表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/56

第六話 今のわたしに、できること

 勇者たちは、盗賊狼(ギャングウルフ)たちに取り囲まれている。抜け出すには一体どうすればいいのか……。


 道具袋である小鳥遊有希は不安になっていたが、どうやらこういう時の『逃げ』の算段(さんだん)は立っていたらしい。


「マルティーズ」 


 勇者が、黒魔導士の女性を呼んだ。合図だろうか。


 彼女の目に、焔色(ほむらいろ)の情熱が(とも)る。美しい金髪をなびかせて。


「真っ直ぐ行くから。『固有技術(オリジナルスキル)熱波招来(ヒートウィンド)』」 


 正面に向かって高熱の突風が発生。たちまち狼男が道を開ける。こちらまで届く余波(よは)で熱いと感じるほどなので、直撃はひとたまりもないのだろう。


「走れ!」 


 マルティーズが叫ぶ。同時、全員で直線を駆け抜けた。


「ふざけるな! どうせ貴様等も()()()目当てだろう!? 我々の……いや、他者の生きる道を考えたことはないのか!?」 


 先程、リントの一撃を喰らって倒れた狼男が糾弾(きゅうだん)する。


「それは君たちも同じじゃないかな」 

「なんだと!?」 

「僕たちは、()()()()()()()()()()よ。信じてくれるなら止まって話を――」 

「噓を()くなよ、人間ども……! 同志よ、そいつらを逃がしてはならん! 必ず仕留めろ!」

「……仕方ないか」  


 なんだろう。気になるワードばかりだ。アレとか、報酬金とか。


 今考えても仕方ない。とりあえず逃げることに専念しよう。わたしにできることはないけど。


 …………できることはない?


 本当にそれでいいのか?


 なんか悔しいよ。みんなは色んな固有技術(オリジナルスキル)を使って活躍してさ。なんかカッコイイよね。憧れちゃうよ。


 折角、品出しくらいしかまともにできないアルバイターから転生したのに。見てるだけでいいのか?


 ギィンッ……! 


 再びの金属音。正面から襲う鉤爪(かぎづめ)をリントが剣で受け止めた。


「グルルゥ」 


 狼男が勢い良く弾き返される。


「もう追いついたのか……!」 

「くそっ、これだけ至近距離じゃもう打つ手ねぇぞ」 

「アタシたちは絶対に負けない。なんとかするのよ」 


 背後を取られぬよう、リント、ガーベル、マルティーズの三者が背中合わせに。


 表情から、雰囲気から分かる。


 ジリ貧というやつだ。


 しかし一手。なんらかの一手さえあれば切り抜けられる。そんな状態。


 ……わたし、小鳥遊有希はというと。


 固有技術(オリジナルスキル)! 


 しかしなにもおきなかった。


 懸命に踏ん張って、固有技術とやらを使えるようにもがいていた。


 転生したんだから、なんかすごいことできるはずだろ!


 もっかいやってみる! 固有技術!


 しかし、なにもおきなかった。


 畜生! なんでなんにもできないんだ! こんなに頑張ってるのに!


 固有技術! 


 しかし、なにもおきなかった。


 嫌でも転生前のことを思い出す。


 アルバイトしててもそうだった。頑張っても頑張ってもなんにもできなくて。みんなは仕事をすぐに覚えて先に行く。置いて行かれる。


 ついには無能のレッテル(にもつもち)を貼られた。


 固有技術! 


 しかし、なにもおきなかった。


 いや、もういいんじゃないか? 転生しても、こんなもんだ。十分頑張っただろう。


 ………………。


 なんだろう。どこか諦めきれない。


 冷静に、なれ。今諦めたらどうなる? もうわたしだけの問題じゃないだろう。


 そう。


 パーティーが、全滅してしまう。


 なんかそれだけは嫌かな。


 ――僕たちは報酬金目当てではないよ


 ――離れるなよ。全員で生きて帰るんだからな


 ――アタシたちは絶対に負けない。なんとかするのよ


 まだわかんないけど、みんないい人そうだからさ。助けたいよ。


 ……考える。今のわたしに、できること。


 道具袋なら、なにができる? みんなのように、もっと具体的にイメージするんだ。最初は簡単なことでいい。それでいいんだ! 考えろ。考えろ、考えろっ――!


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、わたしなら……!


「『固有技術(オリジナルスキル)排出(ドロップ)』!!!」 

『えっ?』 


 声が、出た。パーティーのみんなが驚いている。しかも固有技術(オリジナルスキル)も使えてアイテムを出せた。なんなら今持ってる物を把握できるぞ。薬草とか、魔力の水とかが入ってる。形も把握できる。


 おまけに、少しなら動ける。


『成長』したんだ……!


 だが感動に(ひた)っている暇はない。


 出したモノは……煙幕弾だ。 これなら……!


「説明は後! みんな、これが炸裂(さくれつ)したらもう一度真っ直ぐ駆け抜けて!」 


 ボウッ。


 紫色の煙幕が、広範囲に発生した。


 一斉(いっせい)に三人が走り出す。


 煙を抜けた追手(おって)は……盗賊狼(ギャングウルフ)が一人。


 想定内。ゲームでも状態異常にかからないやつは一体くらいいる。


 しかし。


 この距離で単体。ならば彼が一番、光るだろう。


「ガーベル君! 弓を!」 

「任せろ」 


 卓越(たくえつ)した集中力をもつ、銀髪の狩人。


 彼が一瞬だけ立ち止まる。


 鷹さながらの鋭い双眸(そうぼう)で、標的を()る。そして弓を(つが)えた。


「『固有技術・能鷹一矢(ホークストライク)」 


 飛ぶ鳥を落とす勢いの矢が、放たれる。もはや残像すらない。


 それが狼男の引き締まった(あし)穿(うが)つ。たちまち転倒、というより吹き飛んだという表現が近い。


 そのまま勇者パーティーは森の奥へ。


 無事に盗賊狼(ギャングウルフ)の群れから逃げおおせたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ