大きな屋敷に住まう人
「す、すまない」
時は少し遡る。夜会で不貞現場に突入し、着替えた2人とブレンダ、そして王子のダストンは話し合う。
「ねぇ、サンディ……そちらの女性は何?」
「あなたが婚約者のサンディは、私の方が好きみたい」
悪びれた様子もなく話すキャロライン。
「ブレンダ、すまない。私は彼女を……キャロラインを愛している。私の有責だ、婚約を解消してくれないだろうか」
「そう……」
その日、ブレンダは婚約者のサンディと夜会に参加した。ダンスを1曲終えると友人を見つけたと言いブレンダを残し去っていく婚約者であった。今回が初めてではない。そしてキャロラインと過ごしていることは既に知っていた。
ため息をつくブレンダに声をかける男は、この国の王子でブレンダの幼馴染のエリックだ。
「ブレンダ、今日のドレスも綺麗だ。婚約者は今夜も?」
「そうよ……私だって、アイツが婚約者である事は不服なのに」
「諦めて僕にしとけば良かったのにね」
「…………」
何も言わないブレンダであった。
「さて、どうする? このまま彼と結婚するの?」
「そんなの嫌よ。浮気する男なんて」
「それならさ。引導を渡しに行こうか」
エリックはブレンダの顔を覗き込む。
「そうね。アイツ許さない」
2人と護衛騎士が向かうのは客室前である。
「ブレンダは、変な物を見なくていいから後ろへ」
護衛騎士はドアを開ける。ブレンダはこっそり見ていた。婚約者のサンディはキャロラインにせっせと腰を振っていた。
「は? 何なんだ、お前達は」
「何よ、出て行って」
サンディとキャロラインはシーツで身体を隠している。
「ねぇ、僕主催の夜会で不貞はいけないよ。ねっ、ブレンダ」
現行犯のサンディは言い訳することなく不定を認め婚約の解消を希望したのだった。
そして、ブレンダ自身もまたサンディの事を好きではなかった為に婚約解消する事に対し異論はなかった。そもそもサンディと婚約をしたのもサンディは令嬢達からモテていたからだ。優越感に浸りたかったブレンダ、そして幼馴染との婚約を回避したかった為にサンディと婚約しただけであった。
日を改めて3家が集まり今回の婚約解消について話し合うのだった。 そして話し合いの結果、ブレンダとサンディの婚約は正式に解消され、そしてキャロラインはブレンダの家で使用人として働く事となった。
サーベリアン家の談話室に集まる家族。
「本当、頭に来る。私の婚約者を寝取るなんて」
「まぁまぁ、ブレンダ落ち着くんだ」
イライラと落ち着きなく室内を歩き回るブレンダ。
「だってパパ……私……私が浮気されるなんて……こんな屈辱。彼女を私専属の使用人にするわ、こき使って後悔させてやる」
ブレンダはサーベリアン公爵家の娘である。ブレンダはサーモンピンクの髪にピンクの瞳の可愛らしい令嬢である。しかしブレンダは見た目と違い苛烈で我儘である。世間ではブレンダの男を寝取ったキャロラインを勇者と影で言われているのであった。
「私は可愛いのよ。それなのに……それなのに……」
地団駄を踏むブレンダを横目にゆったりとソファに座るエリック。
「ブレンダよ。落ち着け、そして俺の婚約者になれ。俺ならお前の性格も受け入れる」
「…………うるさい。エリックは帰ってよ」
キッと振り向きエリックを睨むブレンダ。
「こらこら、一応王子だぞ」
ブレンダの父はブレンダを注意する。
「いや、公爵……一応ではなくてだな……きちんと王子として仕事してるわ」
苦笑いをしながら話を続ける公爵。
「キャストン男爵家にはキャロラインを引き渡すように伝えたからいいじゃないか。しかしキャストン男爵……私は昔からあの男が苦手だ」
「ちょっと、あなた。しっかりしてよ」
公爵の隣で優雅に茶を飲む夫人。
サーベリアン家の女性は強い。公爵は妻と娘から攻め立てられるのであった。
「おい……ブレンダ。諦めてエリックの元に嫁げ。お前の性格を理解できる男はエリックだけだぞ」
ブレンダの兄フレデリックが冷静に言う。
「フレデリック……お前はいい奴だ。さすが親友だけの事はある。まぁ……何を考えているのかわからん表情だが……」
この場にはサーベリアン家の長男フレデリックも同席している。シルバーの髪にブルーの瞳が世間からは冷たい印象を持たれている。そして実際に冷たい男である。冷静沈着でサーベリアン家の後継の男は実家の騎士団の副団長で現在25歳独身である。
ちなみに恋人もいない。
「フレデリックも誰かいい人は、いないのかい? 見た目だけはいいのにさ……もう少し愛想良くしろ。だから、いつまでも……いやこれ以上は言うのをやめておこう」
パチンと扇と手で音を鳴らす。
「さぁ、エリック王子はそろそろ戻った方がいいわ。明日はキャロラインが来るから忙しくなりそうね。中々グラマラスな体型だから使用人の制服のサイズは問題ないかしら」
ブレンダは座り、美しい所作で茶を飲む。
「まずは騎士達の洗練を受けるわね。何せ可愛いお嬢様の私を傷付けた女よ。しかし……あの女の事だから騎士達を狙うのかもしれないわ。パパ、あの女……キャロラインは騎士達との接触は禁止にしてよ」
「はいはい」
「あと、お兄ちゃん。あの女に誘われてもホイホイ付いて行ってはダメだからね」
「はいはい、俺は明日、王城に行く日だから、その女と会うのは夕方だな」
そして家族は解散し、それぞれが翌日に備えるのであった。
そして、翌日、公爵家に現れたのはキャロラインではなく義妹のリリアーナであった。




