春の襲撃編 26 「──ミーも同じ想いをしたくない」
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《対剣魔士自衛部隊》。
世間に一般公開されている、《剣魔士》の警察。通常の一般警察とは少し異なる。
通常の一般警察は、一般の人間が起こした犯罪等を取り仕切る組織。これははるか昔から存在し、魔法・剣などを一切使わないことを原則としている。
《剣魔士》の警察は、《剣魔士》が起こした犯罪・テロ・事件等を取り仕切る組織。《剣魔士》というものが登場するのと同時に作られた組織。魔法に対して魔法で対応する。剣に対して剣で対応する。《剣魔士》に対して《剣魔士》に対応する。
そして《対剣魔士自衛部隊》は防衛省に所属している。
《対剣魔士自衛部隊》は14の部隊に分けられる。梵天、帝釈天、持国天、増長天、広目天、毘沙門天、弁財天、大黒天、吉祥天、韋駄天、摩利支天、歓喜天、金剛力士、鬼子母神の系14つ。
《対剣魔士自衛部隊ー梵天ー》。特に特徴がある部隊ではないが、14の部隊の中で強さは12番目といったところ。14の部隊の中では強い方ではないが、14の部隊の中での強さであり、一般的に見ると強いのは当たり前だ。そもそも《対剣魔士自衛部隊》は《剣魔士高校》卒業かつ《剣魔士自衛隊付属大学》卒業しないと入れない部隊だ。
《剣魔士自衛隊付属大学》というのは超難関大学と言われ、剣魔士が現れる前に存在した東京大学よりも高いと言われている。そして卒業するのも超難関と言われている。
《剣魔士自衛隊付属大学》は1学年定員500人。しかし、卒業時人数1学年100人程度。この100人には、留年している人数も含まれているので、留年しずにそのまま卒業した人数は当然ながら100人より下である。つまり2桁。それほどまでに難関なのだ。
その難関大学を卒業して初めて入れる《対剣魔士自衛部隊》。例え12番目に強いだろうと、相当な腕前でないと入れない。
14つの《対剣魔士自衛部隊》はそれぞれの場所に配置されており、『梵天』は兵庫県に本部を置いており、主に兵庫・岡山・鳥取で活動している。
「今日も、安心安全な平和な世界ですね」
「あぁ。まぁその分俺らの給料が減るがな」
『梵天』本部の1室で男と女はぐったりとディスクに持たれながら喋っていた。
今公務員というものはなくなっている。いや、一応あるのだが、その機能を成してはいない。公務員は普通、勤務しているだけである程度の給料は貰える仕組みだ。しかし今現在、財政難によりその制度はなくなり、成果をあげたものが給料を多く貰える制度になっている。
平和とは素晴らしく、美しいものではあるが、自衛隊、警察にとっては不満でしかない。
「まぁここ数年大きな事件は何もなく、あったとしても『警察』の仕事。俺ら『梵天』が出る事件はほとんどなくなってるからな」
「それもこれも、あの天童光優兵長が『梵天』に派遣されてきたからですよね」
「フッ……お前も天童光優兵長が好きなのか」
「はぁ?なんで今の流れでそうなるんですか?」
「天童兵長はなぁ……俺より弱いんだぞ」
「いやあの……ライン……あなた1回しか勝ててないでしょ……しかもそれマグレですし……」
「はっ!?うるせーなてめぇ!喧嘩売ってんのか!?あんな金髪モブキャラみたいな顔してる厨二変人のどこがいいんだよ!?」
「ちょライン!声がでか──」
「うるせ──」
次の声、音を出すことができなかった。
ラインの喉元には黄金に輝く聖剣エクスカリバーの剣先が当たっている。少し垂れる喉元の血。
「──今、ミーのことを話していたのかな?」
満面の笑み。それはもう満面の笑みとしか表せれない満面の笑み。
これはもう怒っている。完全に怒っている。
「こ……天童兵長……こ、これにはわ、わけがありまして……」
ブルブル震えすぎの声。嘘をつくのが下手くそである。
「ふ〜ん?わけか〜。聞かせてもらおうかなぁ〜」
「天童兵長ごめんなさい!ラインにはあとで言っておきますのでどうかご勘弁を!!!」
「まぁいいよ。今から来訪者が来る予定だから落ち着いておかないと気が持たない」
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数時間後。その来訪者は突如現れた。
光優が座って相手を待っていると、突如目の前に現れた。
「やぁ。久しぶりだね。光優?」
「もっとまともな登場の仕方はできないのかな……」
「なんのことかしら」
「ほんとビッチになったね遼光オバサン?」
瞬間、光優の頬スレスレ(当たって血が出ているが)を剣が通る。その剣は光優の後ろの壁を突き刺した。
しかし光優は驚いていない様子で。
「おっと失礼〜。遼光オバハンでしたっけ〜?」
もう1本通る。
「相変わらず冗談が上手いわね光優」
睨み合う2人。
沈黙の戦いが始まる。
だが、流石に耐えれなくなったのか、光優が喋り出す。
「遼光。それでご用件は何かな?」
「私もあまり時間が無いのでね。単刀直入に言わせてもらうわ」
なら登場してからすぐ言うべきだと思うのだが。あえてそれは言葉にしなかった。
「刈星蒼翔ー刀塚玄翔ーの護衛をお願いしたい」
「だけどそれは──」
「──誰も防衛省の力を借りるとは言っていないわ」
「何?」
「《剣魔士特別自衛隊》としてではなく、私一個人。天童光優の同期、──壬刀遼光──として、《対剣魔士自衛部隊ー梵天ー》天童光優兵長ではなく、天童光優個人にお願いしに来た」
中村悠軼により、防衛省は一切《剣魔士特別自衛隊》に関与しない、という条件を付けられた。これは破ってはならない守らなければならないルール。
しかし、遼光は今回《剣魔士特別自衛隊》として防衛省にお願いしに来たのではない。壬刀遼光個人として、天童光優個人にお願いしに来たのだ。たまたまお願いしに来た場所が《対剣魔士自衛部隊ー梵天ー》の本部の1室という、些細な問題である。……大問題だが。
「……理由を聞かせてもらおうかな〜」
「理由は単純。世界最強の彼を失いたくない。世界最強の彼を失えば、日本は大損害を受ける」
「じゃあ何故防衛省大臣様は動かないのかな〜?」
「……あの人の考えることなんてわからないわ。とにかく、光優にとっても世界最強様が失われるのは辛いでしょう?」
「別にミーには関係ないことだよ」
「光優──」
「──ただ。遼光がそこまで大切にする人を見捨てるわけにはいかないだろう?……もう2度とあんな思いはしたくはないからね」
「──光優!やっぱ大好き!」
抱きつこうとする遼光。
「気持ち悪いよその歳にもなって……」
それを華麗に避ける光優。
「あら。歳は一緒なのだけれど?歳一緒だし、相手いないのも一緒だし?」
「え、何。誘ってるのかな〜?1人で寂しいからって、ミーを誘ってるのかなぁ〜?」
「──話の続きをしましょうか」
急に落ち着いていつの間にか席に座っている遼光。光優もつられて座って話を聞く。
「ところで。この件、あなたはどこまで知っているの?そもそも私が持ちかける話自体、極秘なのだけれど」
先程蒼翔の護衛をお願いした際、光優は明らかに防衛省が関わってはいけないということを知っていた。悠軼と話をしたのは昨日だ。しかも名古屋。それを何故兵庫にいる光優がその極秘を知っているのだろうか。
「ふふ……僕を誰だと思っているんだい?」
いつもと変わらない笑顔。だが遼光にはわかる。その笑顔の裏にあるもの。
「あと、ミーは引き受けたとは言っていない」
「えっ?ちょっ!?」
確かに。
「今この状況で蒼翔殿の手助けしてミーに何の利点がある?またミーは飛ばされるのかい?」
「それは……」
「……あの子達はいい子達でね。ここもようやく居心地が良くなってきたんだ。──ミーももう同じ想いをしたくない」
その目は愛情が混じっている目であった。どうやらここでは上手くやっているみたいだ。少し安心した遼光がいた。しかしそれどころではない。
「それで。このミーの想いをも動かせるほどの利点があるのかい?」
「……私?」
「殺すよ?」
とてつもない満面の笑み。
と。光優の持つ端末に何かが送られてきた。宛名は遼光。前を見ると遼光が真剣な眼差しでこちらを見ていた。どうやらこれを見てくれ、らしい。
送られてきていたのは複数の調査資料。
(これは──)
「──へぇ〜……それは動かなきゃねぇ?」
こうして刀塚玄翔、刈星蒼翔の護衛極秘任務が遂行されたのであった。




