春の襲撃編 27 「やぁ久しぶりだね〜」
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「ミーは《剣魔士特別自衛隊》隊長、壬刀遼光からの極秘任務により、刈星蒼翔──刀塚玄翔──の護衛を引き受けました、《対剣魔士自衛部隊─梵天─》所属、天童光優です」
その言葉に耳を疑った。
それは当然だ。今回《剣魔士特別自衛隊》も防衛省も関与しないはずなのだ。いくら極秘任務だからといって、蒼翔の私情で防衛省を動かせれるはずがない。
「どうやらミーのこと疑ってるようだね〜」
蒼翔の顔、目は完全疑っている表情をしていた。
疑うのは当然のこと。
「……当然でしょう」
しかし天童光優。どこかで名前を聞いた気が……。
「ん〜……なら、こうしよう。今からミーと勝負をしよう」
「は……?」
「不服そうだけど進めさせてもらうよ」
別に不服なわけではないのだが。
「勝負は簡単。世界最強様がミーを殺すだけ」
「……!?」
「ミーは動かないし、攻撃をすることもない。ただ、世界最強様に殺されるだけ。ミーが動いたら負け。ミーが動かずミーが死んだら世界最強様の勝ち。簡単でしょ〜?」
何を言っているんだこの人は。これでは自殺しにきたのと同じことである。この勝負は、勝ったにしろ負けたにしろ天童光優は死ぬ。そして、勝ったにしろ負けたにしろ蒼翔は天童光優を殺さなきゃいけない。
とても正気の考えとは思えない。
敵だとして、さっきの攻撃で逃げれないと悟って生きるのを諦めたのか。
味方だとして、頭が狂ってしまったのか。
天童光優の考えがわからない。
天童光優は味方なのか。
はたまた敵なのか。
「まだ、疑ってるね〜?」
「……」
これはもう。賭けに出るしかないようだ。
蒼翔は『灼屑』を片手に天童光優に近付く。
「決心してくれたようだね〜」
もちろん天童光優はピクリとも動かない。
蒼翔が剣を振ろうとした時。
「ぬおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「「ッ!?」」
蒼翔と天童光優の間に剣が割り込んでくる。ある女とともに。
蒼翔と光優はその剣が振られて起きた突風により斜め後ろに飛ぶ。
驚く暇も与えてくれない。
振り降ろされた剣が蒼翔目掛けて突進してくる。
咄嗟に蒼翔は『灼屑』でその剣の攻撃を耐える。
そして相手の攻撃はそこで一旦止まった。
「……ふぅ……いきなり乱入してくるとは。危ないですよ〜?」
「うるせぇ──」
相手の姿は砂埃で見えない。
だが、その声は確かに聞いたことはある。
「まさか……」
だんだんと砂埃が消え。
「貴様は……ッ!」
その姿が現る。
「坂堂咲葵……ッ!」
「やぁ久しぶりだね〜…………………蒼っち?」
その女、坂堂咲葵は不敵な笑みを浮かべた。いつもの眼帯を付けながら。
剣を持ったまま安定のフレンドリーな名前で呼んでくる。
「何故あなたがここにいる……ッ!」
「蒼っちそんなに固くならないで〜?敬語なんて使わなくていいんだよ〜?世界最強様?」
咲葵の最後の「世界最強様」という言葉。蘇るあの戦闘。
負けた屈辱。
いや、正体がバレた屈辱。
相手が『異能力』者?そんなこと関係ない。
正体がバレ、負けた。それだけが事実として残る。
蒼翔の目が変わる。
蒼翔の雰囲気が変わる。
蒼翔の表情が変わる。
彼は今精神状態があまり宜しくはない。情緒不安定と言ったところか。だから──
(まずい……ッ!)
──光優は蒼翔を見て全てを悟った。
彼の人格が変わることを。
ニヤリと咲葵が笑う。
「……それとなぁ蒼っち。……今まで死んでいった仲間達……ザマァねぇな!フハハハハハハ!」
「なんで……それを……ッ!?」
「さぁな?仲間を捨てた世界最強様?」
「……」
再びニヤリと彼女は笑う。
光優はその笑みに気付き、彼女の思惑を悟った。
「玄翔様っ!そいつの言葉を聞いてはいけない!そいつは世界最強様をわざと怒らせて、別の人格を表に出そうとしている!だから聞いてはいけない!」
だが、光優がそう蒼翔に語りかけている間に、咲葵は眼帯を外してポケットにしまっていた。彼女のもう一つの眼は、瞳は何も映してなかった。
言わば『無』。
その眼からは何も感じない。見られている感覚も見ている感覚も何もない。
その眼はギリッと効果音がなっているように感じた。
彼女の眼は光優をしっかりと捉えていた。
(なんだあの眼は……いや、今はそんなことどうでもいい!とにかく玄翔様を助けなければ!)
光優が咲葵を攻撃しようと、1歩前に踏み出そうとする。だが、彼の体は微動だに動かなかった。動かそうとしているのに動かない。
「キヒヒヒヒヒ!」
彼女が狂ったように笑いながらこちらに近付いてくる。ゆっくり、ゆっくりと。
「────」
光優は何かを喋ろうとした。だが、声が出ない。口から音が出ない。
(何故……ミーの何もかもが動かないっ!……呼吸は──)
しかし、呼吸だけは確かに出来ていた。
蒼翔を背に、咲葵は狂ったように笑いながら光優を蹴り飛ばした。彼は蹴り飛ばされたのにも関わらず声も出ない。起き上がることもできない。
またゆっくり、ゆっくりと彼女は笑いながら歩いてくる。
彼女の攻撃を防ぐことも、逃げることもできない。
ただひたすらに蹴り続けられる。
蒼翔はただ呆然と立ち尽くしていた。光優がひたすら蹴り続けられる光景など目に入ってこない。
(こんなところで──)
彼はその時決意した。
彼女──坂堂咲葵を殺すつもりで戦わないとダメだということを。
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蒼翔と咲葵と光優の戦いを遥か遠くから見る人物が2人いた。
1人は座っていてもう一人はその後ろで仁王立ちしている。
「これでいいのか?」
仁王立ちしている男が座っている男に話しかける。
「うん、いいとも。それより、こんなところにいていいのかい?中村悠軼君?」
悠軼は無言のまま、彼の話をスルーした。
「……今はとても大事な時だろう?《消える暗殺者》と刈星蒼翔が暴れたおかげで、防衛省は今大忙しのはずだけど」
「よく言うね……指揮監督は他の人に任せてある。それに今日は私は定休日だ。その呼び方はやめて欲しいんだが……」
「えー……じゃあ悠っち?」
「彼女の影響受けすぎだろう……それに合わない……」
「呼び方なんてなんでもいいのさ」
2人は会話をしている。だが、目線はしっかりと蒼翔達に向いている。
彼らは手助けする訳でもなく、ただ見守るのみ。防衛省大臣の悠軼が傍観しているのはマズいと思うのだが、彼はそれほど気にしていないようだ。
「それと……防衛省大臣の君が何の護衛も付けずにウロウロしているとは、防衛省も終わったものだねぇ〜」
「私に護衛など必要ない。表向きでは護衛を付けていないと問題になるから付けているだけさ」
「あまり嘘は好きじゃないのだけど……」
「……」
沈黙。座っている男からはただならぬ殺気が感じられる。
「……なんかのために護衛は連れてきている。君に危害は絶対に加えない」
「ふむ。ま、護衛なんてどうでもいいんだけどね」
一瞬にしてその殺気は消え失せた。表情には出さず心の中で安心した悠軼は、座っている男に背を向けてその場を立ち去ろうとした。
「もう行くのかい?」
「あぁ。私には刈星蒼翔のおかげで仕事が山ほどある」
彼はそう言い残してその場を立ち去った。
「……今日は定休日じゃなかったのかい」
(──嘘が得意な人だな)




