別れは悲し
今日やっと
ルビの入れ方
分かったよ by初雪
いつもと変わらない日常。
朝起きて、朝飯作って、学校行って、気のいい友達と馬鹿やって、帰り道で高明たちを冷かして、晩飯作って、いっつも通り花音にせがまれて一緒に風呂入って。
そんないつもの日常が、今日も始まる筈、だった。
「ごめん、なぁ、花音。今日帰れねえわ、桜も、聞こえてねえだろうけど、ずっと俺は・・・」
自分の思いを口にする間もなく、俺は意識を永遠の闇に置き去りにした。
~数十分前~
「なあ、ほんと許してくれよ、桜あ~。」
俺はそういいながらずっと頭を下げ続けていた。
朝の一件以来。
「あ~もう、わかったわよ、許すからそこどいて邪魔よ。」
「いよし!お許し頂戴完了、ゴフゥ!」
許してもらえたと喜んでいた俺の脇腹に師範代の実力者の回し蹴りが。
「なんで!?なんでなの、俺許してもらえたんじゃないの?」
「ごめん、つい。」
「つい?!ついなの、俺ってその程度なの?」
「うっさい。」
その一言に逆らうとどうなるか、簡単だ、桜の必殺技〃桜連撃〃を喰らうことになる(俺命名)
一瞬でしゅんとなった俺を見て高明、歩がくつくつと笑う。くそこいつらほんと腹立つな。
でもこいつらはめちゃくちゃ好い奴等だ、三年前もすっげえ世話になってしまった。
交差点で信号が変わるのを待ってる間に今日の晩飯のメニュ―を考える。
(そういや、花音が生姜焼き食いたいって言ってたな、今日の晩飯はそれにしようかな。)
まるで俺の思案が纏まるのを待っていたかのように青色に変わる信号、同時に聞こえてきた怒号。
「は?」
気付いた瞬間には俺たちの目の前、正確には俺と桜の目の前に、大型トラックが迫っていた。
『人間なんていつかは死ぬ』日ごろからの、そんな達観した考えのせいか、俺の思考は意外なまでにクリアなものだった。
おそらく意識してのものだろう、俺の体は自然に動き、桜のことを包み込むイメージで抱きしめ、はねられた。
瞬間俺の体は凄絶なまでの衝撃に苛まれる。
不思議と痛みはなかった。
それでも俺は・・・
(おー、人間の体って、こんなに吹っ飛ぶんだな。)
そんなことを考えていた。
そして冒頭にいたる。
「と、いうわけで今きみはここにいまーす。」
「お、おう」
目の前の自称女神らしい少女?の異常なテンションに俺は少々引いている。
「で?その死んだ俺はどうすりゃいいの?」
「え?なに、君、驚かないの?」
「へ、驚いてほしいの?」
確かに、突然何もない真っ白な所に居れば多少は驚いたが、そこまででもない。
「いや、そんなことはないけど、寧ろその冷静さはありがたいよ。いやねえ、最近の人間ってさ自分が死んだって知るとなんか興奮しだすんだよね、特に君ぐらいの年ごろの子は。」
「は、はあ?興奮?」
「うん、なんかね『テンプレ来たー』とか『幼女だハアハア』とか『ぬをー。俺の右目がッ』とか、わけわかんないことを口走るんだよぉ」
少し涙目になりながら語る。
「ああ、それは、うん、ご愁傷だな。」
「でしょ?そういうやつらは大体何の相談もなしに次の体を決めるんだ。」
まるで慣れ親しんだ親友に話しかけるようなフランクさだなと自分でもおかしくなる。
「そうなのか―。で?俺の次の体って何?鳥?魚?虫?」
「いや、どれも違うよ、君の転生先は異世界『マグナ・ステラ』そこの農民の息子さ。」
「え?異世界?俺だけ?」
「うん、まあ君だけってわけでもないけど、ほら、あれだよ、問題を解決してくれってやつ。」
「ふ~ん、まあ俺死んでっからすることねえしな、選択権なくね?」
「まあ、そうだけどね。てなわけで今から君に力を授けまーす。」
「いきなりだな、結構。まあそんな事はどうでもいいんだけども、どんな力があんの?」
「選択肢は二つ、と言いたいところだけど・・・うん、意味ないね。」
頭のてっぺんからつま先まで舐めるように見ながらつぶやく。
何の気なしの行為だろうが、その仕草になぜか一片の好意を感じてしまう。
「は、どういうことだよ。」
「うん、今までの転生者はね、選別の過程で魂の器が削れてしまっていたんだけど、君は削れるどころか、容量が増しているんだよね、ありえないよ普通。」
「器?選別?なんじゃそりゃ、でもまあ、いいや、それでどんな力なんだ?」
「君って淡白だね、ありがたいからいいけど。力についてだったね、じゃあひとつ!」
急に声を張り上げ、謎の詠唱を始める。
「我、汝に力を与えん、それは無限、尽きることなきモノ。『エンドレス・エーテル』」
中二病くさい詠唱が終わると同時に俺の体に流れ込んでくる力。
「なんだそれ、恥ずかしっ。」
「自分でも気にしてるから、言わないでほしいんだよね。いまさらだけど。今のはね、君に無限の、つまり尽きることのない、まあ君の世界言うところの『魔力』と『闘気』を付与するもんなんだよ、どう?すごいでしょ?じゃあ次行くよ―」
「お、おいちょま・・・」
戸惑う俺をよそに矢継ぎ早に詠唱が唱えられる。
「我、汝に力を与えん、それは無限、永遠の可能性。『エンドレス・チャンス』」
今度は何も起こらない。
「?なにしたんだ?」
「今のが二つ目の力、無限の可能性だよ。どんなものかわ大体想像できるでしょ。」
「いや、わからん。」
考えるそぶりも見せず即答。
「いや、考えようよソコ説明めんどくさいんだよ?」
「俺も考えんのがメンドイ。」
「うおいっ、ったく、じゃあ向こうの言語とかそういう情報と一緒に頭の中に入れとくからね。」
いかにもやれやれといった表情で首を振る自称女神。
「?ああそうしてくれ。」
「じゃあもうちゃちゃっと送るよ、じゃあマグナライフ頑張ってきてね」
「オウ!」
返事とともに俺の意識は解けていく。
(やっちまったな、花音のこと、でもまあ、あいつのことだから桜んちにでも転がり込むだろうな。そいや桜はどうなったんだ、一応守ってはいたんだけど・・・
(大丈夫だよ、まあそりゃ目の前で好きな子が・・・)
(おい!そりゃどういうこった!)
(いや、彼女好きだったみたいだって言ったんだよ、君のこと。だから今病室で泣いてる。)
(やっちまった、だから、俺はダメなんだよなあ、桜。)
そして俺の体は完全に溶け、異世界『マグナ・ステラ』へ送られていった。
「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
何もない空間でひとり叫ぶ少女。
「しまったぁ!言うの忘れてたあ――!」
言い忘れた相手はきっとさっきまで話していた天地海人のことだろう。
「バカバカ、私の馬鹿ーーー、これ一番大切じゃん、彼まだ死んでないって言い忘れたあー―――」
この物語はどうしようもない奴等の物語。
次話からスタート異世界ライフ!
異世界の神様の名前には縛りをつけます。