春の襲撃編 24 「──好きな人のために、私は戦う」
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緋里の居場所を聞いた次の日。
蒼翔はその近くまで飛んできていた。そう飛んできたのだ。まぁ文字で表すなら、跳んできたの方が妥当であるが、実際飛んでる方が長いので良しとしよう。
魔法『跳躍』を発動し、大きく跳躍する。そして、頂点まで来た時、横方向(進行方向)への『突風』を発動する。『突風』は指定した方向へ突風を起こす魔法。威力を調整することが可能。その魔法を使い、横への距離稼ぎをし、落ちてくる間に次の魔法の構築等を始める。
そして地面に着く直前で着地魔法『反重力』を発動する。通常地球には重力があり、人間は重力のおかげで歩けている。『反重力』は微量な重力を反対に上へ向けることで、落下スピードが大幅に減少するのだ。そして地面に着いた瞬間『跳躍』をして高く跳ぶ。
『跳躍』『突風』『反重力』のたった3つの簡易魔法だけで車より速く進める。
近くまで来ていた蒼翔は戦闘の体勢はできていた。
だから不意の攻撃にもすぐ対処できた。
南東から感じる『想力分子』の兆候。
蒼翔は瞬時に魔法『スモーク』と解析する。
──消えろ。
その魔法陣は現実に具現化することなく消え去った。
北西から聞こえてくる驚愕の声。
あらかじめ展開しておいた千里眼ならぬ『千里聴』により、声が丸聞こえだ。
今の蒼翔は先日までの彼ではない。力を半分解放している。
その彼に勝負を挑むなど地獄に落ちるようなもの。
『想力分子』を操る蒼翔にとって『想力分子』頼りの《剣魔士》なんて相手でもない。だが、『能力』となるとまた別だ。『能力』は『想力分子』とはまた別で、突発的な精神的な身体的な異常であり、『想力分子』が関わらないことがあるのだ。だが、今のところ確認されている『能力』は基本として『想力分子』を用いるものが多く、彼相手には手も足も出ない。だが、『空間』を操る《消える暗殺者》は『想力分子』を一切用いることがない。だから、蒼翔の『能力』でもなかなか太刀打ちできないのだ。
《消える暗殺者》にとってこの《剣魔士》はただの捨駒であり、蒼翔への少しでもの疲労を作ろうとしての刺客だろう。
蒼翔に魔法を放とうとした男は、何故魔法陣が消えたのかわけがわからず翻弄していた。その一瞬の隙が命取りとなる。
蒼翔はもうすでに男の目の前にいた。
男は蒼翔の横目と目が合う。
危機を察したのか、すぐさま『想力分子』で剣を作ろうとする。
だが、剣が作り終わる、具現化する前に、男は遥か彼方へ飛んでいっていた。男の目の前を横切りながら蒼翔は、『想力分子』の塊を男にぶつけたのだ。まるで野球のバットを振るかのように。
蒼翔は残念に思った。
男の今の判断は決して悪くない。むしろ《剣魔士》として素晴らしいと思う。心は揺らいでいたが、頭は冷静だったのだ。
あの一瞬で、男は魔法よりも剣の方が良いと判断したのだ。
実は確かに、あの状況で魔法を放とうとするのは下級剣魔士。いや、魔法に頼りまくっている魔法士だ。あの近距離の場合、魔法を放とうとする前に殴り飛ばされ、魔法を放つどころの問題ではなくなってしまう。無論、魔法を発動するより拳のスピードの方が速いに決まっている。
近距離の場合、短剣でもいいから剣を即座に簡単に作って、傷を1つでも小さくてもいいからつけるべきなのだ。
無様に殺られるか、傷を少しでも与えてから殺られるか。
男は《剣魔士》としてとても優秀なのだと思う。
だから、余計に捨駒に使ったのが許せなかった。
こんな優秀な未来ある《剣魔士》を何故捨てたのか。
(《剣魔士》の価値を……甘く見るんじゃねぇ……!)
まだこの時、蒼翔自身も含め、別人格蒼翔の恐ろしさを知らなかった。
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一方、光喜と綺瞳は先の見えない廊下を歩いていた。
ただ淡々と聞こえるのは自分達の足音のみ。だから、自分達以外の足音に敏感に反応するのであった。
「綺瞳ちゃん……」
「うん。見事に挟み撃ちにされてるね」
足音は1人分だけではなく、何人もの、数え切れない程の足音が前方と後方両方から聞こえてくる。
挟み撃ち。
確かにこの直線の道で、しかも横幅が狭い道では、挟み撃ちという戦法が1番効率的で、確実的な戦法だ。
しかし、どうやらこっちに向かってくる者は大して強くはない《剣魔士》達。綺瞳がどれだけ『想力分子』を操れるかはわからないが、《剣魔士学校》に入学ができていることからそこまで操れないというわけではなさそうだ。これならば光喜と綺瞳の2人だけでも太刀打ちできる。──相手に強敵が潜んでいなければの話だが。
だんだんと距離を詰めてくる敵達。
背中同士を合わせ、戦闘態勢を取る光喜と綺瞳。
「さぁ俺様の剣技を見せてやろうか」
「わ、私は少し自信が無いかな……アハハ……」
やる気満々の光喜と自信なさげの綺瞳。
だが、光喜はそんなこと気にもせず。
「さぁ行くぞ綺瞳ちゃん!助けに行こう!」
「……う、うん……!」
先制攻撃を仕掛けたのは光喜だった。
光喜側の敵は綺瞳側に比べ人数が多い。そして、光喜の得意分野は大人数の敵には有利なもの。
即座に光喜は無数の短剣を『想力分子』で作って、それを同時に発射する。急な攻撃だったのか、前の方にいた敵は戦闘態勢が出来ていた為攻撃を交わしたが、真ん中らへんからの敵は戦闘態勢をしていなかったからか、短剣をモロに受けていた。
1回目の攻撃で複数の敵が倒れて喜びを感じる光喜。
続けて2連射目。2回目など通用するはずがない。そんなこと光喜が考えていないはずがなかった。
2連射目。敵はもちろん「バカめ」と思いつつ防衛態勢をとる。
だが、その短剣は触れると同時に爆発した。
そんなにダメージは受けてはいない。だが、目眩しとしてはその効果は絶大だ。
光喜は2連射目を発射したのと同時に、残りの『想力分子』で剣を作る。その剣を手に、敵たちへ突進していく。
爆発が起きたのと同時、前方にいた者達からの断末魔が聞こえてくる。これは確かに命が消える時の断末魔だ。
「これは危ない」と危機を察知した時点ではもう遅い。
『想力分子』で加速しながら剣を振り回す光喜によって、次々と敵達は倒れていった。
その一方綺瞳は。
敵達の攻撃を耐えるのに精一杯だった。
あちこちから飛んでくる魔法、剣。それを避けるのに精一杯。
確かにこの学校に入学したとはいえ、それは半分親の権力によるもの。二刀流家は『想力分子』の保有量は少ない。だから、こんな大勢の《剣魔士》相手には勝てるわけがないのだ。
綺瞳は避けながら内心諦めていた。
だが、その時脳裏に浮かんだのは昔の日常。
蒼翔と緋里がいつも楽しそうに喋っているのを、綺瞳は隠れて羨ましそうに見ていた、あの日常。
──何故こんなどうでもいい時にそんな日常が浮かぶのか。
──いや、今だからこそ、か。
──私は蒼翔君のことが好きなんだ。
──好きな人のために、私は戦う。
──だから、こんなどうでもいい雑魚相手に諦める訳にはいかない。
綺瞳の足が前に進む。
何故か『想力分子』がたくさん集まってくるような感じがする。
何故か力が湧いてくる。
──いける!
その瞬間綺瞳の両手先が眩しく光る。
数秒光終わった後。
その両手には長身の剣が2本握られていた。
青く黄色に輝く剣。
綺瞳はもう何も感じていない。
体が勝手に動く。ただそれだけだ。
敵達が唖然とした瞬間、綺瞳が目の前から消えた。
消えたと思った時には他の誰かが次々とやられていく。
二刀流の剣を操る綺瞳は、華麗にステップや回転等し、まるでゲームの双剣使いのようにその長身の剣を操る。
次々とあっという間に倒れていく敵達。
綺瞳の方はものの数分で方がついた。
光喜とその敵達はその光景に見とれていた。いや、光景というより綺瞳に、だ。
綺瞳が長身の剣を操る姿はまさしく妖精のようなものであった。可愛らしく、美しく。
だがそんなものに見とれている暇はない。
光喜は体勢を整え、再び敵達を向く。
「じゃあ次はこっちの出番ですかい……!」
相手は所詮適当に集められた《剣魔士》。光喜は普通に倒していった。
お互いの敵が消え、一件落着した光喜と綺瞳は一旦その場で休憩することにした。
とは言え疲れているのは綺瞳だけであり、光喜はピンピンしている。
「綺瞳ちゃん……それって……」
聞こうか迷ったのだが、好奇心に負け、その両手に持っている剣について聞いてみた。
「んー……わからない。これがどういうものなのか、なんで剣を2つ出現させれたのか。あとさっきはなんか体が勝手に動いて……」
「そかそか。まぁ結果オーライだなっ!綺瞳ちゃんは休憩するべし!」
これ以上言及しても無意味だと、彼は悟った。
「わ、わかった……」
光喜と綺瞳はしばらくその場で休憩しようとした。
だがその時。
地鳴りと同時に大きく揺れ始め、壁や天井が崩れ始める。
綺瞳の悲鳴が聞こえ、光喜の驚嘆の声が響く。
崩れるとはいっても、その場で消えてくだけ。激しいのはその地震のような揺れだけである。
それが数十秒続きようやくその揺れが止まる。
光喜と綺瞳がゆっくりと目を開けるとそこは──




