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世界最強の劣等生剣魔士  作者: 高橋創将
春の襲撃編
24/49

春の襲撃編 23 「……怖い」

 ■■■


 今まで姉の緋里と離れたことは無い。無論、お風呂や授業の時等は離れているが、基本的に常に一緒に行動しているのだ。こんなにも長期間、離れたことは一切なかった。だから、疎外感というか、孤独感が蒼翔の脳内を占領していた。


 今は毎日食事も出て、お風呂にも入り、遼光が話をしに来る。話をしに来るとは言っても、一方的に遼光が喋っているだけである。蒼翔はそれを聞いているのか聞いていないのかよくわからない。自分でもよくわからないのだ。


 学校を休んでから数日。

 いつものように《剣魔士特別自衛隊》の自室に篭って自分を責めていた。

 そしてこれもいつものように、遼光がノックをして、返事も聞かずに即入ってきた。


 蒼翔は下を向き、遼光がどんな顔をしているのか知らないし、想像する余裕もない。だから、今遼光が悲しく、険しく、自分を責めている顔しているなんて知る由もなかった。


「……どう調子は」


「……」


 蒼翔は無論応えない。


「……単刀直入に言うけど、緋里ちゃんの居場所がわかったわ……」


「ッ!?」


 パッと蒼翔が遼光の顔を凝視する。

 これが初めて蒼翔が反応した動作だ。

 そして勢いよく立ち上がり、遼光に迫る。


「どこですか!?どこなんですか!?」


「お、落ち着いて蒼翔。教えるから。教えるから!」


 あまりにも夢中になっているのか、唇と唇がくっつきそうな勢いな為、遼光は慌てて蒼翔を離す。

 しかし、蒼翔はまだ興奮が抑えきれてない。


「教えるのはいいのだけれど……1つ、条件があります」


 蒼翔の目をしっかりと見て、覚悟を決めて言う。


「この件に関して、防衛省並びに《剣魔士特別自衛隊》は一切関与しません。つまり、ここから先はあなた自身の問題として、個人的な理由で動いた、ということにしてください。……ここから先の責任は全て、あなたに負います」


「そんなことはどうでもいい。早く教えてください」


 だが、蒼翔はそんなことはどうでもよかった。最初から防衛省や《剣魔士特別自衛隊》の力など借りるつもりはサラサラなかった。自分1人で行動し、解決するつもりだった。


 早く知り、早く向かい、早く助ける。


 蒼翔は今、そのことしか考えていなかった。


「……岐阜よ。正確な位置も割り出せているから『情報画面ネットモニター』に送信しておくわ」


 と言いながらポケットから『情報画面』を取り出して弄り出す。すぐに蒼翔のポケットに入っていた『情報画面』が鳴る。


 勿論、遼光から居場所が記されている地図が届いた。


 既に冷静を取り戻している蒼翔は、疑問に思ったことがある。


「遼光隊長。お聞きしたいのですが……どうやって居場所の情報を?」


「……わからないわ。私も防衛省から聞かされたのよ」


 そう、そう聞かれても遼光にはわからないのである。先日、中村大臣に呼び出され半強制的に従わされた時に教えられたのだ。遼光もその時「どこからこの情報を?」と聞いたところ、「遼光隊長。あなたが知る必要はありません」と返されたのだ。遼光にはここから先を聞く権利はない。


 蒼翔もまた、これ以上聞ける権利は世界最強だからといってもない。だから、これ以上は問い詰めることはしない。しかし、納得がいかないのは変わらない。


「……山奥ですか……それに、随分とわかり易い場所ですね」


 地図とは言っても古来の宝地図のような絵で書かれた地図ではなく、人工衛星から撮られた衛星写真の地図である。いくら度重なる世界大戦で日本の被害が酷くても、発展大国日本である。世界大戦が起きている最中でも、日本の技術力は向上する一方であった。


 遼光から送られてきた地図には、緋里と綺瞳が監禁されている(この時既に、蒼翔の頭の中には光喜は存在しない)場所が写っていたのだが、あまりにもわかり易い場所なのである。山奥は山奥なのだが、その建物がある場所の周りは少し平地になっている。


「さぁ?私には《消える暗殺者》の考えていることなんてわからないわ……」


「……《消える暗殺者》の考えていることなんて誰にもわかりませんよ……」


「そうね……」


 逆にわかった方が異常である。《消える暗殺者》の考えていることなんて誰にもわかりはしない。例え魔法を、『想力分子』を使ったとしても。


「さて、あなたはどうする?……冷静にななったことだし、改めて考え直したら?」


「いえ。自分は、1人で行きます」


「1人で」を強調したのは、防衛省も《剣魔士特別自衛隊》の力を借りないつもりだからだ。元々そういう考えではあったのだが。


 こんなもの、1人で簡単に潰せる。取り返せる。


「そう……」


「情報ありがとうございます。すぐに向かいますので。それでは」


(──ごめん。蒼翔……)


 冷静に歩いていく蒼翔の背中を見送りながら遼光は1人、自分を、中村悠軼を責めていた。


 ■■■


 薄暗い狭い部屋。天井近くにある小さな窓から差し込む微かな光が、部屋の中を舞う砂埃を照らす。その砂埃が目や鼻、口に入り込み、男──松田光喜は目を覚ます。


「……ッ」


 意識がまだ完璧に覚醒しないまま、起き上がろうとする。だが、勿論の如く体勢を崩して倒れ込む。頭を強く打ち、眠っていた意識が覚醒する。


「ここ……は……?」


 ゆっくりと起き上がりながら辺りを見回す。

 そこには1人の少女。綺瞳だ。

 その瞬間、意識がなくなる前の情景が頭の中に流れ込んできた。


「そうだ……ッ!」


 すぐさま綺瞳の近くに駆け寄る。


「おい!大丈夫か!?起きろ!」


「……ん……」


 体を揺すると綺瞳はゆっくりと目を覚ます。目を覚ますと言っても、目を開けるだけで起き上がろうとしない。いや、起き上がれない。


 綺瞳の両手足は縄のようなもので拘束されており、自由に動かすことができなくなっている。しかし、それに対して光喜は縄で拘束されることなく、何も無かった。だが光喜はそんなことを気にする程頭が回っていない。


「今縄解いてやるから!」


 光喜はすぐさま『想力分子』で短剣を作り、それで綺瞳の縄を切る。焦っているように見えて、丁寧に慎重に、綺瞳の肌を傷つけないように縄を切る。


 綺瞳は縄がようやく解けて楽になったのか、その場で仰向けで大の字になってしまう。女の子らしかぬ姿だが、光喜はそんなこと気にせず、ただ無事だったことに安堵していた。


「よかったー……怪我はないか?」


 と、光喜は珍しく男らしく手を差し伸べた。珍しく。

 綺瞳はニコッと笑うと、光喜の手を借りずに自分で起き上がる。


(ガーーーーーン)


 光喜が内心ガッカリしていることは綺瞳は知らない。珍しく男らしいことをしたのに可哀想ではあるが。まぁ光喜もまだ全身包帯を巻いていて、ミイラみたい、ということもあるのだが。


 綺瞳は起き上がり、服の砂埃をパッパッと払う。


「光喜君、ありがとう」


「パァァァ!」


 綺瞳が満面の笑みでお礼を言うと、光喜は先ほどのことが吹っ飛ぶくらい嬉しかったのか、擬音を声に出して喜んだ。


「ところで……緋里ちゃんは?」


「わからない。俺が起きた時には、俺と綺瞳ちゃんしかいなかった」


 そう。緋里がこの場にいない。

 光喜が起きた時には綺瞳と2人きりだった。


 ──何かがおかしい。


 確かに《消える暗殺者》の狙いは刈星蒼翔と刈星緋里である。だから、不要な綺瞳と光喜は別の場所で監禁、というのはわかる。だが、少し不自然な点がある。


 ──ならば何故私達も連れてきたのか。


 不要ならばそもそも連れてこなければいい。もし、見られたから、という理由ならば、その場で殺せばよかった。なのに綺瞳と光喜は監禁されていて、生きている。つまり、何か監禁しなければならない理由があるのではないのか。


 あの《消える暗殺者》が何も考えずに行動するわけがない。これには何か理由がある。


「綺瞳ちゃん?」


「あ、ごめんなさい。考え事をしていて……」


 彼女は急に襲われ連れ去られたのにも関わらず、至極冷静であった。


「まぁとりあえず、このドアぶっ壊して、姉貴を助けに行こうぜ」


 なんと男前な!と、一瞬思ったが、見た目がミイラなのですぐその感情は消え去る。


 見ると、光喜が持っていた短剣が、まるで英雄剣士の剣のような剣に変わっていた。


 元々《剣魔士》というのは、剣に重きを置いた戦闘をする者である。しかし、いつからか、魔法の方を重きに置くようになってしまった。そんな中でも、松田家は剣に重きを置く戦闘に力を入れていた。


 短剣を扱うことに長けている松田家。しかし今彼が持っているのは長剣。単純にドアを壊すために長剣にしたということもあるが、それとは別に彼は短剣の扱いも長けているが、長剣の扱いも人並み以上なのである。


 彼は剣に関してならば優等生でもおかしくない。しかし、彼は魔法を全く使えない。単純な魔法は使えるが少しでも複雑になると発動できないのだ。また、『想力分子』の保有量自体は劣等生の中辺りである。

 その結果、この学校では劣等生扱い。


(俺が……本物の《剣魔士》の戦闘というものを教えてやるよ……!)


 だからこういう力ずくの状況を彼は好む。


 頑丈そうなコンクリートのドアに向け、剣を振り上げ降ろす。


 降ろす瞬間に、剣に硬化魔法をかける。この時点で彼の『想力分子』は底が見えている。

 すると、いとも簡単にそのドアは破壊され、外に出れるようになった。


 煙埃に紛れ、ドアの外へ出る。

 そこは先の見えない廊下のようなものだった。周りは鉄のようなもので作られており、まるで研究所の廊下のようである。ドアから見て、正面と左右に道がわかれている。どの道にしろ、先が見えない。


「綺瞳ちゃん」


「どうしたの?」


「……怖い」


 ──かっこ悪い……。


 結局、そのまま正面の道に進んだ。

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