春の襲撃編 34.5 ──世界の時が止まった
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人格が変わった蒼翔が暴走し、綺瞳が双剣を無意識に出現させ、遼光が彼を救おうと動こうとしたとき。
──世界の時が止まった。
まただ、と感じるものはいないだろう。
そもそもこの状況下で意識があり動けるものはただ1人、《消える暗殺者》のみ。
「この状況はまずいんじゃないのかい僕?」
「そうだね僕」
ただ声だけが世界に響く。発している本人はいない。否──前者の声の主は確かに蒼翔の目の前にいる。だが後者の声の主はいない。まるで空の上にいるかのように。
「やっぱりこの世界の蒼翔もダメなんじゃないのかい僕」
また別の人物。声こそ全て一緒だがまるで生きている空間が違う。
「いいや僕。今までの世界の中で最高傑作の子だよ。このチャンスを逃してはならない。あの方の掟を破ってでもこの世界の蒼翔に全てを懸ける。あの方もそれであればこの行為も許してくださるだろう」
「でも僕。世界を巻き戻すということは結局は──」
「僕」
その1文字。そのたった1文字だけで蒼翔の目の前にいる彼は静まり返った。重く厚いどっしりとした声。圧がえげつない程に体にのしかかる。
「僕らは未来を変えるために動いているんだ。この先の未来がどうなろうと知ったことじゃない。あの忌まわしい過去を変えるんだよ」
「そうだね僕」
「でも僕?彼には僕達の正体バレてるんじゃないの?」
「……君」
先程よりも圧が。
「何度言ったらわかるんだい?バレたんじゃなくバラしたんだよ──」
「「──」」
「まぁでもその正体を知っているのは今の状態の蒼翔のみ。情緒不安定時の蒼翔とは違って、今は確実に別人格だ。他の蒼翔には記憶が共有されないから大丈夫さ」
「そうかい僕。じゃあ彼は今、なんで他の者に言わなかったんだろう」
「それは言わないだろう。彼自身信じたくもないし、他の者が信じるわけが無いこんなこと」
「そういえば僕。彼の人格が変わった時のことを知っているかい?」
「なんのことかい?」
「──」
声だけの1人が、蒼翔が覚醒した時彼の頭の中に女の人が出てきてその人の言葉に反応して覚醒した、と伝えた。
ここにいるのは声だけ2人実態あり1人の計3人。同じ人物だが会話だけで誰が偉いのかよくわかる。
「……へぇ。あの女か。チッ……どこまでも僕の邪魔を……!」
声は怒りに震えていた。
「まぁ落ち着いて僕。彼女はもうこの世界にはいない。それに人格が変わってくれたのは、僕達にとっても都合がいいじゃないか」
「そうだがあの女が関わっているだけで腹が立つ。それにそれをもっと早く僕に言わなかった僕にも腹が立つ」
「 今はそんなこといいじゃんか僕」
「あぁそうだな。取り乱した」
「いいんだよ僕」
仲がいいのか悪いのか。
「さてじゃあ僕が今から準備をする。不要な情報とか消したり、色々面白い設定に変えたりするから時間かかるかも。まぁ整い次第また始めるから、よろしく頼むよ僕」
「あぁ任された、僕」
そう実態がある1人が言うと、それ以降声が世界に響くことはなかった。
そしてしばらくして──
──世界が再び動き出す。




