春の襲撃編 29 「聖剣エクスカリバー」
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突如地鳴りと同時に大きく揺れ始め、壁が崩れ始める。
綺瞳の悲鳴が聞こえ、光喜の驚嘆の声が響く。
崩れるとはいっても、その場で消えてくだけ。激しいのはその地震のような揺れだけである。
それが数十秒続きようやくその揺れが止まる。
2人がゆっくりと目を開けると──
──2人人物が交戦しながら落ちてきている。
1人は女性。もう1人は男性。
女の方は剣を振り回し。
男の方は素手でそれを跳ね返す。
一見見れば女性の方が押しているように見える。だが、現実は圧倒的に男性の方が押していた。
「なんだこの馬鹿力ッ!」
「どうした坂堂咲葵。俺を殺すのではなかったのか?」
「刈星蒼翔……いや、刀塚玄翔……何者……ッ!」
「さぁ殺してみろ……殺せるものならな」
「……それに、この魔法……『消滅』……か?」
「ご名答」
超高等魔法『消滅』。物体そのものを消滅させる魔法。人や動物を消滅させることは不可能だが、それ以外のものなら消滅させることが可能だ。たとえ魔法陣だろうと。しかし、これには相当な『想力分子』の量と操作する力が必要なため、超高等魔法の1つにされている。
『消滅』は超高等魔法の中でも異質。その魔法自体あるのは確認されているが、実際使えるのは世界でも数人とされていて、実際使われる場面など無いに等しい。それほど『想力分子』が必要であり、それを操る能力が必要なのである。
「キャハハッ………超高等魔法のオンパレードじゃねぇか」
その間に2人は地面に足をついていた。
遠い2人の間に光優が落ちてくる。
「いてて……」
「天童光優。そこをどけ。これは俺と坂堂咲葵との殺し合いだ。貴様如きが参戦できるような殺し合いではない」
「あれあれ刈星蒼翔殿。ミーは貴方様を護衛するためにここに来たのです。貴方様を暴走させたままにしておくわけにはいかない!」
「おいゴミ。俺の眼にかかれば──」
と声に出そうとした時。途中で声を出すのを遮られた。喉元に剣先を当てられたからだ。
しかし、それは短剣。持ち主は松田光喜だ。
「お前……誰だ?」
その言葉を吐いた咲葵以外のその場にいた全員がスっコケる。
「ぐぬぬ……」
確かに彼女は光喜と会うのは初めてだ。そりゃ知らなくても当然ではある。それに、今は包帯が巻かれているからわからないのは当然であるが……。
「……俺は《剣魔士高等学校》1年松田光喜。劣等生だ」
躊躇なく、その言葉──劣等生──を口にした光喜。
全く劣等感がないわけではない。劣等生の中では上位の方である光喜にとって、確かに悔しく惨めだと思う気持ちはあるが、それでも現実は現実。劣等生は劣等生。光喜はそれを口にしただけだ。
「劣等生如きが……」
「高校では劣等生だけどね……短剣の扱いは優等生の自信がある」
「ほう……」
低く、
「なら……」
馬鹿にするような声。
「その腕前見せて貰おうか!」
カキーンと鋼同士がぶつかる音が響く。
だが、一方の鋼は2つに折れ、もう一方の鋼は無傷。
「なにっ!?」
真っ二つに折れたのは咲葵の持っていた鋼だった。
素早い剣さばき。
光喜は首元に突きつけていた剣を回転させ、咲葵が下から振り上げた剣を避け、もう片方の手に剣を出現させ、彼女の剣を折ったのだ。
しかし、彼女が驚いたのはそれだけではない。
彼女の腹部からは血が少ししたり落ちていた。
「どうした優等生さんよ。お腹から血出てるけど大丈夫か?」
皮肉。
「貴様……ッ」
剣を折るのと同時に避けた剣で、腸を狙って切りかかっていたのだ。同時に。
少し刃先が腹部に到達した時点で彼女は気付き、すぐさま『異能力』の左目でその剣を消したが、少し遅かった。
「……へぇ……劣等生如きでもやるやつはいるんだなぁ──」
「──お喋りはそこまでだ眼帯野郎──」
光喜の方に向き、小馬鹿にしていた彼女はすっかり忘れてしまっていた。彼を背に向けていたことを。
「消え失せろ──『死灰』」
瞬間、彼女の体は全て灰となって消え失せた。
跡形もなく全て。
──のはずだった。
「キヒヒ。危ない危ない。危うく本当に死ぬところだったよォ。蒼っち?」
蒼翔はすぐさま居場所を察知して、瞬間的に剣を振りに行く。が、そこにはいない。
「キヒヒ。蒼っちにはもう俺を殺せない。何故なら俺がどこにいるか見つけられないから」
声はする。それに、そこに存在していることもわかっている。なのに、見当たらない。眼で見てもわからない。
瞬間、辺り一面に炎の渦が複数でき始める。
熱い。熱い。熱い炎を噴き出しながら。
「キヒヒヒヒヒ!俺はこの眼だけで優等生というわけじゃない!俺が何故優等生に入れているか教えてやろう!!」
瞬間、その炎の渦達が暴れ始める。
「全員空を飛べ!」
それは蒼翔の叫び声だった。だがもう既に遅かった。
「キヒヒヒヒヒ!」
複数の炎の渦はやがて1つに纏まり、大きな炎を渦ができる。
その炎の渦は蒼翔を含めた、その場にいた全員を悲鳴とともに飲み込んだ。
「さぁここからが本当の戦いだよ?蒼っち?」
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不思議な違和感とともにゆっくりと目を開ける。
眩い光が眼の奥に差し込んでくる。それと同時に、ものすごい熱さに襲われる。
(なんなんだ……)
外の風景を見ずに再び目を閉じてしまった蒼翔は、もう一度目を開く。
晴れやかな快晴の空。その空には鳥が優雅に飛んでいる。
だが、地面は焼け野原だった。
そこはある集落なのだが、家は炎を纏い、その中から数々の悲鳴が聞こえてくる。
外では女性の大人や子供が泣き叫びながら、この状態を起こした者達から逃げ回っていた。
男の大人はその者達に負けまいと、木材等で立ち向かっていた。
そんな中、蒼翔と隣にいる幼い女の子はポツンと突っ立っていた。そして、女の子は泣いていた。
「あか……り……?」
「蒼翔……助けて……」
その女の子に見覚えがある。だが、そんなはずはない。そんなことはありえるわけがない。
──目の前に見えるのは小学生の緋里だった。
そんな……はずは……。
まさしくここは過去だった。
思い出したくもない光景。
虫唾が走る。
(何故だ……さっきまであいつと……あいつ?)
自分で言った言葉に不信感を覚えた。
『あいつ』。
(誰のことだ……)
──蒼翔の記憶はだんだんと消えていく。
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炎の渦はしばらくして消え去った。
そして、全員無傷で無事だった。先程は熱い感覚に襲われただけで、実際には炎の渦なんかに飲み込まれていなかった。
しかし、空から何かがどサリと落ちてきた。
それは蒼翔だった。
「兄貴!」
「蒼翔っ!」
「蒼翔殿!」
すぐさま走って迎えに行ったのは光喜だった。
あと少し、蒼翔まで届くのにあと少しのところで、いきなり正面から吹き飛ばされた。
「『絶対障壁』!」
彼を囲うように薄いピンク色の膜みたいなのがまとわりついた。まるで、箱の中に閉じ込められているように。
すぐさま体勢を整えた光喜は、その魔法を使った犯人を探したが、どこにも見当たらない。
「クソっ!どこだ!出てきやがれ坂堂咲葵!」
「キヒヒっ!」
不気味な声しか聞こえてこない。
「松田光喜!危ない!」
しかし、その光優の忠告が聞こえた時にはもう遅かった。
光喜の周りにはもう既に『絶対障壁』がはられてしまった。
防御魔法『絶対障壁』。対象の周りに膜を張る。その膜の大きさによってその強度は変わるが、人間を囲う程度なら、ほぼ無敵の防御壁といってもいいだろう。超高等魔法には到底及ばないが、劣等生が使える魔法ではない。
その証拠に、囲われた光喜がいくら内側から短剣で切り刻んでも、傷すらつかない。
未だ身体の自由を奪われている光優には何も出来なかった。
つまり今、この場で動けるのは綺瞳だけだ。ちなみにもう双剣は消えており、手には何も持ってない。
それに、さっきはわけも分からず急に剣が現れただけで、今ここで出せと言われても出せない。
絶体絶命。
「……劣等生如きが俺に傷付けるからこうなるんだ……お前の目の前でバラバラにされる仲間を見てるがいい!」
「貴様ァァァァ!」
瞬間、綺瞳の身体が勝手に動き、光喜に張られている膜に叩きつけられた。そのまま身動きが取れなくなる。まるで全身を押さえつけられているかのように。
「やめて……苦しい……」
彼女の苦しそうな声が聞こえてくる。
その光景を光喜はただ見ていることしかできなかった。
「やめろおおおおおおお!」
「──聖剣エクスカリバー『第四形態』──」
どこからかそんな声が聞こえてきたのと同時に閃光弾を投げられたかのように眩く光る。ほんの1秒の光だった。
「なんだ……?」
彼が光に驚くのも束の間、別の驚きにかき消される。
膜に押さえつけられていたはずの綺瞳の姿がそこにいなかった。
「何故いないっ!?」
一瞬、咲葵の仕業かと思ったが、彼女自身が驚いているので別の人の仕業ということがわかる。
この場にいる人……蒼翔は膜の中で気を失っている。ということはつまり──
「──ミーのことを甘く見すぎだねぇ坂堂咲葵。ミーは《対剣魔士自衛部隊─梵天─》所属、天童光優。階級は兵長。これでもミーは元《毘沙門天》の兵長だ〜よ……」
そう言いいながらその男──天童光優は立っていた。
「あまり舐めるな──聖剣エクスカリバー『第一形態』──魔法『加速』!」
その手に剣が現れるのと同時に、魔法によって加速し肉眼では捉えられないスピードで光喜の膜の目の前に現れた。
そして剣を一振。
「そんなもので俺の『絶対障壁』が破れるわけ──」
剣を一振するだけで、『絶対障壁』が塵となって空気に消えていく。
「そんな馬鹿なっ!」
「本来なら防衛省の許可なしにこんな戦闘をしてはいけないんだけど、今は《対剣魔士自衛部隊》としてではなく、ミー個人として来ているからねぇ。ここからは本気でいかせてもらうよ?坂堂咲葵!」
「キヒヒ!キヒヒヒヒ!そもそも姿が見えないお前に何が出来る!」
「ふっ」
「なんだ!」
「姿が見えない……あぁ確かに姿は見えていないよ?今はね……?」
「何?」
──姿を自ら作り出せばいい。
──今の世界、想像したものが具現化する時代だ。
──ならば。
光優はその場で大きく跳躍をする。
「聖剣エクスカリバー『第五形態』!」
手に持っていた剣の形が徐々に変わっていく。その剣はまるで大きな掃除機のような形になった。
そして光優が手元のスイッチを押すと、ものすごい音を立てながら剣が周りの空気を吸い込んでいく。
「聖剣エクスカリバー『第六形態』!」
掃除機のような剣がまたその形を徐々に変えていく。次はただの丸い長い筒のようなものになった。
「具現化せよ!」
そしてその筒から大量の『想力分子』が放出される。
放出された『想力分子』は散らばることなく、集まり、ある形を作っていく。
やがてそれは足、手、頭、と人の形を作っていく。
──坂堂咲葵。そこに坂堂咲葵が現れたのだ。
「何っ!?」
「聖剣エクスカリバー『第一形態』!」
剣は元の形に戻る。
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
その剣は坂堂咲葵を切り刻んだ。
腕、足、顔、頭、腹、胸。全てが抉り取られる。
しかも、とてつもなく早い速度で。
光喜には一振りしかしていないように見えた。
空中から咲葵が落ちてくる。
「す、すごい……」
光喜は感嘆の声を上げるしかなかった。
すぐ側に光優が降りてくる。
「ふぅ……終わった終わった──」
「──誰が終わったと?」
だが、その光優の喉元には剣が突き付けられていた。
犯人は──先程倒したはずの坂堂咲葵だった。
「ほん……その眼は伊達じゃないということですね〜」
「貴様……どうやって姿そのものを消した俺に攻撃を当てた!」
「フッ」
笑った。鼻で。
「たとえ『異能力』であろうと完全に消せるわけではない。完全に消してしまったら死んでしまうからね。つまり、その体は何かしらの『分子』となって空中をさ迷っているということだ」
「だが!それだけでは俺を──」
「──具現化させればいい話」
「何?」
「見えなければ、具現化させればいい」
「何を馬鹿なことを──」
「今の時代想像したものが具現化する時代だよ?『分子』となって散らばったものを集めて、ミーの『想力分子』を使って具現化させた。それだけだよ」
つまり、咲葵は『異能力』の眼で自らの肉体を消した。しかし、完全に消えることなどありえない。何かしらの『分子』となって空中をさ迷っている。光優はその『分子』を集めた。そして集めた『分子』に『想力分子』をくっつけて空中に放す。『想力分子』は保有者の想像したものを具現化してくれる。『坂堂咲葵』という人物を想像し、具現化させた。というわけである。
「しかし貴様は動けないはず!」
「ん?あんなんでミーを動けなくしたつもりかい?あれはただ、坂堂咲葵。君のことを隅から隅まで見るためにわざと動けないフリをしただけ。具現化させるには君の情報を知っておかないとね」
「最初からこれを狙って!」
「……まぁ、君の眼の能力から逃れられたのはこの、刈星蒼翔殿の力によるものだけどね」
「なん……だと……」
「ちなみに、先程のミーと蒼翔殿の戦闘は途中からフェイク。君を騙す為にやっていただけに過ぎない。君の尾行に気付いていた蒼翔殿は、ミーに協力しろ、と魔法を使って伝えてきたのさ」
途中から、ということは最初は本気だったのだ。敵意剥き出しで向かってくる彼女に気付き、また蒼翔も光優のことを信じていた。まぁ坂堂咲葵だとは知らなかったが。
「……」
「……君は敵意を蒼翔殿に向けていたからね。迎え撃つことにしたんだよ」
「貴様ら……っ!」
「さて。ここからだよ坂堂咲葵」
光優が咲葵を蹴り飛ばす。
そしてその先には──
──気を失っていたはずの蒼翔が立っていた。




