春の襲撃編 34 「戯れだ──」
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「さぁかかってきなさい?最強の剣魔士さん?」
その声がルビーレッドから聞こえてくると同時、機体が大きく揺れる。
機内に響き渡る悲鳴。それはスピーカーを通して外にダダ漏れであった。それに──
「すぐに体勢整え直して!穂垂!もう一度あいつに食らわせるわよ!すぐに発射準備!艫伐!壁準備よ!あいつの攻撃に備えて!」
──遼光の指示は外に、蒼翔に丸聞こえであった。
彼は少し微笑みながら右手を横に広げ、その手の中に剣を出現させる。その剣は青く光輝いていた。
その剣を横に一振り。
その剣先から放たれる空気の刃は、目の前の機体を真っ二つにした──はずだった。
真っ二つになるどころか消えてなくなってしまった。
「ほう……奴もいるのか……」
これは蒼翔の仕業ではない。
「き、消えた!?」
「いや、消えていない──」
光喜が瞬きをしたその瞬間。その場に現れた、ルビーレッドが。
傷も何一つついていなかった。
光喜が驚嘆の声を上げるのも束の間、蒼翔がすぐ様剣を振る。剣を振る度、機体は姿を消す。そして瞬きの後にはそこに機体が現れる。これの繰り返し。
「厄介だな……」
その一方機内では。
彼が剣を出現させた直後、遼光の目の前にあるスピーカー機能を解除するボタンをある男が押した。
「隊長?奴に丸聞こえだろうが。気を付けろ」
「紅弩──乗ってくれてたのね!ありがとう!」
「離れろ!このクソアマ!」
「殺すよ?」
遼光が抱き着いたその男。
赤いというより紅い眼をした男。短髪で顔には幾つもの痣がある。ガタイはしっかりしているが、右腕がない。名は──紅弩京十郎。
「穂垂発射準備やめろ。艫伐も準備すんな」
「でも──」
「──俺一人で充分だ──」
その紅い眼には蒼翔しか写っていなかった。
そして現実に戻る。
そう、このルビーレッドが消えたり現れたりする現象の原因は紅弩の仕業である。
蒼翔が攻撃を止めるとすかさず光喜が聞く。
「これは一体どういうことなんですか兄貴!」
「これは奴──紅弩の異能力『リサイズ』の仕業だ──」
紅弩の異能力『リサイズ』。対象のものの大きさを変えれる能力。1度触れたらその効果は発動できる。最大は計り知れず、最小は原子まで小さくできる。今のところこの世にあるものは全部大きさを変えれる。だが大きさを変えるだけであり、性質や色等を変えることはできない。また、部分的に大きさを変えることはできない。例えば人間だと、人間自体を小さくしたり大きくしたりはできるが、手だけ足だけ頭だけ大きさを変えることはできない。しかし例外が1人。それは紅弩本人だ。自分の人体に関しては、部分的な大きさを変えることが可能。この『リサイズ』は長時間持続するわけではなく、またサイズによって持続時間が違う。本来の大きさより大きければ短く、小さければ長くなる。
通常の魔法で大きさを変えることはできなくはない。しかし、それには相当な『想力分子』を使うことになるし、技術がとてつもなくいる。全世界でそれをやった者は報告では各国の秘密重要剣魔士ぐらいだ。
紅弩は『想力分子』の保有量も人より多く、《優等生》である。その為対人や対剣魔士、災害救助や極秘任務や潜入捜査等あらゆる場面で役に立つ貴重な異能力である。しかしながら彼は凶暴な性格な為、他の人の指図をきかず自分のやりたいことをやっている。
このルビーレッドが消えたり現れたりしてるのは、彼がこの機体の大きさを瞬時に変えているからである。
(何そのチート級な異能力ゥゥゥゥゥ!?──でもこっちには世界最強の兄貴と、すげぇ異能力持ちの坂堂──あれ?)
そこで光喜が異変に気付く。
今この場にいるのは自分を含めて4人。1人足りない。咲葵がいない。
「兄貴!坂堂咲葵がいねぇぞ!」
「あぁ知っている。先程こっちに向かって飛んでいる最中に紅弩に攫われた──」
「──さすが世界最強さんよぉ。気付いていたとは。じゃあ何故その時に俺を殺さなかったのかねぇ?その状態のお前なら俺の位置も気付いていただろう?」
突如機体から彼の声が聞こえてくる。
こっちの声は丸聞こえ、ということか。
「戯れだ──」
その場にいた全員が。
「──ただのな」
彼の言葉に耳を疑った。
あの蒼翔が咲葵が攫われたことを戯れと言ったのだ。
「戯れだと?ハハッ!笑わせてくれる!」
「あぁ戯れだ。所詮貴様らは私の敵じゃない。少しぐらいいい気分にさせてやっても損は無いだろう?」
──狂っている。
彼は狂っている。
「俺らは敵じゃねぇと……?」
「あぁ。何せ私は今世界最強本来の力を持っている。貴様ら剣魔士の戦闘の源である『想力分子』を操れるんだ。別に──今すぐここにいる全員、体内から破裂させてやってもいいんだぞ?」
「キャハハッ!やっぱお前はおもしれぇわ!」
その場にいた紅弩以外全員言葉を失う。あれだけ付き添ってきた遼光でさえ。
しかし1人、綺瞳が蒼翔の前に現れた。ここは空中だ。劣等生である綺瞳が浮けるはずがない。
目の前に現れた綺瞳は白いオーラを纏っていた。
「どうした綺瞳」
そう声をかけた瞬間。
豪快なビンタを彼はくらった。
「友人が攫われて戯れですって……?咲葵ちゃんはあなたを助けるために、私達と一緒に命をかけて戦ってくれた仲間なのよ!?そんな仲間を……その仲間をあなたの傲慢な気持ちに巻き込まないで!」
静まり返る空気。だが、光優だけは恐れていた。
そしてその恐れは的中する。
綺瞳がその言葉を吐いて数秒。
彼女の身体は地面を抉りとっていた。
「綺瞳ちゃん!」
「綺瞳殿!」
すぐに駆け寄るが彼女は意識がなくなっていた。
か弱い女の子には威力が強すぎた。だがしかし光優が脈を確認し、死んではないと確認する。
「蒼翔殿!正気なのですか!」
「黙れ──黙れ……っ!」
蒼翔に話しかけたが少し様子がおかしかった。
急に頭をかかえ苦しみ出したのである。これはなんだろうか、そう思った矢先。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁ!」
その声と共に、地震が起きる。それも大規模な。
彼らの悲鳴とともに木々が倒れていく。
その様子を機内で見た遼光は。
「穂垂!艫伐!最大限強度な防壁を作って!」
「なんで──」
「早く今すぐ!死にたくなきゃ早くしなさい!」
「「は、はい!」」
「紅弩!あの子達を機内に連れてきなさい!」
「なんでだ!」
「いいから早くしなさい──」
「──わかったよ」
その言葉とともに姿を一瞬にして消えた。否──消えたのではなく、目に見えないほど小さくなった。それだけであろう。
外では光喜が気を失った綺瞳と怪我人の光優を倒れる木と崩れる地面から守っていた。だがそれには限界があり。
木が倒れてき、彼らに当たる──と目をつぶった。
しかし何も衝撃はない。しばらくして目を開けると、目の前にはモニターや機械がいっぱいあり、色々な者達が声を荒らげていた。
「な、何が起こって──」
「気に食わねぇがお前らを中にいれた」
その声は紅弩だった。
「俺らの任務は奴を捕らえること。お前ら一般人は死なせねぇよ!」
「あらかっこいいわね紅弩」
「隊長!それよりどういうこったぁこれは!」
「私にもわからないわ。でもこのままじゃ私達諸共死ぬわよ──」
揺れているのは地面だけではなかった。空気もまた揺れていた。否──空気というより『想力分子』といった方が妥当であるか。
蒼翔の叫びに共鳴するかのように『想力分子』は揺れている。
これは誰もわからない緊急事態。
1番近くで見ていた、育ててきた遼光でさえわからない。
これは逃げた方が得策ではある。
だが本当にそれでいいのだろうか。
今ここから逃げてどうなる?
この状態が収まるわけがない。
収まらなければ、このまま暴走すれば被害は計り知れない。
確かに先程の彼は狂っていた。
だが本当の彼を知っている。
心優しく人思いな彼を。
だから助けなければならない。
いくら強大な力を持ち敵わなかろうが助ける。
それが私として──
「どうする隊長!」
「助ける──彼は、蒼翔は私の家族だから──」
殴ってしまった。
大好きな人を殴ってしまった。
案の定やり返された。
すごく痛い。
でもなんだろう。
初めて彼にキレた気がする。
まぁ出会って間もないのだけれど。
彼は今暴走しているのかな。
じゃあ助けなければ。
いくら私に暴力を振るったとしても彼は彼。
本当の彼は私を守ってくれるいい人。
私の大好きな人。
私は彼を助けたい。守りたい。
その理由に好きというもの以外必要ない。
守りたいから守る。
助けたいから助ける。
それが私として──
「私が助けます……!」
「綺瞳ちゃん!?」
彼女の両手には剣が出現していた。双剣だ。
それが私として──
それが私として──
──やらなければいけないこと。
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その様子を遠くから《消える暗殺者》は見ていた。
「いいねぇ彼女。面白い。蒼翔をここまでにするとは。家族以外でもこうなるってことは、彼女は蒼翔にとって特別なのだろうねぇ……でもねぇこれはまずいんだよねぇ……」
彼女──綺瞳のことだ。
彼の顔は全く笑っていないように見える。まぁお面をつけているのでわからないが、声は太く低い。
「あんまりこれを使いたくはなかったんだけど……この世界は僕の最後の望みだからね。壊されちゃ困るよ?刈星蒼翔……」
「君、何を1人で言っているのー?」
高畑藍だ。
それもそのはず、ここは学校の近くのビルの屋上。蒼翔達の姿など見えるはずがない。
それに藍にとっては何を言っているのかわからない。
「いいや、独り言さ」
「キモイねー」
「心外だなぁ。君ほどじゃないよ?」
「殺しちゃうぞ★」
「おやおや物騒な」
ものすごい可愛らしい笑みで言うのだから恐ろしい。
「さて僕は用事が出来たのでここは君に任せるよ?シャーク・ベルゼ?」
「殺しちゃうぞ★」
「……まぁどうせこのやり取りも忘れることになるからどうでもいいか」
「何を言って──」
「黙って言うことを聞いてくれないかな?」
「──」
その声には明らかなる殺意が伝わってきた。
逆らえばここで殺す、と。
《消える暗殺者》にとって自分は生かしておく価値があるとわかっていても、その恐怖には勝てなかった。
「まぁいいよ。キモイ奴と一緒にいるとこっちもキモくなるだけだし」
「まだ言い続けるんだね……助かるよ高畑藍。じゃあ任せた」
そう言って彼は姿を消した。
最後名前をシャーク・ベルゼではなく高畑藍と言った。その違和感に彼女は気付いた。しかし理由はわからない。ただ一つわかるのは、高畑藍と言った時の言葉が嘘ではなく本心で言ったということだ。
あれだけ殺戮を繰り返す大物が、「助かるよ」「任せた」の言葉を本心で言ったのだ。
何かあるのだろう。そう思うしか彼女はなかった。




