表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

第4話【HUNTING《ハンティング》】

ハブデビ!です!

作品を手に取っていただきありがとうございます!

気軽に読んでいただけると嬉しいです!

 ───────依頼を受けた同日の深夜。東京の街は、眠らず息をしているかのようである。

 ネオン、笑い声、行き交う人々。

 楢歌は、その全てから一歩引いた場所……人気もなく、街灯の光も差さないような道路上に立っていた。


 炎の模様が描かれた黒い覆面。

 そして炎柄の入った黒いタキシード。楢歌は夜に溶けようとしている。


 視線の先には、古びた雑居ビル。半グレたちの溜まり場。

 中から漏れる音楽と、下品な笑い声。

 人数は……五人。過敏にも研ぎ澄まされた聴覚が、その情報を楢歌へ共有する。


 雑居ビルの目の前で楢歌は、一度だけ深く目を閉じた。


(さて──────始めるか。)


 心の中で呟く。深く、息を吸う。そして、一歩踏み出す。

 胸の奥で、地獄の洞穴(ヘル・ケイブ)は静かに開き始めている。


 楢歌は、音も無くビルの中へ足を踏み入れた。

 足音も、床が軋む音も、呼吸の音も。誰もそこに居ないかのように、一切の無音。

 二階、三階と進めば、だんだんと聞こえてくるのは、男達の笑い声。


「今日もいっちょ、ヤりに行きますかね〜。」

「オイオイやめとけよ〜。

 買収したとはいえ、次はお前が警察(サツ)のお世話になるかもしれねぇぞ〜?」


「ギャハハ」という汚い声……それが耳に届いた瞬間、楢歌の足が止まった。

 拳が、わずかに震える。


(これ以上聞くな……。)


 自分に言い聞かせるように、一歩、また一歩と進む。

 ドアの前……薄い鉄製。向こう側に、五つの魂の気配。

 楢歌は、ゆっくりと息を吸う。

 そして……人間離れした『蹴り』を放つ。



 ───────ドガァンッ!!



 爆弾でも起爆したかのような、豪快な音。

 蹴破られたドアは歪み、金属音を立て内側へ吹き飛ぶ。

 楢歌の目には、薄汚れた室内の光景が映る。

 所々剥がされた壁紙、エレキギターとアンプ、テレビ、汚れたベッド……そして椅子から跳ね上がる五人の男。

 男臭い匂いが充満している。


「誰だテメー!!」

「何だこのマスクの変態は!!!」


 驚く半グレ達。怒号、罵声を楢歌へ浴びせる。

 彼らの手には『銃』が握られており、楢歌が部屋へ入ると同時に、その一点へ向けて構えられる。

 楢歌は両手を肩まで上げ、向けられた銃口を睨みつけている。


「誰だ……か。そうだな、教えといてやる。

 俺は『 HELL(ヘル) HUNTER(ハンター) 』……貴様らにとっての『閻魔様』と思え。」


 そう楢歌が言い終わると同時、一秒の間もない刹那──────半グレ達は、一斉に引き金を引く。

 うざったい蚊でも殺すかのように、躊躇も迷いもない。



 ────────パン!……パパパン!!!



 乾いた複数の破裂音が、室内に響く。

 10発か20発か……数える暇もない。

 放たれた弾丸は真っ直ぐ、楢歌の身体を貫いていく。

 衝撃、純粋な痛み……弾丸着弾と同時に、楢歌を襲う。


「うぐァア───ッッ!!!!」


 肩の肉は抉れ、胸骨に弾丸が跳ねる。腹部を通る弾丸は、胃や腸を貫き、背中から飛び出す。

 研ぎ澄まされた楢歌の神経へ、痛みは直接叩く。

『優れた五感』……それを持つ楢歌は、常人よりも数十倍『苦痛』を感じてしまう。

 余計に、過敏に、過剰に……地獄の力のデメリット。


 楢歌の視界はボヤけて歪む。喉からは、無様な呻き声しか発せない。

 膝はガクンと折れ、床に手を着く。

 しかし、楢歌は死ぬことを許されていない。


(……あぁ、来るぞ。)


 楢歌は覚悟した。

 銃声が止んだ瞬間、砕けた骨が内側に引き戻される感覚。

 裂けた筋肉は無理やり縫合され、神経はまた繋がる。

 楢歌にとって、銃で撃たれるよりも『治る過程』が死ぬほど痛い。


地獄の追放者(ヘル・エグザイル)』──────閻魔いわく、『等活地獄(とうかつじごく)』の力。

「活きよ、活きよ」と言わんばかりに、身体は復活をする。

 過敏に痛みを感じる楢歌からすれば、『相性最悪』の力。


「……だから、嫌なんだ!!!」


 楢歌はフラフラと立ち上がる。

 それを目撃した半グレたちの顔から、『恐れ』がこぼれる。


「な、なんで生きてんだコイツ……!!」

「知るかよ……も、もう一発ぶっぱなすか……?」


 恐怖が場を支配する……この瞬間。

 楢歌の脚……その筋肉が、一瞬にして『膨張』する。

 ボンッ!……と、まるで爆ぜるかのごとく。

 無論、楢歌には痛みが襲う。


「……畜生め。」


 太腿の筋肉が、内側から無理やり膨張。

 筋繊維が引き裂かれ、骨が押し広げられる感覚。

 そして自分の脚が、自分のものではなくなるのだ。


 楢歌は、そんな化け物じみた脚で……床を蹴る。瞬間、楢歌の視界は歪む。

 半グレ達の視界には、残像を残し接近する楢歌の姿が映し出されている。

 オートバイや車よりも速く、楢歌は一人の半グレの前に現れた。


「い、いつの間──────」


 その男が声を上げる隙もなく、楢歌の低い呟きが遮った。


「……『黒縄(ヘル・リード)』……!!!」


 ブチィ─────と、楢歌の腕は内側から裂ける。

 血と共に、ワイヤーのような『黒い縄』が身体を突き破り噴き出した。

 自分の肉を裂かれる感覚。痛みに視界が暗転しつつも、楢歌は耐えている。


 楢歌の腕から噴き出す数本の『黒い縄』……。

 それは半グレ一人の首、腕、胴体へタコのように絡みつく。


 男の身体を宙に浮かせる。

 だんだんと締め上げ、肺を潰し、喉から泡を吹かせている。

 男は窒息の苦しみの中悶える。

 上を向いては喉を掻き、「あがあが」と声を漏らす。

 ミシリミシリと、脊髄を砕く黒い縄……ものの一分もしないうちに────……一人の命を奪う。


 男の死亡を確認した楢歌。しかしまだ、狩りは止まらない。

 二人目……別の男へ向け、右手の掌を突き出す。


 手を向けられた男の下腹部は、じんわりと濡れている。


「衆合地獄……『針山(ヘル・ニードル)』!!!」


 楢歌がそう呟くと、右手の掌へ激痛が生じる。

 内側から『刺される』感覚……その瞬間、勢いよく無数の『針』が突き破った。

 楢歌の手の筋肉を突き刺し、裁縫針程度の針が、まるでマシンガンのように放たれる。


「あ、あぁ……や、やめて─────」


 無数の針は、半グレの身体を貫通する。

 頬、顎、頭蓋……亜音速の針によって、それらは破壊される。

 悶える暇もない。声も出させず、二人目も殺す。


 楢歌は止まることなく、横に並ぶ二人の男へ向けて走る。

 一瞬……男達が瞬きをすればいつの間にか、楢歌に顔を掴まれている。

 楢歌の右手と左手、それぞれにガシッと男の頭が掴まれている。

 鷲掴み。黒い革手袋は、二人の顔を圧迫している。


「二人揃って苦しめ……『叫喚(ヘル・ハウンド)』!!」


 その声を聞いた男達。身体中に違和感を覚えた。

 モゾモゾと、皮膚の内側を何かが這っているような、気色の悪いムズ痒さ……頭を掴まれたまま、全身を掻きむしる。

「痒い痒い!」と掻き続けるが、解消はされない。

 しかし、足元に、ポツリポツリと『何か』が落ちていくのがわかる。


 ───────それは『ウジ虫』……身体中、男達の皮膚からウジャウジャと湧き出ている。


 叫喚(ヘル・ハウンド)……楢歌が痛みを伴わない、珍しい地獄の力。

 楢歌は閻魔から聞いたことを思い出す。

 これは『現実改変能力』の一種だと。


 痒さに悶え、二人の男はまさに『叫喚』している。


「ギャアアアアア───────!!!!」

「痒い、痛い、嫌だぁぁぁあ!!」


 ……この苦痛は三分も続いた。

 男達は、自ら掻き続けた結果……手の爪は剥がれ、ウジ虫と皮膚を地面に落とす。

 そして苦痛を長々と味わった末に、ショックにより同時に死ぬ。

 一人、二人、三人、四人……楢歌は順番に、地獄の力で殺していく。



 楢歌は────────とうとう、最後の獲物を見る。

 マスク越しでもその睨みは、最後の一人を恐怖させた。

 一歩ずつ、確実に楢歌は近づいていく。


 腰が引け、床に腰を落とす男……銃を構え、何度もカチャンカチャンと引き金を引くが、弾は出ない。

 リロードする考えよりも、目の前の脅威から逃げたい……その逃走本能が先走る。

 心臓の鼓動は速くなる。しかし脚に力が入らない。


「あぁ、う、動けよオレ……!!!」


 動くことが出来ない……そんな男にも、楢歌は容赦はしない。

 許しを乞う時間も与えない。


「一番使いたくないが……ここを『焼き払う』為にも使わせてもらう。

 せいぜい、苦しんでから死ねよ……『焦熱(ヘル・ファイア)』……。」


 楢歌はそう言うと、足を肩幅に広げ、大の字を書くように腕を大きく広げる。

 楢歌は感じる。徐々に胸の奥が熱されていく。

 暖かさはとうに通り越し、一瞬で灼熱が楢歌を襲う。


「うぐぅアアアアアア──────────!!!!!」


 叫ぶ。楢歌の身体は今にも燃え尽こうとしている。

 胸の奥にある穴、『地獄の洞穴(ヘル・ケイブ)』が揺れているのを感じる。

 焦熱(ヘル・ファイア)……文字通り、この地獄の洞穴(ヘル・ケイブ)から『地獄の業火』を現世に呼ぶ力。


 楢歌の胸筋は中心から裂け、火炎が放たれる。

 肉が裂ける痛みと、業火の熱気……息も絶え絶えになりつつ、楢歌は男へ向け、胸から火炎を放射する。

 雄叫び、悲鳴、共鳴する。


「ギャアアアァァアァア!!!!」


 地獄の業火は室内を含め、目の前の男を焼き尽くさんとする。

 罪人を苦しめ、焼き殺し、あらゆるものを蒸発させるその炎は、楢歌諸共包み込んでいる。


 地獄の業火は、容赦が無かった。

 男の皮膚は泡立ち、縮れ、黒く炭化していく。

 肺に入った炎が、内側から喉を焼き、声は悲鳴ではなく『破裂音』に近い嗄れた音へ変わっていった。


「ギャアアアァァ───────」


 叫びは、途切れる。

 正確には、叫ぶための『口』が、焼けて塞がった。

 男の腕や脚はひん曲がる。

 そして……床に触れる前に、炎の中で形を失っていく。


 肉が燃える匂い。パチパチと油がはぜる音。

 部屋の壁紙が、一斉に捲れ上がる。

 エレキギターの弦が熱で張り詰め、ピィンッ!と不気味な音を鳴らして切れた。

 テレビの画面は内側から割れる。窓ガラスなど、既に溶解されている。


 地獄の炎は、罪人だけでは終わらない。

 罪の匂いが染み付いた部屋そのものを───────『現世の汚れ』ごと、焼き払おうとしていた。


 その炎は、当然のように楢歌も蝕む。


「────────ぐうぁ……ッ」


 視界が白く濁る。肺が焼けるような感覚が襲う。

 骨の髄まで焼かれる。

 炎は、筋肉が剥き出しの身体の神経を舐め、感覚を、狂わせる。


 楢歌は歯を食いしばり、膝をついた。

 両手を床につく。熱でフローリングが柔らかく感じる。

 息を吸うたびに、喉が焼ける。

 吐くたびに、血の味がする。


 上を見れば、炎が天井を覆い、煤が黒い雪のように降る。

 ───────まるで、あの日見た地獄。


 その中心で、楢歌は膝をつき、動かなかった。


「これだから使うのを躊躇っていたのだ!!!」


 楢歌の喉から、怒号と後悔が漏れた。

 炎の向こうには、割れた窓の先、逃げ道がある。

 だが─────今の身体では、走れない。

 焦熱の反動で、脚が言うことをきかない。

 息も、整っていない。


「仕方がない。」と、楢歌は唇を噛んだ。

 そして、かすれた声で呟く。


「ハァ……『吒々(ヘル・スプリット)』……。」


 次の瞬間……楢歌の身体が、内側から弾けるように─────砕けた。

 当然、骨が粉々になり、筋肉が千切れ、意識が引き裂かれる『痛み』を感じている。


 ──────吒々(ヘル・スプリット)の力は、楢歌を別の場所へ『瞬間移動』させる効果を持つ。

『大焦熱地獄』の『吒々々嚌処(たたたざいしょ)』の力……代償は粉砕される身体の苦痛だ。


 燃え盛る部屋には、膝をついていたはずの楢歌はもう居ない。

 残っているのは、焦げた床と、炭になった死体、地獄と化した部屋だけ。


 炎は、窓から夜空へ噴き上がる。

 遠くから見れば、まるで灯台のように赤く揺れていた。



 ───────現世に残った、地獄の痕跡。今日の狩りは、これにて閉廷する。

読んでいただきありがとうございましたー!

絶賛連載中なので、次も読んでくれると嬉しいです!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ