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第52話:新しい秩序、穏やかな時間

グランヴィル公爵の断罪から、数日が過ぎた。

王国は、激震の後の、静けさを取り戻しつつあった。

私は、再び国王陛下に呼び出され、あの謁見の間に立っていた。だが、そこに、以前のような張り詰めた空気はもうない。


「ルクレツィア・バルテルス嬢」

玉座から、国王が、穏やかな声で私に語りかける。

「そなたの勇気と知性は、この国を、そして王家を、崩壊の危機から救った。心より、感謝申し上げる」

彼は、立ち上がると、一枚の布告を高らかに読み上げた。

それは、姉リリアーナの名誉を完全に回復し、バルテルス公爵家の爵位と領地の安堵を、改めて約束するものだった。


そして、国王は、続けた。

「だが、そなたも指摘した通り、我が国には、未だ、法の光が行き届かぬ、多くの闇が残っている。そこで、余は、そなたに新たな役職を授けたいと思う」

国王は、私に、一歩前へ出るよう促した。


「本日これより、ルクレツィア・バルテルスを、初代**『法務大臣』**に任命する! その卓越した知識と、揺るぎなき正義の心をもって、我が国の法制度を改革し、真の法治国家への道を、切り開くことを命じる!」


法務大臣。

それは、この国には、これまで存在しなかった、全く新しい役職。

私の戦いは、終わったのではない。本当の意味で、ここから始まるのだ。

私は、深く、そして、決意を込めて、頭を下げた。

「その御言葉、謹んで、お受けいたします」


その夜、私は、王都を見下ろす離宮のテラスで、姉と二人きりの時間を過ごしていた。

「法務大臣、ですって。すごいわね、ルクレツィア。あなたは、本当に、自分の力で、運命を変えてしまった」

姉は、心からの笑顔で、私を祝福してくれた。


「姉様は、これから、どうなさるのですか? 王都の屋敷に戻られますか?」

「いいえ」

姉は、穏やかに首を横に振った。「私は、もう、あのきらびやかな社交界には戻らないわ。……しばらくは、父様が残してくれた、湖のほとりの小さな屋敷で、静かに過ごそうと思うの。あなたの戦いを、一番近くで、応援させてちょうだい」

彼女は、もう、守られるだけの存在ではなかった。


やがて、夜風が冷たくなってきた頃、私は、カイン卿の元を訪れた。

彼の傷は、ユリウス王子の配下の薬師たちの懸命な治療のおかげで、驚くほど回復していた。彼はもう、杖なしで、庭園をゆっくりと散歩できるまでになっていた。


「法務大臣就任、おめでとうございます、ルクレツィア……閣下」

カインが、少しだけ、ぎこちなく言った。


「やめてくださいまし、カイン卿。私たちは、そういう関係ではないでしょう?」

私の言葉に、彼が、はっとしたように私を見る。

私たちは、月明かりの庭園を、言葉もなく、並んで歩いた。お互いの手が、触れそうで、触れない、もどかしい距離。


「あなたの、新しい役職が決まったそうですね」

先に沈黙を破ったのは、彼だった。


「ええ。法務省の、最初の騎士団長として、あなたを任命するつもりですわ。……受けて、くださいますか?」

「光栄です。ですが、俺は、あなたの騎士であるだけです」

彼は、立ち止まると、私の目を、真っ直ぐに見つめた。

「あなたが、法務大臣であろうと、一人の令嬢であろうと、関係ない。俺のいるべき場所は、あなたのそばだ。それだけは、決して、変わりません」


その、不器用な、しかし、何よりも誠実な告白に、私は、ただ、頷くことしかできなかった。

私たちの関係に、まだ、名前はない。

だが、それで、よかった。

今は、ただ、この穏やかな時間が、愛おしかった。

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