはわかった。それで」


「パラレルワールドって言葉知ってる?」


 パラレルワールド。

 ある分岐点をかわきりに、同じような世界(時空)が並行して存在している、と言われているSFなようなもの。


 例えば、食事を家で済ますか外食するかを選ぶ時。家で済ますのと外食するのとでは、その後の展開がまるで違う。

 その場合、家で済ますを選んだ場合と外食を選んだ場合の世界が両方存在しているのではないか、と仮説されてできたのがパラレルワールドだ。


 蒼翔はもちろんその言葉の意味も知っている。


「実際にパラレルワールドは存在しているんだ。それで、そのパラレルワールドを自由自在に操ることができるのが、この『時空』という異能力の力なんだよ」


「つまりここはパラレルワールドと?」


「いいや。ここは違う。パラレルワールドを操るって具体的には、パラレルワールド同士を合体させたり、パラレルワールドを作ったり消したりできるだけなんだよ。作ったり消したりは問題ないんだけど、合体させる場合あることが起きる」


 その先に続く説明はあまり理解出来る内容ではなかった。


 パラレルワールド同士を合体させた場合、片方の世界に別の世界を埋め込む、ということになる。そしてパラレルワールドというのはお互いの内容が違う。

 つまり小説等で言う『設定』がそれぞれ違う。


 では合体させた場合どうなるのか?


 埋め込まれた世界に、埋め込んだ世界の設定に無理矢理変更させられるものだという。

 その場合、世界に済む人々の記憶経験は強制的に変更され、あたかも最初からあったかのようになる、らしい。


 つまり記憶があるものにとっては矛盾が生じる。


 しかもこの本体の者は、細かいその設定を操ることができるというのだ。

 知らず知らずのうちに設定が変わっていることなんて沢山あるということだ。もう既になっている可能性がある、そう蒼翔は思った。


「言わば、ここはパラレルワールド同士を合体させた結果、消えたりした『設定』が行く着く世界、という感じかな。まぁ一瞬の『ゴミ箱』だと思ってくれたまえ」


 つまり不要になった『設定』の行き場所、という感じだろう。

 にわかに信じ難いが、これを嘘で済ますにはあまりに作り込まれすぎている。それに自分の置かれている状況が、あまりに非現実的であるので信憑性が増す。


「……わかった」


 何がわかったのかはわからないが、返事として出た言葉がこれだけだった。


「蒼翔にしては珍しく信じてくれるんだね。そもそも理解できると思ってなかった」


 それは皮肉や馬鹿にしているのではなく、率直な感想であった。それは蒼翔も理解しているようで。


「あぁ。自分は他の人より非現実的な人生を送ってきたからだと思う。それに『想力分子』がない世界なんて初めてだからな。自分は肌でそれを感じた。信じるに値する」


「こういう所は蒼翔でよかった、とそう思うよ」


 じゃあどういう所は、とツッコミができるほど2人は仲良くはない。それに言わなくても2人はわかっている。


「さて。それで、君がここに何故来れたか、ってことだよね」


「……まさか自分はあの世界にとってゴミになったのか……?」


「んー……間違ってるんだけど間違ってないとは言えないなぁ」


 軽くショックを受ける。


「まぁ正確には、ここに来させる為にゴミにしたってことだよ」


「来させる?誰が?」


「ある女だよ。素性は言えないが、僕の邪魔ばかりしてくるやつ。そいつが君をここに来させるためにゴミにしたんだろうね」


 あまりゴミゴミ言われるのは気に食わないが、今はそれよりもその女の方が気になる。何故自分にここに来させたのか。何のために?どうして?という疑問の方が勝っていた。

 それを察したのか、


「目的は僕にもわからんよ。まぁただ単に邪魔したいだけなのか……それとも……」


「それとも?」


 少々沈黙になる。

 彼は考えていた。これを話すべきか話さないべきか。


 結論、話すことにした。


「僕はね、実はさっき『時空』を操る者としてタブーなことをしたんだよ」


「タブー?」


 この聞き返しの意味は、蒼翔にとってはタブーって何?というような意味ではなく、今更タブーとか言う?というような意味である。


 本来あるべき未来を、本人達が選べる未来を、自由な未来を彼は散々変えているのだ。

 それまでに起こった出来事、会話、建物等をなかったことにする。そんなことをしておいて今更タブーとは笑わせる。そういうことだ。


 未来とは他人に決められる権利も義務もない。


 己自身が決め、掴み取るものだ。


 私利私欲の為に他人の未来を変えることを肯定しているようにしか思えなかった。


 生まれつきの『異能力』のせいで未来が決められてしまうこの世界を、蒼翔は肯定しているわけではないが。

 それとこれとは別の話である。


 だが、《消える暗殺者》はそうは捉えない。


「時間を操れる、と言っただろう?つまりは、過去に戻れたり未来に行けたりできるんだ」


「それがタブー、だと?」


「そう。これはが決めた絶対的なルール」


「神、か……」


 そんな宗教の神話の存在を信じているのか、と口にはしなかった。


 今の御時世でも宗教は存在し、神と呼ばれるものは存在している。それを信じているものもいる。だが、蒼翔はそんなものを信じてはいない。


 そんな神などと呼ばれる絶対的な力を持ち、この世界を操っている人物がいるのなら、家族を失うことなんてなかった。2度も。


 1度目は幼い頃。2度目はつい先程緋里を。


 蒼翔はそのせいで神なんてものは存在しないと思っている。

 では何故この世界はできたのか?と聞かれても答えはわからない、の1点だ。そんなものはわかるわけもない。


 ただ自分達は、今を生きるのみ。


 それだけだと思っている。起源が分かったところで未来に影響はないし、危機がなくなるわけでも、家族が戻ってくるわけでもない。


 そんなものを信じてどうなるのか。

 そう思っていた。


 しかし、蒼翔には意外だった。《消える暗殺者》を今まで見てきて、神などを信じる者とは思えなかったからだ。逆に言えば「自分こそ神!」と自分を他人に崇拝させるような男だと思う。


「神は存在するよ。実際に会っている(・・・・・・・・)からね」


 蒼翔の心中を読み取るのが相当上手いようだ。


「なんだと?」


「まぁ君も会ってるんだけどね」


 なはずがない。人間ならざる者と出会えばすぐにわかるし、忘れるはずがない。


 もう蒼翔は『想力分子』により作り出した神に出会ったのと勘違いしている、と思うようにした。

 だから自分と会っているとの発言は聞き流した。


「話を戻すけど、僕がタブーを犯し、過去に戻したんだ。ある目的の為に」


「つまり、この世界は2度目……?」


「そうそう。理解が早くて助かるよ蒼翔」


 パラレルワールドを操れる彼にとって、過去に戻すということはそれ程までってことなのだろう。


 聞いている感じだと、パラレルワールドを操れても未来を変えることができるだけで、過去に起きたことを実際に(・・・)変えることはできないのだろう。


 過去に戻すなら、後はパラレルワールドを埋め込むだけで未来は変わる。そうしてできたのが今の世界、ということなのだ。


「そして君をここに連れてきた者は、どうしても元の世界に戻して欲しいらしい。まぁ確かに、戻さなくてもいい所まで戻したのは悪いことしたかなとは思うけど」


「……」


 蒼翔は何も言えなかった。こればかりは元の世界を知らないわけで、理解ができない。


 そして唐突に疑問が帰ってくる。


「なんで自分なんだ……?そいつにとって自分じゃなきゃダメなのか?」


「んふふ」


 気味の悪い笑い方だ。


「まぁそれはあの女にとっても僕にとっても君じゃなきゃダメなんだよね。まぁそれはそのうちわかるさ」


「まぁどうせここでの記憶も消されるんだろうし、そのうちわかることに期待しておく」


 蒼翔は確信していた。ここでの記憶は消させるものだと。そもそもここに蒼翔がいること自体、相手にとってはイレギュラーなことだ。記憶を消して世界に戻すのが得策だろう。でなければここまで壮大な話をしない。


「あーそれなんだけど、面白そうだから消さないことにした!」


「は……?」


 いや、何を言っているのかわからない、としか言いようがなかった。まぁしかし彼はこういう人間だった、と納得させる。


 彼は面白いと思う方を選ぶ。自分が楽しければそれでいい、というような考え方の人間だ。理解はできまい。


「しかもついでに、巻き戻す前の記憶を蒼翔君に与えちゃいまーす!」


「何言って──グガァァァァァァァァァァァァ!」


 突如、脳内が破裂したような痛みに襲われ、その場に倒れ、もがき苦しむ。


 するとその苦しみの中、元の世界の記憶がどんどん入り込んでくる。


 入学式の日の出来事。

 生徒会との模擬戦のこと。

 坂堂咲葵という人物についてのこと。

 《消える暗殺者》のこと。

 刈星緋里のこと。

 二刀流綺瞳という人物についてのこと。

 《剣魔士特別自衛隊》のこと。

 防衛省の裏切りについてのこと。

 自分の覚醒についてのこと。

 ──世界を壊そうとしたこと。


 しばらくして痛みは治まり、記憶も戻った。


「あや……め……」


 この世界ではそんな人物には会っていなかった。いや、坂堂咲葵にも会っていないのだが、それよりも二刀流綺瞳の方に意識がいった。


 それはやはり想い人ってこともあるのだろうが。


「さてさてさーて。記憶が戻ったかな?」


 蒼翔は何も答えずゆっくり立ち上がる。


「じゃあ何故僕がタブーを犯してまで世界を変えたかわかるかい?」


が壊そうとした……」


 その一人称は覚醒した時のものだった。今は覚醒していないので人格は違う。しかし、記憶戻ってその記憶の中では1番新しかったので影響されその一人称になった。それに壊そうとした時の人格は覚醒した時の者に近かったということもあるが。


「そう。せっかく僕が作り上げてきた世界を一瞬で壊そうとするんだからさ。止めるしかないよね〜」


「……」


 何も反論はしなかった。

 ここでの本音は「貴様に未来なんて作られたくない」ということだったが、あえてそれも言わなかった。


「君はさ、蒼翔──」


 瞬間、蒼翔と顔がくっつくくらいの距離に《消える暗殺者》が迫ってきていた。普通ならば下がるところだが、何故か体は動かなかった。


 それに、声も雰囲気も先程までとはまた変わり、圧倒的な圧迫感が蒼翔を包み込んでいた。


「──不完全な状態の自分の扱い方に慣れてないんだよ。そんな状態で長時間いて、その反動でこの世界の人間を全員殺すつもりだったのかい?君のその行動1つで、約25億人もの人々を消滅したんだぞ?」


「──」


 彼の声は完璧に怒っていた。

 だが──


「──まぁその調子だと、次人格が変わっても短時間で元に戻るだろう」


 ──顔を遠ざけて、声も雰囲気も元に戻った。


「少々手荒な真似をしてしまったけど、あの世界はやはり最高級品だからね。元に戻してあげるよ」


「……」


 まだ圧の残像で言葉が発せれなかった。


「あ、そうそう。ちなみに君の世界にいる《消える暗殺者》は僕の片割れなんだけど、正確には僕ではない」


「それはどういう……?」


「意思疎通はできても、僕が全て動かしているわけではないということ」


 意思疎通できている時点で動かしいているのと同じなようなものなのだが。


「それにそれぞれ(・・・・)性格が違う」


「それぞれ?つまり、《消える暗殺者》は複数人いるのか?」


「まぁそんなとこ。全員それぞれの自我がある」


 つまり個々が独立しており、自由勝手に行動できるということだ。

 恐るべき異能力『空間』。それを操る者が複数人、あの世界で自由に過ごしている。恐ろしい。


「だ・け・ど」


「?」


「パラレルワールドを操れるのはこの僕のみ。あの子達が僕の意志に背いておかしな行動でもしたら、その子は消す」


 その消すという言葉の重みが違った。

 そのたった一言で、その消すという決意が伝わってくる。それに恐らくは永遠にということまで伝わってきた。


「あ、そうそう。さっき言いかけてた名前なんだけどさ」


「名前?名前があるのか。そうか。確かに貴様の出生とか色々気になるしな」


「僕の出生なんて聞いてもなんも面白くないよ」


 その声。どこかしら儚さを感じる。何故だろうか。とてつもなく近いものを感じる。今の声だけで表情がわかる。何故だろうか。同情できる。


「特別に名前。教えてあげる」


 名前さえわかれば、国の力を使って個人が特定できる。今すぐここで出生を聞かなくても後でわかることだ。名前だけでいい、蒼翔はそう思った。


「──あとで名前で調べてみようとしていると思うんだけど、残念ながらそれは叶わないよ。そちらの世界では僕は存在していないことになっているからね」


 心の中を読まれている。


「さて。僕の名前は『とおし』。それだけ教えておく」


「攸……どこかで……」


「フフ。まぁいつか君が僕達・・の目的を達成してくれたら全て教えてあげる」


「へぇ……そりゃあ楽しみだが、そういうことにはならない。自分は絶対に貴様の思い通りには動かない」


「アハハッ。それは面白い。蒼翔はそう来なくっちゃねぇ?」


 誰かに決められる未来などいらない。そんなクソみたいな人生送るくらいなら、自分で決めた道を歩む。例えそれで後悔したとしてもいい。人に言われてなる後悔より、自分で決めた後悔の方が遥かに気持ちがいい。


 それに、昔の件を許してはいない。


「これからも貴様を殺す。例え何人貴様の片割れがいようとも、全て殺す」


「殺せなかった世界線ができて、一生殺すことができないというのに……馬鹿な男だねぇ」


「貴様を殺せば全てが解決する。だから必ず殺す手段を見つける」


「まぁせいぜい頑張ってくれたまえ蒼翔君」


 例え片割れがやったことだとしても、大元はこいつだ。今現実で起きている緋里の拉致も、全てはこいつのせい。必ずこいつを殺す──蒼翔は心にそう決めた。


「さて。そろそろお時間が来そうなんだけど」


「ようやく解放されるか」


「まぁまぁ。僕はいつでも君のことを見ている。何かあれば僕に頼るといい」


「誰が貴様に──」


「──いいのかなぁ?今元の世界に戻っても、緋里ちゃんは肉塊になったまんまなんだよなぁ?」


 そうであった。今、主導権は明らかに向こうにある。ここからまだ生きている世界に戻れるか、死んでいる世界に戻らせるかはこいつの気分次第によるとこが大きいだろう。


 口答えするとどうなるかわかるよね?


 そう言われているのと同じであった。


「まぁあの子も優秀なんだけど、最近は何気暴れてるからね。その子とガツンと殺って欲しいのと、結局あの元の世界が今のところ1番理想に沿っている」


 あの子、とは誰なのであろうか。明らかに1人だけ特別に思っているところがある。気になるところではあるが、それよりも気になる所が多すぎてどれから手を出せばいいのやら。


「記憶消されてもいいから教えてくれよ攸」


「──だからさっきも言ったように記憶は消しません。そして教えません。というより君は知っている」


「なっ──」


 どうせだと思い全て教え欲しいところだったが、どうやら記憶は消されないらしい。

 普通なら消すところだ。わりかし重要なことは色々教えてもらった。彼にとっては蒼翔が知るのは大きなデメリットになるはずだ。

 だが彼は記憶を消さない。


 それより蒼翔が知っているとはどういうことだろうか。


「ま、記憶を消さないのは僕の娯楽よね。僕はここから出られないし、誰も来ないしやることないのよ。この状況、蒼里の逆手をとって全力で楽しませてもらうよ」


「狂人め……」


「このことは僕達に伝えておく。だから蒼翔」


 今まで1歩も動かなかった攸が徐々に近付いてくる。


「せいぜいそっちの僕と楽しく、ね?」


 瞬間、元の距離感の位置に戻っていた。


「さて!お別れの時間だ!前回の続きから頑張ってね──刈星蒼翔──」


 だんだんと身体が粉のように消えていくのと同時に、意識がなくなっていく。


 そして最後に──


「『──』によろしく──」


 ──見知らぬ名前を言われた。



『無』の空間の中、少しだけ意識が残る蒼翔。

 恐らくは元の世界戻る道筋なのだろうか。色々な情景が思い浮かぶ。


 その情景を見ながら。


 話を聞く限り《消える暗殺者》、『攸』という人物は敵だ。味方要素が1個もないし、この状況を至極楽しんでいる。


 それに家族を殺したのは間違いがない。今回緋里を拉致したのも、この状況を仕組んだのも彼らだ。到底許すべきではない。


 そう──殺さなければならない。


 蒼翔は改めて心に誓う。


 ──奴を必ず殺す。


 ──緋里を助ける。


 ──皆を守る。



 ────生きなさい蒼翔──


 謎の女の声が聞こえてきたかと思うと、『無』の空間がとてつもない『光』に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ