第4話【HUNTING《ハンティング》】
ハブデビ!です!
作品を手に取っていただきありがとうございます!
気軽に読んでいただけると嬉しいです!
───────依頼を受けた同日の深夜。東京の街は、眠らず息をしているかのようである。
ネオン、笑い声、行き交う人々。
楢歌は、その全てから一歩引いた場所……人気もなく、街灯の光も差さないような道路上に立っていた。
炎の模様が描かれた黒い覆面。
そして炎柄の入った黒いタキシード。楢歌は夜に溶けようとしている。
視線の先には、古びた雑居ビル。半グレたちの溜まり場。
中から漏れる音楽と、下品な笑い声。
人数は……五人。過敏にも研ぎ澄まされた聴覚が、その情報を楢歌へ共有する。
雑居ビルの目の前で楢歌は、一度だけ深く目を閉じた。
(さて──────始めるか。)
心の中で呟く。深く、息を吸う。そして、一歩踏み出す。
胸の奥で、地獄の洞穴は静かに開き始めている。
楢歌は、音も無くビルの中へ足を踏み入れた。
足音も、床が軋む音も、呼吸の音も。誰もそこに居ないかのように、一切の無音。
二階、三階と進めば、だんだんと聞こえてくるのは、男達の笑い声。
「今日もいっちょ、ヤりに行きますかね〜。」
「オイオイやめとけよ〜。
買収したとはいえ、次はお前が警察のお世話になるかもしれねぇぞ〜?」
「ギャハハ」という汚い声……それが耳に届いた瞬間、楢歌の足が止まった。
拳が、わずかに震える。
(これ以上聞くな……。)
自分に言い聞かせるように、一歩、また一歩と進む。
ドアの前……薄い鉄製。向こう側に、五つの魂の気配。
楢歌は、ゆっくりと息を吸う。
そして……人間離れした『蹴り』を放つ。
───────ドガァンッ!!
爆弾でも起爆したかのような、豪快な音。
蹴破られたドアは歪み、金属音を立て内側へ吹き飛ぶ。
楢歌の目には、薄汚れた室内の光景が映る。
所々剥がされた壁紙、エレキギターとアンプ、テレビ、汚れたベッド……そして椅子から跳ね上がる五人の男。
男臭い匂いが充満している。
「誰だテメー!!」
「何だこのマスクの変態は!!!」
驚く半グレ達。怒号、罵声を楢歌へ浴びせる。
彼らの手には『銃』が握られており、楢歌が部屋へ入ると同時に、その一点へ向けて構えられる。
楢歌は両手を肩まで上げ、向けられた銃口を睨みつけている。
「誰だ……か。そうだな、教えといてやる。
俺は『 HELL HUNTER 』……貴様らにとっての『閻魔様』と思え。」
そう楢歌が言い終わると同時、一秒の間もない刹那──────半グレ達は、一斉に引き金を引く。
うざったい蚊でも殺すかのように、躊躇も迷いもない。
────────パン!……パパパン!!!
乾いた複数の破裂音が、室内に響く。
10発か20発か……数える暇もない。
放たれた弾丸は真っ直ぐ、楢歌の身体を貫いていく。
衝撃、純粋な痛み……弾丸着弾と同時に、楢歌を襲う。
「うぐァア───ッッ!!!!」
肩の肉は抉れ、胸骨に弾丸が跳ねる。腹部を通る弾丸は、胃や腸を貫き、背中から飛び出す。
研ぎ澄まされた楢歌の神経へ、痛みは直接叩く。
『優れた五感』……それを持つ楢歌は、常人よりも数十倍『苦痛』を感じてしまう。
余計に、過敏に、過剰に……地獄の力のデメリット。
楢歌の視界はボヤけて歪む。喉からは、無様な呻き声しか発せない。
膝はガクンと折れ、床に手を着く。
しかし、楢歌は死ぬことを許されていない。
(……あぁ、来るぞ。)
楢歌は覚悟した。
銃声が止んだ瞬間、砕けた骨が内側に引き戻される感覚。
裂けた筋肉は無理やり縫合され、神経はまた繋がる。
楢歌にとって、銃で撃たれるよりも『治る過程』が死ぬほど痛い。
『地獄の追放者』──────閻魔いわく、『等活地獄』の力。
「活きよ、活きよ」と言わんばかりに、身体は復活をする。
過敏に痛みを感じる楢歌からすれば、『相性最悪』の力。
「……だから、嫌なんだ!!!」
楢歌はフラフラと立ち上がる。
それを目撃した半グレたちの顔から、『恐れ』がこぼれる。
「な、なんで生きてんだコイツ……!!」
「知るかよ……も、もう一発ぶっぱなすか……?」
恐怖が場を支配する……この瞬間。
楢歌の脚……その筋肉が、一瞬にして『膨張』する。
ボンッ!……と、まるで爆ぜるかのごとく。
無論、楢歌には痛みが襲う。
「……畜生め。」
太腿の筋肉が、内側から無理やり膨張。
筋繊維が引き裂かれ、骨が押し広げられる感覚。
そして自分の脚が、自分のものではなくなるのだ。
楢歌は、そんな化け物じみた脚で……床を蹴る。瞬間、楢歌の視界は歪む。
半グレ達の視界には、残像を残し接近する楢歌の姿が映し出されている。
オートバイや車よりも速く、楢歌は一人の半グレの前に現れた。
「い、いつの間──────」
その男が声を上げる隙もなく、楢歌の低い呟きが遮った。
「……『黒縄』……!!!」
ブチィ─────と、楢歌の腕は内側から裂ける。
血と共に、ワイヤーのような『黒い縄』が身体を突き破り噴き出した。
自分の肉を裂かれる感覚。痛みに視界が暗転しつつも、楢歌は耐えている。
楢歌の腕から噴き出す数本の『黒い縄』……。
それは半グレ一人の首、腕、胴体へタコのように絡みつく。
男の身体を宙に浮かせる。
だんだんと締め上げ、肺を潰し、喉から泡を吹かせている。
男は窒息の苦しみの中悶える。
上を向いては喉を掻き、「あがあが」と声を漏らす。
ミシリミシリと、脊髄を砕く黒い縄……ものの一分もしないうちに────……一人の命を奪う。
男の死亡を確認した楢歌。しかしまだ、狩りは止まらない。
二人目……別の男へ向け、右手の掌を突き出す。
手を向けられた男の下腹部は、じんわりと濡れている。
「衆合地獄……『針山』!!!」
楢歌がそう呟くと、右手の掌へ激痛が生じる。
内側から『刺される』感覚……その瞬間、勢いよく無数の『針』が突き破った。
楢歌の手の筋肉を突き刺し、裁縫針程度の針が、まるでマシンガンのように放たれる。
「あ、あぁ……や、やめて─────」
無数の針は、半グレの身体を貫通する。
頬、顎、頭蓋……亜音速の針によって、それらは破壊される。
悶える暇もない。声も出させず、二人目も殺す。
楢歌は止まることなく、横に並ぶ二人の男へ向けて走る。
一瞬……男達が瞬きをすればいつの間にか、楢歌に顔を掴まれている。
楢歌の右手と左手、それぞれにガシッと男の頭が掴まれている。
鷲掴み。黒い革手袋は、二人の顔を圧迫している。
「二人揃って苦しめ……『叫喚』!!」
その声を聞いた男達。身体中に違和感を覚えた。
モゾモゾと、皮膚の内側を何かが這っているような、気色の悪いムズ痒さ……頭を掴まれたまま、全身を掻きむしる。
「痒い痒い!」と掻き続けるが、解消はされない。
しかし、足元に、ポツリポツリと『何か』が落ちていくのがわかる。
───────それは『ウジ虫』……身体中、男達の皮膚からウジャウジャと湧き出ている。
叫喚……楢歌が痛みを伴わない、珍しい地獄の力。
楢歌は閻魔から聞いたことを思い出す。
これは『現実改変能力』の一種だと。
痒さに悶え、二人の男はまさに『叫喚』している。
「ギャアアアアア───────!!!!」
「痒い、痛い、嫌だぁぁぁあ!!」
……この苦痛は三分も続いた。
男達は、自ら掻き続けた結果……手の爪は剥がれ、ウジ虫と皮膚を地面に落とす。
そして苦痛を長々と味わった末に、ショックにより同時に死ぬ。
一人、二人、三人、四人……楢歌は順番に、地獄の力で殺していく。
楢歌は────────とうとう、最後の獲物を見る。
マスク越しでもその睨みは、最後の一人を恐怖させた。
一歩ずつ、確実に楢歌は近づいていく。
腰が引け、床に腰を落とす男……銃を構え、何度もカチャンカチャンと引き金を引くが、弾は出ない。
リロードする考えよりも、目の前の脅威から逃げたい……その逃走本能が先走る。
心臓の鼓動は速くなる。しかし脚に力が入らない。
「あぁ、う、動けよオレ……!!!」
動くことが出来ない……そんな男にも、楢歌は容赦はしない。
許しを乞う時間も与えない。
「一番使いたくないが……ここを『焼き払う』為にも使わせてもらう。
せいぜい、苦しんでから死ねよ……『焦熱』……。」
楢歌はそう言うと、足を肩幅に広げ、大の字を書くように腕を大きく広げる。
楢歌は感じる。徐々に胸の奥が熱されていく。
暖かさはとうに通り越し、一瞬で灼熱が楢歌を襲う。
「うぐぅアアアアアア──────────!!!!!」
叫ぶ。楢歌の身体は今にも燃え尽こうとしている。
胸の奥にある穴、『地獄の洞穴』が揺れているのを感じる。
焦熱……文字通り、この地獄の洞穴から『地獄の業火』を現世に呼ぶ力。
楢歌の胸筋は中心から裂け、火炎が放たれる。
肉が裂ける痛みと、業火の熱気……息も絶え絶えになりつつ、楢歌は男へ向け、胸から火炎を放射する。
雄叫び、悲鳴、共鳴する。
「ギャアアアァァアァア!!!!」
地獄の業火は室内を含め、目の前の男を焼き尽くさんとする。
罪人を苦しめ、焼き殺し、あらゆるものを蒸発させるその炎は、楢歌諸共包み込んでいる。
地獄の業火は、容赦が無かった。
男の皮膚は泡立ち、縮れ、黒く炭化していく。
肺に入った炎が、内側から喉を焼き、声は悲鳴ではなく『破裂音』に近い嗄れた音へ変わっていった。
「ギャアアアァァ───────」
叫びは、途切れる。
正確には、叫ぶための『口』が、焼けて塞がった。
男の腕や脚はひん曲がる。
そして……床に触れる前に、炎の中で形を失っていく。
肉が燃える匂い。パチパチと油がはぜる音。
部屋の壁紙が、一斉に捲れ上がる。
エレキギターの弦が熱で張り詰め、ピィンッ!と不気味な音を鳴らして切れた。
テレビの画面は内側から割れる。窓ガラスなど、既に溶解されている。
地獄の炎は、罪人だけでは終わらない。
罪の匂いが染み付いた部屋そのものを───────『現世の汚れ』ごと、焼き払おうとしていた。
その炎は、当然のように楢歌も蝕む。
「────────ぐうぁ……ッ」
視界が白く濁る。肺が焼けるような感覚が襲う。
骨の髄まで焼かれる。
炎は、筋肉が剥き出しの身体の神経を舐め、感覚を、狂わせる。
楢歌は歯を食いしばり、膝をついた。
両手を床につく。熱でフローリングが柔らかく感じる。
息を吸うたびに、喉が焼ける。
吐くたびに、血の味がする。
上を見れば、炎が天井を覆い、煤が黒い雪のように降る。
───────まるで、あの日見た地獄。
その中心で、楢歌は膝をつき、動かなかった。
「これだから使うのを躊躇っていたのだ!!!」
楢歌の喉から、怒号と後悔が漏れた。
炎の向こうには、割れた窓の先、逃げ道がある。
だが─────今の身体では、走れない。
焦熱の反動で、脚が言うことをきかない。
息も、整っていない。
「仕方がない。」と、楢歌は唇を噛んだ。
そして、かすれた声で呟く。
「ハァ……『吒々』……。」
次の瞬間……楢歌の身体が、内側から弾けるように─────砕けた。
当然、骨が粉々になり、筋肉が千切れ、意識が引き裂かれる『痛み』を感じている。
──────吒々の力は、楢歌を別の場所へ『瞬間移動』させる効果を持つ。
『大焦熱地獄』の『吒々々嚌処』の力……代償は粉砕される身体の苦痛だ。
燃え盛る部屋には、膝をついていたはずの楢歌はもう居ない。
残っているのは、焦げた床と、炭になった死体、地獄と化した部屋だけ。
炎は、窓から夜空へ噴き上がる。
遠くから見れば、まるで灯台のように赤く揺れていた。
───────現世に残った、地獄の痕跡。今日の狩りは、これにて閉廷する。
読んでいただきありがとうございましたー!
絶賛連載中なので、次も読んでくれると嬉しいです!!




