第47話:騎士の帰還
宰相エルミントの、偽りの同情に満ちた声が、ぴたりと止まった。
大謁見の間の全てのざわめきが、開かれた扉の向こうから現れた、その人影に、吸い込まれていく。
光の中に、一つの人影が、浮かび上がった。
それは、杖にその身を預け、一歩、また一歩と、ゆっくり、しかし、決して揺らぐことのない足取りで、こちらへ向かってくる、一人の男の姿だった。
その顔は、血の気を失い、青白い。だが、その赤い瞳は、この世の何よりも強く、そして、燃えるような意志の光を宿していた。
彼の姿を認めた瞬間、大広間が、信じられないものを見たかのような、驚愕のどよめきに包まれた。
死んだと、誰もが思っていた騎士。
「……カイン……卿……?」
私の口から、ほとんど音にならない、囁きが漏れた。
涙で滲んでいた視界が、一気に晴れていく。
絶望に凍りついていた私の心に、熱い、熱い、希望の奔流が流れ込んでくる。
彼は、ホールの中央まで進み出ると、その場にいる誰にも目もくれず、ただ、私の瞳だけを、真っ直ぐに見つめた。
その眼差しが、「もう、大丈夫だ」と、そう、語っているようだった。
「遅くなって、申し訳ない」と、そう、謝っているようだった。
こらえていた涙が、今度は、安堵と、歓喜の涙となって、私の頬を伝った。
彼は、私に向かって、ほんのわずかに、しかし、確かに頷いてみせると、ゆっくりと、玉座の国王へと向き直った。
コツン、と。
彼の杖が、床を打つ、硬質な音が、静まり返った大謁見の間に、ただ一つ、響き渡る。
その声は、まだ掠れていたが、この場の全ての悪意を制圧するほどの、絶対的な力強さに満ちていた。
「国王陛下」
「この度の臨時御前会議において、一人の証人として、このカイン・アシュベリーに、発言の許可を、お願い申し上げます」
最後の戦いの舞台に、私の、ただ一人の騎士が、今、帰ってきたのだ。
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