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アイドルLovers  作者: 愛田光希
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第二十章 それから

 翌日目を覚ますと、いきなり悠斗と目があった。ずっと寝顔を見つめられていたのだと気づく。

「おはよう」

 芳樹に、悠斗が笑いかける。

「昨日は、お誘いありがとな」

 悠斗の言葉に、昨夜の情事が思い起こされて、芳樹はいたたまれなくなった。昨日、悠斗は芳樹を一人で眠らせようとした。それを拒んで、抱いてもらったのは芳樹なのだ。

 芳樹はベッドの中で、悠斗に抱きしめられるようにして眠っていたらしい。

「何で、ユウトここにいるの」

 問うと、悠斗は訝しげな顔をつくる。

「どういう意味?」

「だって、前の時は、起きた時、ユウトいなかったから」

 初めて悠斗と抱きあった日の事を思いだして、芳樹は目を伏せた。悠斗はあの日。芳樹が目覚めてすぐ、女の所へ行ったのだ。芳樹を一人、家に残して。思い出すと、悲しみが込み上げてくる。

 悠斗はしばらく、芳樹を見つめたあと、ふっと息を吐き出した。悠斗は芳樹の体を引き寄せる。

「悪かった。芳樹を悲しませるつもりなんてなかったんだ」

 一瞬何を言われているのか分からなかった。

「あの時はとにかく、早くセフレと手を切るることばっかり考えてたから」

 芳樹が悲しげな顔をしている原因を、悠斗は正確に読み取ったようだ。

「セフレっつっても、それなりに付き合いはあったわけだし。一応、最後の別れぐらい直接言おうと思ってさ」

 悠斗の声と共に、芳樹の耳に息がかかる。それがたまらなく、こそばゆい。

「何で、そんなすぐ、別れる必要があったんだよ」

 少しの期待を込めて、芳樹は尋ねた。

「昨日も言っただろ。俺はヨシキがいればそれでいいんだ。本物が手に入ったんだから、偽物はもういらない。だから、早く女と手を切って、ヨシキに告ろうと思ったんだ。とにかく急がないとってそればっかりで。ヨシキは潔癖だから、女と関係切ってからでないと、俺がどれだけ口説いても、俺の方、振り向いてくれないだろ」

 期待以上の言葉を貰った気がした。それでも、拭いきれない光景がある。

「でも、ユウト、キスしてただろ。女の人と、道で。俺見たんだ」

「いつ?」

「お、俺が、襲われた日」

 悠斗の目が見開かれた。すぐに思いいたったのだろう。

「違う、あれは、セフレと別れる時に、最後にキスしてってせがまれたからで、もう終わってる」

 悠斗の声には必死さが滲んでいるように感じた。だが、ふと、悠斗は眉根を寄せる。

「ちょっと待て。おまえ、何で、俺がキスしてる所見れたんだ? あそこ歓楽街だろ。何で、ヨシキがあそこにいたんだ?」

 明らかに悠斗の声には、嫉妬がこもっていた。

 悠斗に告白される前だったら、嫉妬だとは気づかなかったかもしれない。ただ、悠斗が苛立ってしまったと思うだけだっただろう。

「車で通りかかったんだよ」

「そういや、おまえ、カズヤと飲みに行ったっつってたな、乾の奴が。そん時か」

 悠斗の言葉に頷く。悠斗は眉を顰めたままだった。

「うん。カズヤさんに車で送ってもらった」

 素直に告げると、いよいよ悠斗の顔は不機嫌になった。

「ヨシキ、キスされたくせに、よくそんな奴の車に乗ったな。危ないと思わなかったのかよ」

 とがめる声に、芳樹も思わず顔を顰める

「思わなかったよ。カズヤさんは悪い人じゃないって分かったし。俺が、ユウトとの事で悩んでる時、相談に乗ってくれたんだ。優しい人だよ」

「そんなの、絶対下心があるに決まってる」

 悠斗は断言した。

 本気でそう思っているようだ。

「もう、二度とカズヤの車には乗るな」

 命令口調。なのに、芳樹の胸には喜びがあふれる。

 確かに愛されていると、実感できる言葉だったから。

「ユウトは、本当に俺の事好きなんだ」

 うっとりと、呟いていた。

「そうだよ。俺は。ヨシキが好きだ」

 昨夜の出来事はやはり、夢ではなかった。こうして、同じベッドに眠り、抱かれていてもどこか、現実味が持てなかった。

「そう言えば、昨日きちんと、聞いてなかったな」

「何を?」

 問い返せば、悠斗はにやりと笑みをこぼす。

「ヨシキは俺のことどう思ってる?」

 聞かれて、芳樹は真っ赤になった。

 こうやって、裸のままベッドで抱き合っているのだから、答えなど聞かなくても分かるだろうに。

 それでも、悠斗は芳樹の口から聞きたいのか。

 芳樹は意を決して、唇を動かした。

 愛する人の願いをかなえるために。

「俺も、ユウトが好き」

 囁いた途端、悠斗に肩を掴まれて、性急な動作で体を引き離された。

「ヨシキ、もう一回言ってくれ」

 芳樹の瞳を覗きこむようにして、悠斗は必死の形相で懇願した。

 芳樹の顔に、自然と笑みが広がる。

 もの凄く、満ち足りた気分だった。

「ユウトが好き、大好き……」

 気持ちを込めた言葉の後半は、悠斗のキスに吸い込まれた。




 芳樹が芸能界に復帰したのは、ストーカー事件から、三ヶ月後のことだった。

 それに合わせて、発売延期になっていたシングルがリリースされ、今日は歌番組に生出演することが決まっている。

 リハーサルを終えて、悠斗と瞬と真希と共に、楽屋へ戻った。

「はー。緊張した」

 芳樹は、楽屋に置かれたテーブルの前に座り、テーブルに突っ伏した。

 久しぶりのリハーサルにこれだけ緊張するのだから、本番はどうなるのだろう。

 不安が芳樹の胸を掠める。

「ヨシ兄大丈夫だって、俺達がついてるから」

 瞬が胸を張って、芳樹を安心させるように言った。

「大丈夫よ、ヨシキ。リハーサルも順調に終わったじゃない」

 真希も、激励してくれる。

 悠斗は、芳樹の隣に腰を下ろした。

 芳樹の肩を指先で、とんとんと叩き、振り向いた芳樹の唇にキスをする。

 悠斗の唇はすぐに離れていった。

 芳樹は顔を真っ赤にして、唇を手で覆い、悠斗を睨む。

 真希と、瞬は驚いたように悠斗と芳樹を見比べている。

「どう? 緊張、吹っ飛んだだろ」

 悪戯っ子のような、悠斗の表情。二の句が継げないでいる芳樹から、悠斗は呆然としている真希達に視線を向ける。

「あ、言い忘れてたけど、俺達付き合ってるから」

 あっけらかんとした口調に、瞬時には意味が掴み切れなかったらしい。

 たっぷりと間をあけて、真希と瞬は大声で叫んだ。

「えぇー!」

 二人の声がはもった。

「ユウト、何で今言うんだよ」

 恥ずかしさのあまり、声を荒げる。

 悠斗は、人を食ったような顔で告げた。

「別に、今でも、あとでも、ヨシキが恥ずかしいのは、一緒じゃん」

 俺は別に恥ずかしくも何ともないけどと、悠斗は付け加える。こう言うところが憎らしいけど好きだ。

 芳樹と悠斗の様子を目にしていた瞬が、不意に声を上げた。

「ずっるい。真希ちゃん。俺達もラブラブしよう!」

 瞬は真希に抱きつこうとした。

「はあ? サカるな。今仕事中!」

 真希が顔を真っ赤にして、瞬の頭を叩いた。

 瞬はがっかりと肩を落とす。肩で息をして怒る真希に、悠斗はこともなげに告げた。

「あ、真希ちゃん。俺達今度引っ越そうと思ってるんだ。今の部屋じゃ、二人で住むには狭いしさ」

「ちょ、ちょっと待って、ユウト。そんな話聞いてない」

 慌てて、芳樹が声を上げる。

 真希が何か言う前に、瞬がまたも声を上げた。

「えー、ユウ君ばっかりずるい。真希ちゃん。俺達も一緒に暮らそう」

 瞬が真剣に、真希に訴える声に紛れて、悠斗はそっと芳樹に囁いた。

「いいだろ、ヨシキ。あ、引っ越しても、寝室は別にしないぞ。絶対一緒だからな」

 新しい部屋が決まったら、二人で新しいベッドを買いに行こう。

 瞬と真希の言い合う声に紛れて聞こえた悠斗の誘いに、芳樹は満ち足りた気分で頷いた。


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