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甘い物が好きなのは誰?


 リリアーナが屋敷に来てひと月がたった。

 マナーの合格はもらってはいない。リリアーナは気付いている。マナーにゴールなどない。

 そこでリリアーナは午前中、使用人の仕事をして午後から1時間程マナーの指導を頼んだのだった。


 使用人としてのリリアーナは優秀であった。テキパキと動き仕事も丁寧だ。使用人歴はこの屋敷で働く者と引けを取らない。しかし、時間に換算すると実家では休みなく働くリリアーナは誰よりも使用人として経験が長いのであった。



 この屋敷の使用人は早番と遅番、そして夜勤がある。必ず週に2度は休日があるのだが、実家では休みなく働いてきたリリアーナは休日をもらう事はない。つまり休日の過ごし方がわからないのだった。


 実家ではいつも楽しそうに出かける義姉や義母が羨ましかった。



 勢いよくドアを開ける男。

「お兄ちゃん? どうしたの?」


「ブレンダ一体どういう事だ……どうしたのではないぞ。俺との約束を忘れている」


「…………仕方ないじゃない。友達と約束が被ったのよ。優先するのは友達よ」


 出かける準備をするブレンダは兄フレデリックを冷たくあしらう。


「それじゃあ、俺……俺は楽しみにしていたんだ……。季節限定の『桃のパフェ』を……今年は食べられないのか? 平日だから客も少ない今日がチャンスだったのに」


 何を隠そうフレデリックは甘い物好きな男だ。この事を知るのは家族だけでありリリアーナも知らない。


「リリを連れて行けば? 1人や騎士と行くよりはいいでしょ」

「しかし……俺が」

「大丈夫よ。私が上手く言うわ」


 リリアーナを呼ぶブレンダ。


「お姉様?」

「リリ、今日はお兄ちゃんと街に行って来て。買うリストはコレよ」


 メモ紙を渡す。


「はぁ」

「お兄ちゃん、買い物の帰りにカフェで好きな物を食べさせてあげて」


 カフェと聞いてリリアーナの心は踊る。しかし一緒に行くのはブレンダではない兄のフレデリックだ。


「フレデリック様は私と行くのは……嫌ですよね」

 チラリとフレデリックを見る。フレデリックは悲しそうに見つめるリリアーナをじっと見る。


「……妹の頼みだ我慢する」


「そう言う事ね。リリはオシャレしてきて」

 


 街に出る2人。

「お前は、あまり来た事がないのか?」

「恥ずかしながら……来た事は数回です」


 街並みと平日ではあるが人並みに圧倒されるリリアーナであった。


 ブレンダのお買い物を始める。

「ブレンダは何を?」


 リリアーナはメモをフレデリックに見せる。

「まずは、こっちの店だな」


 ブレンダのメモの買い物は最後の一軒となった。

「ブレンダは、ここで何を買うのだ?」


 そこは文房具屋であった。店に入るとインクの匂いが店内に溢れている。

「いらっしゃいませ、何をお探しですか?」


「お前、ブレンダから何か聞いているか?」


 しばし考えて、思い出す。

「お姉さまは、これをフレデリック様に渡してと手紙を預かってます」

「大事なことは、早く言うんだ」



 フレデリックは手紙を読む。


 『リリアーナと楽しく買い物をしてるかしら? 店主には名前を伝えて、お兄ちゃんお誕生日プレゼントを準備しているから自分で選んでね』



「自分で選べと?」


「ん?」

 手紙の内容がわからないリリアーナはフレデリックを見つめるのだった。



「店主」

「お嬢様から話は聞いてます。こちらに、お連れ様もどうぞ」



 店主はテーブルに万年筆を並べる。

「この中から好きな色を選んでください」


 フレデリックは自分の誕生日に自分で色を選べと言われ困惑するのであった。


「綺麗な色ですね」


 私と同じ色……素敵。リリアーナは値段を見る。高いわね……給金を貯めて買うしかないわ。


 その様子を見ているフレデリック。店長は言う。


「1本1本が手作りですので、それぞれが微妙に違います。黒でもこの通りグリーンの入った黒、ブルーやレッドの入った黒があります。自分の色との出会いは運命ですからね。明日、再び来て昨日の物を求めても無い可能性があり、2度と出会う事はないのです」


「お前が選べ、ブレンダの使いだろ」


「いいのですか?2度と会えない色。なんだか素敵ですね。それなら青系のペンを見せてください」


「お連れ様がが選ぶのですね。少々お待ちを青は奥深いのです」


 リリアーナは沢山のブルーの万年筆の中から1本を迷う事なく選ぶ。


「ほぉ……お連れ様はいい目を持ってますな」


「お前、その色でいいのか?」

「はい、お姉様のお使いなのですよね。色の指定はあったのですか?」


「ないが……店主。これにする」



「あら、お姉様の色」

「……買おうか?」

「……いえ。いつかまた来ます。この色の万年筆がない時は縁が無かったのです」


「……」


「お前は、他の品を見て来てもいいぞ」

「ありがとうございます。ここは素敵なお店ですね」



「店主……あの……すまないが」

「他の色ですか」

「…………」

 

 ニヤリと笑う店主であった。


「さて、ブレンダと約束したし、仕方ないからカフェに行くぞ」


 立ち止まるリリアーナ。

「あの……無理しなくていいのですよ。街に来られただけで充分です」

「…………しかし」


 フレデリックの頭は『桃のパフェ』でいっぱいだった。


「このまま帰るとブレンダに叱られる。行くぞ」

 無意識にリリアーナの手を取りカフェに向かうフレデリックであった。



 その頃カフェでは店員がサーベリアン兄妹の来店を楽しみにしていた。


「今年も来るかな」

「ブレンダ様は甘い物が好きだから無理矢理フレデリック様を連れて来るわ」

「楽しみね」


 甘い物好きはフレデリックの方だと知らない。そして毎年ブレンダの方が仕方なく店に来ている事も。



「いらっしゃいま……せ。お2人ですか」


 店員は驚く、先程サーベリアン公爵令嬢が友人と来ていた為、今年は兄のフレデリックは現れないと思っていたからだ。


「そうだ……何か?」


 そこには無愛想なフレデリックと楽しみでワクワクするリリアーナがいた。


「あの……お席に案内します」



 店員と客は妹以外といるフレデリックに興味深々だ。

「おい、好きな物を注文していいぞ」


「しかし……何がいいのか」

「俺が適当に選ぶぞ」


「ありがとうございます」


 フレデリックは季節限定のケーキ、ムースなど沢山注文する。


「あの……こんなに」

「余ったら手土産にする」


 リリアーナは見逃さない。キラキラした瞳でメニューを眺めるフレデリックの視線の先には『季節限定の桃のパフェ』だ。


「あの……パフェを食べてもいいですか」

「す……好きにしろ」


 店員にミニパフェとパフェを注目する。フレデリックは心の中で今年はミニパフェで我慢しようと思うのであった。



 目の前にはキラキラした桃が沢山乗っていてパフェが登場する。

 店員はミニパフェをフレデリックの前に置く。そして去っていくのだった。


「あの……フレデリック様、私お腹がいっぱいで……残すのも勿体ないので……小さいパフェの方を私にくださいませんか」


「お前……仕方ないな。他のデザートは持ち帰りにするぞ」

「ありがとうございます」


 大きなパフェをペロリと食べるフレデリックであった。

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