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世界最強の劣等生剣魔士  作者: 高橋創将
春の襲撃編
20/49

春の襲撃編 19 「とても──不愉快です」

 ■■■


「面白くないな──」


 蒼翔達と戦闘をした次の日、つまり入学式から3日目の夕方、咲葵は珍しく生徒会室に向かうべく廊下を歩いていた。正直、咲葵は生徒会室に行くことが少ない。咲葵には仕事が回ってこないからだ。副会長だから役目が回ってくるかと思うが、何故か咲葵には仕事が回ってこない。


 咲葵は今日いつもより面白くない生活を送った。

 原因は、刈星蒼翔と刈星緋里が学校を休んだ事にある。別に休むのは仕方が無い。だが、噂によると昨日のテロ事件が関与しているとのこと。情報を聞き出そうとも、二刀流家の次女も今日は休み。何もわからないのだ。


 咲葵は蒼翔はいい遊び道具になる、と思っていた矢先いなくなったのだから面白くないに決まっている。

 咲葵はトボトボと生徒会室に向かった。


 生徒会室に入ると当然の如く生徒会全員が揃っている。咲葵が入ってきた時、全員が咲葵を見て「マジか!?」というような顔をしていたがすぐさま仕事に戻る。

 だが、愛歩だけは違った。


「咲葵ちゃんどうしたの?珍しわね」


「いや、今日は来たい気分だったんだー」


「へぇー。それで?来たからには何か理由があるのでしょ?」


「えぇ。刈星蒼翔と刈星緋里についてですが。今日学校を休んだと聞いたんでー」


「あぁそのこと。あと確か、同じクラスの松田光喜君と二刀流綺瞳ちゃんも休みみたいね。それと──ミイナ先生も」


「え……!?」


 咲葵とミイナは昔からの中だ。だから内心、今日ミイナが休んでいたことに気付けなかった自分を責めている。

 それに、偶然が多すぎる。


 昨日テロ事件のあの場にいた人物として、刈星蒼翔、刈星緋里、二刀流綺瞳、松田光喜、犬界ミイナとされている。そして今日、その全員が学校を無断で欠席した。


 警察に重要参考人として連れてかれるなら、ミイナから何か連絡があるはずだ。だがその連絡は一切ない。そもそも、警察が駆け付けた時には誰もいなかったと言う。


 全員、失踪したのだ──


「偶然、かしらね」


「剣採。《与えられし名》の中での噂によると、《剣魔士特別自衛隊》が動いているらしい──つまり、国が動いている、と」


「あら、そんな噂私の耳には届いてないんだけど」


「それはお前が信用されてないからじゃないか?」


 その言葉は愛歩の胸に突き刺さった。「グワッ!」と刺されたような演技をするが、それを無視し、


「とにかく坂堂。これ以上深く関わらない方が身のためだ。《与えられし名》として忠告する」


 杁刀は善意の思いで言ったつもりなのだが──


「──余計なお世話だー。らいらい先輩もこれ以上《与えられし名》とか」


 その表情は怒り、


「俺の目の前で」


 その表情は憎しみ、


「言わない方が」


 その表情は復讐、


「──身のためですがー?」


 に満ち溢れていた。


 ■■■


(くそっ!)


 咲葵は誰もいない廊下をトボトボと歩いていた。

 途中あったゴミ箱を蹴り飛ばし、壁を殴って手を痛めたり。


(《与えられし名》の何が偉いんだよ!所詮地位だけのゴミクズ共が!)


 怒りに任せる。


 《与えられし名》は所詮与えられし名。与えられただけのゴミクズ集団だ。


 それの何が偉い。

 それの何が強い。


 国からチョロっと言われたからって調子に乗りやがって。所詮は名前だけ、地位だけの代物に過ぎない。名前など関係ない。力の強さなんて関係ない。

 だから国から奨励される奴らは嫌いだ。特に──刀塚玄翔は。


 強いのは俺だ。

 賢いのは俺だ。

 世界最強に勝ったのは──俺だ。


 世界最強に勝った時は嬉しかった。楽しかった。

 やっと屈辱を果たせたと思った。

 けど違った。

 何か違う。

 復讐はまだ終わっていない。まだ続いている。


『異能力』なんて関係ない。

 こんな『異能力』なんていらない。消えてしまえ。

 役に立たない『異能力』なんて──


(──結局、俺はこんな『異能力』を持っていても意味がない。仲間1人守れない『能力』なんて──)


「──坂堂咲葵──」


 どこからか不意に名前を呼ぶ声がした。どこからかはすぐにわかった。

 だが、身動きが取れない。

 今、咲葵の首元には剣が突きつけられている。これ以上動いたら首を撥ねられて死ぬだろう。いくらバカな咲葵でもそのくらいのことはわかる。


「貴様は誰だ」


「さぁね。でも、君の大好きな犬界ミイナ先生の居場所を知っている人物だよ──」


「何……!?」


 その声には聞き覚えがない。

 しかし、この人に頼るしかない、と咲葵は思ってしまった。

 大好きなミイナがいる居場所を知っている人物。そんな人物を疑うよりも先に早く教えて欲しいくらいの気持ちだった。


「助けに、行きたい?」


「あぁ!」


 顔は見えない。いや、体がどこにあるのかわからない。

 剣は見える。だが、それを持っている人物の姿は謎の黒いモヤモヤによって見ることができなかった。

 しかし、信用できる。何故か、信用できる。だから堂々と返事ができた。

 咲葵の言葉を聞いて謎の人物が笑ったように聞こえた──


「じゃあ教えてあげよう」


 謎の人物がミイナの居場所を言った。

 本当かどうかなんてわからない。けどいい。それでいい。


 ──次の日から坂堂咲葵もまた、学校に来なくなった。


 ■■■


 《消える暗殺者》突然の襲撃の日。

 《剣魔士特別自衛隊》隊長──壬刀遼光は名古屋にある防衛省の大臣室に来ていた。


 現在の防衛省は、陸上自衛隊・海上自衛隊・航空自衛隊・国家公安委員会(警察庁)・公安警察を管理・運営をしている。国家公安委員会(警察庁)は元々1つの省としてやってきていたのだが、つい最近防衛省が吸収した。国家公安委員会が吸収されたことにより、警察庁は自然と吸収され、警視庁・公安警察・公安調査庁までもが吸収された。つまり、現在の防衛省というのは『日本』を守る為の組織、『日本』国内を取り締まる組織全て合わせて防衛省ということになっている。


 そして現在その全てを操れる者、防衛省大臣──中村悠軼なかむらゆういち。今年で36歳と大臣にしては若すぎる年齢。感情をあまり表に出さない男である。そのせいか何を考えているのかわからない。


 何故遼光が防衛省に来ているのか。それは先程起こった《消える暗殺者》襲撃のことについてだ。

 遼光は悠軼の事が少し苦手である。


「──久しぶりです。遼光隊長」


「お久しぶりです中村大臣」


 無表情の睨み合い。


「今日は良い天気でしたね。それと良い轟音でしたよ」


「そ、そうですね。それはよかっ──」


 バン!

 と音が鳴る。

 悠軼だって《剣魔士》だ。『想力分子』ぐらい操れる。


「──遼光隊長。ふざけるのもいい加減にして欲しい。私はあなたが信用できると思って預けたのです。たった1人の男に感情が揺さぶられ、何世帯も潰し、死者数は今わかるところでは30人──裏切られたものです」


「すみません。私の監督不足です」


「いくら《消える暗殺者》が来たとしてもあそこまでなるとは……がっかりです。戦闘する権限が与えられてるとはいえ、一般市民に被害が及んでは意味がありません」


 至極当然のこと。

 刈星蒼翔及び《剣魔士特別自衛隊》は己の判断で戦闘を行うことを許可されている。しかし一般市民を犠牲にしていいはずがない。軍人、国の人間なら当たり前のことだ。


「申し訳ございません」


 遼光には謝ることしかできない。《剣魔士特別自衛隊》の隊長だ。頭を下げるのも隊長の役目だ。


「えぇそうですね。あなたの責任です。ですが」


 悠軼はゆっくり立ち上がり、遼光の目の前に立つ。


「防衛省はあなた方《剣魔士特別自衛隊》を裁きはしません」


「それはつまり──」


「えぇこの事件は、過激派犯罪組織『バダリスダン』が起こしたテロとして処理します。これは防衛省独断ではなく、国の命です。あなた方が責任を取ることはありませんよ。よかったですね」


「……」


 いいわけが無い。完全に刈星蒼翔──刀塚玄翔がやったということを隠蔽するための上からの圧であろう。幸いにも、刀塚玄翔という人物の顔は公開されていない。つまり誰も顔を知らない。例えあの場で顔を見られていても、それは刈星蒼翔であり、刀塚玄翔ではないのだ。だからこそ、これはテロによるものだと処理するのだろう。


「まぁ《剣魔士特別自衛隊》の皆さんには国として恩があるわけですし、これで恩返しということにしたいということです」


 確かに《剣魔士特別自衛隊》は国に貢献している。それは国に感謝されてもしきれない程のことだ。つまり、国はもっと《剣魔士特別自衛隊》を賞賛するべきだ。だが、遼光達はそう思わない。


 自分達は好きでやっていることなのだ。

 自分の住む国を守ることなど、国民として果たすべき義務だと思っている。それに、遼光達はそれなりの力を持っている。使わないのは損だ。見返りの為にやっているわけではない。


「これからも頑張ってくださいよ?この国のために」


「わかっています」


 この男はやはり嫌いだ。


「何か不満でも?」


「いえ何も」


「ならいいのです。話少し変わりますが、刀塚玄翔──刈星蒼翔君は大丈夫ですか?」


「先程会ってきましたが、今は誰とも話せる状況ではなく……」


「そうですか。それは良い成長が期待できますね」


「……お言葉ですが中村大臣。少しは蒼翔の気持ちも考えてくださいませんか?蒼翔も辛い思いをしているのです」


「そうですね。確かに辛い思いをしているようですね。でも、それは誰のせいでしょうか。自分自身が起こしたことでしょう?それに、私は同情なんていう胡散臭いものはしません。遼光隊長、現実を見なさい。刈星蒼翔はまだまだ未熟です。ですがこの国、いえ世界にとっての危険人物。少しでも機嫌を損なわせれば世界は──パーン──。それ程の力が彼にはある。遼光隊長、同情してどうするのですか。同情し、その思いが『想力分子』に表れ、暴走したらどうするのですか?もしそのようなことがあれば、防衛省は全力で潰しにかかりますよ。たとえ世界最強を殺すことになろうともね」


 悠軼は外を眺めている。壊れ、破壊され尽くした住宅街を。

 悠軼は冷たい。

 悠軼はこういう人間だ。


 遼光は歯を食いしばっていた。だが、全く反論ができない。反論が、できない。

 防衛省大臣に中村悠軼は合っている。現在の防衛省大臣はこのような人間でなければ務まらない。


「……刈星蒼翔。日本はとんだ問題児を抱え込みましたね。とても──不愉快です」


 遼光が悠軼を嫌いなように、悠軼は蒼翔が嫌いだった。

 遼光はブチ切れそうになる。自分の息子のような存在の子を侮辱しているのだ。


「何が世界最強なのでしょう。脳味噌は幼児みたい──」


 窓ガラスが全て吹き飛んだ。

 頭に響く音を立てながら吹き飛んでいく。周り全ての音を遮断するように。

 風が吹き、室内の資料等が室内を舞う。


「中村大臣。それ以上の蒼翔への罵倒は許しません。あなたが防衛省大臣だとしても、人間として許せません。私の大事な家族の1人を………けなさないで──」


「──フゥ……この窓ガラス結構高いんですが。後で請求するので今は置いておきましょう。ですが壬刀遼光隊長。あなたは──とても愚かです」


 その顔は悪魔の如く笑っていた。

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