第三話 ハロー、テラスペラズ!
う……ん……。
視界が真っ暗だ。さっきは真っ白だったのに。目まぐるしいな。
というか、変だ。目を覚ましたという実感があるのに、視界が開けない。
なんだろう。しいて言うなら瞼が重たいという感覚に近い。
「――持――か?」
なにか聞こえる。なんだろう。
「今――待っ――!」
少しずつ聞こえるようになってきた。
周りがガヤガヤとしている気がする。
「は――よ!」
しかし騒がしいな、まったく。しかし異世界に来てから初めて会う人だ。せっかくだから話しかけてみよう。
……おやぁ?
ここでまた違和感に二つ気付く。
手足が動かせない。そして喋れない。
マジでどうなってんのこれ?
試しに踏ん張ってみるか。
と、そう思った時だった。
「薬草!!!」
ひぃ!?!?!?
突如、全身をまさぐられる感覚が駆け巡った。キモい!
なんだ。いったいなにをされているんだ。この変態め! いい加減にしろ! おい!
しかも掛け声が「薬草」て。わたしの身体は漢方薬かなんかか。
てかしつっこいな。もうやめ……てっ…………あれ?
いつの間にかキモい感覚が消え、視界が開けていた。
そこは......太陽燦々。石壁に囲まれた広大な街。
道は石畳。大通りは実に人の通りがさかんだ。出店には美味しそうな食べ物が並ぶ。
馬車も通っている。
看板を見ると、なぜか文字を理解出来た。ここはアトスエンスの街というらしい。
「異世界やったー!」と感動したい所だが、状況把握が先だろう。不安で仕方ない。
見渡すと、少年少女が三人。どこかへ向かって歩いているではないか。みんなわたしより年下っぽいぞ。
「ほら。僕はちゃんと準備した道具、持ってるって。ガーベル、マルティーズ」
先程の変態の声の主だ。わたしの……真上? にいる。
さらさらの黒髪。爛々とした翡翠色の瞳。ファンタジックな勇者らしい服装をしており、背中には剣を背負っている。
じゃあ普通の変態少年だな。名前はなんだろう。
「リント、お前は超がつくほど天然だからな。俺がしっかりしないとろくな旅にならん」
声がした後方へ視点を動かす。そこにも少年が。
実に整った銀髪。切れ長の目と精悍な面立ちからは威厳が滲み出ている。狩人のような年季の入ったローブ、そして弓。凛々しさを感じずにはいられない。
お名前はガーベルかな。狩人で、クールキャラ。いいね。
そしてさっきの変態少年の名をリントというらしい。覚えたからな、普通の変態少年リント。
「ちょっとガーベル! 一番しっかりしてるのはアタシでしょうが……って聞いてるの!?」
ガーベルの隣を歩く少女。
艶やかな金髪をヘアゴムで結わえたポニーテール。烈火のごとき焔色の双眼。胸は小ぶりでひかえめだが、黒魔導士であると主張する漆黒の杖と衣装。
恐らく名前をマルティーズという。どこからどう見てもツンデレキャラだ。うん、いい文化だね。
……ところで、わたしも自己紹介したいんだけど。
わたしって今どうなってるの。誰か教えてよ。
「それより見てよ、この道具袋。いい緑色でしょ。さっき雑貨屋で買ったんだ」
変態少年リントがわたしに向かって指さした。
はっ? 出会ってすぐに身体を触るどころか暴言まで吐くの? なんてヤツだ。こいつは。
「まぁ、いい色だな」
……ん? クールキャラのガーベル君が同調した……違和感。
「そうね。リントにしてはまぁまぁのセンスだわ。アタシならもっと良いの選ぶけど」
ツンデレのマルティーズちゃんまで。
見上げるような視点。自由に動けない感じ。みんなの言動。
あー、やばい。理解が追いついてきた。受け入れがたい事実だ。冷や汗が出る。いや出てるかわかんないけど。
まさか、まさかだ。
わたしは。
「そう。僕たちはこの道具袋と一緒に、魔王を討伐して世界を救うんだ!」
わたしは!
魔王を討伐する勇者パーティーの道具袋に転生してしまった!
(ここで悲壮感のある効果音)
これじゃ……。
転生前の荷物持ちアルバイターと変わんねぇじゃねぇかあああああ!!!
かくして、勇者パーティーと小鳥遊有希(道具袋)の旅は始まる。
この広い世界、テラスペラズにて。