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神縛町の荒女山  作者: 甫人 一車
〇〇二、最初の夜をすごして後
4/25

〇二



       ○



 夜中、ふと目を覚ましたゲンやんは半分眠った頭で、


(今何時頃かな……)


 考えながら、天井を見つめていた。

 隣からは、友人二人の寝息が聞こえてくる。


 夕食後、風呂に入った三人はこの離れに布団をしいて眠ることになった。


「早く寝かしつけろと、おうちから言われててなあ」


 おじさんは苦笑しながら、三人に離れの部屋に行くように促したものだ。

 何しろ近所にコンビニもないような田舎のことだから、夜はテレビでも見るか、さもなくばインターネットでもするしかない。


「あたしもよくゲームするよ。ネットで」


 というのは、真澄の言葉だ。

 この市内はインターネット回線については進んでいるとのことだった。


「寝ながら話もでもするか?」


 と、ゲンやんは提案したのだけれど。

 やっぱり、たらふく夕食をとったのと旅の疲れもあってか、三人は布団に入るとあっという間に眠ってしまった。


 しかも一番先に寝てしまったのは、話でもしようと提案したゲンやんである。

 が、他の二人もそれについてどうこう言うことなく、すぐに眠ってしまったが。


(……あれ)


 寝ぼけまなこの中、ゲンやんは強い音が外から聞こえてくるのに気づいた。


 強い風と強い雨が、建物を叩く音だ。

 それは、まるで大きな生き物のうなり声みたいで、嫌でも聞く者の不安を煽る。


 と、横でむっくりと起き上がる気配がした。

 思わず横を向くゲンやんは、暗がりの中でキロクが窓を開けるのを見る。


 途端に夏場と思えない冷たい空気が、部屋の中に入り込んできた。


「……雨か?」


「……うん」


 ゲンやんがそっと声をかけると、キロクは振り返ってうなずいた。


「うるさいな……」


 二人が小さく声を出した直後、セーハチのうなるような声が響く。

 セーハチは機敏な動作で起き上がると、部屋の隣へと歩き出す。


 どうやら、トイレに行くつもりらしい。


「雨だぞ?」


 戻ってきたセーハチに、ゲンやんは声をかける。


「……らしいなあ」


 セーハチはあくびまじりに答えたものの、すぐに布団に戻ってしまう。

 外を見ると、暗闇の中で荒女山が不思議なくらいハッキリ見えた。


 遠くで光る稲妻を背にした荒女山は、昼間のような優しく大らかな姿ではない。

 凶暴で、ほんの小さなことで人の命を奪う巨大な怪物みたいだった。


 気性の荒い神様。


 夕食時、おばあさんの言っていた言葉をゲンやんは思い浮かべてしまう。


「悪さ神……かあ」


 隣で、キロクがぼそりとつぶやいた。

 その言葉は柔らかい印象を与える。


 だけど、風雨の荒女山を見るに、ひどく不吉な言葉として響いた。


(まさかとは思うけど、洪水でも起こらないだろうな)


 どんどん強さを増す風雨を頬を受けながら、ゲンやんは不吉な予感にかられる。


 キロクは何も言わずに、そっと窓を閉めた。



 ──。



 夢の中でゲンやんは、どこか見知らぬ場所を歩いていた。

 海鳴りの音が聞こえる。鼻先に潮風が香ってくる。


(ああ、海なんだなあ)


 そう思って見ると、どこかの沖合いが瞳に映る。

 まるで見たことがないはずなのに、夢の中のゲンやんはひどく懐かしく感じた。


 ずっとずっと帰っていなかった、遠い故郷のように。

 現実には、ゲンやんはずっと生まれた街で育ち、引越しも転校も経験がない。


 それなのに、目の前に風景は涙が出るほど懐かしかった。

 沖合いを、ゆっくりと船が走っていく。


 帆にいっぱい風を受けて、大量の魚を積み込んでいた。

 と、思った途端である。


 船は突然ひっくり返って、荷や乗組員を海の中へと放り出してしまう。

 まるで見えない大きな手が、オモチャでもひっくり返すみたいに。


 そんな海中を、巨大な影がゆっくりと動いていくのを、ゲンやんは見ていた。



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