これも一つの正義のカタチ
ある日の昼下がり。人々は思い思いの過ごし方で日常を謳歌していた。
ある人は幼い子供をベビーカーに乗せ、またある人は恋人と手をつなぎ、そんな人々があふれる街角に、奴らは現れた。
異形の怪物と「それ」が率いる仮面の軍団。
騒然となる町、仮面の軍団は各々が不気味な曲剣を振りかざし奇声を上げつつ人々に襲い掛かる。
平和な町並みは一変、悲鳴と絶叫に包まれる。
立ち向かう者は瞬く間に無残な姿をさらし、それは「警察」という日常の守護者ですら例外ではない。そのことがより恐慌に拍車をかけていく。
このまま成すすべなく日常は蹂躙されるのか?
否!「非日常の脅威」を討つは「非日常の正義」!
・・・という流れでヒーローたちは現れる。
颯爽と現れ鮮やかに「悪」を討つ!
時に強敵に破れ、それでも立ち上がり不屈の心で打ち破る!
人々の心に勇気と希望を与える存在。
しかし、正義にも様々な形がある。
情けを捨て 容赦を捨て 立ちはだかる「敵」を完膚なきまでに打ちのめす。
これはそんな「正義の味方」の話。
さて、視界を混沌の町並みへと戻そう。
奇声を上げていた仮面の一体が突如 足を吹き飛ばされのたうつ。音も無く・姿もなく・しかし「それ」の近くに刻まれた弾痕が襲撃者の存在を知らしめている。
辺りを見回す仮面たち。一体もう一体と手足を吹き飛ばされていく仮面たち、増えていく弾痕。
仮面たちは知る。自分たちが「狩る側」から「狩られる側」になったことを。
互いを守るような陣形に移行していく仮面たち、その中心には「今のところは」無傷の「怪物」。しかし「姿無き襲撃者」の攻勢は止まず、無常にも仮面たちはどんどん無力化されていく。
もはや無傷の仮面は誰一人いない、そんな状況のなか二つの影が舞い降りる。
一つは全身に火器と推進器を装備した真紅の人型、もう一つは大型の盾と推進器を装備した翡翠色の人型。
仮面と怪人は歓喜した、先ほどからの「姿無き襲撃者」はこの「真紅の人型」だと確信したからだ。一気に攻勢に移らんと先に倍する奇声を上げ突撃する仮面たち。
だが、彼らの希望は儚く散る。「真紅」は着地姿勢のまま、にも関わらず今度は頭部を吹き飛ばされる先頭にいた仮面。彼らは悟った「姿無き襲撃者」は別にいると。
仮面たちと怪物に再び動揺と恐怖が駆け抜ける。
隙を逃さず突貫する2つの人型。「真紅」の火器が唸りを上げ手負いの仮面たちを蹴散らす。反撃を試みた者もいたが「翡翠」の操る不可視の盾に阻まれ、動きの止まったところをすかさず打ち抜かれていく。
撤退はおろか後退すらままならず撃破されていく異形の集団。間もなく「仮面」は全滅、残るは「怪物」のみとなった。
「貴様ら何者だ!」
悪役の常套句ではあるが「人型たち」に応える義理は無い。照準・射撃。怪物の片腕が跡形も無く吹き飛ぶ。
「おのれぇ!」
怪人は雄たけびと共に光線・武器の投擲を繰り出すが「不可視の盾」に阻まれ届くことは無い。それどころか繰り出すごとに所在を見破られ破壊されていく武器。やがて片腕と全ての武器を失った怪人。
「覚えていろ!次に会ったときは皆殺しだ!」
これまた常套句を残し去っていく怪人。しかし2つの人型はそれを追いはしない。
「状況終了、各ユニット報告」
怪人が去ったのを確認した後、はじめて真紅の「人型」が言葉を発した。
「ブルー、損害なし。残弾30、一度補給に戻りたい」
「グリーン、損害なし。エネルギー消費40%、こちらも一度補給に戻りたい」
「ホワイト、重傷者の搬送完了。これより一般の医療機関と消防を誘導、軽傷者の救護と消火活動に当たらせます」
「ブラック、成功。追って連絡する」
「レッドより各位。よくやってくれた、と言いたい所だが任務は続行だ。ブルーとは私と補給に戻る。その間グリーンは引き続き周囲の警戒、私たちが戻った後補給に向かってくれ。グリーンの補給が終わり次第戦闘班はブラックと合流。
ホワイトは引き続き消防・医療機関の誘導と指揮を頼む。以上だ、各位行動に移れ!」
「「「了解」」」
号令もと、きびきびした動きで行動に移る人型こと「レンジャー隊」。彼らこそ地球を護る特殊部隊、その最精鋭たる特務チームなのだ!
ところ変わって満身創痍の「怪物」はアジトに向かっていた。怒りと屈辱にその身を焼きながら、ほどなくアジトにたどり着いた。背後に潜む「黒」に気付くことなく。
アジト内、「玉座の間」を彷彿とさせる部屋。そこに先の怪物がいた。
「いったい何なんだ奴らは!終始だんまり、そのくせ攻撃はやけに的確だ。ロボットでも相手にしてるみたいでしたぜ」
「それ」が話している相手も「怪物」と言って差し支えない風貌をしている。しかしその風格はレンジャー隊に撃退されたものと比較にならず、「怪物の王」という表現がしっくりくる代物である。
「言い訳はよい。次は無いと心得よ」
二言。しかしその重圧は名状しがたく、向けられた怪物はただ頷くしかなかった。
「行け」
「はっ!」
怪物が歩き出し、部屋の扉に手をかけたとき。異変が起こった。
アジト内各所から爆発音と共に火の手が上がっていく。混乱に陥るアジト内、動揺する怪物たち。そんな中王は動揺することも無く、ただ声を上げる。
「静まれ!愚か者ども!まず被害を調べよ、同時に斯様なまねをはたらいた不届き者を焙り出せ!その程度のことも出来ずしてどうする!ぐずぐずしておるとこの手で縊り殺すぞ!・・・貴様も行かぬか!」
この言葉で一転、統制を取り戻す怪物たち。先程まで報告を行っていた怪物も慌しく玉座の間を後にする。それでもなおアジト全体が蜂の巣をつついたような状態のため、この部屋もまた常の静寂からは外れていた。そしてそれが決定的な事態を引き起こした。
「全く、使えぬものばかりよ。・・・グフッ!」
突如 吐血し倒れる「怪物の王」、その背中には2本の大型ナイフが刺さっている。
遡ること数十分前、折りしも怪物がアジトに入っていった頃。まさしく「影」のごとくその後を追っていた黒い人型、レンジャー隊が一員ブラック。
彼もまた任務を遂行していたのだ。
「ブラックより各位。敵の本拠地と思われる場所を特定、座標を送信する。こちらはこれより内部構造の調査を開始する」
ブルーとは違った意味で「音も無く・姿も無く」扉に近づき、見張りを無力化するブラック。まんまと潜入に成功する。
「潜入成功及び内部見取り図を入手、データを転送する。引き続き破壊工作の準備に入る」
「レッド、了解。無理はするな、突入は50分後に行う」
通信後、見張りより奪った地図を使いつつ、巧みに気配を殺し各所に爆薬・トラップを配置していくブラック。そして50分後、ブラックの各種破壊工作と突入したレンジャー隊により現在の状況が出来上がったのである。
「ブラックより各位、最深部にて敵首領を無力化、これより撤退する。なお」
「レッド、了解。敵を引き付ける、そのうちに撤退せよ」
言うが早いか更に高まる銃撃音と爆発音。レッドの装備する「アサルトパッケージ」と呼ばれる装備は中・近距離で効果を発揮する重火器とそれらを携帯しての一撃離脱を可能とするための推進装置からなるまさしく「強襲用」装備である。屋内という閉鎖空間においてその威力は飛び抜けたものとなっている。
さらにそれを支援するグリーンの装備する「ディフェンドパッケージ」はアサルトと対を成す設計となっている。腕部の盾に装備された電磁防壁発生装置により周囲に不可視の盾を展開、アサルト装備の友軍を支援するという運用法がされる。
そして屋外、脱出に成功した怪物たちは例外なく一撃で致命傷を負わされ倒れ伏していた。彼らは遥か上空より狙撃されたのだ。ブルーの「スナイプパッケージ」はその名の通り狙撃に特化した仕様となっている。スコープの性能はもとより各種センサー類も非常に高精度であり、狙撃手をサポートする。また、消音性能にも優れこれを装備していれば発見もまた容易でない。今回は無人・自動操縦のヘリとあわせて運用されている。
潜入時同様、隠密行動を徹底するブラック。彼の装備は「アサシンパッケージ」。その機能は光学迷彩に加えアクティブ/パッシブレーダー両方に対応したステルス、そして各種小型爆弾。中でも特筆すべきは先に使用していた大型ナイフ、センサー式時限爆弾を内蔵しており、起動後自身以外が探知範囲に入った場合作動、周囲10m程度を吹き飛ばす。いずれ異変に気付いた怪物を巻き添えに王は粉々に吹き飛ぶことになるだろう。
倒壊していくアジト、それを眺める4人。
アサルトレッド、スナイプブルー、ディフェンドグリーン、アサシンブラック
徹底かつ断固とした彼らの戦法は「正義の味方」には程遠いものである。しかし、彼らは知っている。自分たちの戦いが決して間違ってはいないことを。
故に彼らは迷わない・故に彼らは挫けない・故に彼らは・・・
そう、これも一つの正義のカタチ
・・・だと信じたい