第零話「異邦人」
どうもです。以前に一度掲載した「Hero's Reality」が、どうも書きたい物と合わないと言う事で、再構築してみました。
この第0話はどちらかと言うと前日伝の様な形となっておりますので、飛ばして第一話から読んでも構わない仕様となっております。
ご自由にご選択ください。
『英雄とは、決して楽な物ではない。
‥‥一般に知られるのは表向きの華麗さ。その裏には、数々の苦難と、闇が渦巻いている――』
本をばたりと閉じ、青年は深く、ため息をつく。
「その様な事は、この世の常で‥‥当たり前だと言うのに、な」
目にするのは、いつもの通学路。もう道に迷う事もない。当たり前だ。
最早この道を歩くのも、もう五年目となる。
「おはよう!」
「ああ、おはよう」
となりを早足で通り過ぎた同級生に挨拶を返す。だが、それ以上の会話を行う事は無く、彼は早足で青年から離れていった。
(「やはり、俺は馴染めないのかも知れんな」)
金髪をかき上げ、頭を軽くぽりぽりと引っかきながら、青年は、校門を潜る。
「おい、てめぇ、校則では髪を染めんのは禁止――なんだ、お前か」
「地毛だ、と言う弁明は‥‥もうしなくてよさそうですね? 小暮先生?」
教師は一言も発さず、ちょいちょいっと手だけで『さっさと行け』のサインを出す。
それに軽く頭を下げて、青年は校舎内へと進む。
『They is not going to be there――』
(「最悪だ。一時間目は英語だったとはな」)
窓の外を見上げ、青年は本日二度目の、深いため息をつく。
何も英語が苦手だから、この授業が苦手なのではない。
寧ろ、この先生の提示する余りにも間違いだらけの英語を聞くのが苦痛なのである。
「おい、そこの金髪!何をよそ見してるんだ?」
どうやら、まともに話を聞いていないのがばれたようだ。
幾ら興味が無いとは言え、それを全面的に表してしまった自身の迂闊さを反省しながら、大人しく青年は立ち上がる。
「いえ、キチンと聞いておりましたが」
「ならば、これを答えてみろ」
「They are the ones who were not in their position when the day has ended」
「‥‥正解、だ」
がたん、と椅子に座り込む。
問題自体に於けるミス(isとareの違い、whoとthatの違い等)を指摘しても良かったのだが、それが良い結果にはほぼ確実に繋がらない事は、この三年間ほどの経験から痛い程に知っている。
自分は所詮、ここに於いては『異邦人』である――
青年、リチャード・ウォルスはそれを実感していた。
昼休み。
「本を返そう。中々に為になった」
「お、そうか。お前に合うかどうか分からんかったけど、そりゃ良かったぜ」
差し出した本を受け取った目の前の青年は、リチャードにとっては数少ない『友人』であった。
この学校の大多数の人間が、自分と距離を置いている事実は変わらない。
だが、このショートカットの快活そうな青年の様な者が居ると言う事自体が、何とかリチャードが学校に来るための意欲を支えているのだった。
「なぁ、いつも本の虫になってちゃ、体も悪くなるぜ。‥‥ちょっとバスケしていかねぇか?」
「‥‥いいのか?」
「心配すんなって。俺が居る限り、文句を言う様なヤツはいねぇよ」
青年には不思議なカリスマがあった。
クラスに必ず一人は居る、『特に何もしなくとも人に好かれる』。そんな性質を持っていたのだ。
自分もまた、そんな魔力の様なカリスマに惹かれたのだろうか――そう考えながら、静かに頷き、校庭へと向かう。
「なぁリチャード、前のあのトリック、また見せてくれよ」
「あれは練習すればお前の方が多分使いこなせるぞ?」
他愛の無い話。校庭に向かう途上。
足が、グラウンドの砂に触れた瞬間。紫の光が周囲に広がる。
「っ!?」
最初は、噂に聞く地雷でも踏みつけたか、と想像した。
だが、それに伴うはずの爆風も、破片に付けられた傷の痛みも、何も無い。
あるのは、単にどこかに、精神が引っ張られて行くような――そんな感覚だけ。
そして、閃光と共に――