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第44話:共犯者の自白

姉リリアーナの、魂からの証言。

それは、グランヴィル公爵の権威という名の鎧に、深く、そして致命的な亀裂を入れた。

大謁見の間は、先ほどまでの猜疑に満ちた空気から、公爵に対する明確な不信と、そして、二年間も不当に虐げられてきた公爵令嬢への、深い同情へと、その色をはっきりと変えていた。


リリアーナは、凛とした姿で証言台を降り、私の隣の席へと戻る。私は、その手を固く握りしめた。言葉はなくとも、互いの労いと、感謝の気持ちが伝わっていく。


国王が、氷のような視線を、弟の隣で、いまだ平静を装う宰相エルミントへと向けた。

「――宰相。今の証言、そなたはどう聞く」


「……まことに、痛ましいお話にございます」

宰相は、動揺を顔に出さず、あくまで冷静に答えた。「ですが、陛下。これもまた、リリアーナ様、お一人の言葉。感情に流され、国の舵取りを誤るわけにはまいりません。対する公爵閣下は、長年、王家を支えてこられた御方。物的な証拠が、何一つないではありませんか」

彼は、論点を「証拠の有無」へと、巧みに引き戻そうとする。


だが、それこそが、私が望んだ展開だった。

「証拠、ですって?」

私は、静かに立ち上がった。「ええ、宰相閣下。ご安心ください。証拠ならば、これから、うんざりするほどお見せいたしますわ」


私は、国王に向き直る。

「陛下! 次なる証人の入廷を、お願い申し上げます!」


国王の許可と共に、大謁見の間の扉が再び開かれ、王城の衛兵に両脇を固められた、一人の男が引きずり出されてきた。

その顔を見て、公爵派の貴族たちが、息を呑む。

宮廷魔術師、ロデリック。紛れもなく、グランヴィル公爵の腹心であった男だ。


ロデリックは、証言台に立たされると、グランヴィル公爵の、殺意のこもった視線に射抜かれ、青ざめた顔で震えていた。

私は、彼に、あらかじめ用意しておいた、ただ一つの質問を投げかけた。


「ロデリック卿。二年前、そして先日、あなたが行った全ての行為は、誰の命令によるものですか。ただ一人の、首謀者の名を、この場で、あなたの口から、はっきりと述べなさい」


ロデリックは、しばらくの間、葛藤に身をよじらせていた。だが、私の、そして、傍らに立つユリウス王子の、冷徹な視線に気づくと、ついに観念したように、か細い声で、しかし、はっきりと、その名を口にした。


「……全ての、命令は……グランヴィル公爵、閣下による、ものです……」


その瞬間、大謁見の間は、蜂の巣をつついたような大騒ぎとなった。

公爵派の貴族たちが「嘘だ!」「閣下を裏切る気か!」と野次を飛ばす。


私は、その騒乱を、右手を高く掲げて制した。

「静粛に! 皆様、まだ、慌てる時間ではございません。なぜなら、彼の証言を裏付ける、動かぬ証拠が、ここにありますので」


私は、懐から、あの小さな「記憶の水晶」を取り出した。

「これは、公爵の命令で、私の姉を罠にはめるための協力をした、もう一人の魔術師ヘイワードが、保身のために密かに記録していたものです。ちなみに彼は、この水晶を私に渡した直後、公爵の放った暗殺者に、口を封じられました」


私は、宮廷魔術師長であるダリウス卿に、水晶を渡す。

「ダリウス卿。この水晶に記録された音声を、この場にいる全ての者に聞こえるよう、増幅魔法で再生してください」


ダリウス卿は、厳粛な面持ちで頷くと、水晶に魔力を注いだ。

すると、大謁見の間に、二人の男の、生々しい声が響き渡った。


『――リリアーナ嬢は、必ず指定の場所へ来る。お前は、この手紙を渡すだけでいい』

『褒賞金は弾む。事が済んだら、速やかに宮廷から姿を消せ。いいな、ヘイワード』


それは、紛れもなく、グランヴィル公爵自身の声だった。

彼の声が響き渡るたびに、彼の顔から、血の気が引いていく。


被害者の涙の証言。

共犯者の絶望の自白。

そして、首謀者自身の声による、動かぬ証拠。


私の仕掛けた、法と論理の三重の罠。

グランヴィル公爵は、もはや、完全に、その中心で身動きが取れなくなっていた。


国王が、凍てつくような声で、弟に最後通告を突きつける。

「――弟よ。これでもまだ、茶番だと申すか」


追い詰められたグランヴィル公爵の目が、ついに、狂的な光を宿した。

彼の隣で、宰相エルミントが、最後の悪あがきを、彼の耳に囁く。

その言葉に、公爵は、まるで地獄の底から響くような声で、叫んだ。


「ええ、茶番ですとも、兄上! この全ては、我が国を内側から崩壊させるための、国際的な陰謀なのですから!」

彼は、私ではなく、私の背後に、静かに佇むユリウス王子を、指さして叫んだ。

「この茶番の、本当の黒幕は、この私ではない! 隣国の王子、ユリウス! 彼こそが、この哀れな小娘を傀儡として操り、我が国を転覆させようとしている、真の敵なのですぞ!」


罪状の押し付け。外交問題へのすり替え。

それは、彼に残された、あまりにも危険な、最後の悪あがきだった。

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