第1話【GUILTY《ギルティ》】
ハブデビ!です!
作品を手に取っていただきありがとうございます!
いつか書こうと思ってた『ダークヒーロー』モノです!
気軽に読んでいただけると嬉しいです!
「天国は心の中にあるとはキリストの言葉だが、地獄もまた同様である。」
-デール・カーネギー
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「───────被告人を、懲役25年に処します。」
裁判長の声が、木槌の音とともに響いたこの瞬間……傍聴席がざわめいた。
法廷はひどく乾いている。
生ぬるい暖房の効いた広い室内、今日もここで誰かの人生が終わろうとしている。
中央の被告席。そこに立つ男は、歯を食いしばり検察席へ睨みを利かせている。
坊主頭に醜悪な人相。血走らせたその目は、今にも誰かを殺そうとしている。
手錠に繋がれたその両の手は、怒りか武者震いか……ガタガタと震わせている。
須弥山 楢歌は、男の睨む先、検察席で腰を落としている。
静かに、その整った顔は「フッ」と笑みを浮かべている。
楢歌にとって、この結果は当然のこと。彼は検察官歴15年の中で、負けた事は三回しかない。
今回も、被告人『火車 楽』を殺人罪に処し、有罪を勝ち取った。彼は暴力団構成員であり、金の為に人を殺めたのだ。
楢歌は、この暴力団から『ワイロ』を受け取っていたが、それにもかかわらず有罪にした。
被告人が怒るのも当然のことであり、楢歌にとっても、ワイロなど『暴力団がくれたお小遣い』程度にしか思っていない。
楢歌は正義を必ず執行する。
今日も黒いスーツに身をつつみ、楢歌は堂々と胸を張っている。
裁判長の「これにて閉廷」の声とともに、楢歌は立ち上がった。
書類を机にトントンと叩き、整える。
ふと、傍聴席の最前列へ目を向けてみる。初老の女性が、オヨヨオヨヨとハンカチを握りしめて泣いていた。
被害者の母親だろうか。楢歌の目には、嬉し涙を流しているように見えた。
「これでいい。」
そう自分に言い聞かせる。
法というのは『感情』で左右されるべきではない。
あくまで、『事実』と『正義』の名のもとに執行されるべき……それが楢歌の信条である。
楢歌が法廷を出ると、静かな廊下が目の前にあった。
「これから帰ろう。」そう思う矢先、背後から声がした。
「──────須弥山さん。」
振り返ればそこに、火車の弁護士が立っている。
油汗をかく額、178cmの楢歌よりも15cmほど低いふくよかな男。
無理に作った笑みを浮かべ、話しかけてきた。
「お見事でしたよ。
私も正直、弁護するのがイヤな相手でして……。」
「……職務ですので。」
楢歌はそれだけ残し、立ち去る。
これ以上、仕事を終えた後は話すことはない。
庁舎を出ると、すでに日は落ちていた。
青い夜空。冬の夜気が、肺の奥深くまで冷たく染み込んでくる。
楢歌は腕にかけていたコートを羽織り、自身の事務所へ向けて歩き始めた。
楢歌は手に持つスマートフォンを確認する。未読のメッセージが数件。しかし、全てどうでもいい連絡だ。
新たな依頼の連絡もあるが、仕事を終えたあとはそんな事も考えたくなかった。
楢歌はそれらを無視し、最寄り駅とは逆方向へ歩き出した。
人通りの少ない裏道。いつもの帰り道だ。
ちょうどここを抜けた先に、愛車の黒いセダンが待っている。
裁判中に雨が降ったのだろう。水溜まりに、ネオンライトが反射していた。
遠くで人の話し声や、クラクションが聞こえてくる。
いつもの雑音。いつもの裏道。
しかし、一つだけ今までにないもの……『違和感』がある。
ザッザッザッ……──────と、背後からの足音。
一つ以上。三つくらいか。いつも聞かない音が、楢歌の耳に入る。
無論、前方と左右には人の影などない。
(誰かにつけられているのか。)
楢歌はようやく気がついた。少しばかり、歩調を速めてみる。
……やはり、背後の足音もそれに比例し、速くなる。
振り返らず、歩みは止めない。恐怖など微塵もない。
「自分は正義を行った」……それ以上でも、それ以下でもない。
背後の足音から逃れようと、楢歌は近くの路地裏に入る。
目の前から、街灯の灯は消える。
背後で誰かが笑う────────その瞬間だった。
ゴッ!……という鈍い打撃音が、脳内に響いた。
強い衝撃。後頭部から脊髄へ雷のように走る。
視界が─────歪む。
本当の痛みには、人間言葉など出ないものである。
無言のまま、楢歌の身体は前のめりに倒れかける。
しかし、次なる衝撃が倒れる前に襲う。腹部、バットのようなもので殴られる感覚。
肺の酸素は、無理やり外へ吐き出される。
……息ができない。胃液は火山のごとく、どんどん喉を駆け上がっている。
楢歌は痛みに悶えて、地面に伏した。
冬場の冷たいアスファルトは、頬を伝って体を冷ます。
「逃げなくては。」そう思考する楢歌の耳元に、暖かい息が粘り着くように吹きかけられる。
「─────いい仕事っぷりだな検察官どの。」
聞き覚えのある声。裁判の前、楢歌へ『ワイロ』を渡した男の声だと理解した。
その声の主は楢歌へ馬乗りになり、背中を押さえつけている。
抵抗、藻掻こうと体を揺らす。……が、突然脇腹への衝撃で、中断される。
仲間の一人が蹴りつけたのだろう。息も絶え絶えになる。
だんだんと、視界の端が暗転していく。
「調子こきやがって……金貰っといて有罪にしましたじゃ、冗談きついだろクソ検事が。」
馬乗りになる男。そのまま楢歌の首元へ手をかける。
その手にギュ……と力を入れると、楢歌の首元はだんだんと青く染まっていく。
ギュ……ギュ……と締め上げる度、指はくい込み喉仏が押される。
空気が入ってこない。肺は酸素を求め、痙攣を起こす。
視界はさらに暗くなる。
「……お前さ、誰を敵に回したか分かってンだよな?」
耳元で囁かれる男の声。遠のく意識の中、聞こえる。
その問いに対する答えは、声が出ずとも理解している。
自分の正義の下に裁いた。
証拠に基き、法に則り、有罪にした。
だがそれがどうした。裁かれるべき罪人を裁いただけなのに、こんな仕打ちを受けるなど理解し難い。
「俺は悪くない。」楢歌の答えはこの一点だけだ。
ふと、後頭部の痛みの中に『冷たさ』を感じた。
氷のような、冷やされた鉄のような……硬質なものが当てられる。
見なくともわかる……銃だろう。
そして、今宵一人の男は殺される……楢歌はわかっている。
地面に伏したまま、楢歌は目を閉じる。
鼻血を吹き出し、遠のく意識を最後に、夜の帳に一つの破裂音が響き渡った。
────────……パァァン!!
読んでいただきありがとうございましたー!
絶賛連載中なので、次も読んでくれると嬉しいです!!




