第一話 はじめから
初めまして!楪 紬木と申します。
作品を通して、多くの方に「頑張ろう」と思ってもらえることが目標です!なので頑張ります!
『転生したら勇者パーティーの道具袋になったんだが、どうやら万能らしいので一緒に世界を救いに行ってみます』
→はじめから
つづきから
オプション
ピッ(効果音)。
ゲームスタート。
(ここで小気味よいBGMが停止)
○○○
見上げれば、どこまでも続く青い空。一つの世界に繋がっている。
見下ろしても、どこまでも続く青い空。もう一つの世界に繋がっている。
その間は水面のようになっていた。
ここは、世界の狭間。
『成長したい』と強く願う者だけが召喚される地である。
そしてそこに佇むのは……一人の女神。
今日も二つの世界を見渡して、転生者に相応しい者を探している。
「………………見つけた」
どうやら、変わりたいと強く願う者を見つけたようだ。
「頑張り次第ではありますが、素晴らしい潜在能力。彼女にしましょう」
すっと立ち上がり、杖を掲げ、魔法陣を描く。
「我々は、見たいのです。『生きとし生けるものは、どのようにして成長するのか』?」
美しいかもしれない。儚いかもしれない。それでも。
諦めないで。どうか試練を経て、かけがえのない成長を……。
○○○
「んー、あと一撃」
ちゅんちゅんと雀の鳴く、早朝。
カーテンを締め切った、うす暗い部屋の中に響く、コントローラーのカチャカチャ音。
寝ぐせぼさぼさの黒髪をして、眼鏡をかけて、深い緑色のパジャマを着て。わたしはテレビゲームを嗜んでいた。
「さらば難関ボス。はは」
画面に映った234ダメージを見ながら、指を鳴らす。机の上のインスタント焼きそばをズルズルとすすり、それをお茶でゴクッと流し込む。
わたしは大学生、小鳥遊有希。普通のオタクだ。大学に通いながらコンビニでアルバイトをしている。寮で一人暮らし。はは、凄いだろ。もう普通に自分で稼いで、飯を食ってるんだぜ。
………………はぁ。
さてゲームの方というと、門番を倒してラストダンジョンを攻略することに。頭を使う謎解きへ。
「ここの謎解き、余裕すぎ。ネットでは難しいとか言ってたけど大したことないね」
そう。わたしは、ゲームの中では、頭脳明晰だ。なんだってできる。感覚が試されるリズムゲームだってお手の物。
謎解きをすぐに突破したわたしは、スピード勝負のレース場へ。ここのスコア次第でレアアイテムが貰える。いわゆる寄り道というやつだ。
「はい! ブーストは、ここで使うんだよー。分かった?」
ニヤリ。みるみる口角が上がる。
……もちろん独り言。相手はCPU。
レースに勝ち、レアアイテムを華麗にゲットした。持っている者のバフ効果が消されないという「不滅の宝玉」。これで今作の強すぎるラスボスに対抗するパーツは揃った。
わたしはついにラスボスとの戦いへ。
「あれ」
しかし、余裕で倒した。でもあまりに弱すぎる。
「これは……やっぱりな」
文章を読み進めていくと『ここで終われるものか……!』の文字と共に、ラスボスが第二形態へ。
そして仲間たちのアツい台詞と共に神BGMが流れ出した。これは負けられない!
「よっし、覚醒状態入った! これで勝つる!」
味方は全員倒れ伏している。そこで主人公が受け継いだ全てを解放し、覚醒。
そして完全勝利した。感動のフィナーレの後、エンディングが流れる。
「やっぱゲームってさいっこーに面白い! 次はなにしようかな――」
と、ここで現実は――?
わたしの頭の中に余計な情報が巡る。
それは。
コンビニバイトの記憶だ。
『あんた、なんにも話を聞いてないんだね』
バイト先の、おばさんの声だ。脳内に響き渡ってくる。これはレジ打ちをミスった時かな。
「……やめてよ」
頭を振っても消えない。
またしても嫌な記憶が。
『もたもたすんな! はよしろ!』
バイト先の、おっさんの声だ。これはわたしがあまりに飲料の補充が遅かった時だな。
「やめてやめて」
だんだんと呼吸が乱れてきた。
コントローラーを置き、体育座りで頭を抱える。
荷物持ち――。
わたしにとって、一番嫌な記憶が蘇った。
バイトを始めて、少したったころ。いつまで経っても仕事のできないわたしに対し。
あの、炎が燃え盛るようなサラサラの赤髪。獲物を狙う猛獣に似た瞳。容姿端麗。人々の視線を集める不思議な魅力のある青年。ついでにセンスの良い私服。憎たらしいエリアマネージャー。
そのイカれ気味にして嫌味な上司が。人の心を腐らせるような、ねっとりとした口ぶりでわたしにこう言ったんだ。
『僕様、思うんだァ。お前ってさァ、ただの荷物持ちじゃんかァ』
一斉に、わたしに白羽の矢が立った。
そこから優しかったみんなが豹変。
みんな自分の身を守るためだろう。使えないだのなんだの、暴言の嵐。
わたしはこれに、耐えられなくなった。
「っ、違う!!!」
心の底からの叫び。
しかし、誰にも届かなかった。
だって本当にそれくらいしかできないんだから。
そもそもマルチタスクなんて頭回んなくて無理だし、基本的な作業のレジ打ちだって一歩間違えれば大変なことになるし。
……というかなんでみんな平気で暴言を吐けるのだろう。
もし後輩がいたら、分からないことは何回でも優しく教えるのに。
だが所詮、この世は使えるか使えないかだ。
……ゼミの課題や就活も手についていない。しかも頼れるような友達もいない。とどめにそんな事まで脳裏に浮かんでしまった。
「………………最悪」
ため息をつきながら、後ろに手をつく。
「……こんな自分、嫌いだ」
わたしはもっとカッコイイ人間だと思ってた。
漫画やアニメの主人公みたいにどんどん成長して、強くなって。仲間がいっぱいいて、恋をして。そんな人間。
でも現実は甘くなかった。
テストは平凡な点数で、運動もそこそこで、コミュニケーションがいまいちで馴染めなくて、いざって時にゲームとか睡眠とか目の前の欲に負けて。自分はどこまでもちっぽけ。
大学生の今だからこそ、思う。ここで。
今度こそ。
「『変わりたいな』」
ふと、コントローラーに手が触れた。
なんの変哲もない、ありふれた行為。
だが、今回は違った。
テレビの画面が突如、強い光を放つ。
「まぶしっ!?」
故障か? 結構な値段で買ったはずなのに。などと悠長に考えていると。
自身の身体が、浮遊。テレビに吸い込まれてゆくではないか。
「えっ、ええっ、わぁぁぁ!!!」
光の渦に視界を奪われていく。
怖い。とか、そういうのを感じる間もなく――。
私の全身は、テレビに飲み込まれた。
まずはここまで読んでくださってありがとうございます!
この先も読んでくださると幸いです。
当作品がより多くの方に、一人でも多くの方に読んでもらい、そしてその記憶がほんの少しの勇気の欠片になればと思っています…!