春の襲撃編 30 「私の前では──何事も無力だ」
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だんだんと消えていく記憶の中。
ある記憶だけが異様な光を醸し出していた。
(これは──)
──蒼翔。緋里。守りたいものを守りなさい。それがたとえ悪事であろうと、他の人に非難されることだとしても。自分が守りたいもの守る。いいね?
──それは女の声だった。
──暖かく。聞いてて落ち着く声。
──あーそうだ。自分は守らなきゃならない。
──守らなきゃ……だから──
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「なっ……!?」
何故、と思った時にはもう遅い。
蒼翔の回し蹴りをまともに喰らった咲葵は、目にも止まらぬ速さで壁に打ち付けられた。
少量だが血を吐き出す。
「坂堂咲葵。君は私のことを甘く見すぎだ」
その眼は白く輝いていた。
その場にいる全員が感じる、そのとてつもないオーラ。──まるで『想力分子』が彼を纏っているかのように。
「『想力霊装』……か……?……いや、これは違う……」
「さぁ?私にもわからない」
「まぁいい……しかし、俺の『異能力』で記憶を消したはずだが……」
「さぁ?すまんな。私には何も記憶がない。しかし何故だろうか、自然と言葉が出てくる」
「な、何を……」
「さぁな。君の名前も自然に出てきた。そもそも私は何者なのかも──いや、今一瞬で理解したよ。私の名前は刈星蒼翔。別名刀塚玄翔。世界最強の名を持っている……であってるかな」
「……おい天童光優とかゆうやつ!お前こいつのこと詳しんだろ!なんなんだよこれは」
「さ、さぁ……ミーにもわからないよ」
その場にいた全員。今蒼翔に何が起こっているのかわからなかった。
先程光優は計画的な行動をしていると言っていた。しかし彼にもわからないと言った。つまり、これはイレギュラーな事態が起こっているということだろう。
「──そう。君は急に私達を襲ってきて殺そうとした。だから先程まで殺し合いを──」
と蒼翔が言いかけた途端、咲葵が『想力分子』で銃を作り、蒼翔に向けて2発撃った。
しかし、その銃弾は蒼翔に当たることなく、2発とも蒼翔の頬の横を大きくずれていった。
「ちっ……!」
「君は人の話を──」
蒼翔の言葉には耳を貸さず、すぐさま剣を作って攻撃体勢に入り、剣を振ってくる。
しかし、蒼翔は動く様子はない。
彼女は斬った、と確信した時。
彼女の持っていた剣がピクリと動かなくなった。
蒼翔から30cmぐらい横で。
「なにっ……?」
しかし、蒼翔は剣に触れてない。そこに立っているだけだった。
「君は人の話を──」
しかし諦めず、すぐさま逆方向から剣を振る。
だが──
「何故……!?」
蒼翔は剣に触れることなく、やはり30cmほど横で剣はピクリと止まった。
これ以上蒼翔への方向に動かない。
「少しは人の話を聞くことを覚えようか?坂堂咲葵」
「くっ……」
「まぁいい。しかし、残念ながら君は私に攻撃を当てることなど不可能だ──」
その言葉と同時に、咲葵は見たものを操る方の眼で蒼翔を睨みつけた。
「うーん。確かこの眼は見たを操ることが出来る眼だっけ?残念だけどその異能力も私には効かない」
「なん……だと……っ!」
「君は私の前では──何事も無力だ」
瞬間、咲葵の身体は後方の壁にめり込んでいた。その秒数は瞬きする暇もない。
周りの者が認識できた時には、咲葵は血を吐き出したままめり込んでいた。
「さぁ坂堂咲葵。君のお得意の異能力、再生の能力を使わないのかい?」
「グハッ……」
「あぁそうか。使えないのか……」
「き…さ…まぁ……」
これではどっちが悪者かわからなくなるほど。
「君はその眼が使えなければ『剣魔士』としては使い物にならないからね」
言葉が以前に増して攻撃的。
強さが以前に増して圧倒的。
咲葵は主に頭部から血を垂れ流し、地にうずくまっていた。
「どうしたんだい坂堂咲葵。君の強さはこんなものではないだろう?」
その挑発的な言葉に彼女は乗ってしまう。
「…あ、あぁ……俺はこんな異能力がなくても優等生だ。劣等生如きの貴様に負けるわけがない!」
残っている全身の力を使ってよろめきながらも立ち上がる。
「ほう。まだ戦えるとは」
「……俺は世界最強だ!この俺が──」
「──残念だが私は本来の剣魔士の姿に近い存在だ。偽の剣魔士如きに負けるわけがない」
と、咲葵の言葉を遮るように言いながら腰に差していた『灼屑』を抜き、
「さらばだ。坂堂咲葵──」
──剣を縦に振ろうとしたその瞬間。
「──はぁいそこまで~。ここで僕の登場でーす!……ねぇ蒼翔?」
──そこにはお福さんのお面を被った人物が、蒼翔と咲葵の間に立っていた。
その場にいた蒼翔以外の全員が口を揃えてその名を呼んだ。
【──《消える暗殺者》っ!】
だが周りの者達に彼は何も反応しない。目で見ようともしない。
「おやおや。これは《消える暗殺者》様。お初目にかかり光栄でございます」
【なっ!?】
「ふーん……」
その場にいた全員が、目に映る光景に驚愕していた。
蒼翔が──世界最強の男が、膝をついて頭を下げている。
蒼翔が《消える暗殺者》に敬意を示したのだ。世界最強の男が何故。
しかも、武器である『灼屑』を地面に置いて、手から離している。これは、蒼翔が彼の方が上だと言っているようなものだ。
だが、光優だけはそう捉えてはいないようだ。
「やれやれ……世界最強と称えられている者が、この僕に対して頭を下げているとは……なんとも滑稽なり!」
「いえいえ、私わたくしは世界最強等ではございませんよ」
「冗談がキツイなぁ蒼翔」
「いえ冗談では。しかしながら、貴方のような方が何故ここに?」
《消える暗殺者》が何故か少し顔をしかめる。
それに対し、蒼翔は少し笑っている。だが頭はずっと下げっぱなしだ。一切顔を見ない。
彼は少し間を置いたあと、少しずつ蒼翔に近付いていった。その距離約1メートル。
しかし、彼は蒼翔を睨み付けたまま口を動かさない。
「はて……私わたくしの質問に答えていただけないのでしょうか」
「何を言ってるんだよ蒼翔。君なら言わずともわかっているはず……」
「いえわかりません。大体予想は何個かしておりますが、どれが正解かはわかりません。差し支えなければ答え合わせ、をしたいのですが」
「ムカつく喋り方だな蒼翔。君らしくもない。まぁ今の人格なら仕方のないことか……」
そう言うと蒼翔の周りを歩き始める。1歩1歩ゆっくりと。
「答え合わせ、ね。とりあえず蒼翔が予想した意見を全部聞いてみよう。それから答え合わせといこうよ」
「では……まず1つ目は、私に灼屑を振らせたくなかったか。2つ目は、今この戦いを止めなければならない事情があるか。3つ目は、ただの娯楽。そして4つ目は……坂堂咲葵を殺したくない理由があるか」
ピタッと彼の足が蒼翔の右隣で止まった。
尚、この状況で誰も手を出さないのは、手を出したら殺されるのがわかっているからだ。
彼の異能力は絶大だ。一瞬であの世にいかされるのは間違いない。
「はて、正解はありますでしょうか、《消える暗殺者》様?」
「ふっ……まぁそれ以外に回答があるのなら教えて欲しいくらいだよ。正解を教えるのは1つに絞れてからにしよう」
「そうですね。今すぐ答えを言われても面白くないですし……それに……」
突如の沈黙。
「それに?なんだい蒼翔?」
「答えはもう知っています──」
「なにっ──」
瞬間、蒼翔がその場から消え去る。それと同時に《消える暗殺者》も消える。
それがあの場にいた、2人以外が見た光景だ。
「ど、どこ行った……っ!」
しかし実際は、光の速度より早い速度での攻防があった。
蒼翔は消えたのではなく、あの一瞬で灼屑を手にし、咲葵に切りかかろうとしていた。それを一瞬で把握した彼は、『異能力』により蒼翔と自分を丸ごと違う空間に移動させた。
その場所は──
「突如のことだから、こんなところにしか移動できなかったのか。情けない」
「くっ……やりやがったな蒼翔……!」
それはその真上。地面が崩れる前、蒼翔と咲葵が戦闘していた場所だ。勿論地面はないので、空中に浮いている。
「やりやがったな?だと?笑わせてくれる。所詮貴様はまだ子供。私の冗談に惑わされ、隙を作った。馬鹿な野郎だ」
蒼翔の口調が攻撃的になる。
「蒼翔…………っ!」
「しかし、やはりこの能力があってしても、君の『異能力』は無効化できないようだね。とんだ化け物能力だな」
「君に言われたくはないな!」
「ま、これで君がここに来た理由もわかったことだし」
「ふっ……本当にわかったのかな?」
「なんだと?」
「まぁ先に謝っておくよ……蒼翔くん──」
瞬間、砲弾により蒼翔が爆発する。
1発のみならず、何発も。何発も何発も飛んできて爆発を起こし、辺りを黒煙で覆い尽くす。
下にいた光優達が咳き込む程に。
何発だろうか。数えきれない幾重もの爆発が起きた後、蒼翔目掛け雷が何発も落ちてくる。
そして、幾重もの剣が四方八方から、その黒煙の中に飛んでいく。1本も黒煙から出てくる気配はない。
「け、玄翔様!」
攻撃が全て止み、黒煙がだんだんと消えていく中。
「ふっ。『防衛省』を使ってくるとは。《消える暗殺者》。貴様は私の国の機関に何をしたのかね」
「やれやれ……まぁこんな程度の攻撃で死なれたら笑っていたところだね」
「中村大臣か……あとで刑罰を受けてもらわないとな……」
黒煙が消えると、無傷の蒼翔と《消える暗殺者》が出てきた。全くダメージを受けていない様子。
「さて、これが貴様の作戦か?」
「全然気に入ってくれてないようだね、僕からのプレゼント」
「当たり前だ。こんなものプレゼントにもならない。私の前では無力の攻撃」
「まぁ……結局僕が出るしかないのかなぁ?」
「やっと貴様と殺れる時が来たか」
「あまり戦いたくはない相手なんだけどね」
「思う存分殺り合おう」
──戦いの火蓋が開けられた。
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同時刻。
ここは《剣魔士育成機関学校第1科》。蒼翔が通っている学校、そして念来々という大罪人が潜伏している学校だ。
今は多くの生徒が学校にいる。
校内は活気に溢れ、皆が楽しそうに生活していた。そう、ただただ学校生活をしていた。
だが、その学校の周りを既に多くのテロリストが囲っており、数分後には楽しい生活から一転することになるであろうとは誰も思っていないだろう。
ましてやその地下で眠っている女性は。




