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世界最強の劣等生剣魔士  作者: 高橋創将
春の襲撃編
33/49

春の襲撃編 32 「私にしかできない……こと……」

 ■■■


 《消える暗殺者》は無数に飛んでくる刃を避けていた。だから彼は気付かなかった。──手の上で踊らされていたということを。


 それは一瞬だった。


 いつの間にか彼の腹は剣によって貫かれていた──はずだった。


「何っ?」


 貫くはずの剣を腹に刺さる直前で、《消える暗殺者》が素手で剣を握って食い止めていた。


「蒼翔甘いねぇ君は……」


「な、何故この攻撃がわかる!魔法によって剣の速度は光の速さや音速よりも速いはずだぞ!いくら貴様でも認知できるはずがない!」


「それができちゃうんだなぁ蒼翔?」


(まぁ実際は攻撃してくることを知っていたから、だけど。そんなこと言ったらあいつ(・・・)に怒られちゃうからね)


 蒼翔の顔は驚愕と怒りに満ちていた。

 一方《消える暗殺者》は勝ち誇ったかのような笑みを浮かべていた。


「しかし貴様は私には勝てない!」


 蒼翔はすぐさま肉体戦へと移行する。剣を手放し、相手の鳩尾を狙い正拳突きを食らわす。

 血を吐くような声が聞こえたと思うと、直ぐに彼は地面へと落下していった。蒼翔が正拳突きしてない方の腕で頭を掴んで振り落としたからだ。


「哀れだ……だから私には勝てないと言ったのに」


「誰が哀れだって?」


「なっ!?」


 声の主は地面に振り落としたはずの《消える暗殺者》だった。無傷で鳩尾を本当に殴られたのかのようにピンピンしていた。


「き、貴様!──っ!」


 すぐさま攻撃態勢に移行した蒼翔は剣を『想力分子』により出現させ、斬りかかった。


 しかし彼の音速を超えるスピードの剣技は容易くかわされていく。何度も何度も何度も何度も。

 挙句の果てにはその剣を片手で掴んだ。


「はぁあ。心底残念だよ蒼翔。こんな程度だとは思ってもいなかった」


「くっ……!」


 剣を掴んでいる手を振り払おうとするが力が強すぎてビクともしない。恐らく魔法を使っているだろう。

 また剣を手放そうとするが──


「な、何っ!」


 自分の手が握った剣を手放そうとしない。言うことが聞かないのだ。鼻で笑った《消える暗殺者》は剣を離し少し離れた位置に移動するとこう言った。


「──蒼翔。君は僕に勝てない。何年抗おうと、どんな強大な力を手に入れようと……君は僕に勝てやしない」


「そんな……はずが……」


 蒼翔の精神が揺らぐ。


「そんなことあるんだなぁ蒼翔?今さっき剣を掴んだ時、僕は君を殺すことなんて容易くできただろう」


「じゃあ……何故……」


「何故?何故って、ここで殺したら面白くないだろう?もっと僕を楽しませてくれよ」


「……」


 蒼翔の白く輝いてたオーラが段々と薄くなっていく。

 それを見て感じた《消える暗殺者》は──


「あ、そうそう。君へのプレゼントはさっきのだけじゃないんだ。君の姉、刈星緋里は今高校の地下に監禁してある。特殊な魔法をかけてね、自分から目を覚ますことは無いよ」


「緋里……!」


「あーでも『バダリスダン』が今日剣魔士候補生を皆殺しにしたいとか言ってたなぁ。君のお姉ちゃん、殺されてなければいいけど?アハハ」


「き、 きさ……ま……っ」


 その言葉と共に胸が急激に苦しくなる。白いオーラがほぼ消えかけていた。


「あーあ。こんな程度で元に戻っちゃうの?」


「グァァァァ!」


 そう苦しむ声をあげながら光喜と綺瞳の前へと落ちていった。


(はぁあ。めんどくさいところに落ちてくれたな……)


 そう心の中で呟き下へと降りていく。


 ■■■


「《消える暗殺者》!兄貴、刈星蒼翔に何をした!」


「何をしたって言われてもねぇ。勝手に落ちてっただけなんだけど」


「き、貴様……!」


 何もしていないはずがない、そう思った光喜は鋭く睨む。


「坂堂咲葵。ミイナ先生に会いたければこいつと協力しろ。でなければ先生は死ぬ」


「……!」


 壁際でボーッと突っ立っている咲葵に彼は声をかけた。まさに死にかけだ。それは肉体的に死にかけなのではなく、精神的に。


 こいつ、とは蒼翔のことである。その証拠に指をさした。


 そう、咲葵の本来の目的は蒼翔を殺すことではなく、ミイナを助けることである。学校で彼に囁かれてここまで来たが、その彼が次は蒼翔と一緒に行けと言っている。半分信用できなかったが半分信用できてしまう自分がいた。


「では君達の活躍に期待しているよ?」


「待ってもらおうかな」


 黄金に光り輝く剣が彼を襲う。だが、当たることは無い。


「危ないねぇ……天童光優」


「ミーとしてはこの状況を放ってはおけない」


「まぁそうだろうねぇ……」


「《消える暗殺者》。ミーとタイマンしよう」


「残念ながらそんな時間はないんだ〜また今度やろうよ──元《毘沙門天》の天童兵長〜?」


 最後の方はもう姿は見えず、声だけがその場に響いていた。


 姿を消して数秒後、その場にいた全員が我に戻り、咲葵以外蒼翔の周りに駆け寄る。


「兄貴大丈夫ですか!?」

「蒼翔大丈夫?」

「蒼翔殿大丈夫ですか!?」


 しかし彼の苦しむ声は消えない。


「光優兵長!何か手はないんですか!?」


「くっ……ミーもそんなに蒼翔殿を知っているわけではない……」


 すると急に苦しむ声が消えた。


「兄貴!?大丈夫ですか!?」


 そんな光喜の心配する声に反応せず、彼はゆっくりと立ち上がる。

 そんな様子を見た光優は何を感じ取ったのか──


「──全員今すぐ蒼翔殿から離れろ!……早く!」


 その言葉に少し戸惑った光喜達に再び忠告するが、少し遅かったようだ。


「グハッ」


 光喜は顔面を殴られ、遠くに飛ばされてしまった。

 やったのは彼──蒼翔だ。


 蒼翔はその場に立ち止まっている。だが、オーラが何かが違う。


「どんだけ人格持ってるんだよ……」


「て、天童兵長!こ、これは……」


「恐らく暴走状態だろう……これは最悪だ。ただ殺戮を繰り返すだけの人格へとなってしまっている……!」


「元に戻すにはどうしたら……」


「わからない」


(くそっ!こんな時に遼光がいたら──)


「──天童兵長!」


 そんな綺瞳の声が聞こえたと思うと、光優の体ごと地面は抉りとられていた。大量の血を吐く。

 考え事をしていて蒼翔の動きに気付かなかったのだ。


 その瞬間を逃さなかった光喜は、短剣を手に蒼翔に斬り掛かる。だが──


「なっ……!」


 その短剣を叩くだけでへし折ってしまった。

 そして、すぐさま正拳突きを喰らう。


 光喜が飛ばされたのと同時に、光優が後ろから、


「聖剣エクスカリバー!第1形態!」


 聖剣で一振しようとした、が。

 それよりも先に蒼翔の蹴りが光優の脇腹に入った。


 状況は絶望だった。光喜と光優はほぼ戦闘不能状態。蒼翔は暴走状態で正気がなく元に戻る気配も、方法もない。会話が出来るとも思えない。この場に緋里がいれば少しは変わっただろうが、今はどこかで監禁されている。どうしようもなかった。


 そんな中綺瞳はただ呆然と突っ立っているだけだった。やっぱり無力なのだろうか。


 こんな時に戦闘もできず、仲間同士が殺し合っているのを見ていることしかできないのだ。本当に無力だ。


 そんな中光喜の言葉が頭を過ぎった。


 ──綺瞳ちゃんにしかできないことがあるでしょ?


(私にしかできない……こと……)


 しかし、そんなことがあるのだろうか。今は情報提供等している場合ではない。『戦闘』をしなければ役には立たない。


 そう色々と自分にしかできないことを考えているうちに、1つ疑問に思ったことが出てきた。


 ──何故さっきから私のことを攻撃してこないのだろう。


 と。先程から戦っているのは光喜と光優の2人。しかしその2人よりも目の前に呆然と立ち尽くす人がいるのだ。


 攻撃を仕掛けた人じゃないと攻撃しないのか?否、それは違う。2人も攻撃を仕掛けていなくても攻撃されている。ということは──そんな時に緋里の言葉が頭を過ぎった。


 ──キスをする。


 たったその言葉だけが蘇った。しかし、そんなことがあるのだろうか。あれは双子の緋里だから通用する話である。


 でも──私は蒼翔のことが好きだ──


 ──もしも私のキスでも暴走を止めれることができるのなら──



「天童兵長……こりゃ僕達の身が持ちませんね……」


「弱音を吐くな《剣魔士》!蒼翔殿は《剣魔士》として最強であり、日本の兵器であるが──それ以前に、ミー達の友人だよ」


「そうでした。この身が滅んでも兄貴を救います!」


 そして2人が再び蒼翔を攻撃しようとした時。


「殺してやる──!」


 そんな声が聞こえてきたと思うと、蒼翔が咲葵に殴られ飛ばされる。


「いってぇ……蒼っち硬すぎ」


「なんか殺してやるって聞こえた気がしたんだけど……」


「気の所為だ松田光喜」


「それでどうした坂堂咲葵」


「俺も戦う。蒼っちを殺すためじゃない──ミイナ先生を助けるためだ──ま、あわよくば殺したいけど」


「まぁ君は殺せないよ」


「言ってくれるじゃん天童兵長」


 この絶望的な状況の中、暴走状態の世界最強蒼翔に立ち向かう者が3人いた。

 そんな姿を見た綺瞳は覚悟を決めた。


「……皆さん私に協力してください」


「綺瞳ちゃん、何か策が浮かんだのかい?」


「えぇ……成功するかわかりませんが……」


「ミーはなんでも試してみるのが好きなんでね」


「俺はミイナ先生が助かるのならなんでもいい。早く策を言え」


「皆さん……策はたった一つ。刈星蒼翔を拘束してください。私が近付けるように」


「そんな容易いこと」「俺達にとっちゃ」「朝飯前だよ?綺瞳ちゃん」


 そんな自信に溢れた3人の前に蒼翔が歩いてくる。しばらくして立ち止まり、沈黙状態が続く。そして──


「──行くぞ!」


 光優のその合図と共に3人が動き出す。


 蒼翔を囲むように四方八方から攻撃を仕掛けていく。無論、どれも彼には効かない。当たらない攻撃もあるし、当たってもダメーシを与えれない。


 反撃を喰らいダメージを受けるも、攻撃の連鎖を止めまいとすぐに体勢を立て直し攻撃を仕掛ける。

 やっぱり綺瞳はその様子を見ているだけだった。でも今は無力だとは思っていない。役に立っていないと思っていない。


 今は役に立たない。今は無力だ。

 でも必ず役に立って、無力じゃなかったことを証明する。


 そんな意気込みでその場に立っていた。


 しかし、3人はどうやって彼を拘束するのだろうか。咲葵の異能力は今の彼には効果をなさない。光喜の攻撃は勿論魔法も彼に歯が立たないはずだ。


 唯一光優はわからない。彼の名前は知っているが、その能力や才能まではよくは知らない。彼に蒼翔を拘束できる力があるのだろうか。


「綺瞳ちゃん!一瞬だけしか拘束できない!だからすぐ動けるように準備しておいて!」


 そんな声が聞こえてきた。これは光喜の声だ。

 綺瞳は我に返り、すぐさま動けるように『加速』の魔法の発動準備する。これでいつ「動け」と言われてもすぐ動ける。


 一旦両者の攻撃が止む。そして3人が目を合わせ少し頷くと。


「兄貴イィ!」


 蒼翔目掛け短剣が2本飛んでいく。しかし、その軌道はめちゃめちゃであり彼の顔を挟むように2本通り過ぎていく。

 外したか、そう思ったが。


 短剣2本が通り過ぎていくのと同時、蒼翔の体が何かに引っ張られるように短剣と同じ速度で壁に衝突する。彼は壁に衝突すると、息ができないのか苦しそうに自分の喉を掴む。


 短剣2本の鞘に透明な紐を括りつけていたのだ。それに引っかかり、引っ張られた蒼翔は、短剣と一緒に壁に衝突する。


 光喜の短剣は強度があるので壁に突き刺さったままビクともしない。


 だが、それは彼に数秒の隙を与えるだけの策にしか過ぎない。こんな短時間では綺瞳の策──キスはできない。


 蒼翔がもがき、足で壁を蹴り始めた時。


「蒼っちいいいいいいい!」


 そう叫びながら咲葵が彼の鳩尾を、魔法によって威力が増している拳で殴る。少し壁が凹む。それと同時に彼の口から少量の血が出る。


 これで終わらない。


「蒼翔殿。失礼!」


 その声の主は光優だ。

 咲葵が殴るのと同時に発したその声。


 彼は蒼翔に右手の手のひらを見せ、捻り握る。

 それと同時に、


「グァァァァァァァ!」


 蒼翔の叫び声が聞こえてくる。

 その原因は見てわかる。彼の両腕両足が肘と膝を境に、180度捻られていた。


「これでトドメだ!──綺瞳ちゃん!」


 最後の攻撃は光喜だ。

 両手両足に短剣を刺し、壁と蒼翔を固定した。


 綺瞳は光喜の合図で、すぐ蒼翔の前に現れる。


 なんとも酷い光景だ。

 自分の好きな人が、目の前で両手両足に剣が刺さっていて、両腕両足は180度捻られている。体のあちこちからは血が流れ、口からは血がタポタポ落ちている。


 綺瞳は少し息を呑んだ。

 それはそうだろう。誰がどう見てもこんな時にキスなぞしたくはない。


 でもしなければいけない。

 しなければ彼は助からない。


 ──私の好きな人を助けるため。


 この数秒の隙を逃したらもう彼を拘束するのは無理だろう。だから──


「──蒼翔。ごめんね。今助けるから──」


 そう言って、彼の唇に自分の唇を合わせた。


 その瞬間、世界が変わったように思えた。


 この世界には蒼翔と綺瞳の2人しかいない。そんなようにも思えた。


 2人を覆い包むように光が現れる。そしてその光は段々と広がり──辺り一帯を包む程の光に覆われた。




 3人が光に視界をやられ、しばらくして目を開けると。


 そこには白いオーラに包まれた蒼翔と、その横で笑顔で立っている綺瞳がいた。


「兄貴……綺瞳ちゃん……」


「皆すまない。の不注意で危うく4人とも殺すところだった」


「私……ってことは覚醒した状態の蒼翔殿ですか!」


「ん。その覚醒というのはよく分からんが、今は本来の剣魔士に近い存在だ。まぁ世界最強ってやつかな」


「自分で言うかよ蒼っち……」


「さて、時間が無い。早速緋里及びミイナ先生、そして《剣魔士候補生》の学生達を救うために話をする」



 今の彼は知っている、考えられることを全て話した。


「今すぐ学校に戻らないと!」


「くそっ……《消える暗殺者》……っ!」


「ミーは防衛省に協力できないか要請してくる」


「防衛省は恐らくもう息がかかっているだろう」


「それは聞き捨てならないことだね〜」


「だから……壬刀遼光。そう、壬刀遼光という人物に頼れ」


「遼光か……承知した。話をつけてくる」


「あぁ頼んだ」


 そう言われ蒼翔に対し軽く頷くとすぐに空を飛んで防衛省へと向かった。


 残された3人は蒼翔に目を向ける。言葉を求めているのだ。


「では私達も行こう。絶対に助けるぞ」


「おう!」「あぁ」「はい!」


 4人はすぐに学校へと向かった。

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