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第1話

初めまして!鈴宮べると申します!

今回この小説を書くにあたって様々な壁に私はぶつかってきました、それは内容だったりタイトルだったり言っちゃえば文字数だったり、、、笑

そんな困難を乗り越えて作り上げた作品の第1話となっております!少し内容は少なめかもしれませんが是非お楽しみください!

冬の空気は、音を奪う。

 放課後の校舎を出ると、吐いた息が白くほどけて、すぐに消える。

 夕焼けはもう低く、校庭の端から端までを薄く冷たい橙色に染めていた。

 世界は静かで、乾いている。

 その乾いた空気の中で、彼女はいつも、ひとりだった。

 

 柊深琴(ひいらぎ みこと)は、ただ一人静かに座っていた。

 鬱々と沈んでいるわけでも、露骨に怯えているわけでもない。

 ただ、縁まで満たされたワイングラスのように、静かに揺れている。

 少し触れれば零れそうなのに、決して零れない。

 泣かない。

 怒らない。

 言い返さない。

 俯いたまま、そこにいる。

 その均衡が、異様に綺麗だった。

 

 気づいたのは、二学期の文化祭の頃だ。

 教室のざわめきの中で、彼女だけが違う音をしていた。

 周囲と噛み合わない、透明な音。

 そのときから、僕はときどき彼女を見るようになった。

 理由はない。

 ただ、目が向いた。

 

 冬の昼休み。

 暖房の効きが悪い教室で、窓際の席に座る深琴の指先は、少し赤い。

 前の席の白石由奈(しらいし ゆな)が振り返る。

「ねえ、それプリント回してくれない?」

 深琴は無言で差し出す。

 由奈は受け取ると、横の立花美雪(たちばな みゆき)に笑いながら言った。

「相変わらず無口だよね。怖くない?」

 美雪は肩をすくめる。

「何考えてるか分かんないよね」

 後ろから鈴木颯太(すずき そうた)が口を挟む。

「てかさ、たまには喋れば?」

 軽い声色。

 冗談みたいな響き。

 山崎晃己(やまざき こうき)が苦笑する。

「お前らさ、絡みすぎだろ」

 止めるでもなく、煽るでもない。

 空気は笑いに包まれる。

 

 それはいじめと呼ぶには弱すぎる。

 けれど、確実に削っている。

 由奈がわざとらしく首を傾げる。

「聞こえてる?」

 深琴は、俯いたまま小さく頷く。

 それだけ。

 反論もしない。

 視線も上げない。

 

 指先が、わずかに震えている。

 でも、涙は落ちない。

 泣けば楽になると知っていて、きっとそれでも零さない。

 その強さが、危うい。

 

 僕は窓際から、その光景を見ていた。

 正義感はない。

 助けたいとも、まだ思っていない。

 ただ、溢れそうで溢れない均衡から、目が離せなかった。

 

 放課後。

 日が落ちるのが早い冬は、帰り道を急がせる。

 深琴はいつも、駅とは反対方向へ歩いていく。

 理由は知らない。

 でも、知っている。

 細い住宅街の道。

 古い自販機のある角。

 赤いポストの前を通る。

 どれも偶然だ。

 たぶん。

 

 今日も少し距離をあけて、後を追う。

 自分でも気持ち悪いと思う。

 けれど、足は止まらない。

 均衡がまだ保たれているか、確かめたかった。

 

「ねえ、ちょっと」

 由奈の声が、冷たい空気を切る。

 深琴の足が止まる。

 振り返ると、由奈と美雪、颯太、晃己が立っていた。

「さっきさ、感じ悪くなかった?」

 由奈が一歩近づく。

「無視してるつもりないとか思ってる?」

 深琴は俯いたまま、小さく言う。

「……してない」

 初めて聞いた、ちゃんとした声。

 想像より、静かで、まっすぐだった。

 颯太が笑う。

「でもさ、そう見えるって話」

 由奈が吐き捨てるように言う。

「空気読めないよね」

 肩を軽く押す。

 強くはない。

 でも、冷たいコンクリートの壁が背中にある。

 逃げ場はない。

 

 ワイングラスが揺れる。

 あと少しで、零れる。

 

「おいおい、やりすぎだろ」

 晃己が笑い混じりに言う。

「寒いし帰ろうぜ」

 止める気はない。

 ただ、面倒なのだ。

 由奈は舌打ちする。

「は? 別にいじめてないし」

 

 そのとき。

「……やめろ」

 声が出た。

 自分でも驚くほど、低い。

 四人が振り向く。

「は? 何?」

 由奈の眉が寄る。

「関係なくない?」

 正しい。

 僕は関係ない。

 でも、関係なく終わらせたくなかった。

 

 壊すなら。

 壊すなら、僕がいい。

 他の誰かに、この均衡を奪われたくない。

 

「帰れよ」

 それだけ言う。

 颯太が鼻で笑う。

「何様?」

 由奈は僕を睨むが、やがて視線を逸らす。

「意味わかんない」

 美雪が小さく笑う。

 晃己が肩をすくめる。

「ほら、帰ろうぜ」

 四人は、あっさりと去っていった。

 冬の夕暮れに溶けるように。

 

 静寂が戻る。

 空はもう、ほとんど藍色だ。

 深琴はまだ俯いている。

 白い吐息が、細く震えている。

 肩が、ほんの少しだけ上下する。

 でも、涙は零れない。

 

 ゆっくりと、顔が上がる。

 目が合う。

 

 怒りもない。

 感謝もない。

 ただ、揺れたまま保たれている均衡。

 

 その瞬間、はっきりと理解した。

 僕は彼女を助けたかったわけじゃない。

 正義でもない。

 

 虚ろな僕、朝比奈怜(あさひな れい)は、壊れそうな彼女だけを欲しがった。

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