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第20話:三人の同盟と最初の標的

ユリウス王子の執務室に、三人の思惑が渦巻いていた。

「――同盟を結ぼう」

彼のその言葉を、カイン卿は即座に鼻で笑い、切り捨てた。


「断る。俺は、アステリア王国の騎士として、国王陛下の勅命に従いルクレツィア様の補佐をしているだけだ。隣国の王子と馴れ合うつもりも、ましてや手を組むつもりも毛頭ない」

その声には、隠しようもない敵意がこもっている。


しかし、私はそのカイン卿を、冷静な視線で制した。

「カイン卿。今は私情を挟む時ではありませんわ。彼の持つ情報は、私たちの目的――姉の名誉を回復し、グランヴィル公爵の罪を暴くために、必要不可欠です」

私はユリウス王子に向き直る。

「ええ、結構ですわ、ユリウス殿下。その“同盟”とやら、受け入れましょう」


「物分りの良いことで助かるよ」

ユリウスは満足げに微笑むと、さっそくテーブルの上に置かれた証拠の水晶を指さした。「では、最初の作戦会議と行こうか。その水晶、確かにグランヴィル公の犯行計画を裏付けるものだが……これだけでは不十分だ」


彼の指摘に、カイン卿が「なぜだ。公爵本人の声が入っているんだろう」と訝しげな声を上げる。


ユリウスは、まるで子供に教え諭すように言った。

「確かに、これは公爵の声だ。だが、彼は巧妙に直接的な言葉を避けている。『手紙を渡せ』とは言っているが、『国を売れ』とは言っていない。腕利きの弁護士がつけば、『友好のための余興だったが、リリアーナ嬢が暴走した』とでも言って、いくらでも言い逃れができる。これを公に出したところで、決定打にはならん。最悪、我が国との外交問題に発展するだけだ」


国際的な視点を持つ彼の分析は、的確だった。この証拠は、まだ切り札にはなり得ない。

私は彼の言葉を認め、頷いた。


「おっしゃる通りですわ。ならば、彼が言い逃れできない、もう一つの物証と、人証が必要です」

私は、アンナの証言を思い返す。

「アンナの話では、計画の実行犯はヘイワードだけではありませんでした。彼に協力し、姉を直接呼び出した宮廷魔術師が、もう一人いるはずです」


「だが、そいつもヘイワードのように、すでに口を封じられている可能性が高いのでは?」

カイン卿が、現場を知る者として、もっともな懸念を口にした。


その瞬間、ユリウスが、待っていましたとばかりに一枚の羊皮紙を取り出した。彼の情報網が、早くもその真価を発揮する。

「その心配はいらない。その男の情報なら、すでに掴んである」

彼は、羊皮紙をテーブルに滑らせた。

「名は、ロデリック。現在も宮廷魔術師として、何食わぬ顔で王城に在籍している。グランヴィル公の庇護の下、手厚く守られてね。ヘイワードのような使い捨ての駒ではない。彼は、公爵の懐刀だ」


ロデリック。新たなターゲットの名が、そこに記されていた。

私は、その名前を見つめながら、次なる作戦の骨子を組み立てていく。


「彼をただ捕らえ、尋問するだけでは意味がない。ヘイワードと同じく、口を割らないでしょう。彼が、グランヴィル公爵の命令で動いたという、動かぬ証拠を掴まなければ……」

私の脳裏に、一つの大胆な計画がひらめいた。


「彼に、二年前と全く同じ“罠”を仕掛けさせるのです。そして、その犯行の現場を、完璧な形で押さえる」


ユリウスが、紫水晶の瞳を興味深そうに輝かせた。

「面白い。具体的には?」


私は、二人の男を真っ直ぐに見つめ、不敵に微笑んでみせた。


「今度は、私が“お姫様”の役を演じますのよ」

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