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ほどけた糸

 リリアーナと父との再会から3日後。


 フレデリックは公爵家に戻る。

 裏庭の稽古場の横を通ると騎士が話をしているのが聞こえる。


「なぁ、フランク。リリちゃんは屋敷を出るのかな?」

「ん? 何でだ?」


「だってさ、お嬢の婚約が決まれば、リリちゃんの役目は終了だろ。俺さ、告白しようかな……」


「好きなのか? フランクが初日に泣かしたせいで皆が大変な目にあったのを皆忘れてはいない」

 

 


「正直、最初から悪くないと思っていた。最近は、肉もついて……ツルペタがさ……少し膨らんできた」

「おい……」


「俺の手で育てあげるのもいい……あの可愛いさだ。想像しろ……裸にエプロンで俺の帰りを待つのだ。あなた? 食事にする? それとも私? ってな感じで。俺は迷う事なく食うのはリリちゃんだ」



「フランク、お前には妻がいるだろ」

「リリちゃんを囲うのも悪くない。俺が育て上げるのだ。俺の前だけ淫らな女にな」


「…………妻にバラすぞ」

「冗談だ……。しかし、義姉のせいでリリちゃんも傷物だ。何処かのエロオヤジの元へ嫁に行くのかな……ちょっと可哀想だな」



「そうだな……。しかし、お嬢の婚約が決まりそうで良かったな……ほら前の婚約者さ……結構お嬢に言われっぱなしだった。婿だから、騎士の家系だからとな……まあ、少し可哀想ではあった。そして副団長だ……。婿が1番頼りにしたい男が独身で恋人すらいない」


「副団長は、少し女に慣れればいいのにな」



 フレデリックが聞いているとは知らずに稽古場へと戻る騎士達であった。



「女に慣れるか……どうすればいいのだ?」



 一方リリアーナは、いつも通りに使用人として働いていた。

「あの……公爵様」

「ん? リリアーナどうした?」



 公爵とリリアーナは話をする。


「そうか、わかった」

「リリアーナ、我が家は好きになれたか?」


「はい、とても大好きです。私の一生の思い出です」



 その日の午後。


「初めまして、リリアーナさん」

「は、初めまして……王子様」


「可愛いね。エリックと呼んで」

「メ……エリック様」


「確かにブレンダが可愛がっているのがわかる。ねぇ、ブレンダと一緒に王宮へ来る?」


「おい、エリック」

「ふふっ、冗談だよ。君はキャロラインの代わりに来たの? 何が目的なのかな?」

「…………」


「ねぇ、君さ、義姉の代わりだなんて嘘でしょ」

「…………」


「お父さんに言われたの? フレデリックを誘惑して来いと」


「ち、違います」

 少し涙目のリリアーナ。


「エリック、やめろ」

 フレデリックはエリックに止めるよう伝える。


「じゃあ何が目的なのかな?」

 鋭い視線でリリアーナを見つめるエリック。


「おい。エリックいい加減に……。ん? おい……泣くな」


 リリアーナの大きな瞳から涙がボロボロと溢れる。

「え……ゴメ……ゴメんな……サイ」


 リリアーナが泣いた事に慌てるエリック。

 いつもブレンダはエリックの意地悪に対して負けずに言い返す為こんなに簡単に泣くとは思っていなかった。


「リ、リリアーナ?」

 フレデリックは初めて彼女の名を口にし、そしてリリアーナの涙を拭こうとフレデリックは手を伸ばす。


 突然ドアが開く。


「オイ。ヒューゴ、勝手に入るなと言ったろ」


「やあ、可愛い娘リリアーナ。会いたかったよ。今日もメイド服が似合っているな。さあ、荷物を纏めて帰るぞ。おや、エリック殿下……息子? リリアーナ? どうした? 何故うちの娘がないているのだ?」



「勝手に泣いたのだ。キャロラインの代わりに来たのに公爵家の一員みたいになってさ」


「エリック、お前いい加減にしろ」

「殿下……ダメですぞ」



「おい男爵。お前は何を企らのでいるのだ。それに俺は王子だ。不敬罪で」


「エリック駄目だ。それ以上は言うな。男爵殿すいません」


「女性を泣かしたのに一言目はそれね。血は争えないのか……殿下はもう少し大人の対応を覚えた方がいい。後悔しても取り返しが付かない事もある。リリアーナ大丈夫かい」


「父様……いいのよ。あのビックリしただけ。何も無いの、何も言われていない。荷物を取ってくるわ。父様は馬車で待っていて」


「しかし、リリアーナ……理由は知らないが驚きの涙ではない。あの2人はお前を泣かした。それに息子……何故うちの娘を守らないのだ?」


「大丈夫よ。彼は止めてくれていたのよ」

「そうか……わかったよ。おいで」


 リリアーナを抱きしめ頭を撫でる。リリアーナも父の胸に顔を埋める。その親子の姿をフレデリックは呆然と見つめていた。

「荷物を取っておいで」

「はい……それでは皆様お世話になりました」



「行くのか?」

「はい、大変お世話になりました。約束通りにベールはつくります」


「ベール? 何の事」

 エリックは悪びれる事なくフレデリックに接するのだった。


 リリアーナが退室し、ヒューゴは改めて公爵に挨拶する。

「世話になった。リリアーナのこの家での最後が悲しみの涙なのが残念だ。フレデリック……娘との婚約は無し。以上だ」

 

 一礼し屋敷を後にするリリアーナ父子であった。



「いいのか? ここでも教えることは可能だが材料が足りない。しかし、王子と言うのは……。何でも思い通りにしてきたのだろうな」


「いいの……お父さんといたい。帰りたいの」

 

「まぁ、今日はゆっくりして、明日から頑張ろうな」


 リリアーナの父ヒューゴはリリアーナの頭を撫でて馬車に乗るように促す。

 

 そして馬車はゆっくりと公爵家を後にした。



「ねぇ、リリが帰ったと聞いたの」

 勢いよくドアを開けるブレンダ。


「そうだ。キャストン男爵が迎えに来た」

 公爵はブレンダに座る様に伝える。



「あなた?」

「リリアーナからは退職の希望があった」


「父上?」


 フレデリックも父のマイクを見る。

「リリアーナは……病の父との時間を選んだ」


「そう……お父様と」


 寂しそうなブレンダ。


「そうだ。もう少し早くにヒューゴが事実を知っていたらなら。この屋敷には来る事なく、父と2人幸せに暮らしていたはずだ」



「あの……一体何が?」

 その場にいるエリックはリリアーナと父の間に何があったのかを知らないのであった。


「ねぇ……僕にも教えてよ。なぁ、仲間外れは嫌だよ」





 公爵はリリアーナと父との関係を話す。そして、リリアーナは父からの刺繍を教わる為、そして病の父と過ごす為に公爵家を出た事を話す。



「成る程ね……男爵家の収入源が父親の方だったのだね」


 呑気に話すエリック。


「エリック……お前は男爵に……ブレンダ……ウェディングベールは無いかもしれない」


「え? 何で?」

「エリックがな……」


 フレデリックはブレンダにエリックがリリアーナとヒューゴにした事を話す。

 そして話を聞いたブレンダは激高するのだった。


 

「…………エリックなんて、大嫌い」

「ブレンダ、ごめんよ。ちょっと意地悪したくなって、まさか泣いちゃうとは思わないし、そこに父親が登場するとは思わなかったんだよ」


「酷い……酷いわ」

 泣き出すブレンダ。


「ブレンダ、祖母から素晴らしい刺繍のスカーフを頂いたのだ。この前チラリと見たフレデリックのハンカチのステッチと似ていたから。ほら、綺麗なスカーフだよ。この職人を探してさ、祖母と同じく王命を使ってウェディングベールを作ってもらおうか。制作者も光栄だろう」


 ブレンダはゆっくりと眺める。

「これ……」


「祖母のお気に入りだったみたい。昔、とある結婚式に呼ばれて、その時の花嫁のベールが素敵だったらしくてね。ちょっと頂いたそうだ」



「あの時……言っていたわ。……エリックなんて嫌い。婚約はやめる。帰って」


 怒り狂うブレンダは部屋を飛び出したのだった。


「エリック……お前は終わったよ……」

「え? 何で? ウェディングベールだって、このスカーフをさ……」


「無理だ」

「何で? 王命を使えば」

「はぁ、いい加減にしろ。そのスカーフを作ったのはリリアーナの父親だ。リリアーナの両親の結婚式で……男爵が奥方の為だけに編んだウェディングベールだ。先日、見せてもらったんだよ。とても素晴らしいベールだった。それと……同じに見える……」


「へ? 男爵が?」


「男爵は言っていた。結婚式で色々とあり短くなったとね。そして夫婦となり、リリアーナの為に編み足したと」


 青褪めるエリック。

「まさか……祖母が生涯で一度と祖父に頼み込んだスカーフは……」


「あぁ、リリアーナの両親の結婚式で花嫁であるリリアーナの母から奪ったものだ。そして孫の時代になり、その製作者に王命を使い自分の花嫁のウェディングベールを作らせようとしているね」


 ヘナヘナと座り込むエリック。

「終わった……まさか祖母も……。ブレンダは……?」


「謝るしかない。ブレンダにも、そして男爵にも。男爵だけが編める。それを彼女に教える為に一度実家に戻る予定だった。そして、リリアーナがブレンダの為にブーケを。そのレース網が出来るのはこの世で男爵だけだよ……」


「何故、もっと早く教えてくれない」


 エリックのお土産のシュークリームを頬張るフレデリック。

「やめるよう言ったよ。今の結果が王族としてブレンダの夫として君が克服するべき課題だ」


「…………」

「きっと大丈夫だよ。男爵も悪い人ではない。ただ彼女を泣かした事は私も怒っているよ。父上すいません。私も……」


 エリックは溜め息を付き話す。

「フレデリック、すまない。私のせいで君も……」

「いいのだ……もういいのだ」


 フレデリックはモグモグとシュークリームを1つ食べると、再びシュークリームに手を伸ばすのだった。


「はぁ……リリアーナ」


 その様子を両親とエリックは見ていたのだった。シュークリームは口に入る事なく、再び皿に戻され。席を立つのだった。

「エリック……すまない。少し頭を冷やしてくる」



「公爵……私はどうしたらいい」

「自分で考える事も必要ですよ」



 その頃、馬車の中の2人。

「ねぇ、私にもあの編み方できるかしら」


「ん〜基礎はあるから大丈夫ではないか? リリアーナすまなかったね」


「お父さん、お母さんの事を教えてね」

「あぁ。リリアーナはあの息子の事をどう思っているのだ。勉強を教わっていたのだろう? 怖くないのか?」


「フレデリック様? 勉強で間違うとね……とても怖いわ。でも甘い物が好きで……そうね……真面目で不器用な人なのかな?」


「俺と同じだな。不器用な男だ」


 リリアーナとヒューゴは馬車の窓から自分達の瞳の色と同じ色に包まれている街並みを眺めるのであった。


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