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第11話:聖女の決意

王城の大聖堂は、荘厳な静寂に満ちていた。

巨大なステンドグラスから差し込む光が、床の大理石に色とりどりの模様を描き出している。その光の中心で、一人の少女が静かに祈りを捧げていた。


聖女エリアーナ。

私の足音に気づいた彼女は、ゆっくりと振り返ると、その大きな瞳をわずかに見開いた。

「ルクレツィア様……」


その声には、驚きと、安堵と、そしてほんの少しの気まずさが含まれているように感じられた。

私は彼女の前に進み出ると、まず深く頭を下げた。

「エリアーナ様。先日の断罪劇では、あなたにも辛い思いをさせてしまいました。私の問題に、あなたを巻き込んでしまったことを、心からお詫びいたします」


私の謝罪に、エリアーナは慌てたように首を横に振った。

「い、いいえ! 私の方こそ、アルフレッド様の言葉を鵜呑みにして、ルクレツィア様を疑ってしまうようなことを……本当に、ごめんなさい」

彼女の瞳から、ぽろりと一筋の涙がこぼれ落ちる。

この少女は、どこまでも純粋で、優しい。だからこそ、あの日のように、他者の悪意に利用されてしまうのだろう。


「あなたのせいではありません。あなたは、勇気を出して真実を話してくださった。おかげで私は救われました。本当に感謝しています」

私がそう言うと、彼女は少しだけ表情を和らげた。これで、私たちの間にあったわだかまりは、完全に氷解したはずだ。

私は、本題を切り出すことにした。


姉リリアーナの事件のこと。無実の罪で追放されたこと。唯一の証人である元侍女長アンナのこと。そして、彼女が真実を語れぬよう、邪悪な「口封じの呪い」にかけられていること。

私は、誠実に、包み隠さず全てを話した。


「アンナは、真実を話したくても話せない状況で、今も苦しんでいます。私は、姉の名誉のためだけでなく、不当な呪いに囚われている彼女を救いたいのです」

私の話を聞き終えたエリアーナは、青ざめた顔で唇を固く結んでいた。


「エリアーナ様」

私は、彼女の手をそっと取った。

「あなたの聖なる力で、アンナにかけられた邪悪な呪いを浄化してはいただけないでしょうか。これは、あなたにしかできないことなのです」


私の願いに、彼女の肩が小さく震えた。

「わ、私に、そんな大それたことが……。それに、とても危険なことなのではありませんか……?」

当然の恐怖と戸惑いだった。彼女はこれまで、聖女として人々の傷や病を癒してきたかもしれないが、このような生々しい陰謀と呪いに直接向き合った経験はないはずだ。


私は、彼女の瞳をまっすぐに見つめて諭した。

「危険は伴うかもしれません。ですが、エリアーナ様。あなたの力は、ただ傷を癒すだけのものではないはずです。それは、偽りを退け、真実を照らし、闇に苦しむ人々を救うための、神から与えられた尊い力なのではありませんか?」

そして、私は言葉を続ける。

「あの日、私を本当に救ってくれたのは、私の拙い弁論ではありません。あなたが勇気を出して『見ていません』と真実を語ってくれた、その一言です。今度は、私たちがアンナを救う番なのです」


私の言葉が、彼女の心の奥深くに届いたのが分かった。

エリアーナの瞳から、恐怖の色が消えていく。代わりに宿ったのは、聖女としての使命感、そして、一人の人間としての、強く、澄んだ意志の光だった。


彼女は、自らの手でそっと涙を拭うと、顔を上げた。

もうそこには、ただ守られるだけのか弱い少女の姿はなかった。


「……わかりました。私、やります」

その声は、震えていたが、決して揺らいではいなかった。

「怖いです。でも、間違ったことのために誰かが苦しんでいるのを見過ごすことは、私にはできません。ルクレツィア様、どうか私に、あなたの力を貸させてください」


こうして、私たちのチームに、最強の「浄化」の力を持つ仲間が加わった。

頭脳のルクレツィア。武力と調査能力のカイン。そして、聖なる力のエリアーナ。

役者は、揃った。

私は、心強い仲間と共に、再びあの闇の中心へと挑む決意を、新たにした。

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