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最凶の女  作者: いよむ
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雨の中傘を差して歩くのは、最低な気分だった。別に雨がきらいなわけじゃないけど、今日は高校の入学式。どうしてこんなじめじめした時に、思い出になるであろう日を迎えなきゃいけないのだろうか?

それもこれも・・・

<ブッブー>

後ろから車の音。無意識に体をどかす。

目に留まる水溜り。

この位置はやばいっ。

かまわず走り進む、黒色の車。

頭で理解しても、体が動く余裕はない。

<バッシャァ>

想像通りの出来事が私の身に降りかかった。車によって飛ばされた、水溜りの泥の水が私に襲い掛かってきたのだ。そして私は抵抗することもできず、頭からその泥水をかぶっていた。

傘をそしていたのに、どうしてジャストな位置に全ての水が飛んできたのだろうか。人為的なものを感じる。と思うのはひねくれでしかないだろう。

今日は入学式。

私はどろどろの姿で人生の一歩を進むことになった。



「あははっ。記念すべき高校の入学式をジャージで受ける女子高生は、あんただけだったよっ。さすがだねっ」

これは私には死活問題に近いのに、中学からのこの友人は大口を開けて笑い飛ばした。

高校初めの入学式とは、中学とは違う高校の少し大人の人生を歩むにはとても重要な日だ。このときにクラス発表やら、クラスのメンバーの顔合わせやらするのに、入学時期ジャージで出席。初顔合わせもジャージとかって、笑いものの何でもない。ってか本気で友達ができるか心配なところである。高校生活第一歩にして、もう終わってしまったかもしれない・・・。

「私もショックなんだよ。初めて・・・初めての日なんだよっ!!初めての高校生活。初めての制服。それが全部ジャージによって崩れるなんて・・・。この茶色に染まった制服今からでも着てこようかな・・・。」

「あははっ。大丈夫大丈夫。みんなそんなに、気にしないよっ。まぁ、ニックネームはじゃぁじ子になるかもだけどね★」

「それ最低・・・。」人の不幸をひとしきり大笑いした後、やっとこの子は苦しそうに息をついた。こんな風に気さくに話せるのも、ゆうこは中学からの大の親友だからだ。

ゆうこは同じ中学で、ずっと一緒にいた友達だ。それこそトイレも一緒にじゃないと行かないほどの、親友だと私は思ってる。

「でも本当、あゆみは不幸だよねー。もう何をやってもダメダメ。」

「むかつくなぁ。その言い方。」

「あははっ。ごめんごめん。でもあゆみが不運になったのはあの時からでしょー。あのおみくじ。」



私はとても不運な女だ。それはなんか被害妄想とか痛いことじゃなくて、自他とも認める事実だった。

そしてそれには理由がある。(と思ってる。)

今年の1月1日。友達(ゆうこも含めてみんな)で初詣に行った時、1年の運勢を知ろうということでみんなでおみくじを引いたのだ。

大吉や小吉などみんなが無難な運勢を引いていく中、私はとんでもないものを引いてしまった。

<特凶>

もう周りのみんなは大笑い。特凶なんて存在したんだぁ、だの、あんたもう高校終わったね、だの他人事だと思って、ボロクソ言ってくださった。

でもその時は私も受験の不安はあったけど、ただのおみくじだと友達とふざけあっていた。だって特凶でしょ?こんなんノリ以外の何でもないじゃない?

でも・・・ノリではなかった。

それ以来私は、それこそ特凶だった。

そりゃ、受験会場間違うわ、会場の門でバナナの皮にすべるわ、受験当日忘れそうになった鍵を親が落として渡すわ、電車の中ではスキーに行くであろう学生が滑るやら滑ろうやら連呼するわ、外れた消しゴムケースがどうしても入らないやら・・・

ここはどうでもいいが、確実といわれていた第一志望の大学は落ち、なんとか第二志望の学校にとどまった矢先これだ。

もうオミクジのワンダーさに、脅えるしかない。




「本当、特凶なんてネタみたなおみくじ引いてからまぢいいことないよ・・・。」

「そうだよねー。イベントごとにはことごとく雨は降るし、段差にはことごとくこけてるし、提出物はことごとく忘れてたもんねー。もう本当特凶だね。」

「でもまぁ、ゆうことりょうがいる高校に入れたのはすっごい幸運だけどね。」

「あははっ。言うなぁ。」

本当にそうだった。

これで友達のまったくいない高校になんか入れられた日にゃー、おみくじを引かせた神社に殴りこみに行ってる所だ。ってか特凶っておみくじを作ったことを文句だけでも言いにいこうかなぁー。

「でもあゆみの引いた特凶って、なんか全体的に運気最悪でしょうって書いてたけどさ、恋愛のところだけ、待ち人来るってなってなかった??」

「それこそ不運だし。私にはりょうと言う結婚を約束した旦那がいるのに・・・。」

ちょっと演技っぽく言ってみる。ゆうこはまた大笑いをして、なんだぁーっと私の頭をぽかっと殴った。


ゆうこのこんなところを私は大好きだった。他の女の子はノリでも、のろけたりしたらちょっと嫌そうな顔をする。でもゆうこは違った。

そりゃバカにしたように言うけど、本気で私の相談をのってくれるし、本気で応援してくれるし、本気でのろけを楽しんで聞いてくれている。恋愛で悩んだときはゆうこ以外に相談はできなかったし、したいとも思わなかった。それこそ親友のあかしだよね。などと一人で考えてたりするのは、秘密だ。

ちらりと教室を見回す。ゆうことは同じ教室になれた。それはすっごく喜ばしいことだけど、りょうとは離れてしまった。少し寂しいな・・・。

クラスの子達が、私のジャージが気になるのかちらちらとこちらを見ている。ああっ・・・本当にこのことが原因でいじめられたりしないだろうか。初めて不安で仕方ないのにあの特凶めっ!!

<ガラガラガラ>

ザワザワしてた教室が一瞬で静かになる。よれよれのスーツを着た、無精ひげの男が入ってきた。多分このクラスの担任だろう。

どんな人なんだろう。恐い人だったら嫌だな。この瞬間が一番どきどきするかもしれない。

「このクラスを担当することになった野村です。野原の野に村田の村だ。よろしくなっ。」

みんな緊張してるのか何も言わなかった。先生も少し狙ってたのが、すごく恥ずかしそうに頬をかいた。

「なんだよ。この岩みたいな空気は。もっとテンションあげろや。恥ずかしいだろ。」

「先生つまんないよ。」

男子の一人が言い、みんながどっと笑った。この人はとてもいい人そうだ。それにこのクラスもなんだかいい雰囲気。

すごく安心して、前に座るゆうこと笑顔で言葉じゃないメッセージを伝え合った。

「尾道歩。おっ、お前が水ぶっかけられて、一人ジャージで出席した不運娘か。」

みんなが笑い、教室がゆれた。興味で溢れた視線がそそがれる。

恥ずかしくて顔を上げられなかった。ああ。やっぱり特凶の効果がこんなところまで出てるんだ・・・

グッバイ高校生活。

そしてアニョハセヨいじめ。

「まぁ、そんな凹むなって。俺だっていつもはジャージだぞ。入学式だから、こんなぴしっときめてるが。」

またクラスのみんなが笑いだす。私に向けられてた視線が柔らかいものにかわった。この先生は私のためにこんな事を言ってくれたんだ・・・

なんていい人なんだろう・・・。

「まぁ、ニックネームはじゃぁじ子だけどな。」

私の感謝の気持ちが、音を立てて崩れていった。


ああ。

高校生活も特凶のようだ・・・。

やはり神社に殴りこみに行こう・・・。

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