99 私より上手
リスはリスでも飼いリスではない。
歴とした野良で、野生のリスだ。
別にあの屋敷で飼育していたわけじゃない。だから目印になるようなものはないし、ここまで馬車で来たのだから屋敷からは距離があるはず。
食いしん坊な別のリスかもしれない。
そんな疑惑が浮かばないくらい、回廊の端っこで焼き菓子にがっつくリスはあの屋敷で見たリスそのままだった。
というか馬車に何かくっついていた気がしたのよ。もしかしなくてもこいつ、馬車にくっついてそのまま一緒に来た!?
信じられない…。
なんてガッツと行動力を持つリスなの! 行けると思ったときの決断力が小動物とは思えないくらい豪胆! それとも小動物故の好奇心!?
しかもこいつ、夜会に忍び込んでちゃっかり戦利品を手に入れているわ…!
(誰にも悟られずここまで来て、しっかり目的を果たしている…リスのくせに私より運がいい。余計なことを考えない分、本能にしか動かされないから?)
私が目的を果たせないのは、あれこれ寄り道をしているからだ。
わからないことが多かったからそうなったが、今はもうあの家紋が公爵家のものだとわかっている。先程顔も確認した。てめぇの顔は覚えたかんな。
なら、無理してスタンと一緒に行動しなくてもよくない?
なんなら今ここで公爵の血肉とか使用済みのハンカチとか手に入れられたら順調に呪えたりするのでは。個人を呪うときは個人を特定できる品(血肉だと尚よし)があれば確実って初級編に書いてあったはず。
(夜会に戻らず入手するのは難しそう…こんなことならさっき無理矢理にでも踊っておけばよかったわ。どさくさに紛れてちょっと薄れたあの金髪を引っこ抜けたかもしれないのに。スタンと並べるとより良くわかる後退具合。くっ、並べちゃった。隙あらば湧き出るんじゃないわよ諸悪の根源…!)
思わずぐぬぬと唸ると、リスがこちらに気付いた。がっついていた菓子はあっという間に口に入れたらしく、小さな手でほにほに膨らんだ頬を捏ねている。そんなに捏ねると中身出ない?
なんとなくしゃがみ込めば、無防備に近寄ってくる。好奇心旺盛な様子に苦笑した。
「アンタ本当に野生をどこに置いてきたのよ。こんな大きな生き物に自分から近付いちゃ駄目でしょ」
なんとなく手の平を差し出せば、ひょいとそこに乗った。手の平に感じるこそこそ動く生き物の感触。無防備すぎて、思わずため息を吐く。ゆっくり持ち上げて胸元に抱き込んだ。
野生のリスだが、スタンの屋敷から馬車で一緒に来てしまったようだし、連れて帰るべきだろう。野生だから放置しても問題ないかもしれないけれど、縄張り問題があるかもしれないし…。
(ここはスタンの屋敷ほど庭も充実していないし、住みにくそうだから、元いた場所に帰してやった方がいいわよね)
多分、私もそうだ。
私だって今こんな格好をしているが庶民なんだから、さっさと目的を達成してお暇しないと…。
(王子様に対する態度だって、いつまでも許されるわけじゃないし)
許されている内にたくさん殴ってさよならしよう。
謀られていた分と無許可で乙女に触れた罪はそれで帳消しにして…待ってアイツ馬車で言っていた「触れる許可」どこまで?
いつから計画していた? どこから計算していた?
(あの野郎、どこまでも虚仮にしやがって…!)
苛立ちから臙脂色の目が燃え盛る。私はリスを抱えたまま勢いよく立ち上がり、
背後から伸びた腕に拘束され、あっという間に視界が暗転した。
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