7フェリオ様と昼食
それからシルベスタは忙しくした。
授業後終わると王都にあるオリヴィエ伯爵家の服飾店に出向いてはタオルの制作指示を出したり、扇子は会員分の50個で色がグリーン。それもフェリオ様の瞳のような美しい色合いを出したいとこだわったため何回も足を運ぶはめになった。
そして金曜日の夕方ナージャ様たちと学園で待ち合わせてレストラン<コルドバ・ランテ>に向かった。
レストランはオリヴィエ領にある山の名前で神が宿る神聖な山と言う意味もあったし、父親の名前でもあった。
レストランと言うことでもっと重苦しい感じを描いていたナージャ達3人はレストランについて驚いた。
気さくな感じの赤い屋根と黄色の壁。大きな窓は開放感があってすごく入りやすく親しみが湧いた。
おまけにデリバリー出来ますと書いた入り口の横の看板にも驚かされた。
「シルベスタ。デリバリーって?」ナージャが聞く。
「ああ、レストランを始めるとき若い人向きにも何かいいアイディアがないかって考えてたら、うちは運送業もやってる関係で配達も出来るんじゃってなって、前もって注文してもらったら時間通りに配達したり持ち帰りなんかも出来るようになってて、ゆっくり食べる時間もないと言うときには料理を持ち帰ってもらえるようにしたんです」
「あなたってやっぱり天才じゃない。こんなの普通思いつかないわよ」
「こんな気さくなレストラン何だかすごく楽しいパーティーが出来そう。本当にここを貸し切りしてもいいの?」
「ええ、でも一日中じゃないし、時間を決めて貸し切りにしてもらえれば…剣術大会が終わってからだと4時くらいから6時くらいでどうです?この時間だとお値段はリーズナブルになりますけど」
「ええ、いいと思うわ。学生の集まりだし遅くならない方がみんなも集まりやすいしフェリオ様の都合も聞かなきゃならないけどお家でパーティーがあるとしてもこの時間だったらいいんじゃない?」
「それもいいけど料理食べてみたいわ。何だかどれもすごく美味しそうよ」ナージャ様がそう言った。彼女は相当食いしん坊らしい。
店の中に入る。カウンター席があってその向こうに隙間があって厨房が見える。美しい銅の鍋や調理器具がぶら下がっているのが見えて返って親近感がわく。
テーブル席には赤いチェックのテーブルクロスがかかっていて店の中央には煙突が二階まで突き抜ける大きな丸いストーブがある。
「何これ?」「かわいい…」「絵本で呼んだ世界に来たみたい」
3人の瞳は子供の用にキラキラ輝く。
それぞれが違う料理を頼んだ。
ナージャ様は海鮮ドリア。キャロリーナ様はハムステーキと温野菜のソテー。パメラ様はオムレットドミグラス。シルベスタはいつものハンバーグステーキとポタージュ。
ポタージュはみんなにお勧めだと言って飲ませたら、みんなすごく美味しいと褒めまくられた。
3人は大満足して帰って行った。パーティーはここで決まり。時間も決まった。料理は色々な料理を作って大皿でみんなそれぞれが取り分けるビュッフェスタイル。ポタージュスープは大目に用意してもらうことになってチョコレートファウンテンも用意する。タワーから噴水のように流れ出て来るチョコレートに愚剤をくぐらせて食べると言うこのレストランの名物らしい。
バースディケーキはロールロールに頼んで後はプレゼントだけと言うことになった。
その翌日、ついにシルベスタがフェリオ様と昼食を一緒にする事になった。
シルベスタは緊張で胃が締め付けられそうになりながらも笑顔を絶やさずフェリオ様の隣で彼の食事する姿を見つめた。
隣にはナージャがいてくれるので少しは緊張もほぐれるはずだが。
「君、シルベスタだったよな」
シルベスタの脳裏は真っ白になった。あんなに何を聞こうか。なにを話そうかと一生懸命考えていた事は一瞬で吹き飛んだ。
(何か言わなければ…何を…)
「はい、あの‥フェリオ様は何が好物で?」声が上ずる。
「俺は肉だな。ステーキでも鴨肉なんかも好きだ。チキンは揚げたものが好きかな。それとワインも。シルベスタは?」
フェリオ様の視線がシルベスタに注がれた。またも脳内が真っ白に。
「…えっ、あの…ふ、ふぇりお様が好きです」
「シルベスタ。俺は食べ物の話をしてるんだけど」
「あっ、はい!ポタージュスープが好きです」
「ああ、俺も好きだな。ほら、これ食べるか?」
フェリオ様がエビを差し出す。
「ひゃい…」
シルベスタは真っ赤になって口を開ける。その唇は小刻みに震えている。
「うぐっ‥」
「うまいか?どうだ?」
シルベスタはもう涙目でうなずく。
(うれし過ぎる。もういつ死んでもいい…)
「フェリオ。ちょっとからかいすぎよ。彼女はまだ純情な乙女なんだから」
(さすがナージャ様、フェリオ様に対してもいつも通りの話し方なんて…凄すぎる)
シルベスタはふたりの会話について行けない。
「そうなのか?」
フェリオ様のちょっと意地悪な顔にシルベスタは真っ赤になって俯く。
「そう言えば、シルベスタの家ってあのオリヴィエ家だったよな。それであんな…くくっ」
フェリオはきっと短剣を送った事を思い出したのか声をこらえるように笑った。
「もう、フェリオってば、失礼じゃない。シルベスタ気にしないで今日のフェリオはどうかしてるわ!」
「悪かったよ。機嫌直してシルベスタ」
フェリオ様の指先がシルベスタの頬をかすめる。
遠くで「きゃぁ~」と女子の歓声が上がる。ファンクラブの女の子達だろう。
「あのフェリオ。今度の剣術大会の後私たちであなたのバースディパーティーをやることは話していたでしょう?」
「ああ」
「あれ、シルベスタの家がやってるレストランでやろうと思うの、時間は4時から6時でどうかしら?」
「シルベスタってレストランの経営もやってるのか?凄いな」
「いえ、私はこんなレストランを開きたいって言っただけでお金はもちろん両親で経営も任せっぱなしなので私がやっているというのは間違いで…」
「なあ、シルベスタ。お前俺の婚約候補にならないか?」
時間が止まる。(こ・ん・や・く・こ・う・ほ?彼とこんやく出来る?うそ)
「ちょっと!フェリオ。いい加減にからかうのはやめて」ナージャが怒った。
「冗談と思うか。俺は金持ちが好きなんだ。お前とクララは公爵家だからもちろん候補にしている。でも、候補はいくらいてもいいはずだろう?シルベスタの家は金持ち。伯爵家で俺より格下。これって最高じゃないか」
「フェリオ。あなたってそういうところ最低ね!」
シルベスタはふたりの会話は耳に入っていなかった。
ただ、フェリオ様の婚約者になれるかもと思っただけで脳内はばら色になっていた。