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第13話:語られし「おとぎ話」の真相

穏やかな光が満ちる部屋で、アンナは震える声で、事件の夜の「おとぎ話」を語り始めた。

私とエリアーナは、息を殺してその言葉に耳を傾ける。部屋の外では、カイン卿が私たちの守護と、そしてこの貴重な証言の聞き役として、静かに控えているはずだ。


「――そのお姫様(リリアーナ様)は……ある夜、一人の男に呼び出されたのです」

アンナの瞳が、遠い過去を見つめている。

「『緊急の相談がある』と…。呼び出したのは、宮廷魔術師の一人でした。腕は立つが、素行に問題があると噂のあった男です。お姫様は、少しだけいぶかしく思いながらも、指定された離宮の庭園へと向かいました」


アンナの語りに合わせ、私の脳裏にも、その夜の光景が鮮やかに浮かび上がってくる。


「ですが、庭園で待っていたのは、その魔術師だけではありませんでした。そこにいたのは……隣国の王子様と、そして、」

アンナは一度言葉を切り、恐怖を押し殺すように、その名を口にした。

「国王陛下の弟君、グランヴィル公爵様でした」


やはり、黒幕は王弟。証言が、私たちの推測を裏付けた。


「お姫様は、なぜこのような方々が、と驚きました。するとグランヴィル公爵様は、にこやかにこうおっしゃったのです。『リリアーナ嬢、これは両国の友好を深めるための、ささやかな“余興”だ。この手紙を、王子殿下にお渡し願いたい。中身は、他愛のない恋文のようなもの。これもまた、外交の一つだよ』と」


例の「手紙」だ。

姉は、王弟殿下直々の、しかも国のためになるという言葉を信じ、何の疑いもなくその手紙を受け取り、隣国の王子に手渡してしまったのだろう。


「お姫様が手紙を渡し終えた、その瞬間でした」

アンナの声が、悲痛に歪む。

「グランヴィル公爵様の表情から、笑みが消えました。そして、氷のように冷たい声で、こう言ったのです。『ご苦労だったな、リリアーナ嬢。これで貴様は、国を売った反逆者だ』と」


罠だった。あまりにも卑劣で、完璧に仕組まれた罠。

そこへ、まるでタイミングを計っていたかのように、見回りの兵士たちが現れ、お姫様と隣国の王子が密会し、密書を交わしている現場を「発見」したのだという。


「……全て、分かりました」

アンナが語り終えると、私は静かに呟いた。

「計画は巧妙ですが、同時に、穴だらけですわ」


エリアーナが、不思議そうな顔で私を見る。

「穴、ですか? こんなに酷い罠なのに……」


「ええ。最大の穴は、姉上が素直に罪を認めることを前提に、全ての計画が組まれている点です」

私は、あの日の姉の心情を代弁した。

「姉上は、おそらくグランヴィル公爵に脅されたのでしょう。『もしお前が法廷で無実を主張し、騒ぎ立てるなら、バルテルス公爵家そのものを反逆罪で取り潰す』と。だから、気高く、家族思いだった姉は……たった一人で、全ての罪を被ったのです」


私の言葉に、エリアーナの瞳が潤む。姉の自己犠牲の覚悟を思い、私の胸にも熱いものが込み上げた。だが、今は感傷に浸っている場合ではない。


「そして、計画のもう一つの欠陥。それは、物的証拠が『捏造された手紙』一点しかなく、その証拠能力が極めて弱いことです。ならば、我々が突くべきはただ一点」


私は立ち上がり、部屋の扉を開けた。外で待機していたカイン卿に、迷いなく告げる。

「アンナ、あなたの勇気あるおとぎ話に感謝します。おかげで、道筋がはっきりと見えました」


私は、カイン卿と、そして部屋の中のエリアーナに向かって、次の行動を宣言した。

「この計画の実行犯であり、グランヴィル公爵と姉上を繋いだ男。そして、今となっては黒幕にとって、全てを知る“消したい過去”そのもの」


私の視線が、鋭く前を見据える。


「――姉を呼び出したという、その宮廷魔術師。彼が、この事件を解くための、最初の糸口です。カイン卿、その男の身元と現在の動向を、今すぐ洗い出してください!」


忘れ去られていた計画の駒に、今、私たちの捜査の矛先が、真っ直ぐに向けられようとしていた。

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