初めてのプレゼント
季節限定の桃のパフェを堪能した2人。
「フレデリック様、とても美味しかったですね」
「そうだな。旬な果物を惜しみなく使用し、甘さ控えめなのが良かっ…………口直しにコーヒーでも飲むかな。お前は……ミルクティーにしとけ」
フレデリックは店員を呼び。飲み物とテーブルに並ぶ手付かずのデザートと追加で何種類かを持ち帰り用に包むよう伝える。
「甘くて美味しいです」
「あの……コレをやる」
テーブルの上に小包を置くフレデリック。
「ん?」
「誕生日、過ぎだのだろ」
「そうですが……私にですか?」
「私の目の前にはいるのは、お前だが?」
リリアーナは俯く、初めての家族以外からのプレゼントだ。小包をギュッと抱きしめるリリアーナ。そして嬉しくて涙が出てきそうだった。顔を上げてリリアーナはフレデリックに伝える。
「とっても嬉しいです」
「……よ、喜んでもらえて嬉しいよ」
リリアーナの笑顔に贈って良かったと思うと同時にフレデリックは恥ずかしさを隠すようにリリアーナの頭を撫でるのだった。
「…………」
「あっ……すまない」
パッと手を離すフレデリック。
「開けてみてもいいですか?」
頷くフレデリック。リリアーナはゆっくりと小包を開ける。
「あら……この万年筆。私が選んだやつですよ」
先程、ブレンダのお使いで選んだフレデリックの瞳の色の万年筆が綺麗な箱に入っている。自分の選ぶ色は気に入らなかったのかと思っていたリリアーナは驚く。
「そうだ。ブレンダからの手紙には俺が使う万年筆を選ぶよう書いてあった。まぁ、青の万年筆は持っているからな違う色にした。ついでだから、ブレンダにもお前が見ていた色を買った。あいつはプレゼントのお礼を寄越せといつも言うからな、丁度いい。お揃いの万年筆だ」
「フレデリック様……あら? 日記帳? それと……これは」
「ついでだ」
嬉しそうに万年筆と日記帳を抱きしめるリリアーナ。
「家族以外からの初めての誕生日プレゼントです。早速、戻ったら今日の事を書きます」
「あぁ、せっかくだから使え」
「あのですね……。万年筆の使い方が……」
困ったように見つめるリリアーナ。
「知らないのか……」
微笑むフレデリック。その表情はとても優しく、いつもの無愛想なフレデリックと違いリリアーナはちょっとドキリとしたのだった。
「戻ったら教える」
その様子を見ていた店員と客は思う。
『あの氷の騎士が笑った……尊い』
そしてカフェの奥のテーブル。
「ねぇ……ブレンダ……あれ……あれ」
「え……えぇ、お兄ちゃんよ……」
「向かいに座る、可愛子ちゃんは……もしや、こ、こ……。恋人?」
「私の妹(使用人であり生徒)よ。とっても可愛いのよ。私達は仲良しだし」
ブレンダの頭の中では、兄が笑顔を見たのはいつ振りだろうか、帰ったらママとパパに知らせないと思うのだった。
「まさか……氷の騎士に恋人……そして……未来のお嫁さん……ブレンダは妹が欲しがっていたから義姉ではなく義妹なのね。ブレンダ、良かったね」
友人の話を全く聞いていないブレンダ。
「ありがとう」と適当に返事をするのであった。
その日の夕食後。
「お前、食事が終わったら俺の部屋へ」
「はい、わかりました。片付けが終わったら行きます」
片付けを終えるリリアーナはフレデリックの部屋に向かう。そして、ブレンダはカフェで見た事を両親に伝えるのであった。
フレデリックの部屋で万年筆の使い方を教わるリリアーナ。
「お前……字が……汚すぎる」
「あ……」
リリアーナは学校へ行っていたのは初等部までだ、母が亡くなり引き篭もってはいた。ひと月程の間に環境は大きく変わった。それから新しく母と姉が出来て、使用人になって簡単な読み書きはメイドが教えてくれた。そして父が買い与えた図鑑が先生だった。学びたかった、友達も欲しかった。
悲しそうな顔をするリリアーナを見てフレデリックも思い出した。
初等部までしか通っていない事を失念していたのだ、マナーもそれなりになってきたから……。そもそも自分は他人のマナーに煩く言うつもりはなかった。私の贈り物は迷惑だったろうかと不安になるフレデリックだった。
「そうですよね。せっかく頂いたのですから……か……飾っておきます」
「は?」
「素敵な万年筆に日記帳……あとレターセットは宝物ですから」
フレデリックは考える。母もブレンダも教えるのはマナーよりも教養であるだろう……流石に男爵令嬢だとしても使用人に家庭教師は……。チラリとリリアーナを見るとキラキラした瞳で私からのプレゼントを見ている。
「これからは、俺がいる……」
「え?意味がわかりません」
「勘違いするなよ。俺がいる時だけだ……夕食後や時間がある時、短時間であるが勉強を教えるから覚悟しとけ」
「あのフレデリック様が先生?」
「……記念すべき1回目の授業は書き取りだ」
数分後、
「おい、真面目にやれ」
「先生、すいません。嬉しくて」
初授業のリリアーナはニヤニヤが止まらなかった。
「おい、ヘラヘラしながら……。楽しいのか?」
「はい、とっても楽しいです」
とびきりの笑顔をフレデリックに見せる。
「良かったな」
頭を撫でるフレデリックも笑顔であった。
その様子を覗く公爵夫人とブレンダ。
「お兄ちゃん達は、いい雰囲気なのかと思ったら、何してるのよ」
「……読み書きね……。確かにマナーばかりだったわ」
「フレデリックも人間だったのだな……。家庭教師を雇うか?」
「……あなた。フレデリックが私達に頼って来たら考えましょう」
この3人は見ていた。そしてフレデリックも気付いたのだ。ゆっくりとドアに向かうフレデリック。
「おい、何を?」
「……私達は通りかかっただけで……」
急いで逃げる3人であった。
翌週のフレデリックの誕生日。
「はい、お兄ちゃん誕生日プレゼント。中身は知っているわよね」
「あぁ」
「ブレンダは何を?」
「万年筆よ。いつもは私が色を選ぶから、今年は自分で選んだのよね。ほらリリも」
「あのフレデリック様、お誕生日おめでとうございます」
小さな包みを渡すリリアーナ。
「お兄ちゃん、リリは凄いのよ。早く開けて、私達も見てないの」
「ん?すまないな……これは……凄いな。お前が」
白のハンカチの縁を薄いブルーの糸で控えめにレースで飾る素晴らしいハンカチであった。
「はい、レース編みは母が好きで……あくまで趣味なんです」
公爵が覗き込む。
「リリアーナ、充分凄いぞ。キャストン男爵がいつも素晴らしいハンカチを持ち歩いていてな……リリアーナの手作りだな。他の編み物も?」
公爵は得意気にハンカチを見せびらかす男爵を思い出す。仕入れ先は決して教えてはくれないハンカチはリリアーナの手作りだったのか。
「はい、他にも可能です。父様には、時々プレゼントしてました。お礼にハンカチや糸を貰ってました」
「君の父親はリリアーナを大切にしていたのか放置していたのなわからないな」
時折、裏で高額で取り引きされる幻のレース、その製作者がリリアーナか、面白い子だ。
「お兄ちゃん素敵なハンカチよ。控えめな刺繍と色がいいわ。リリアーナには私の結婚式のレースをしてもらいたいわ」
「姉様?」
「ん?私だって、そのうち嫁に行くわよ」
リリアーナは公爵夫婦を見る。
「さあ、座って大切な話をしよう」
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