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世界最強の劣等生剣魔士  作者: 高橋創将
春の襲撃編
22/49

春の襲撃編 21 「手を出さないでくれるかな?」

 ■■■


 ──殺す。


 そして、


 ──助け出す。


 《消える暗殺者》を殺し、緋里や綺瞳を助け出す。必ず、絶対に。


 蒼翔は1人、《剣魔士特別自衛隊》の自室で自分に言い聞かせていた。


 ■■■


 松田家本拠地。

 松田家は《剣魔士学校第1科》から約5kmのところの住宅街に本拠地を置いている。住宅街に一際目立つ屋敷は、《与えられし名》とほぼ変わらぬオーラを醸し出している。


 敷地内に入るための巨大な門。その門をくぐり抜けるとすぐに玄関が姿を現す。庭が無いこの屋敷だが、不自由なことは何一つないため、庭を作るつもりは一切ない。これでいいのだ。


 そんな屋敷のある一室。松田家当主松田光牙まつだこうがが経済面の資料を見ていると、慌ただしく廊下からノックもしずに1人の使用人が入ってきた。


 普通なら当主の部屋にノックもしずに入ることなど無礼にも程があるのだが、松田家の場合そんなことは気にしない。光牙は上下関係などというものを嫌う人間だからだ。


「失礼しますっ!」


 光牙は入ってきたことに驚くことはないのだが、その慌ただしさに何やら不吉な予感を感じていた。

 手元の資料を見るのをやめ、使用人に向きを変える。


「バン。どうした?そんな慌ただしくして」


 バンと呼ばれた使用人は息を整えながら報告する。


「光喜殿が、ハァ、誘拐されました!」


「……」


 父親なら心配したり、慌てて警察に電話をかけたりするのだが。


「冗談はよせ」


「今回は冗談じゃありません!」


「また戯けを……もう騙されてたまるものか」


 どうやら、松田光喜は今までに何回も偽誘拐をされているようだ。

 確かにそんなことがあれば、今回も疑うのが普通だろう。


「『情報画面ネットモニター』を見てください!──検索、『名古屋西・住宅街テロ・ニュース・動画』」


 バンが『情報画面』を使い先程起こった事件を検索する。

 すると、数秒もしないうちにニュースが流れる。


 ──速報です。先程、名古屋西の住宅街でテロが発生しました。犯行に及んだのは過激派犯罪組織『バダリスダン』であると警察側は報じています。死者数30人、行方不明者50人です。警察は、過激派犯罪組織『バダリスダン』は辺り一帯の住宅街を爆破させたものと見て、『バダリスダン』リーダーである大黒龍おおぐろりゅうを全国指名手配しました──えぇ今入ってきた情報です。このテロ事件で、『バダリスダン』は松田家と二刀流家のご子息を誘拐した、と声明を出しています。警察は、この事件を──


 そこでブツリと『情報画面』が切れる。


「ふざけるなッ!」


「どうされますか──」


「決まっている!全力で息子を取り戻すだけだ!」


 と、光牙が命令すると使用人が威勢よく返事をして部屋を出てこうとする。

 ドアノブに手を掛けてドアを開けようとした時。

 ドアの向こうから何者かによって開けられた。

 バンは反射的に後方に退り光牙を守る体勢に入る。その手にはしっかりと短剣が2本握られていた。


 ドアの向こうには《剣魔士高等学校第1科》の《劣等生》の服を着て、古来から伝わるお福さんのお面を付けている小柄な男だった。

 顔の表情はわからず、どこから入ってきたのかもわからなかった。

 こいつは一体何者なのだろうか、というのが光牙の第一印象だった。


「あなたは一体何者ですか?光喜殿ではありませんね?」


 《剣魔士高校》の制服を着ていてここにいる、ということは光喜の可能性が高い。だが、この者は違う。松田光喜ではない。違う何者かだ。


「初めまして。僕は──《消える暗殺者》と呼ばれる者です」


「「ッ!?」」


 息を呑む。

 松田家は《消える暗殺者》という名前は知っているのだが、その姿等は何も知らない。そこまで松田家は情報に優れているわけではない。《与えられし名》のように国から情報が回ってくるわけでもない。自力でなんとかするしかないのだ。


「今回、松田家時期当主、松田光牙殿のご子息の松田光喜殿を誘拐させていただきました」


「どこから入ってきた!」


「おや。僕が誘拐したことに驚いてないようですね。せっかくご丁寧に挨拶をさせてもらおうとしたのですけど」


「ふざけるのもいい加減した方がいいぞ。もう既にニュースになっている。……そうか。お前が俺の息子を誘拐した張本人か。わざわざ出迎え感謝する。こちらもお前に用があったからな」


「フ〜ン。まぁいっか」


 堂々と無防備で中に入ってくる《消える暗殺者》に警戒心を解かない。別にこちらか攻撃を仕掛けてもいいのだが、向こうの攻撃手段というものを知らないので下手に手出しはできない。バンはいつでも攻撃できる体勢にする。


 《消える暗殺者》は中に入ってくると、来客用の椅子に足を組みながら座る。そして貧乏揺すり。行儀が悪い。


「面倒臭いから本題言うよ」


「要求は何だ」


「──今回、この件に関して手を出さないでくれるかな?」


「戯けをッ!」


 光牙の怒りに『想力分子』が反応し、少し空間が揺らぐ。それは『異能力』を持つ《消える暗殺者》がわかるぐらいの。


 光牙が怒るのも当たり前だろう。

 自分の息子が誘拐されたというのに、手を出すなと言われたのだ。つまり、息子を見捨てろと。そんなこと父親である光牙ができるわけがない。


「いや、別に息子を見捨てろって言ってるんじゃないんだよ。難しいんだけどねぇ──必ず息子は帰ってくるから、帰ってくるまで手を出すな、てとこかな」


「何を言って──」


「──必ず息子は帰ってくるから、帰ってくるまで手を出すな、って言ってるんだよ?聞こえないのかな?」


「……」


 聞こえている。

 どうやら反論は許さないらしい。もしここで反論したならば、即座に松田家は壊滅するだろう。いくら《消える暗殺者》の情報が無いからとて、考えればわかることはわかる。消える暗殺者とでも呼ばれているからには、その異名の通りの力を持つ者には違いはない。そして、未だに捕まっていない、国際的犯罪者ということから、自分達松田家では太刀打ちできないと容易に考えられる。


 《消える暗殺者》の機嫌が損ねる。お面のせいで表情が見えず、またそれが恐怖なのだが、眉間にシワを寄せていることは間違いないだろう。先程までとの声のトーンが明らかに違う。


 さてどうすればいいものか。

 会ったばかりだし、国際的な犯罪者ということもあり信用はできない。だが、手を出せば息子を助けることもできずに殺されるだろう。自分の命と引き換えならばともかく、《消える暗殺者》はほぼ確実に息子も殺すだろう。


 ここは無難に見守るしかないのだろうか。

 それとも、《消える暗殺者》の忠告を無視して助け出すのに全力を尽すか。


 メリット・デメリットの事を考えれば前者の方がいいだろう。後者はデメリットしかない。

 前者は知的に考え、後者は親心で動く。両方は絶対に無理だ。


(俺は松田光喜の父親、松田光牙だ。そして、松田家の当主でもある。だから──)


「──わかった。今回のこの件に関して、松田家は一切関与しない」


「光牙殿正気ですか!?」


「バン。俺は光喜も松田家も守りたい。その為には、今ここで《消える暗殺者》の言う事を聞くのが得策だと考えたまでだ。反論は認めん」


「……ッ!」


「さて。松田家当主様の了解も取れたことですし、僕はここでおいたまします」


 《消える暗殺者》が立ち上がり帰ろうと背を向けた時。

 バンが口を開いた。


「本当に光喜殿を無事に返していただけるんでしょうね?」


「……えぇもちろん。僕は息子さんに手を出しませんよ」



 ■■■


 二刀流家別荘。

 二刀流家の本拠地は東京にあるのだが、娘の為にと今はわざわざ名古屋に別荘を建てていた。別荘とは言ってもそこまで大きな屋敷ではなく、一般家庭と同じような家である。新築な鉄骨構造のずっしりとした2階建ての一軒家。


 二刀流家当主二刀流能満にとうりゅうあたみは入学祝いにと別荘に訪れていた。基本東京の本拠地から動かない能満だが、娘に溺愛している為、娘に関してのことなら何でもする親だ。


 二刀流家代々の中でも能満の『想力分子』の保有量はハンパではない。とは言っても、二刀流家の中では凄いというだけであり、一般から見たら《優等生》のである。その結果、能満は末っ子ながらも二刀流家当主の座に就いたわけだ。


 なぜ本拠地を首都である名古屋ではなく東京なのかというと、東京の方が情報が集まりやすいからである。首都が変わったといっても全企業が名古屋に移れるわけではない。未だ半分以上の大手企業が東京に本社を置いている。国としても予算があるわけではないし、今も尚借金を大量に抱えている借金大国なので、名古屋を前の首都である東京のようにはいかないのだ。それならば何故首都を名古屋に変えたのか。それは極一部の人間しか知らない為、情報が回ってこない。この二刀流家でさえその情報は掴めないのである。

 その残った数多くの企業はIT・情報関係が多い。


 二刀流家が二刀流家となれたのは、数々の家が名古屋に移り変わる中移り変わらなかった、当時の当主の考えがあってこそである。だからこれからも本拠地を変えることは無いし、情報という情報を全て手に入れる。

 能満は自分の考えは間違っていないと断言している。


 今日は入学祝いサブライズパーティーということで、ちょっくら家の中を改造している。能満はせっせと使用人30人ぐらいと一緒に掃除をしたり家の中をデコレーションしたりしている。


 金髪のショートに青色の目。スラリとした体にありえないほどの豊かな胸。その体にフィットしたドレスが豊かな胸をさらに強調させる。綺瞳と同じく優しそうな人だ。


 能満はドレスの端をつまみながらパーティーの準備をしている。その調子だといつか転びそうだ。

 そんな働く能満に使用人が、


「能満様!大切なドレスが汚れますのでどうかお休みに!」


「何言ってんの!?私の可愛い娘の入学祝いなの!私が働かなくて誰が働くのよ!」


(((((使用人の自分達ですが!)))))


 このままだといつかドレスは汚すだろう。今のうちに替えのドレスを用意しなくては、と思う使用人達であった。

 使用人達は使用人らしく使用人になりたい、と願っている。


 当主がこれだと不安かもしれないがそんなことはない。能満がこんなんなのは娘に関わることぐらいで、仕事のことになるとこの真逆である。それはそうだろう。仕事もこんなふうにしていたら二刀流家が消滅してしまう。


 逆に言えば、能満がやってしまうと自分達使用人の仕事が無くなってしまう。それは困る。非常に困る。仕事を奪わないでほしい。


「……言っても仕方無い。能満様は親バカだからな」


「「「「「「(コク」」」」」」


 1人の使用人の言葉に全員頷く。

 こんな羨ましい主従関係。

 だが全てぶち壊される──ある者によって。


「──能満様ッ!」


 1人の使用人が叫ぶのと同時に、能満に前に防御体勢で構える。

 使用人の目の前には不気味な者が立っていた。男か女かわからない。非常に不気味である。


 《剣魔士高校》の服装にお福さんのお面を被っている。服装は綺瞳と同じく《劣等生》。だが、雰囲気からは《劣等生》という感じがしない。いや学生という雰囲気すらない。


 1人の使用人が気付いたおかげで、今全員が戦闘体勢である。

 不審者は全て殺す──それが二刀流家の使用人に与えられた使命。

 仲間だろうと味方だろうと怪しければ殺す。情報を盗み出されたことになんてなったら、二刀流家が終わる。だからこの使命は絶対に果たさなければならない。


 この者を生かすわけにはいかない。


「やぁ──」


 と不気味な者が喋り出すのと同時に、まるで一言も喋るなと言わんばかりに魔法を放ってきた。


「ッ!?」


 だが攻撃は当たらなかった。よけた、のではない。

 魔法ごと身体がその場から消えたのだ。それはほんの一瞬。だがその一瞬は、一瞬には思えなかった。


 魔法を放った使用人は驚きを見せたが、すぐさま冷静を取り戻す。さすが使用人と言うべきだろう。

 攻防両方できる体勢にする。

 今のだけでこの者が何者かわかった。


「──《消える暗殺者》ッ!」


「手荒い歓迎ありがとうございます。どうも、世の中から《消える暗殺者》と呼ばれている者です」


 《消える暗殺者》は気持ち悪い口調でそう言った。


 二刀流家が《消える暗殺者》の事を知らないわけがない。

 だから全員が狂人のような獲物を狙う目付きになる。だから全員が今すぐ殺したいと思っている。


 だがすぐさま能満からの静止がかかる。

 能満が右手を伸ばして「これ以上はやめろ」と言われ、使用人は冷静さを取り戻す。


「《消える暗殺者》。私に、二刀流家に何の用?情報が欲しいの?そんなかたくならずにね」


「やっぱり能満さんには敵いませんね……情報も欲しいですが、今回突然訪問したのには他でもない娘さんについてのこと」


「綺瞳?」


「えぇ。能満さんはもう耳に入っているでしょうが──誘拐──させてもらったよ?」


 お面越しだが、ニッコリと笑っているのが想像付く。


「能満様……?」


「あれ?あなた達に話してなかった?綺瞳は現在、《消える暗殺者》に誘拐されてるのよ」


「「「「「「なッ!?」」」」」」


 使用人の視線が全部能満に向く。

 それは当然だろう。娘が誘拐されているというのに何故そんなに呑気なのだろうか──この親バカ能満は何故呑気にパーティー準備などしていたのだろうか。

 それを問おうとしたのと同時に、それを察したかのように


「──このパーティー準備は綺瞳が帰ってきてからの準備よ。それに私は食事の準備をしてって言ってないわよ」


((((((ッ!))))))


 確かにそうである。一言も言われておらず、逆に準備しなくていいとまで言われていた。しかし使用人。いくらしなくてもいいと言われても念の為準備するのである。


「帰ってくるか心配?大丈夫よ──綺瞳は帰ってくるわ。ね?《消える暗殺者》」


「ん?あぁうん。そうだね」


 突然振られ、話を聞いていなかった《消える暗殺者》は適当に返した。

 その自信は一体どこから出てくるのだろうか。それもまた能満は答えてくれる。


「──刈星蒼翔」


「──」


「綺瞳と同じく1年生の《劣等生》。しかし、前代未聞の異例の試験結果を出したとして有名。1部噂では《優等生》ということを隠しているのではないか、と。《学力》《冷静な判断力》が学年最下位。それに対し、《剣術》《『想力分子』の操作》学年1位。その結果、《劣等生》主席となった。──そんな彼の双子の姉は《優等生》主席。つまり、この学年の《剣魔士》の頂点に君臨する者。どうやらその子も誘拐したそうじゃない」


 二刀流家が刈星蒼翔という人物の事を知る事は容易いことである。刈星蒼翔という男の情報を次々に言うにつれ、《消える暗殺者》が笑っているように見えた。


 だが、二刀流家でさえ刈星蒼翔が刀塚玄翔であるという事実は知り得れない。情報が回らないようになっているからだ。それが《剣魔士特別自衛隊》。


「さすが能満さん。僕が説明しなくてもいいね」


「フフフ……そして刈星蒼翔が助けに行く。あなたは刈星蒼翔が助け出すと見込んでいるからここに来たのでしょう?──手出ししないでくれ、と」


「いやぁー参ったね。全部お見通しだねぇ。まぁ大体はそんな感じだよ。手を出さないでくれるとこちらとしては有難いんだけど」


「わかってるわ。だからこうしてパーティーの準備をしていたんじゃない」


「……これは来る必要なかったね。時間はたっぷり貰うけどね。じゃあ僕は失礼するよ。──楽しみにパーティーを」


 その言葉とともに《消える暗殺者》は消えた。


 沈黙の中、能満はドレスの端をつまみながら歩く。


「よろしいのですか?」


「あのを信用しなさい?あのは私の娘を殺しはしないわ」

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