第四話 へいわなせかい?
前回までのあらすじ! わたし、小鳥遊有希は全身アルバイト人間から魔王を討伐する勇者パーティーの道具袋に転生したよ!
メンバーは変態勇者リント! クールキャラの狩人ガーベル君! ツンデレキャラの黒魔導士マルティーズちゃん!
ちなみに転生には気づかれてないよ! 声が出せないからね!
いつかあのギャル女神には仕返ししよう! 激辛インスタント焼きそばを食べさせる、とか!
今いるのは アトスエンスの街。石壁に囲まれた、活気に溢れる街である。出店の並んだ賑やかな大通りを歩く勇者パーティー。
「あっ、魔力の水って買ったっけな」
っくう! ああっ!
爽やかな地に反し、猛烈にキモい感覚がわたしを襲う。身体の内側から撫でられてるみたいな。
恐らく、変態勇者リントがまた道具袋に手をつっこんだのだろう。もぞもぞするよ。うう。
くそ……。これいちいち反応してたらキリがないな。でもなぜか慣れてきたぞ。次は大丈夫だろう。多分。
ここでガーベル君がため息を吐きながら、問う。
「ところでリント、今向かってる方角で合ってるんだろうな。こっちは南の門だが、逆側にある北の門じゃねぇよな?」
というかそうだった。これ今なにをするために、どこに向かっているんだろう。魔王の城とかに直接向かってるなんてことないだろうし。
「合ってるよ。昨日マルティーズに地図見てもらって印つけたから。ありがとう、マルティーズ」
「自分で確認しろよ……勇者」
「感謝しなさいよねリント、ふん」
マルティーズちゃんがそっぽを向く。ツン。可愛いね。
……いやどこに行くの!? 教えてよ!
気になりながらも、ついていく他なかった。
だって喋れないんだから。
まさに腰巾着といったところ。いや上手くねぇよ。
そんなこんなで、勇者一行は南の門からアトスエンスの街を後にした。
○○○
アトスエンスの街を南の門から出ると、だだっ広い草原へ。こうも晴れていると気持ちがいいものだ。散歩でもしたいな。袋から足生やせねぇかな。駄目か。はーい。
というか、草の匂いがする。嗅覚はあるみたいだ。
そうだな。まずはそういう人間らしい機能が欲しいかな。
「もうアタシ、歩くの疲れたんだけど! ちょっとだけ休まなーい?」
「休憩は洞窟前って決めてただろ、もうちょっと我慢しろ。それともお前はその程度だったのか?」
「はぁー!? まだまだいけるし! 舐めんな!」
「あはは。僕とガーベルは役割敵に、少し体力あるからね。もっとゆっくり歩こうか?」
「ふん。余計な気遣いよ。逆にアタシについてきなさい!」
「ええー」
マルティーズちゃんがポニーテールを揺らして走っていく。
いいね。微笑ましいやりとりだ。どれ、わたしも混ぜてくれないかな。
踏ん張って声を出そうとしてみた。
……しかし、なにもおきなかった!
いや噓だろ!? チート能力を使えるどころか、会話すらできないのかよ!?
酔っぱらって、ギャル女神にわたしの能力を説明してもらうのを忘れてしまったこと。
それを強く後悔した。
もっかい試してみるか……。と、ここで。
がさっ。
草むらから音がした。
いつもならにゃんこか鳥さんかそういう類だと思うだろう。
しかし、ここは異世界テラスペラズ。剣と魔法と魔物が常識の世界だ。
凶暴な魔物だろうと予想して、わたしは身構える。
しかしみんなはいたって冷静だ。それどころかにこやかに笑顔をたたえている。なんで!?
それほどまでに実力に自信があるのか。じゃあ任せたぞ。マジで。わたしなにも出来ないからね。
そうして草むらから出てきたのは――。
今のわたしと同じサイズをした、水色のぷよぷよ。
そう、スライムだ。
か……可愛い!
「よしよし、良い子だね」
ふいにリントがかがんで、スライムを撫でた。
「キュルルウ」
ぷるぷると震える水色の魔物。どうやら喜んでいるようだ。
なんだ今の鳴き声!? 愛らしすぎるだろ!
……もしかしてこの世界、案外平和なのか? じゃあ魔王とかもう、よくね?
わたしの、いつものぐうたら癖が出てしまうのだった。
しかし、そうは問屋が卸さないのがこの世界だということをこの後、身に染みて知ることになる。