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蛍狩り  作者: 日向あおい(妹の方)
2/9

2.次元?

 

 一応、乙女の部屋なので、ノックをする。返事はすぐにあった。数久は鈴加の部屋の扉を静かに開いた。

 鈴加は4つ年上の姉で、ただ今、花嫁修行中である。

 過去、幾度も弟たちに霊界への入り口を見せてくれた狂暴かつ最強の姉上様を、嫁に欲しいと言ってくれた酔狂な人物は、従兄の貴樹だ。

 もっとも、直接、彼に事の真相を聞けば、彼自身は一言も『鈴加を嫁に欲しい』なとどは言っていないのだそうだ。

 自然の成り行きというか、不可見力に強制されたのだ、と言う。

「こんにちは」

 澄んだ声が響いた。鈴加の部屋の中からだが、明らかに鈴加のものではない。客人のものだ。

 赤く、長い髪を持った少女。16歳――いや、15歳。もっと幼くも見える。

 直久は目を瞬いた。赤い髪だと思ったのは、どうやら錯覚だったらしい。

 夕日にでも照らされていたのだろう。少女の髪は黒髪だった。

「千秋さん、お久し振りです。いつ、こちらへ?」

「さっきよ。二人とも大きくなったね」

「あと1年したら、千秋さんに歳が追い付いちゃいます」

「もう、あれから3年が経ったんだもんね。早いわね」

 3年前、異世界へ帰った少女がいた。永尾千秋――鈴加の友人の一人だ。  

 直久と数久は鈴加の部屋に足を踏み入れた。彼女の部屋は、純日本家屋には似つかわしくない洋装をしている。

 床はフローリングで、薄ピンク色の絨毯が敷かれている。広さは8畳ほどなので、ベッドが占める割合が大きい。窓際には、もはや不要の勉強机があり、その隣にはクローゼットなんてものまであった。

 絨毯の上に小さな丸テーブルがあり、鈴加と千秋はそれを囲うように座っていた。 鈴加が千秋の隣に尻を移動させ、座るように指し示すので、双子も習って席に着く。

「俺、未だによく分からないんだけど」

 口を開いたのは直久だった。千秋の顔を伺いながら、言葉を放つ。

「千秋さんは異世界の人なんだよね?」

「生まれは、こっちだけどね」

「俺さー、異世界って言われてもピンと来ないんだ。千秋さんの世界って、どこにあるの? どうやって行くの? 千秋さんは行き来しているわけだから、行けないような場所じゃないよね?」

「う〜ん。どこって言われても……」

 千秋は眉を寄せて、視線を空に漂わせた。しばらくあって、ポツリと零す。

「中国の影」

「へ?」

「誰だったかな? 私も同じような質問をしたことがあってね。その時にそう言われたの。中国の影にある世界だよ、って」

「へぇ。それは初耳。……そう言えば、私の知り合いで、前世は『中国の裏』の世界で生きていたという人がいるわよ」

「何? その人、マフィアとか何か?」

 直久がギョッとして言うと、鈴加は、バカね、と鼻で嗤った。

「なんでそうなるのよ。今は異世界の話をしているんだから、中国の裏にある世界のことに決まっているでしょ! マフィアは、中国の裏社会!」

「……その人って、日岡さんのこと?」

「そうよ。あの人って、ホント、いいカモなのよ! 何とかっていう会社の社長さんだから、お金いっぱい持っているし!気前良いし!」

「カモって……。鈴加ちゃん、まさか、あくどい商売しているんじゃないよね?」

「まさか」  

 とんでもない、と鈴加は両腕を大きく広げた。

「何年か前の話なんだけど、前世で、来世を誓い合った相手がいるんだけど、その人にその誓いを思い出させてくれ、って依頼を受けたの」

「おおっ! ロマンチックじゃん!」

「でっしょ! ……でも、いきなり『貴方とわたしは前世の誓いで結ばれた仲なんだ』って言われても、『誰コイツ、変な人』って思われるのがオチじゃない? だから、どうしたら良いかって、話よ」

「で? どうしたんだよ?」

「日岡さんね、趣味で小説を書く人だったわけ。しかも、前世での自分を主人公に書いていたの。私は思ったわね、使えるって!」  

 鈴加は拳を作り、ドンッと机を叩いた。皆の視線が一瞬その拳に集まった。だが、すぐに鈴加の顔に目を戻した。

「小説を読んでいて、そこに書かれている前世での自分の名前を見つけると、前世の夢を見るという呪をかけたの」

「そんなことができるの?」

「なんか、できちゃった。初めてやってみたんだけど、やれば出来るものね」

「鈴加ちゃん、すご〜い」

「スゴイって言うか、あり得なくない? なんで、っんなことが出来るんだよ」

「鈴加様だから?」

 真顔で即答してくれた姉に、直久は顔を引きつらせる。数久がすぐ横で笑みを漏らした。

「姉さん、催眠とか暗示は得意だからね。その応用をしたんでしょう?」

「『は』って何よ。失礼ね。予知も得意ですぅ!」

「そうでした。失礼致しました」

 仰々しく頭を下げる数久に、鈴加は満足して、言葉を続ける。

「呪をかけた本をターゲットに読ませて、夢を見させ、徐々に前世を思い出させることに成功したわけだけど、その後もいろいろあってね。なんたって、日岡さんと相手の女の子、15歳差なわけ!障害にぶち当たる度に相談しに来てくれて、こちとら相談料チャリーンよ!」

 あははははっ、と鈴加は声高々に笑った。

「り、りん、鈴加ちゃん!それ、あくどいって言わないの!?」

「言わない。言わない」

「世の中、間違ってる……」

 うちの家系は神社経営の他、生まれ持った特殊な力を使って商売をしている。

 特に我が家では、小遣いがない代わりに、儲けたお金はそっくり丸ごと自分のポッケに入れて良いことになっているから、こうして鈴加が高笑いしているわけだ。

 対して、泣くしか術がないのが、0能力者の直久である。

 毎月、母親に泣き付いて、わずかな小遣いを貰っている。

「前世ってさー。普通、覚えていないものじゃない? つまり、覚えている必要のないものなわけ。それを覚えているのって、執念深いというか、よほど想いが深かったんだろうと思うわけ。それって、ある意味、不幸だと思わない?」

 ふと、鈴加はポツリと言葉を零した。

 それはまるで日岡の瞳の濃さを思い出すかのようだった。

「好きって想いは、深いほど、強いほど、重荷になっていくと思わない? 私は思うわけよ。だからこそ、ストーカーなんてもんが現れちゃったりすると思うの。想いが深すぎるのよ。想いが深すぎる人って、不幸だわ。みんなが皆、その人と同じだけ深く想っているわけじゃないから。きっと、想いは報われない。きっと、誰も100%は理解できない」  

 だけど、と言葉は更に続く。

「日岡さんの場合、それでも自分の想いを理解して貰おう、受け入れて貰おうとしているわけね。そんなの、相手にとって迷惑なことでしょ? だからこその私からのペナルティなのよ。お金で済むんだから、平和なものじゃない!」

「金で、平和って。……おいおい、ちょっと待て」

「結局、言いたかったことは、姉さん自身の言い訳かぁ。しかも、言っていること、むちゃくちゃ……」

「私は、正しい!」

 ビシッ、と言い切った鈴加に、双子たちは、やれやれと肩を竦める。千秋は声無く、目だけで微笑んだ。

「ちなみに、今、その本はお役御免になって、本家の蔵に収納されているわよ。一応、危険物扱いだから、回収させて貰ったの」

「関係ない人まで読んで、前世を思い出しちゃったら、大事になるかもしれないからね。読めば前世を思い出す本だなんて、週刊誌の記事になっても嫌だし」

「そうそう。――それで、話を戻すけど。異世界はどこにあるのかってことね」

 いきなり、ドッと話が戻り、直久はガクリと拍子抜けする。そう言えば、元を正せばそういう話をしていたのだ。  

「まず、最初に押えていて欲しいこととしては、世界っていうのは、とにかくいっぱいあるものなの。妖怪は妖魔界ってとこにいるわけだし、悪霊は、この世を彷徨っているものだけど、本来は霊界にいるべきものなのね。他にも、魔界やら神界やら、冥界やらがあるの」

「それらがいったいどこにあるのか、と言えば、ここだとしか答えることはできないんだ」

 鈴加の言葉を継いで、数久が口を開く。自分と同じ顔に真っ直ぐ見つめられて、直久は少し眉を歪ませた。

「ここって?」

「ここだよ。つまりね、『中国の影』にある世界とか、『中国の裏』にある世界という風に、中国という場所にいくつもの異世界が存在するように、地球にはいくつもの世界が混在しているんだ。神界も魔界も冥界も霊界も、あらゆる世界が地球という一つの星に重なり合うように混在している。――いろんな説があるんだけど、僕たちは、天国は霊界の一部で、地獄は冥界の一部だと思っている。この世界で死んだ者の魂は、この世界と重なり合う霊界か冥界に行く。じゃなかったら、他の星で死んだ者も同じ霊界や冥界に行くことになってしまうでしょ? 宇宙には何万何億という気が遠くなる程の星々があるんだよ。全宇宙の死者がみんな同じ一つの場所に押し寄せたら、すごいことになると思わない?」

「要するに、星それぞれに、霊界だか冥界だかがあるってこと?」

 人間、虎も牛も、宇宙人も、小さな箱の中にギュウギュウと押し込められている図を想像して、直久は滑稽に思う。

 だが、笑ってはいられない。数久の話は理解しがたいことだった。

 ――1つの場所にいくつもの世界が重なり合っている。

 直久は、それじゃあ、と立ち上がった。

「ここに俺がいるじゃん? 今、俺が立っている場所って、この世界のこの場所じゃん。今の話を聞くと、霊界とか、他の世界にもこの場所があるってことだろ?」

「……霊界にもこの世界と同じ場所があると言うより、直ちゃんが立っている場所にいくつもの世界が折り重なっていると言った方が正しいかな」

「どう違うんだ?」

 首を傾げる直久に答えたのは鈴加だった。

「ここ――私の部屋が霊界にもあるってわけじゃなくて、私の部屋がある場所にも霊界が重なり合っているってことよ」

「はぁ? どういう意味だ? ちょっと待て。……それって変じゃねえ? だってさー、例えば、この世界で俺が立っているこの場所に、霊界でも同じように立っている人がいるとするじゃん。どうして、見えないんだ? ぶつかったりしないんだ?」

「次元が違うからだよ。霊界だけじゃなく、魔界でも、神界でも、直ちゃんと重なり合うように立っているモノがいるかもしれない。だけど、次元が違うから、その姿は見えないし、触れ合うこともないんだ」

「次元?」

「次元についての説明は難しいから、パス」

「私も感覚的に分かる程度だから、説明は無理よ」

 顔を見合わせて、お手上げのポーズをした二人が、なんとなく分かった気で聞いて、と言うので、直久は肩を竦めて頷いた。

「次元が違えば、その世界はけして混じり合わないものだけど、言葉じゃ説明できないほど次元っていうものはあやふやなものなんだ。なんかの拍子に、二つの世界の次元が合い、世界が混じり合ってしまうことがあるんだよ」

 例えば、と数久は人差し指を立てる。

「この世界と霊界を例に上げると、幽霊が見えるっていうのがそれ。幽霊っていうのは、死者のことで、死者は霊界にいるもの。だけど、時々、こちらの世界と霊界の次元が合い、こちらの世界にいる者が、霊界にいるはずの死者の姿を見てしまうことがあるんだ」

「元々、この世界と霊界は、他の世界に比べて次元が合い易いしね」

「合い易い、合い難い次元を持つ世界があるわけ? 相性があるとか?」

「あるわよ。この世界と霊界がそう。あと、魔界と冥界。冥界と霊界。天界と神界なんかがそうね」

「へー」

「偶々次元が合っちゃって、異次元間で互いの姿が見えてしまっている状態ならば、幽霊だろうと妖怪だろうと無害なんだけど、なんかの拍子に次元を越えちゃうヤツがいるの。そういうヤツらを元の世界に戻すことを、私たちは『除霊』って言っているわ」

「――そうだ。次元を、壁と壁に区切られた空間だと考えてみたら? 僕たちの世界と霊界との間にある壁は、ベニヤ板みたいな薄く頼り無い壁なの。そんな壁をぶち破って、僕たちの世界にやってくる悪霊がいる。それらの力を奪い、二度と壁を破ることのないようにして、霊界に戻してやる」

「それが、徐霊?」

「戦って、力を奪い、おとなしくさせる。壁に穴を空けて、元の世界に帰してやる。んで、穴を閉じて、おしまい。これが徐霊よ。――簡単に言うけど、次元を越える方法さえ分かれば、一歩も動くことなく、霊界、神界、魔界を行き放題なわけ。ただ、私たちには、霊界、冥界、魔界、天界程度の次元しか越える力はないわ。私、一度で良いから、妖精界ってとこに行ってみたいのよねー」

「妖精界は、霊界に穴を空けてから、天界を通って、妖精界か。霊界に穴を空けて、冥界を通り、更に妖魔界を通ってから行くんだよね。確か……」

「数久、行ったことあるの?」

「ないよ。本家の蔵にあった資料を読んだんだ。大昔に行った人がいるみたい」

「なかなかあなどれないわね、御先祖様も」

 そう言って笑った鈴加に対して、直久は腑に落ちない顔をして、再び席に着いた。

「地球上にいくつもの世界が重なり合ってあるってこととは、分かったけどさー。千秋さんの世界や、その鈴加のカモ……日岡さんって人が前世で生きていた世界は、霊界とか魔界とかとは違う気がするんだけど?」

「そうよね。違うわよね」

 それまで黙って聞いていた千秋も、直久の言葉に深々と頷き、鈴加の方を見やった。

 鈴加はわずかに肩を竦め、口元を緩ませる。

「一言で異世界と言っても、二種類あるのよ。今まで話していたような異世界を、私たちは人外世界って呼んでいるんだけど、もう一つの異世界の方は、パラレルワールドと呼んでいるの」

「パラレルワールド?」

「要するに、『もしもの世界』よ。もしも、あの時、あんなことをしなかったら……。もしも、自分が、ああだったら……の世界」

「つまりね」

 数久は鈴加の勉強机の方を見やると、その上に転がっているペンを指差した。

 ペンは数久の指の動きに合わせ、空を移動し、次の瞬間、コトンと床に転がった。

「なんつーことをしたんだ。数!」

「念力っていうのかな? こういうの。Phychokinessis?」

「PK? 世間の一般人なら、超能力だって言うんだろうけど、私たちのこれはそんなレベルじゃないからね」

 分からないわ、と言いながら、鈴加もペンを空に浮かせ、クルクルと回す。

 数久は床に転がっているペンを再び指差した。

「直ちゃん、いい? 例えば、今、ペンが床に落ちた状態を『この世界』とする。この時、パラレルワールドは『もしも、あの時、ペンを落とさなかったら……の世界』だよ。もっとも、これは極端な例だけどね」

「更に、私がそのペンを拾い上げたとする。すると、『もしも、あの時、鈴加がペンを拾わなかったら……の世界』がパラレルワールドとして生まれるの。でも、実際はペンは拾われることなく転がっているわけだから、今の私たちにとっては、『もしも、あの時、鈴加がペンを拾ったなら……の世界』がパラレルワールドなわけ。分かる?」

 直久は眉を寄せる。 

「それって、すごくたくさん世界ができない? もしも、もしも、なんて言い出したら、人間、切りがないじゃん?」

「そうよ。切りがないのがパラレルワールドなの。一秒、一秒で、何万、何億という世界が生み出されているってわけ」

 鈴加は空で回していたペンを丸テーブルの上に放り、数久が床に転がしていたペンを己の手で上げると、やはりテーブルの上に放った。

 二本のペンが、コツリと音を立ててぶつかり合う。

「ちー子の世界も、そのパラレルワールドの一つだと思うの。中国っぽいんでしょ?」

「うん。かなりね」

「つまり、歴史のどこか、おそらく、ずっと昔に生まれた『もしも』で、この世界と分岐した世界なのよ」

「日岡さんの世界もそうだと思う。僕、日岡さんの小説――『仮想史』って言うんだけど、それ読んだんだ。読んで分かったんだけど、すごく三国志に似ているんだ。登場人物たちの関係とか立場とか。峨?は曹操に似ているし、蒼邦は劉備に似ている。つまり、峨?はパラレルワールドの曹操であり、蒼邦はパラレルワールドの劉備なんだ。だから、きっと、『仮想史』の世界は、こちらの世界で言う三国志時代より少し前で分岐してできた世界なんだよ」

「すると、ちー子の世界は、『仮想史』の世界よりも更に以前に分岐した世界なのかもね。パラレルワールドは分岐した時期が今に近いほど、似た世界になるから」  

 分岐した時期が古いほど、世界の違いは大きい、とも言い換えて、鈴加は言葉を続けた。

「こんなことって、よくない? 確かに鞄に入れておいたはずなのに、確かめてみると折り畳み傘が入ってないってこととか。やった覚えのない宿題がやってあったり、置いておいた場所から物がなくなったり、そこはさっき捜したはずなのに、今見たら、ある!……みたいな感じなこと」

「あるような、ないような……」

「大抵の人は、自分の記憶違いと思うようなことよ。実は、それは、パラレルワールドに迷い込んでしまったからなの」

「ある行動を実行した世界と、しなかった世界。些細な『もしも』であればあるほど、その二つの世界の境になる次元――壁は脆い。曖昧なんだよ」

「簡単に、迷い込んでしまう恐れがあるのが、パラレルワールド。今までいた世界とそんな変わらないパラレルワールドなら良いけど、まるで違う世界ってこともあるから、大変なの」

「今までいた世界とそんなに変わらなかったら、自分がパラレルワールドに迷い込んでしまっているという自覚もなく、そのままパラレルワールドで生きていくこともできるけどね。まるで違う世界だったら、泣くよね。帰りたいって、思うよね。だけど、行き来が難しいのがパラレルワールドなんだ」

「次元なんて、なんかの拍子で越えられちゃうもの。自分の意志で越えたくて、越えたわけじゃない。行きたくないのに行けちゃったり、どんなに行きたいと望んでも行けなかったり。そういうもんなの。いつ、どこで、二つの世界の次元が合うとも予測できないし、自分で次元を合わせようたって、さっきから説明しているように世界はたくさんあるのよ、行きたいと望む世界を容易になんて見つけられないわ。例え行き着くことができても、帰ることはできないっていうのがパラレルワールドの原則だしね」

 ふーん、と直久は鼻を鳴らした。分かったような、いまいち分からないような気分だ。

「結論を言うと、千秋さんの世界は、俺達の世界で言う中国に重なり合うようにあるたくさんの世界のうちの一つの世界で、その世界に行くためには、なんかの拍子で次元を越え、運良くたどり着くことを祈るしかないってことだよな?」

「うん。だいたいそんなカンジ」

「でもさー。千秋さんは行き来しているわけじゃん?」

 なんで?と聞くと、千秋はニコッと微笑んだ。代わりに答えたのは、鈴加だ。

「ちー子は人じゃないからね」

「え!? 人じゃないの!?」

「だって、直ちゃん。千秋さんってば、16歳のまま、全く変わってないじゃない」

 成長してもいないし、老けてもいない、と数久は続ける。

 ――鈴加と同い年のはずなのに?

 直久は、鈴加と千秋を見比べる。言われてみると、千秋は鈴加と同級生というよりも、自分たちに年齢が近いように見えた。

「ちー子はちー子の世界の神獣なんだって。私はよく知らないけど。そうなんでしょ?」

「うん」

「なんだか分かんないけど、千秋さんって、すごい?」

 ――す、すごいのかもしれない。  

 言葉なく微笑む千秋を見やり、直久は頬に汗を伝わせる。 

 鈴加や弟、親族たちが人間離れしていることは承知している。だが、それでも、腐っても人間だ。人間を逸脱してはいない。

 ところがどっこい。千秋はマジで人じゃないのだ。神獣なのだと言う。

  ――神獣って、ただの獣じゃなくて、『神』の字が付いているわけだから、普通じゃないカンジにスゴイんだろうな。きっと!  

 直久は、何をどう驚いて良いのやら、何をどう理解したら良いのやら、もはや分からないと頭を抱えた。


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