5留学生
それから朝はいつもフェリオ様待ちのファンクラブの仲間になった。
つい先日会員になったばかりだと言うのにシルベスタの立ち位置はナージャ様、キャロリーナ様、パメラ様の次になっていた。
いわゆる会員幹部ナンバー4になっていた。
だが、そのせいでここ最近シルベスタはいつも1時間目ぎりぎりに教室に入って来る。
「もう、また?遅刻かと思ったじゃない。どうしたの?」
そう言って来たのは友人のクリスタだった。
シルベスタは朝のファンクラブの事を話した。
(フェリオ様を見れることをみんなで共感できるなんて幸せ)と思って余韻に浸っていると…
「もう、いい加減あんな奴の事は諦めなさいよ。ファンクラブにまで入るなんてどうかしてるわ!」
「そうよ。シルベスタ。いい男はもっと他にいるわよ。あんな見た目だけの優柔不断男のどこがいいのよ」
リオナもそう言ってシルベスタにフェリオを諦めろと言った。
(これで短剣の話をしたらきっとふたりとも引くわよね。あれは私だけの胸のうちにしまっておく)
今日もそんな事を思っていると教師がいきなり新しい生徒の紹介を始めた。
「入学から少し遅れたが今日から隣国のアルロード国から留学生が入ることになった」
その男の子は銀色の美しい髪をしていた。それをきちんとセットした短髪はすごく清潔的だった。眼鏡をかけて神経質そうにも見えるがにこりと笑った目元には優しさが見えて親しみがわいた。
「ナイル・アルロードです。今日から皆さんと一緒に勉学に励みたいと思っています。どうぞよろしく」
彼が頭を少し下げると教室からざわめきが起こった。
「「「アルロードって言った?それって王子って事?」」」
「おい、静かに。聞いての通り彼はアルロード国の第2王子だ。でも、基本みんなと同じように授業を受ける。あっ、彼には護衛が付くのは仕方がないのでそこはみんな了解するように」
「みんなを驚かせて申し訳ありません。護衛は僕が移動するときに共に行動しますが、基本教室内には入りません。申し訳ないけど受け入れてもらうしかないのでよろしく」
(さすが王子。お願い事もスマートにこなすわ。それにもっとひ弱なのかと思ったけど意外としっかりしてそうじゃない)
ナイルは教師から席を教えてもらったようですたすた歩いて席に着いた。
「よろしく。君、名前は?」
「シルベスタ・オリヴィエよ。さっきのカッコよかったじゃない」
シルベスタは思わず思っていたことが出てしまったと手を口に当てた。
「いいね君。その気さくな態度。こういうのを期待してたんです。国では王子と聞いただけで腫れもの扱いでして。みなさん、僕の事は同じ生徒として扱って下さい。僕も君たちとは友達として付き合いたいですから。僕の事はナイルと呼んで下さいね」
ナイルは意外にもみんなと同じ扱い宣言をした。
彼はシルベスタを気に入ったらしく、その後も教科書を見せたり移動の時には場所を教えてほしいと言われて一緒に移動した。
そして昼食時間が来た。
「シルベスタ。一緒に食べていいですか?」そんな気さくな態度でも後ろにはいかつい男がふたり控えている。
「ナイル様とですか?」言葉もついていねいになってしまう。
「ナイル。だから様とかいりませんよ。それでランチはどこで食べるんです?」
そこに応援が来た。クリスタとリオナだ。
「ナイル様、ランチは学生食堂があってそこでみんなトレイに好きな物を取り分けて、席は好きなところに座っていいんです。さあ、ご案内します」
「そうですか、行きましょうかシルベスタ」
「ええ」嫌な予感が…
(昼食はいつも秘かにフェリオ様を拝顔できる時間なのに…ファンクラブのみんなは今頃もう席確保してる頃かな…)
予想通り。フェリオ様が来ていた。今日はナージャさんとあれはミーナさん。ミーナさんすごい夢が叶ったんだ。
フェリオ様の周りにはすでに甘ったるい雰囲気が漂っている。
ファンクラブのみんなは少し離れたいつもの席にいた。
「あの、私、他の友達と食べるので。クリスタ、リオナ。ナイル様。いえ、ナイルとご一緒してね」
シルベスタは急いで彼女たちと合流した。この時ナイルの顔が強張った事には気づかなかった。