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第53話:古の盟約の影(第一部完)

法務大臣として、私の最初の仕事は、今回の事件の根幹であった、「古の盟約」の、完全な再調査だった。

国王の特別な許可を得て、私は、王城の地下深くにある、禁断の王室書庫へと、足を踏み入れた。この調査には、バルテルス家の血を引く者の同伴が不可欠とされており、姉のリリアーナも、私と共にいた。


薄暗い書庫の中で、私たちは、ついに、その原本を見つけ出した。

それは、人の手によるものではない、木の皮と、光る苔でできた、古代の書物だった。


「……これが……」

ページをめくるたびに、そこに記された、古代の精霊文字が、淡い光を放つ。

そして、私たちは、衝撃の真実を知ることになった。


グランヴィル公爵の解釈は、歪んでいたのだ。

盟約を書き換えるための“鍵”は、乙女の「心臓」などという、おぞましいものではなかった。

本当の“鍵”とは、バルテルス公爵家の女性に、世代に一人だけ、ごく稀に発現するという、**「盟約に縛られた精霊たちと、直接対話し、その力を限定的に行使できる、遺伝性の魔法能力」**そのものだったのだ。


「つまり、公爵は、姉様か、あるいは私を、ただ殺すのではなく、その能力を、何らかの方法で奪おうとしていた……」

私が、戦慄と共に呟いた、その時。


姉のリリアーナが、書物のある一節を指さし、息を呑んだ。

「ルクレツィア、ここを……」

そこには、こう記されていた。

『――盟約の守護者たる王家の力が衰え、国に大きな歪みが生じた時、“鍵”を持つ乙女は、その身に聖なる刻印を宿し、目覚めるであろう。彼女は、盟約を安定させることも、そして、破壊することもできる、唯一の存在となる――』


「姉様。まさか……」

私は、姉の顔を見た。彼女は、静かに、自分の手の甲を見つめ、そして、首を横に振った。

「私には、何も現れていないわ。二年間、何も……。ということは、つまり……」


姉の視線が、私の手元へと注がれる。

私も、恐る恐る、自分の右手を見つめた。

その、白い手袋を、ゆっくりと、外していく。


そして、現れたのは。

私の、白く滑らかな手の甲の上に、まるで、青白い炎で描かれたかのような、複雑で、美しい、古代の紋章。

それは、これまで、一度も見たことのない、聖なる刻印。

淡い光を放ちながら、私の手の甲の上で、静かに、脈打っていた。


姉が、畏敬と、そして、恐怖の入り混じった声で、囁いた。

「ルクレツィア……」

「“鍵”は……目覚めたのね」


「――あなた、だったのね」


私は、ただ、呆然と、自らの手に宿った、信じられない力を見つめることしかできなかった。

検事としての、法と論理の戦いは、終わった。

そして、今、この国の運命そのものを左右する、「鍵」としての、私の、本当の物語が、始まろうとしていた。


(第1部 完)

第2部も反響あれば載せていきたいと思います。ぜひブックマークいただきお待ちください!また良ければ評価もお願いします!

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― 新着の感想 ―
用語的に気になる部分は多々ありましたが、爽快感があって単純に楽しかったです! 婚約破棄からの断罪劇、恋愛要素もあるよ!というお話だったので、ハイファンタジーより異世界恋愛ジャンルに作品を置いた方が…
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