〇一
朝食の光景も、昨夜と同じくにぎやかなものだった。
半分以上は昨日の残りものだったけど、元の料理が美味しいので問題はない。
それに炊き立てのご飯が加われば、もう言うことはなかった。
にぎやかにしているのは、やっぱりキロクだったけど。
さっきまでは、そのまま眠ってしまいそうな状態だったが、いざ朝食が始まると目を爛々と輝かせて食事に勤しんでいる。
(こいつは、なにか食べている時が一番幸せそうだな……)
動作はのそのそとして、どことなく大きな牛のような印象のキロク。
しかし、体格からわかるように三人のうちでは一番体力も腕力もある。
そのせいか入学当時は柔道部をはじめ、色んな運動部から勧誘を受けていた。
ただ、気性というのか性格的に合わなかったらしい。
だから、こうしてゲンやん、セーハチといるわけだが。
セーハチは相変わらず、しつこいくらいに食べ物を噛んでから飲み込んでいる。
ゆっくりしているのに、食事時間は短いわけでもない。
平和な食事風景が、ちらりと聞いた崖崩れの話とひどく剥離しているようで、
(変な感じだなあ……)
そう考えてしまうゲンやんだった。
だから、だろうか?
「朝から車が走ってますけど……。崖崩れがあったとか?」
ゲンやんは、なんとなくそのことを話題に出していた。
「ああ。アレなあ。いやあ、まいった! 時間のおかげか、ケガ人にはなかったらしいけど。どうもなあ? 道が完全に埋まって通れなくなってるらしい」
おじさんは頭を掻きながら、困った、困ったとうなる。
「お父さん、あのへんの道よく通るの?」
意外そうに真澄が言うと。
「いや、別に。でも地元のことだからな。うちには関係ありませんではすまない」
おじさんは首を振って、味噌汁を一気に飲み干した。
「三人にハイキングとかキャンプに、と考えたばかりだったのになあ」
と、おじさんはとても残念そうだった。
「自分が楽しみにしてたんじゃないの?」
真澄は少しさめた声でそう言ったけど、おじさんは聞いてないようだった。