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第1話【GUILTY《ギルティ》】

ハブデビ!です!

作品を手に取っていただきありがとうございます!


いつか書こうと思ってた『ダークヒーロー』モノです!


気軽に読んでいただけると嬉しいです!

「天国は心の中にあるとはキリストの言葉だが、地獄もまた同様である。」

 -デール・カーネギー

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「───────被告人を、懲役25年に処します。」


 裁判長の声が、木槌の音とともに響いたこの瞬間……傍聴席がざわめいた。

 法廷はひどく乾いている。

 生ぬるい暖房の効いた広い室内、今日もここで誰かの人生が終わろうとしている。


 中央の被告席。そこに立つ男は、歯を食いしばり検察席へ睨みを利かせている。

 坊主頭に醜悪な人相。血走らせたその目は、今にも誰かを殺そうとしている。

 手錠に繋がれたその両の手は、怒りか武者震いか……ガタガタと震わせている。


 須弥山(しゃみやま) 楢歌(ならか)は、男の睨む先、検察席で腰を落としている。

 静かに、その整った顔は「フッ」と笑みを浮かべている。

 楢歌にとって、この結果は当然のこと。彼は検察官歴15年の中で、負けた事は三回しかない。


 今回も、被告人『火車(ひぐるま) (がく)』を殺人罪に処し、有罪を勝ち取った。彼は暴力団構成員であり、金の為に人を殺めたのだ。

 楢歌は、この暴力団から『ワイロ』を受け取っていたが、それにもかかわらず有罪にした。

 被告人が怒るのも当然のことであり、楢歌にとっても、ワイロなど『暴力団がくれたお小遣い』程度にしか思っていない。


 楢歌は正義を必ず執行する。

 今日も黒いスーツに身をつつみ、楢歌は堂々と胸を張っている。


 裁判長の「これにて閉廷」の声とともに、楢歌は立ち上がった。

 書類を机にトントンと叩き、整える。

 ふと、傍聴席の最前列へ目を向けてみる。初老の女性が、オヨヨオヨヨとハンカチを握りしめて泣いていた。

 被害者の母親だろうか。楢歌の目には、嬉し涙を流しているように見えた。


「これでいい。」


 そう自分に言い聞かせる。

 法というのは『感情』で左右されるべきではない。

 あくまで、『事実』と『正義』の名のもとに執行されるべき……それが楢歌の信条である。


 楢歌が法廷を出ると、静かな廊下が目の前にあった。

「これから帰ろう。」そう思う矢先、背後から声がした。


「──────須弥山(しゃみやま)さん。」


 振り返ればそこに、火車の弁護士が立っている。

 油汗をかく額、178cmの楢歌よりも15cmほど低いふくよかな男。

 無理に作った笑みを浮かべ、話しかけてきた。


「お見事でしたよ。

 私も正直、弁護するのがイヤな相手でして……。」


「……職務ですので。」


 楢歌はそれだけ残し、立ち去る。

 これ以上、仕事を終えた後は話すことはない。


 庁舎を出ると、すでに日は落ちていた。

 青い夜空。冬の夜気が、肺の奥深くまで冷たく染み込んでくる。

 楢歌は腕にかけていたコートを羽織り、自身の事務所へ向けて歩き始めた。


 楢歌は手に持つスマートフォンを確認する。未読のメッセージが数件。しかし、全てどうでもいい連絡だ。

 新たな依頼の連絡もあるが、仕事を終えたあとはそんな事も考えたくなかった。


 楢歌はそれらを無視し、最寄り駅とは逆方向へ歩き出した。

 人通りの少ない裏道。いつもの帰り道だ。

 ちょうどここを抜けた先に、愛車の黒いセダンが待っている。


 裁判中に雨が降ったのだろう。水溜まりに、ネオンライトが反射していた。

 遠くで人の話し声や、クラクションが聞こえてくる。


 いつもの雑音。いつもの裏道。

 しかし、一つだけ今までにないもの……『違和感』がある。


 ザッザッザッ……──────と、背後からの足音。

 一つ以上。三つくらいか。いつも聞かない音が、楢歌の耳に入る。

 無論、前方と左右には人の影などない。


(誰かにつけられているのか。)


 楢歌はようやく気がついた。少しばかり、歩調を速めてみる。

 ……やはり、背後の足音もそれに比例し、速くなる。


 振り返らず、歩みは止めない。恐怖など微塵もない。

「自分は正義を行った」……それ以上でも、それ以下でもない。

 背後の足音から逃れようと、楢歌は近くの路地裏に入る。

 目の前から、街灯の灯は消える。


 背後で誰かが笑う────────その瞬間だった。


 ゴッ!……という鈍い打撃音が、脳内に響いた。

 強い衝撃。後頭部から脊髄へ雷のように走る。


 視界が─────歪む。


 本当の痛みには、人間言葉など出ないものである。

 無言のまま、楢歌の身体は前のめりに倒れかける。


 しかし、次なる衝撃が倒れる前に襲う。腹部、バットのようなもので殴られる感覚。

 肺の酸素は、無理やり外へ吐き出される。

 ……息ができない。胃液は火山のごとく、どんどん喉を駆け上がっている。


 楢歌は痛みに悶えて、地面に伏した。

 冬場の冷たいアスファルトは、頬を伝って体を冷ます。

「逃げなくては。」そう思考する楢歌の耳元に、暖かい息が粘り着くように吹きかけられる。


「─────いい仕事っぷりだな検察官どの。」


 聞き覚えのある声。裁判の前、楢歌へ『ワイロ』を渡した男の声だと理解した。

 その声の主は楢歌へ馬乗りになり、背中を押さえつけている。

 抵抗、藻掻(もが)こうと体を揺らす。……が、突然脇腹への衝撃で、中断される。

 仲間の一人が蹴りつけたのだろう。息も絶え絶えになる。


 だんだんと、視界の端が暗転していく。


「調子こきやがって……金貰っといて有罪にしましたじゃ、冗談きついだろクソ検事が。」


 馬乗りになる男。そのまま楢歌の首元へ手をかける。

 その手にギュ……と力を入れると、楢歌の首元はだんだんと青く染まっていく。

 ギュ……ギュ……と締め上げる度、指はくい込み喉仏が押される。


 空気が入ってこない。肺は酸素を求め、痙攣(けいれん)を起こす。

 視界はさらに暗くなる。


「……お前さ、誰を敵に回したか分かってンだよな?」


 耳元で囁かれる男の声。遠のく意識の中、聞こえる。

 その問いに対する答えは、声が出ずとも理解している。


 自分の正義の下に裁いた。

 証拠に基き、法に則り、有罪にした。

 だがそれがどうした。裁かれるべき罪人を裁いただけなのに、こんな仕打ちを受けるなど理解し難い。

「俺は悪くない。」楢歌の答えはこの一点だけだ。


 ふと、後頭部の痛みの中に『冷たさ』を感じた。

 氷のような、冷やされた鉄のような……硬質なものが当てられる。

 見なくともわかる……銃だろう。

 そして、今宵一人の男は殺される……楢歌はわかっている。

 地面に伏したまま、楢歌は目を閉じる。


 鼻血を吹き出し、遠のく意識を最後に、夜の帳に一つの破裂音が響き渡った。


 ────────……パァァン!!

読んでいただきありがとうございましたー!

絶賛連載中なので、次も読んでくれると嬉しいです!!

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